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リアクション
第10章 ドゥルジVS (2)
「きたか…」
当然と受け止めたつぶやき。
ぐらりとドゥルジの体が左に傾いていく。
見逃せない隙。
最強の敵の突然の自己崩壊を前に、だれもが信じられないと目を見張る中、ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)を纏ったウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が仕掛けた。
彼はひたすらこの一瞬のために力を練り上げていたのだ。
ヒロイックアサルト、神速、乱撃ソニックブレードと次々とスキルを発動させていく。強化光条兵器・レーヴァテインとティルヴィングを用い、彼はその圧倒的な破壊力をもって、ドゥルジの胸部から下を完全に砕いた。
飛び散る石の破片。
もはや飛び戻る力も弱い。大きい石はともかくとして、小さな石は飛ぶこともできず、虫のように地面を這っている。
木の根元に転がるドゥルジの胸部に、ウィングはレーヴァテインをつきつけた。
「とどめだ」
「待って!」
残る頭部もバラバラに粉砕しようとしたウィングを鬼崎 朔(きざき・さく)が止めた。
辺り一面に散らばる石たち。
石が、一斉に誘惑の波動を放ち始める。
自分を手に取るがいい。そうすれば望みは何でもかなえてやろう。
おまえの願いはすべてかなうのだ。
さあ、さあ! おまえは手を伸ばすだけでいい…。
津波のように襲いかかる、甘い誘惑。
以前はとるに足らなく思えた小さなささやきだったのに、今では耳が背痛いほどの大合唱となって朔をからめとろうとする。
「……たかが石風情の誘惑などに、乗って、たまるか…」
(私の願いは、そんな矮小なものなどではない!)
朔はゆっくりと、しかし確かな足取りで歩を進め、ドゥルジの前に立った。
「きさまには、どうしても教えてもらいたいことがある」
「……なんだ…」
ドゥルジの声は低く、とてもゆっくりしていた。
一音一語、発するために、とても神経と力を必要とするように。
「なぜそんなにもあの石を求める。私たちを誘惑しようとする、この石は何だ?」
ドゥルジは嗤う。
「誘惑なんて知らない。おまえたちを操る能力の副次的な作用だろう。もっとも、あの科学者どものことだ、どんな作用をつけ加えていてもおかしくはないが。
どうしても知りたければ呪い師にでも言って、地獄の底から魂を呼び出してもらうがいい。やつらのことだから、全員そこに堕ちているにきまっている」
もう、顔も思い出せない者たち。
ドゥルジはくつくつと笑った。
「これが何か? おまえたちが見ている通りの物だ。これは俺を構成する物。俺を「ドゥルジ」としている物だ。
求めているわけじゃない。俺はただ、回収しているだけだ。これは俺の物だと言っただろう?」
「だからこんな事をしたと? 村を焼いて、シラギさんを殺そうと?」
村を焼いたのは村人をおびき出すため、そして報復だ。10年という月日を、浪費させた。
「言ったはずだ。人間の命に、あれほどの価値はない。渡さないのであれば100人だろうと1000人だろうと殺す」
「なぜ?」
「俺にはできるからだ」
さっきから、どうして分かりきった質問をするのか。そちらの方が分からないと言いたげだった。
「できるからって、石1つ回収するのにその都度何人も殺そうとしたり、村焼いたりするわけ? すごい無駄! そんなの、こうやって恨みを買うだけじゃない」
リュウノツメのひっきりなしにかじりながら、グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が前に出た。
昨日石を撃ち込まれた彼女は、どうやらこの激辛トウガラシで石の誘惑から気をそらす手に出たらしい。
「もっといい解決法があるわ! 理由を話して、私たちに石を集めるのを手伝わせなさい! その方がてっとり早いじゃない」
「お、おい、いきなり何言ってんだ? おまえっ」
何か思うところがあってついて来たのはうすうす察していたが、てっきり村人を救うのが目的で、まさかこんな理由だったとは思いもしなかったと四谷 大助(しや・だいすけ)があわてて横についた。
グリムがぱんと腕を叩く。
「もちろんこの大助にも手伝わせるから!」
「って、さりげにオレも混ぜてるし!」
「なによ! いいじゃない、減るもんじゃなし」
「そりゃ減らないけど」
