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救助隊出動! ~子供達を救え~

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第8章「街道防衛戦」
 
 
「ん、ありゃ何だ?」
 リーダーからの命令を受けて街道を抑えに来たならず者達は、街道から少し脇に逸れて止まっている馬車を発見した。馬車は見るからにボロく、馬も繋がれている様子は無い。
 その馬車の中でならず者達を待ち構えていたリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は隣のベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)に小声で話しかけた。
「アトリ、来たみたいだよ」
「うん、問題はここからだね。アリス」
「それじゃ、後はお願いしますね。ラムズさん」
「えぇ。お二人とも、頑張って下さい」
 同じく中に隠れているラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が二人を見送る。
 彼らは街道で待機している本命の馬車からならず者達の目を引き付ける為に先行した囮の馬車部隊だった。急な事だったのでまともな馬車を調達出来ず、仕方なく廃棄寸前の物を白羽 凪(しろばね・なぎ)の軍用バイクでここまで引っ張って来たのだが、トラブルで立ち往生しているように上手く偽装をしていた。
 そして、更に相手を引き付けられるよう、リアトリスとベアトリスの二人が怯えた演技をして馬車から顔を出す。
「だ、誰……?」
 二人を見たならず者達が色めき立つ。
「ひゅー! 随分美人の姉ちゃん達じゃねぇか」
「しかも双子か? いいねぇ」
「姉ちゃん、ちょっと俺達と愉しんでいかねえかぃ?」
 何人かがスパイクバイクを降り、こちらへと近づいてくる。二人はアイコンタクトで攻撃のタイミングを窺っていた。
(アトリ、あと5歩で行くよ)
(分かったよ、アリス)
 そうとも知らず、ならず者達が無造作に近づいてくる。1歩、2歩、3歩、4歩、5――
 ジリリリリリリリリリリリリ!!
「な、何だぁ!?」
 突然馬車から聞こえてきた大音量に男達が怯む。だが、意表を突かれて驚いているのはリアトリス達も同じだった。
「ちょ、ちょっと! こんなの聞いてないよ!?」
「僕も知らないよ! どうなってるの!?」
 不測の事態に場が混乱する。その時、馬車の中から子供の声が聞こえてきた。
「やっべwww目覚ましかけっぱだったwww」
 声の主、クロ・ト・シロ(くろと・しろ)が悪魔の目覚まし時計を止める。どうやらこれのせいで大音量が辺りに響き渡ったらしい。しかも馬車の中には複数個の目覚ましが置かれていた。
 クロは全ての目覚ましを止めると馬車から顔を出した。見るとリアトリス達の奥にならず者達の姿が見える。
「うはwww敵来てるしwwwマwwジwwピwwンwwチwww」
 ようやく正気に戻ったならず者達は伏兵が潜んでいた事に気付き、憤慨する。そして、それぞれ武器を抜いて構えだした。
「テメェら、どういうつもりか知らねぇが上等じゃねぇか。たっぷりと痛めつけて――」
 ブオォォォォォォォォ!
