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第3章 拷問室

「さて、今宵は、誰からお仕置きしてやろうか」
 サッドは、みるものを不快にさせる笑みを唇の端に刻みながら、地下に降りてゆく。
 地下牢獄のさらに下に、恐るべき拷問部屋が存在していた。
 サッドたちは、お気に入りの獲物をそれぞれ個室に監禁して、徹底的にいたぶるのが日課だった。
 というより、そのために生きているといってもよい。
 サッドの目の濁った光は、歪んだ快楽にひたすら溺れて生きてきた者が放つことができる、真の堕落の証ともいえる狂気の光なのだ。
「ふん、あいつからにしてやろう」
 サッドは、一瞬笑いを引っ込め、怒ったような口調になりながら、とある部屋に入る。
 窓ひとつない部屋の中に、天上から鎖でつり下げられている、一人の女子生徒の姿があった。
 いや、女子生徒と思われていた者、である。
 壁の穴の中の松明がめらめらと燃えて、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)の身体を照らし出していた。
 ナガンは下着姿だが、その下着もあちこちがズタズタに切り裂かれている。
 館に到着して早々、シビトたちに「挨拶」の一環としてムチで徹底的に打たれた結果であった。
 下着が破れたために、ナガンは、少なくとも女子生徒ではないと知られてしまっている。
「私を騙した罪は重いぞ。覚悟しろ」
 サッドは、ナガンの股間を憎々しげに睨みながらいった。
「ふ……」
 ナガンは、棍棒でめった打ちにされ、痣だらけの顔を歪ませて、かすかに笑う。
 その鼻からは、ひと筋の血が流れて床にしたたり、その様は真っ赤な蛇を思わせるものだった。
「何がおかしい!?」
 サッドは、ナガンの態度の何かに、猛烈に腹をたてていた。
 ナガンが女子生徒ではないという事実以上に、ナガンの振る舞いが勘に障るのである。
「汚らわしい奴め、炎で消毒してやろう!」
 サッドは壁のたいまつを取って、ナガンの腹に押しつける。
 じゅう、っと、肉の焦げる臭いが部屋に満ちた。
「はああっ!」
 ナガンは、かっと目を見開いて、天上をみつめる。
 その様子が、サッドにはまた気にくわないようだった。
「全身の菌をくまなく殺さないとな! 最後にはお前という菌も殺してくれる!」
 サッドはたいまつの炎を、ナガンのあちこちに押しつける。
 ナガンの全身は焼けこげ、髪の毛からも炎があがり始める。
「ぐ、ぐううう! 汚らわしいのは、お前の方だ」
 呻きながら、ナガンはボソッと言い放つ。
「可愛くない奴だな。全身の皮を剥いでくれる!」
 サッドは、黒く焦げあがっているナガンの身体に噛みつくと、吸血鬼の牙を乱暴に動かし、その皮を裂いて、剥ぎとり始めた。
 ぶしゅうううう
 ナガンの身体が血まみれになっていく。
 それでも、ナガンは低い呻き声をあげるのみだ。
「なぜ、可愛い存在になる必要がある? 汚い口で触れるな!」
 ナガンは、憎悪の瞳でサッドを睨んだ。
「うわっ!」
 サッドは悲鳴をあげた。
 ナガンの股間から黄金の水が放たれ、サッドの身体をびしょびしょに汚したのだ。
「ふ、ふふふ」
 ナガンは、愉快そうに笑った。
「忌々しい! 貴様は、この館で最も深い牢獄で、汚水に埋まって最後を遂げるがいい!」
 サッドは汚れた衣服を脱ぎ捨てながら、吐き捨てるようにいって、部屋から出ていった。
 ナガンの黄金水は、床に小さな池をつくり、炎を反射してきらきら光る。
 すぐに、そこに血がしたたった。

