薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

学生たちの休日6

リアクション公開中!

学生たちの休日6
学生たちの休日6 学生たちの休日6

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「何してんだ? ルーシェ」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は、家の前で小型飛空艇をガチャガチャといじくっているルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)を見つけて訊ねた。
「見ての通りじゃ。飛空艇の整備をしておる。この前の遠出でだいぶ無理をさせてしまったからの。セレス、そこのドライバーを取ってくれ」
「はい」
 ルシェイメア・フローズンに言われて、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が工具箱からドライバー取り出して渡す。
「へえ、ちょっと意外だなあ」
「何がじゃ?」
 不思議そうな顔をしているアキラ・セイルーンに、ルシェイメア・フローズンが聞き返した。
「だって、魔女ってさあ、どっちかって言うと、箒に乗ってるイメージがあるだろ。そんなふうに機械である小型飛空艇をいじくっているのは、ちょっと不思議な感じがする」
「それは既成概念というものじゃな。そんなものに囚われていると、思いもよらぬ所で手痛い目に遭うぞ」
「なんだ、それ?」
 話が飛躍したと、アキラ・セイルーンが訊ねた。
「ドラゴンがいたとして、火を吐きかけられると思ってファイアプロテクトをかけたら、アイスブレスを吐きかけられる……なんてことがあったら、どうする。見た目で物を判断してはいかんのじゃ。だいたい、それを言ったら、おぬしの方が似つかわしくない物に乗っておるではないか」
 ルシェイメア・フローズンが、そばに立ておかれている箒をさして言った。
「おぬしこそ、血気盛んな男の子としては、箒よりも機械物の小型飛空艇に乗りたがるものではないのか? いずれにしろ、何に乗るかではなく、どう乗るかじゃ。ちゃんと日々の手入れを怠ると、肝心なときにしっぺ返しを食らうぞ」
 そう言って、ルシェイメア・フローズンが意味ありげにニヤリと笑った。
「うーん、じゃあ、俺も手入れぐらいするか」
 そう言うと、アキラ・セイルーンが自分の箒を磨き始めた。柄の部分は柔らかい布で拭いて、穂の部分は間に挟まっていたゴミを綺麗に取り除いてやる。
「こんな感じかなあ」
「どうじゃろう。そのうち、イルミンスールにでもいってちゃんと手入れ方法を調べるかのう」
 二人でせっせと手入れをして、やがて、小型飛空艇と箒は一年の汚れを落とされてピカピカになった。
「よし、これでばっちりだぜ」
「ふう、さすがに疲れたのう」
 満足しつつも、結構重労働だったので二人共ぐったりする。
「お茶が入ってますよ、どうぞ」
 いつの間にか家の中に引っ込んでいたセレスティア・レインが、コーヒーとケーキを持って戻ってきた。
「ほう、気が利くのう」
「ほんじゃあ、後は皆でゆっくりとするか〜」
 自分たちの相棒となる乗り物を眺めながら、アキラ・セイルーンたちは遅めのティータイムを楽しんだ。
 
    ★    ★    ★
 
「わーい、遊びに来ちゃったよー」
 篠宮 悠(しのみや・ゆう)の自宅にやってくるなり、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)はぴょんと彼にだきついた。
「今日は何して遊ぶー。お嫁さんごっこ? それともプロレスごっこ? それとも……」
 言いながら、リース・アルフィンがあからさまに頬を染める。
「ちょ、ちょっと、プロレスごっこって……。いきなりそれはないだろうが」
「だってぇ、好きなんだもん♪」
 面食らう篠宮悠をからかうように、リース・アルフィンが甘え声を出す。
 だが、次の瞬間、二人は超感覚で何かが凄い勢いで飛んでくるのを感じて、だきあったままあわてて横へ飛び退いた。
 バキバキともの凄い音をたてて、床がクレセントアックスで粉砕された。
「あ〜ん、リースさんと悠さんのぶうわあかあ〜」
 泣きながら、クロエ・ル・リデック(くろえ・るりでっく)が投げ飛ばすように振り下ろした大斧の柄をつかんで、再び振り上げる。
「ちょっと待て、クロエ、いきなりなんだ!?」
「死んじゃうから、死んじゃうから」
 ますますひっつきながら、二人が叫んだ。
「クロエの悠さんを取っちゃやだあ!」
 言いつつ、問答無用でクロエ・ル・リデックが再び斧を振り下ろした。あたふたと、篠宮悠たちが逃げ回る。
「クロエも、悠さん大好きだったのにぃ!!」
 バキバキと床がどんどん破壊されて、篠宮悠たちが追い詰められていった。
「まずいなあ……。待て、とにかく落ち着け、話はそれからだ!」(V)
「あ、あの、その……、斧は危険だから……落ち着いて!」
「やだー!!」
 もう収拾がつかない。
「クロエ、お前の言いたいことは分かるが、俺はもう決めたんだ。お前が俺を選んだように、俺が選んだのは……」
「いやー!!」
 ぶんと、アックスが唸る。
「確かに、悠さんの恋人になったってことはクロエさんから悠さんを奪っちゃったかもしれないけど……。けどね、わたしだって、悠さんのこと大好きだから、すんなり諦めるなんてできない!」
「いやいやー!!」
「こら、火に油を注ぐな!」
 突然の修羅場に、篠宮悠としてはどうしたらいいか判断できなくなりつつある。
「うーん、わたしは悠さんのことは好きだし、クロエさんも悠さんのことは好き。わたしはクロエさんのことも好きだし、悠さんはどうなの? 私たちのこと嫌い?」
 やや落ち着きをとり戻して、リース・アルフィンが聞いた。
「嫌いなわけないだろ」
 そこの部分は即答する篠宮悠だった。
「じゃあ、決まり。クロエちゃん、優ちゃんを半分こしよ」
「縦に二つに割るの?」
 斧を振り上げて、クロエ・ル・リデックが聞いた。
「ちょ、待て!」
 篠宮悠が青ざめる。
「ううん、そうじゃなくて、悠さんは、わたしだけの悠さんじゃなくて、クロエさんだけの悠さんじゃなくて、二人の悠さんなんだよ。大丈夫だって、私もクロエちゃんもきっと悠さんが幸せにしてくれるよ! そうだよね? 悠さん」
「そうそう、二人一緒に……って、待てやリース、なんでそうなる!!」
 突然のリース・アルフィンの言葉に、篠宮悠が叫んだ。
「そうなの……。ぐすっ……本当にいいの? 私も悠さんの彼女でいいの? うん……私も……悠さんが大好き!」
 クロエ・ル・リデックが斧を投げ捨てて、篠宮悠にだきついてきた。
「リースさんと一緒に、私も悠さんの彼女になる!」
「うん、そうしよ」
 篠宮悠にくっつきながら、二人が確認しあった。
「おーい、勝手に話進めないでくださーい。もしもーし」
「それでね、どうやって悠さんを二人で分けるかというとお……」
「うんうん」
「もしもーし」
 どんどん勝手に進んで行く話に、篠宮悠は思わず天を仰いだ。