いや、減るか? 時間と労力と……うーん…。
「ねっ! ナナちゃんだっていい案だって思うでしょ?」
「えっ…?」
突然話を振られて驚いたものの、四谷 七乃(しや・ななの)は一生懸命考えた。
「……七乃は、マスターに従います。マスターやグリムさんと、どこまでも一緒ですから…」
ちょっぴりこの人、怖いけど。なんか胸だけで生きてるし、しゃべってるし。にらんでるみたいだし。簡単に引き裂かれちゃいそうだし。
「んねっ! 私たち、友達になればいいのよ! 友達なら助け合うのが当然だもの! みんなでやれば、あっという間に集まるわ」
その方が今よりずっと効率的だわ、と口にすることでますますグッドアイデアに思えてきて、意気込むグリムに、ドゥルジは今度こそ、声を上げて笑った。
「おろかな人間。どこまでもおろかな…。
おまえたちの力など不要だ」
「どうして? たくさんの手でやれば、きっとすぐに集まるわ」
笑われて、グリムはちょっと憤慨したようだ。
「なぜなら、おまえたちは人間だからだ」
そう、彼らは人間。自分たちとは違う。
彼らはアエーシュマを知らない。かつてアエーシュマが人に何をしたかを。
この世界に、何の意味もなく目覚めた絶望が、ただでさえ不安定だった彼を完全に壊した。
殺戮、殺戮、殺戮。
ただそれだけに明け暮れた。餓えた獣のように、目につく限りの者を片っ端から引き裂いた。
自分はそのために生み出された存在だからと…。
彼が、何百人と殺し続けたことを知っていれば、決して手伝おうなんて気は起こさない。
彼をよみがえらせるのを手伝ったその手で、今度は彼を打ち砕こうとするに違いない。
人は、人以外の物の殺戮には寛容だが、人殺しは決して許さない生き物だから。
「人間。忠告だ。他者と分かり合おうとするのは勝手だが、できると思うな」
俺は、飽きた。
考えるのも、期待するのも。
「勝手なことをぬかすな、ばか者がっ」
名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が、いきなりドゥルジの横面をひっぱたいた。
「勝手に人を決めつけるな! どれほどの人に会ったというのじゃ! シャンバラ中の人間を知った気でおるのか、おぬしは! それをして、初めて人に絶望すればよいのじゃ、大ばか者が!」
白の説教に、ドゥルジは薄く笑みを浮かべるのみだった。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が前に進み出る。
「言葉はもう、不要ね」
「ちょっと待って! まだ説得してる最中なんだから!」
グリムが気色ばむ。
リカインからかばうように、両手を広げて間に立った。
「うっせー!」
地面に寝かされ、ナーシングを受けるユピリアの横で高柳 陣が吼えた。
「そいつは絶対生かしちゃおけねぇんだよ!! 友達なんざ、甘ったるいこと言って通る時点はとうに過ぎてんだ!」
その腕はしっかりとティエンに回されている。ティエンはぶるぶる震えて、陣に必死にしがみついていた。
「そんな……そんなことないわよね、みんな!」
グリムは必死になって周りを見回すが、だれも彼女に賛同の声を上げる者は出なかった。
「だって彼は――」
「無駄よ。彼は決して歩み寄らない。それを選択するのも彼の自由」
ドゥルジをまっすぐに見つめるリカインの視線は揺るがなかった。
ドラゴンアーツ、パワーブレス、ヒロイックアサルト……次々と発動させ、ラスターエスクードを構える。
「フィス姉さん、補助お願い」
「分かってる」
シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が奈落の鉄鎖、サイコキネシスで負荷をかける。
いまだに完全修復が追いつかないことからみて、もうほとんど彼の再生能力は失われている。
ああなった彼に痛覚があるかは不明だけれど、こんな姿をいつまでもひと目にさらしたくはないはず。
一瞬ですべてを粉々に砕ききること。それが温情というものだろう。
「はあっ!!!」
リカインは弾けるように飛び出した。
渾身の力を込めたラスターエスクードによる疾風突きだ。
このまま、ここで終わってもいいかもしれない。
ラスターエスクードにこもった力を算定して、ドゥルジはぼんやりと考えた。
体の大部分を失っているため「ドゥルジ」としての意識を保つのが少々難しい。だが、あれだけ破壊力があれば、修復途中にあるこの体を砕くには十分だというのは分かる。
避ける方法もまた、いくつか浮かんだ。
だが、それをしてどうなる?