「ええい、これでは、せっかくの楽しい晩が台無しだ! 口直しに!」
 ナガンを監禁している部屋から小走りに出て、サッドは、もうひとつの部屋を目指す。
 そこには、下着姿のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が宙づりにされていた。
「なに? もう、眠いよ。寝させてったら!」
 ミルディアは、もううんざりといった口調で叫ぶ。
 その様子をしげしげと観察して、サッドの唇に意地悪な笑みがよみがえる。
「お前はなぶり甲斐がある。眠いか。なら、今日は絶対寝させてやらん!」
 サッドは笑いながら、ムチをミルディアに振り下ろした。
 ビシ、ビシィッ!
 ミルディアの下着が裂け、全裸にされてしまう。
「えっ!? や、やめて! みないで!」
 究極の屈辱を受けたミルディアは身をよじって恥ずかしい部分を隠そうとするが、サッドはミルディアを縛る鎖をきつくして、身体を動かせないようにしてしまった。
「ハハハハハハハハ! 寒いだろう? 今夜はここで放置プレイだ!」
 サッドは笑って、あらかじめ用意しておいた、自分の汚れたパンツをミルディアの頭にかぶせた。
「ぶ、ぶふっ」
 ミルディアは、悪臭にむせる。
 自分の汚れたパンツをメイドの頭にかぶせ、反応をみるのが、サッドの無上の楽しみのひとつだった。
「ハハハハハハハハ! あとでシビトたちもお前をみにくるぞ! せいぜいあがくんだな!」
 サッドは愉快そうに笑いながら、ミルディアの部屋を後にする。
「い、いや、こんな姿のまま、恥ずかしい! ああ!
 ミルディアは、宙づりにされた状態で悶えながら、なぜだか胸が熱くなるのを感じていた。

「クフフフフ。次は、お前だ。どうだ? サッド様特性の痺れ薬は?」
 他の拷問室では、牢獄から離れてやってきたシビト・イジロウが、やはり宙づりにされているルカルカ・ルー(るかるか・るー)の身体を鑑賞していた。
「く、くう! 身体が、動か、ない。頭も、ぼうっとするー」
 ルカルカは、オープンカフェで食べたチョコパフェの中に含まれていた薬品の影響で、身体が痺れて動かなくなっていた。
 本当なら、こんな鎖、引きちぎってやるところなのに。
 下着姿のルカルカの身体を、シビトが舐めるようにみつめている。
 不快感で、嘔吐しそうだった。
「危険な女め。こちらが絶対優位な状況で、踏みにじってひざまずかせてくれるわ!」
 シビトは棍棒を取り出すと、笑いながら、ルカルカの身体をめった打ちにする。
 ボゴ、ボゴォ!
 ルカルカのしなやかな身体が痣だらけになり、血がしみだして、下着もボロボロになって、破れていく。
「く、くっそー! へ、変態、めー!」
 ルカルカは、極悪人たちの手に堕ちたという事実に愕然としながら、シビトに殺意のこもった瞳を向ける。
 だが、薬の影響で、視線は定まらない。
「恥ずかしいところが丸見えの状態で、何をかっこつけてるんだ? ええ? 笑っちゃうなー!」
 シビトはルカルカにあっかんべえをしてみせると、その剥き出しのお尻をわしづかみにした。
「や、やめて! 何を!」
 呻くルカルカに構わず、シビトは、ルカルカのお尻の穴に棍棒の先端をあてがった。
「クフフフフフフ。これが私の楽しみだ! うら、うらうら、ひ、ひ、ひひひ」
 シビトは、よだれを垂らしながら、棍棒をぐりぐりとまわして、ねじこもうとする。
 ねじこまれた瞬間のルカルカの表情の微妙な動きを観察し、シビトは失神しそうなほどの快感を覚えた。
「あ、あああああ! ぐ、こ、殺してやる! 絶対に殺してやる!
 気が狂いそうな痛みと屈辱に耐えながら、ルカルカはシビトの歪んだ笑顔を瞳に焼きつけ、チャンスがあれば必ず殺す決意を固めた。