「こ、今度は何だ!?」
 再び馬車の中から聞こえてきた大音量に警戒するならず者達。その瞬間、馬車の陰から剣が飛び出してきた。
「ガッ!」
 攻撃をしたのはシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)だった。ローブの手の部分から伸びている触手で器用に剣を操っている。
「クロの奴め……ちゃんと引き付けられればもっと楽になったものを」
「仕方ありませんねぇ。私はあまり戦いは得意ではないのですが」
 その傍らには馬車から降りてきたラムズの姿があった。手には先ほどの大音量を放った滅びの角笛が握られている。
「て、てめぇら。不意打ちたぁ卑怯な真似しやがって……!」
 ならず者が怒りで震える。だが、手記は冷ややかに答えた。
「卑怯? 外道が何を言う」
 そう言ってさらに剣を振るう。普通の腕ではなく触手から振るわれる剣は出所を掴みにくく、ならず者達にとって戦いをやりにくくさせていた。
「くそっ、やっちまえ!」
 一人の男の声を皮切りにならず者達が襲い掛かってきた。リアトリスはそれに対し、超感覚を発動させる。犬耳と尻尾が生え、身体能力が強化される。
「アトリ!」
「アリス!」
『バモス・アジャ(さあ、行こう)!』
 二人は掛け声とともに華麗な動きで敵の攻撃を避けると、すれ違いざまに攻撃を加える。リアトリスは拳を当て、ベアトリスは剣で斬りつけた。
『エソエ(その調子)!』
 互いの技量を称え、更なる敵へと向かう。それを見たラムズが動きの正体に気付いた。
「ほぅ、このリズムはフラメンコ。そしてこのダイナミックなバイレ(踊り)は……アレグリアスですか。ならば、私もお手伝いしましょう」
 二人の動きに合わせ、ラムズがパルマ(手拍子)を打つ。本来パルマは踊り手の呼吸に合わせる必要があるので意外と難しいのだが、ラムズはしっかりとテンポを合わせていた。
「凄い、ちゃんとセコ(高音)とバホ(低音)を使い分けてるよ」
「そうだね。これなら動きやすい……なっと!」
 流れに乗ったベアトリスが近くの敵に切りつける。二人は大勢のならず者達が取り囲む中を華麗にすり抜けながら敵を打ち倒していった。そして踊りに気を取られている者を狙い、手記が背後から襲い掛かる。
「油断大敵じゃ……」
 更に少し離れた場所では――
「当wwたwwんwwねwwぇwwww猫にも当てられないとかwwwwwマジ無様wwwwww」
「くそっ、チョコマカと逃げやがって! 待ちやがれ!!」
 クロが猫の形態になり、男達を挑発しながら逃げ回っていた。とにかくクロの方から攻撃はせず、ただひたすら相手を馬鹿にしながら逃げ回る。かと思いきや急に進路を変え、先頭の男の眼前で思い切り手を叩いた。
「うおっ!」
 突然の事に男が怯む。次の瞬間には再びクロが遠くまで走り出していた。
「猫に猫だまし喰らってやがるwwwwwバロスwwwwテラバロスwwwww」
「て、てんめぇぇぇぇぇ!!」
 完全に頭に血が上った男達が全力でクロを追いかける。囮組による陽動は完全に成功したかに思われた。――この時までは。
「お前らマジバカスwwww囮の馬車に釣られすぎwwwプゲラwww」
「あ? 囮だと!?」
 クロの近くにいた男の一人がその発言に反応する。次第に他の男達もここにいる者達が陽動だと気付き始めた。
「やっべwwwちょwww今の無しwwwww取り消しwww」
 訂正するが既に時遅し。ならず者達は次々とバイクに乗り込み、街道を先へと進んで行く。
「この先にこいつらが守ってるやつがあるはずだ! そいつをぶっ潰すぞ!」
「おぉっ!!」
「こ、こら待て!」
 慌ててリアトリス達が追撃を加えるが最後尾の何人かを引きずり下ろしただけで、大多数のならず者達は先へと行ってしまった。
「まずいよアリス、早く追いかけないと!」
 ベアトリスが走って追いかけようとする。そこに軍用バイクを隠して潜伏していた凪が現れた。
「鴉に伝えておいた……」
「伝えてって、精神感応で?」
「……うん」
 凪がコクリと頷く。
「先に行く……」
 そのままスロットルを開き、ならず者達を追いかける。それを見送り、ラムズがのんきに言った。
「さて、追いつくのは無理でしょうし、私達はどうしましょうか」
「ふむ、ならば我はこやつらからアジトの場所でも聞き出すとしようかの」
「アジトを? どうやって聞き出すの?」
 手記が近くで気絶している男の所に歩いていく。そしてニヤリと笑いながらリアトリスの質問に答えた。
「なに、もちろん『話し合い』でじゃよ」