彼らは「ドゥルジ」を倒すまで戦いをやめないのは分かりきっている。
もう、いい。
ここであがいて、それで俺に何がある?
俺には何もない。何ひとつ。
なら、ここで終わってもいいじゃないか。
寂寞たる思いで満たされ、全身に空虚さが広がる。
力を抜き、迫る力に任せようとしたとき――――――――――
《ドゥルジ、私のいとしい息子》
彼の盾となるように、両手を広げた美しい女性の幻影がドゥルジの前に浮かんだ。
「……くっ!」
突然現れた幽霊のような女性の姿に動揺したリカインの一瞬をついて、ドゥルジが瞬間的に再生した左手でラスターエスクードを脇の木に叩きつけた。
大木は悲鳴のような音を立てて折れ、ラスターエスクードが真っ二つに割れる。
《ドゥルジ、私のいとしい息子》
その言葉を繰り返すだけの幻影。
それは、彼のすぐ近くの石から空間に投射されていた。
「――ああ、母さん。分かってるよ…」
飛び散っていた石が、おそるべき速度で集束していく。
各部位が組み立てられる度に、接合部を白い光が走った。
「おまえたちに討たれてやってもいいかと思った。だが駄目だ。すぐに帰ると、母に約束したからな」
修復が完了した足で立ち上がる。
その四肢にも、表情にも、先までにない力強さが漲っていた。
「見かけばかりだ! エネルギーは失われたままのはず!」
完全に修復を終える前にと柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が仕掛けた。
まだひび割れた岩状の肩口に、今導ける最大のライトニングブラストを撃ち込もうとする。
そのとき、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が動いた。
ドゥルジの盾となって身を投げ出し、自身のフォースフィールドでライトニングブラストを弾く。
彼女はドゥルジの砕けた石の破片に魅入られ、その下僕となっていた。
「ヴェルリア?」
「ドゥルジさまを傷つけようとする者は、たとえ真司であろうと容赦しません」
「ああ。その通りや」
脇にアインがつく。
「ええっ、アイン!?」
「ちッ。
なんでおまえら、あいつら連れてきたんや! こうなるの分かってたやろ!」
七枷 陣の叱責が飛んだがあとの祭りだ。
庇い立つ2人の後ろで、ドゥルジは肉体の修復を終えた。
そして彼にだけ分かる何かに反応し、東を振り仰ぐ。
「見つけたか」
砂塵を巻き上げ、竜巻もかくやと思わせる暴風が吹きあれる。
「逃がさない!!」
だれもが地面に叩きつけられそうになる中、朔が真正面から掴みかかった。
ドゥルジの襟に手を回し、縦四方固めを決めようとする。
「絶対に、行かせない! これ以上だれも殺させない! きさまを止めてみせる!」
そうして全身で触れたドゥルジの体は、石のように冷たかった。
「――もう遅い」
朔の耳元でささやかれたつぶやき。
そこに含まれた絶望とあきらめが、朔の手から力を奪う。
朔を引き剥がし、ドゥルジは一気に上空へと飛んだ。
「朔、なんて無茶をするの」
「まったくだ。両腕を引きちぎられたり、胴を突き破られていたかもしれないんだぞ」
「まぁアーティフ。そんなおそろしいこと…」
魔鎧・月読 ミチル(つきよみ・みちる)が口々に朔の無謀さを責め立てる。
朔はただ、ドゥルジの消えた空を見上げていた。
「あっ、待て!」
東に向かって飛び去るドゥルジのあとを追おうとした真司たちの前方をふさぐようにヴェルリアの光術が走る。