 そして、他の部屋では、すっかり機嫌をよくしたサッドが、鎖でがんじがらめに縛られている鬼崎朔(きざき・さく)を、ムチで徹底的にいたぶっていた。
 ビシ、ビシィッ!
「ああ、ああああ!」
 全身を真っ赤に腫れあがらせ、鬼崎は呻く。
「わかる、わかるぞ。お前は、拷問慣れしている。過去にも、同じ目にあったことがあるのだ! お前は、今日、恐怖の思い出を無理やり呼びさまされ、精神崩壊寸前にまで追いつめられるのだ! ワッハッハ!」
 サッドはよだれを垂らして笑い声をあげながら、ヒステリックにムチを振り下ろす。
 鬼崎の身体よりも、彼女をいたぶることに純粋な喜びを覚えていた。
「ふ、ふふ、私に、逆らうから、だ。ふふ!」
 サッドの笑いが、狂気に満ち満ちてくる。
「や、やめろ! やめて。い、いや! ああ!」
 鬼崎の口調が乱れ、少女時代の声での悲鳴が混じり始める。
(あははははは、もっと泣けよ、おい!)
(ゆ、許して下さい! 私が悪かったです! いうことを聞きます! お願いだから、優しくして下さい!)
 想い出すだけで人格が歪むほどのトラウマが、鬼崎の中でよみがえり始める。
 その苦悩をみつめるサッドは、興奮の絶頂に達しようとしていた。
「想い出したか、生き人形だったあのころを? 血と汗と糞にまみれて、惨めそのものだったあの状態が、お前の本質なのだ! どんなに取り繕っても、その記憶は消すことができない! お前は、真の意味で小便くさいのだ!」
「や、やめろ! それ以上いうな。ああ。やめて、下さい」
 鬼崎は、精神が錯乱する中で、哀願するような口調に変わってゆく。
「うん? 何だ、その、みっともない刺青は? もっとよくみせてみろ、ええ?」
 サッドは、鬼崎の最大のトラウマでもある、その身体に刻まれた恐るべき模様を、徹底的に嘲笑い始めた。
「勘弁、して。して、下さい。頼みます。や、やめて! ゆ、許して下さい。ああ、ああー!」
 鬼崎は、涙を流していた。
 心身ともに、ボロボロだった。
 身体を丸めてむせび泣くその背中を、サッドは思う存分踏みにじっていた。

 そして。
 地下牢獄のすぐ側では、グルル・キバツメが、牢獄から選んで連れ出した、数人の女子生徒をなぶっていた。
「ふええええええん! た、助けて、怖いよー!」
 下着姿で、寒さのあまり丸くなりながら、ナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)が泣きじゃくっている。
「ほーら、温かくなるぞー!」
 グルルは、そんなナレディを引き起こすと、身体を突き飛ばして、冷たい石の床を転がし、いじめていた。
「やめなよ。趣味、悪すぎるよ!」
 同じく下着姿のミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、ナレディとグルルの間に割って入って、いじめを止めさせようとする。
「ほう。では、お前をいじめるとしよう!」
 グルルは笑って、ミレイユの首輪から伸びる鎖を思いきり引っ張った。
「あ、あぐぐ!」
 ミレイユは床に引き倒されて、首をおさえて呻く。
「首輪の似合う女だな。俺のペットにしてやろうか?」
 グルルは、ミレイユの身体の上に馬乗りになって、ぴしゃぴしゃと頭を叩く。
「や、やめて! どうしてそんなことがひどいことができるの?」
 和泉結奈(いずみ・ゆいな)は、目に涙を浮かべて叫んでいた。
「そーれーは、お前たちが、このうえもなく可愛らしいからだ。わかるか、天御柱の強化人間!」
 グルルはいやらしい笑い声をあげながら、下着姿の和泉に襲いかかり、パンツに手をかけて、無理やり脱がせようとする。
「い、いや! やめて! お、お兄ちゃん!」
 泣いて抵抗しながら、和泉は、精神感応で兄に助けを求めていた。
「ワッハッハ! サッド様は、生命がけで学院に忍び込み、校長に邪魔されながら、お前をさらってきたのだ!」
 グルルは、和泉のパンツを微妙にずらした状態で手を放し、その無様な姿を鑑賞した。
 和泉は強化人間だが、恐怖のあまり精神のバランスが崩れ、超能力スキルが低下しているようだった。
 強化人間とは、状況によって力の発現が低下する、不安定な存在なのだ。
「哀れですわ。弱い者をいじめて、それで王様になったつもりなの?」
 ガンディーヌ・サーコート(がんでぃーぬ・さーこーと)が、冷ややかな口調でいった。
「ふん! かっこつけるな、お前も鎖をつけられたメイドだろうが!」
 グルルは鼻を鳴らして、ムチを振り上げ、ガンディーヌを打った。
 ビシィッ!
 だが、ガンディーヌは無言だ。
「おら! おっぱい触らせろよ!」
 グルルは無造作に手を伸ばして、ガンディーヌの胸をわしづかみにしようとする。
 だが、その手は胸を滑るのみ。
「うん? ずいぶんと貧しい胸だな」
 グルルは拍子抜けした口調で、ガンディーヌの胸をしみじみと撫でまわし、どのくらいの膨らみか探ろうとする。
「大きなお世話ですわ。う、ふうあ
 気丈を保つガンディーヌだが、グルルのまさぐりに思わず声をあげてしまったのも事実だった。

