薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

冬の幸を満喫しよう!

リアクション公開中!

冬の幸を満喫しよう!

リアクション


プロローグ【出発準備と下ごしらえ】



 太陽が少しだけ顔を出し、朝と夜が曖昧に混ざり合う早朝。

 パラミタ内海の海岸線には、二人が予想した以上の人数がミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)の依頼書の呼びかけに応じてその足を砂に浸していた。
「まさかこんなにたくさんの方々に来ていただけるなんて……」
「本当ですね、私も驚きました」
 驚いた様子のミリアに対して、隣に並んで立っていた加能 シズル(かのう・しずる)も同様の反応を見せる。
 そんな二人をよそに、砂浜には着々と簡易テントが組まれ、様々な大掛かりな調理器具等も運び込まれてきていた。どうやらこの砂浜で、超本格的に料理に取り組むつもりらしい。
「ミリアさんあの、気になっていたんですけどあの準備をしてくれている人たちは一体?」
 手際よくテントを組み立てている人たちを見て、シズルが不思議そうにミリアへ言った。
「あの方達はお店のお友達と、あととっても心優しい方達の集まりです」
「心優しい方達……?」
 訝しげにシズルはもう一度テントを設営している方向へ眼を向ける。そこには原色系のハッピを着て、頭にハチマキを巻いている集団が朝陽に照らされながらせっせと汗を流していた。
 その集団が頭に巻いている白いハチマキには、シズルはやや遠くてしっかりとは読めなかったが、どうやら赤い文字でこう書いてあるようである。

ミリア命

 思わずシズルは目を逸らした。そして強制的に頭から今見た文字、そしてそれら一切の記憶をシズルは消去。
「ミリアさん、せっかくたくさんの人達に来てもらったんです。早く挨拶しないと」
 頭をクリーンにしたシズルは、気を取り直して集まってくれた人たちに意識を向ける。ミリアもそれに倣って、普段は余り出さない音量の声で砂浜にいる百人近い人々に向けて、話し始めた。
「みなさん、今日は朝早くから集まっていただき、本当にありがとうございます。こんなにたくさんの方達が集まってくれて、私は嬉しいです。腕に縒りを掛けて料理を作らせていただきますので、みなさんも頑張ってきてください」
 そう言って頭を下げるミリア。それに合わせてみんなが一斉に拍手やら指笛やらを鳴らす。それぞれが、これから食べる料理に胸を膨らませているようだ。
「私からは、食材調達の際の注意事項を言わせてもらいます」
 歓声が収まるのを見計らって、シズルが口を開いた。
「今回の食材調達は実戦訓練の意味合いも兼ねているので、基本的には自由に戦ってもらって構わないのですが、思わぬところで狩り仲間、失礼。……さっきまで寝ずにやっていたもので」
 少し頬を赤らめるシズル。ミリアはなんのことを言っているのかわからず、横で首を傾げている。
「基本的には雷系統の術や魔法は使わないようにしてください。何故なら思わぬところで食材調達仲間に被害が及んだり、海の生態系に影響を及ぼしかねないからです。以上の点だけ、戦闘の際には注意してください」
 言い終わると、シズルは早速といった感じで砂浜を海へ向かって歩き始めた。
「ではイカ狩りをする人たちは私についてきてください! エビを! という人は西側の岩礁へ。蟹だ! という人たちは東側の岩礁へ向かってください。ではみなさん、はりきって狩りにでかけましょう!」
 シズルの言葉に全員が自由に雄叫びをあげたあと、それぞれが自分の調達したい食材の生息地に向けて歩き出した。
 そんなみんなに向けて、ミリアは精一杯片腕を頭の上で大きく振った。
「みなさーん、がんばってくださーい!」