「ドゥルジさまの邪魔はさせません」
「自分たちが相手になろう」
翼の剣を構えるアインは、悲しみの歌を口ずさんでいる。
「う…」
前列にいた者たちは、戦いへの意欲がそぎ落とされていくのが自分でも分かった。
「と……とにかく、あの握りこんだ石から手離させりゃいいんや。全員で一気に取り押さえるで。
いいか? いっせーの――」
「待ってくれ!」
真司と蓮が、今にも飛び掛らんとしていた者たちとの間に割って入った。
「彼女は俺の大切なパートナーなんだ」
「そうだよ! アインを傷つけないで! お願い!」
と、その頬を一発の銃弾がかすめていく。
「嘘ばっかり。あなたは私を大切に思ったことなどないくせに」
冷めた目と声でヴェルリアがつぶやいた。
禍心のカーマインが硝煙をくゆらせている。
「おいおい、マジかよ…」
「――みんな、ここは俺たちに任せてくれないか」
ざわめきが広がる中、頬の血をぬぐって、真司は真っ向からヴェルリアを見返した。
「そりゃ……だがおまえたちだけで大丈夫か?」
「私たち、手伝おうか?」
「いや、申し出はありがたいが、これは俺たちだけの問題だ」
真司の言葉に蓮も頷いた。
「だれにもアインは傷つけさせたりしないよ。だから、行ってっ」
「分かった」
彼らとしても、ここで時間をとられたくない。
多少遠回りになるが、森の道に戻ろうとする彼らを見て、ヴェルリアが右手をかざした。
「させません!」
掌から光術が放たれようとしたとき。
真司の放った遠当てがヴェルリアを後ろに弾き飛ばした。
ガツッと音を立てて、幹に頭をぶつける。
出力をかなり抑えて打ったのだが、それでも軽いヴェルリアには強すぎたらしい。
「ヴェルリア、大丈夫か?」
「……リーラの、力…」
こほ、と咳をする。
「そう……真司は、リーラがいれば、いいの…。私はもう、必要ないんです…」
身を起こしたとき、その頬には涙があふれていた。
あふれて、あふれて、止まらない。
「私、バカだから。私、いつも真司のお荷物になって、だからいつも真司の言うこときいて、少しでも足手まといにならないように……それで…」
「ばかな! 何を言っている!?」
真司の反ばくも耳に入らない様子で、ヴェルリアは握り締めた左手をうっとりと見た。
「でも、もういいんです。これがあれば、私、きっと強くなって、お荷物なんかじゃなくなる……きっと私でも、お役に立てるようになります。
ねぇ真司。私が強くなったら、あなたは必要としてくれますか? それとも、もう私なんか、必要ないですか?」
ヴェルリアは泣き笑っていた。
「ヴェルリア……だからあんなに一緒に来たがったのね…」
リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が、搾り出すようにささやいた。
銃口が、再び真司をとらえる。
「ねぇ真司。あなたに私は必要ないかもしれないけど……あなたでなくても、もしかしたらだれか、私を必要としてくれますよね…?」
「――ほかのだれかだと?」
低いつぶやき。
「真司!?」
声に怒りと苛立ちを嗅ぎ取って、リーラが驚く。
「ちょっとちょっと、真司? あなた何を考え……ちょっと!」
真司は真正面から、銃を構えたヴェルリアに突き進んだ。
「来ないで! 撃つわよ!」
一直線に歩いてくる真司に銃を持つ手が震えた。
石は、撃てと命じている。
あれはおまえを弱くする者だ。強くなりたいなら撃ち殺せと。
強く、強く、強く。強さを求めるなら撃て!
