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酷薄たる陥穽-シラギ編-(第2回/全2回)

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酷薄たる陥穽-シラギ編-(第2回/全2回)

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第1章 パラミタ内海へ

 ドゥルジの石を受け、昏睡に陥っていた者たちが次々と目覚め始めたことに活気づいていた蒼空学園。
 赤龍は飛び去って戻る気配はないし、これで危機は去ったのだと、だれもが頬を緩ませる。だがそれも、遙遠からの連絡が入るまでだった。
 風龍とともに学園を離脱したドゥルジの行き先。それは、パラミタ内海にある小さな海辺の村だった。
『村は焼き払われました』
 遙遠の言葉は、その場にいる何人かに、衝撃とともに受け止められた。
「海辺……って、もしかしてあそこ? この前帰神祭で行った、おじいちゃんたちのいる…」
 レキ・フォートアウフはそれ以上口にできず、絶句した。
「ああ。あそこだ」
 だから連絡がつかなかったのか、と正悟は思う。
 シラギさん、ヒノエちゃん、巫女のおばさん、白張のおじさん。
 帰神祭で準備の手伝いをしたときに知り合った、気のいい人たちの笑顔が浮かぶ。
 だが待て。連絡がつかなかったのは、ドゥルジが村に着く前からじゃなかったか?
「遙遠、シラギさんや村の人たちは?」
『村には1人もいないようです。どうやら襲撃を知っていたみたいですね。どうしてかは分かりませんが』
「そうか、よかった…」
 正悟は無意識に詰めていた息を吐き出した。
『良かったのはそこまでです。ドゥルジは村にだれもいなかったことに怒り狂って、こう言っていました。
「おまえの中に石があるのは分かっているんだ。10年前の借りも含めて、生きながらその身を引き裂き、取り出してやる」
 と』



 あわただしく、その夜のうちに村人救出チーム、対ドゥルジチームが組まれた。
 だが一方では、今すぐ出ないと乗合馬車の夜行便に間に合わないと、乗合所へ走り出す者たちもいれば、小型飛空艇やレッサーワイバーン、光る箒で単身飛び出す者もいる。
 その心の内はさまざまで
「彼を止めなくちゃ。きっとこれには何か理由があるんだと思う。でも、こんな方法間違ってる」
 そう決意する者もいれば
「今度こそドゥルジ倒す! あんな非道な真似をしたやつを、許しておけるか!」
 と、怒りにあかせて駆る者もいる。
 個々のさまざまな思いを乗せて東を目指す一団。長原 淳二(ながはら・じゅんじ)もまた、そのうちの1人だった。
(ミーナや、何の罪もない人たちにひどいことをしたドゥルジ……必ず倒す)
 不死身の肉体の持ち主かもしれない。だが再生能力が優れているというわけで、砕けないわけじゃない。
 それなら、二度と復活できないようバラバラにしてやればいい。
 ミーナは賛成しないかもしれない。無茶だけど。
「俺は、俺のできる事……いや、やりたい事をするだけだ」
 独りつぶやき。
 淳二は小型飛空艇を高く上昇させたのだった。


「ちょっと待ってください、オルフェリアさま。なぜ我がセルマさまの後ろなんですか?」
 セルマ・アリス(せるま・ありす)のヘリファルテの横で、ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)が不服を唱えた。
「それはねー、ミリオン。ヘリファルテは単座だからなのー」
 もともと1人乗りのヘリファルテ2台に無理やり2人乗りするわけだから、体格で分かれるしかない。
「いやいや。それでも我とオルフェリアさま、セルマとシャオでしょう。というか、そもそもどうしてセルマさまたちと一緒に無理してヘリファルテに同乗なんですか? ほかにも飛空艇を持つ方々はいるわけで、なにも――」
「さー、シャオ。行こ行こっ」
「ああっ、オルフェリアさまっ」
「立ち乗りしてもらうことになるわよ?」
「はいです」
 ミリオンのあわてぶりをよそに、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)はさっさと中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)――シャオの後ろにまたがった。
「オルフェリアさま、我の話をお聞きくださいっ」
(だってだって、ミリオン、なんかあれからずっとオーラが怖いですものー)
「しっかり掴まって」
 シャオのヘリファルテが浮き上がり、東の空へ飛んで行く。
「く…」
「どうする? 乗る? それともほかのやつのオイレかアルバトロスに乗せてもらう? どうせ目的地は同じだし」
 俺はどっちでもいいんだけど。
 ハンドルに頬杖をついて、セルマが声をかけた。
「――ふん。はっきり言ってあなたは気に入りませんが、今回はドゥルジとやらをなんとかしなくてはならないようですので、共闘しましょう」
 振り向いたミリオンは、見るからに嫌そうな目をしている。
「今回ばかりは我慢して差し上げます」
「あ、そう」
 いかにも不承不承といった感じで後ろに乗ったミリオンが肩に手をかけた瞬間、セルマはヘリファルテを発進させた。
 とたん、ミリオンが何かを叫ぶ声が聞こえたが、風とヘリファルテのエンジン音でセルマには聞こえなかった。