「う。うう……」
 牢獄の中では、多数の女子生徒たちが膝を抱えて、恐怖に震えながら、牢獄の外でグルルになぶりものにされている女子生徒たちの姿をみつめていた。
「さあ。傷ついた人たちはこっちへ。体力を回復させられるし、服も直せるわ」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は女子生徒たちのケアに努めた。
 救出されるそのときまで、できる限り彼女たちの痛みを和らげておきたかった。
「噂には聞いていたが、想像を絶する惨状だな。あいつら、死んだら地獄行きは間違いないぜ」
 李 ナタ(り・なた)が、ソニアに囁く。
「気をつけて。女装がバレたら、大変なことになるわ」
 ソニアも、李に囁き返す。
「もうじきグレンがくるさ。あっ、ほら!」
 李は、グルルに近づく何者かの影を認めて、胸が熱くなるのを覚えた。

 女子生徒たちを好き放題になぶっていたグルルは、その際どい瞬間において、本能的に身をひねっていた。
 きっかけは、ライオンソルジャーたちが、みえない敵の気配を察知して、唸り声をあげたことである。
 野性の勘に、グルルは助けられたのである。
「むうっ!」
 光学迷彩で姿を隠し、グルルの背後から攻撃を仕掛けたグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、まさかの回避行動に、戸惑う。
「そこだ!」
 グルルはムチを振るって、グレンに攻撃を当てる。
 身を硬くしたグレンに、ライオンソルジャーたちが襲いかかってきた。
「しまった。女子生徒たちへのあまりにひどい扱いに、やや感情的になって隙が生じたか?」
 捕えられたグレンは、舌打ちする。
「ふん! 女子生徒たちを連れてきたときに、一緒についてきて忍び込んだのか? 怖い者知らずは痛い目をみるってよ、なあ?」
 グルルは凶悪な笑みを浮かべて、拘束したグレンを拷問室に連れていく。
「グレン!」
 ソニアたちは、動揺を隠せない。

「うら、どうだ! 少しは痛い顔をしてみせろ、ああ!」
 拷問室で、グルルはグレンを宙づりにして、徹底的に痛めつける。
 グルルのムチでめった打ちにされても、グレンは歯を食いしばっていて、じっと耐えている。
 ビリビリになった服の陰から古傷だらけの肌がみえ、拷問にあうのがはじめてではないことを物語っていた。
「好きなだけやれ。捕まっている奴ら全員分の痛みを、俺一人が受ける。たまには相手が壊れるまで虐めてみたいんじゃないのか?」
 グレンは、グルルの瞳をまっすぐみすえて、いった。
「この野郎! 挑発しやがって! ムカつくぜ!」
 グルルは、ムキになってグレンを痛めつけ始めた。
 どんなに打たれても、グレンは悲鳴をあげたりせず、じっと耐え続ける。
 グレンの真意は、グルルの関心を自分に引きつけ、女子生徒たちへのいじめを抑えることにあったのだ。