「いやぁっ! だってあれは真司よ!!」
パンッ
軽い音がして、ヴェルリアの頬に痛みが走った。
走った次の瞬間には消えている、むず痒い痛み。
「自分が必要ないなんて、二度と口にするな!」
「真司…」
「ほかのやつのことなど考えるな! おまえは俺だけのパートナーだ!」
ヴェルリアの目に、みるみるうちに正気が返った。
新たな涙が盛り上がり、わっと声を上げて真司の胸に泣き伏す。
草むらに、ぽとりと石が落ちた。
「アイン、お願い、正気に返ってよ!」
「蓮……うう…」
蓮の必死の呼びかけに、アインは頭に左拳をあてた。
その隙に間合いをつめようとした蓮だったが、気づいたアインによって翼の剣が振り切られる。
パッと飛びずさった蓮の手が、思わず雅刀に伸びる。
(駄目! アインを傷つけるなんて!)
蓮は剣帯を外し、刀を鞘ごと落とした。
「アイン……約束したよね。これが終わったら、今度こそできたてホカホカのタイヤキを一緒に食べようって。内緒にしてたけど、行列ができるくらいおいしいタイヤキのお店を見つけたんだ。それを食べて、驚くアインの顔が見たくて。
だから私の今の望みはね、2人であつあつのおいしいタイヤキを食べること。
一緒に笑って食べるのって、不思議なくらい楽しいよね。単純だけど、それがあったら何でもできるって思う。元気になれるんだ。
ね、考えて、アイン。アインに必要なものって何? 何が望み? その手の中のちっぽけなものが、アインの願いをかなえられるの? ……それって、私じゃ無理なのかなぁ」
言ってるうちに、だんだん悲しくなってきて、蓮はぎゅっと手を握り込んだ。
ぱたぱた、ぱたぱた。ぱたぱた、ぱたぱた。
足元でペットのパラミタペンギン、一太郎くんも必死に何かを訴えている。
アインはますます激しくなる頭痛に耐えかね、ふらふらとその場にしゃがみ込んだ。
「自分……の、望み……は…」
死ぬこと。だった。かつては。
だった? かつては?
いつから過去形で考えるようになった?
死にたがるのは間違いだと、蓮は何度も言った。
命のつぐないは命ではできない。死ぬことは何の解決にもならない。
本当に?
なぜ蓮が言うからと、唯々諾々とそれに従わねばならない?
あいつはおまえの苦しみを知らない。止まない痛みも知らない。息をしていることすら許せない憎しみ。その何ひとつを、あいつは知らない。
なぜそんな者の言うことをきかねばならない?
「蓮は……それでええ……んや…」
だからこそ、自分は救われた。
彼女は光だから。その無垢な輝きで自分を包み、洗い流してくれた。
望みをかなえる?
望みはとうにかのうとる。
アインはぶるぶる震える手を、強引に開いた。
閉じたくてたまらない。石を自分のものにしたくて、したくて…!
「違う…」
水平にした掌を、徐々に傾け、石を手放した。
「アイン!」
わっと飛びついた蓮が、その小さな体で覆うようにかぶさり、抱きしめた。
それに続いた一太郎くんが、蓮の背中にとびつく。
「よかった、アイン! 私、信じてた! きっとアインはあんな石なんかに負けないって」
「……あんな物より、これを持つ方が、よほど自分にはしっくりくる…」
その手には、蓮からもらって以来肌身離さず持っている月雫石のブローチが握られていた。
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