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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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3.空京の音

 
 
「いらっしゃいませー。空京デパート、クリスマスバーゲン開催中でーす。ただいま、タイムサービスで店頭ワゴンセールを行っていまーす。皆さん、お誘いあわせの上、お買い求めくださーい」
 赤と緑のクリスマスカラー魔法少女コスチュームに身をつつんだハルカちゃんこと緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、寒さにもめげずに大声をあげて店頭販売を頑張っていた。ワゴンの上には、クリスマスケーキの他に、サンタ人形や、カップル用のペンダントなど、いろいろな物が載っている。売り切れたらすぐにデパートから持ってこられる態勢だ。
「美味しいケーキに、クリスマスプレゼントー。早い者勝ちですよー」
 表通りにむかって、緋桜遙遠が声を張りあげた。
「いやあ、みんな頑張ってるねえ。なにせ、クリスマスに年末は、学生バイトにとってもかき入れ時だからな」
 配達用の小型飛空艇の荷台一杯にクリスマスプレゼントを満載しながら、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は空京デパートの前を疾走していった。
「次のお届け先はと……、大量の玩具を空京大学あて? なんだ、イベントでもあるのか? とにかく急がなくちゃな」
 届け先の指示を確認して、橘恭司はスピードをあげた。
 その反対側の車線を、四谷 大助(しや・だいすけ)白麻 戌子(しろま・いぬこ)のバイクが制限速度ぎりぎりですっ飛んでいく。
 純粋な宅配便をやっている橘恭司とは違って、こちらはクリスマスプレゼントのお届け専任で、格好もサンタとサンタガールの衣装を着ている。
「いやあ、突然手伝ってくれと言いだしてくれたんで、ずいぶん助かったのだ。さあ、次のお届け先に急ぐのだよ。しっかりつかまっていたまえ。あっ、変な所触った場合は振り落とすので注意するように」
 バイクを運転する白麻戌子が、後ろに乗る四谷大助に注意した。
「ほっほっほっう。わんこには興味はない」
 四谷大助が、どきっぱりと言った。
「むっ、まあいいのだ。次は、お店宛てなのだ。いくぞお!」
 
    ★    ★    ★
 
「あらあら、人が一杯ですわ」(V)
 空京のメイン通りを歩きながら、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が、キョロキョロと周囲を見回した。
「年末ですから。ほら、あそこでワゴン販売なんかしていますよ」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、空京デパートの前で、大きな声を張りあげている緋桜遙遠をさして言った。
「でも、毛糸は売っていないみたいですわ」
「やっぱり手芸店に行かないと。なんと言っても、クリスマスプレゼントは手作りに限りますから」
 セツカ・グラフトンをうながすと、ヴァーナー・ヴォネガットは、目当ての手芸店へとむかった。
 クリスマスプレゼント用にセツカ・グラフトンと一緒にマフラーを編んでいたのだが、あとちょっとで完成というところで毛糸が足りなくなってしまったのだ。
「ああ、ありましたです。ここです、ここ」
 大通りから一本入った通りにあるこぢんまりとした手芸店を見つけて、ヴァーナー・ヴォネガットは中に入っていった。
 店の中は、ほんわりもこもことした毛糸の玉で一杯だ。
「レッド、ホワイト、ブラック、グリーン、ゴールド、シルバー! みんな買っちゃいましょう」
 セツカ・グラフトンの持つ籠の中へ、ヴァーナー・ヴォネガットが毛糸玉をポンポンと投げ入れていく。
「そんなにたくさん買っても、ほとんど余ってしまいますわ」
 いったいどうするのだと、セツカ・グラフトンが訊ねた。
「いいんですよ。プレゼント用のマフラーを作ったあまりの毛糸は、また後でセーターやミトンを作るんですから」
 楽しげに、ヴァーナー・ヴォネガットが答えた。
「ふふっ、平和ですね……」
 セツカ・グラフトンも嬉しそうに笑った。のんびりと編み物をする時間があるということは、日々が平和であるということに他ならない。そんななにげない時間は貴重だ。
「さあ、たくさん毛糸を買ったら、どこかのお店でスイーツでも楽しみましょう」
 レジにむかいながら、ヴァーナー・ヴォネガットが言った。
 
    ★    ★    ★
 
「いらっしゃいませ。ハルカちゃんのワゴンセールにようこそ」
「おっ、このパーカーなんかどうだろう。キミによく似合うと思うんだよ」
 ふと足を止めた天海 護(あまみ・まもる)が、ワゴンにあったストリートパーカーを手にとって天海 北斗(あまみ・ほくと)に聞いた。
「うーん、悪くは……ないかな」
 淡い緑色の暖かそうなパーカーを見て、天海北斗が答えた。
 ちょっと気がそぞろなのは、せっかくのクリスマスは片思いの相手と一緒に過ごしたかったからだ。とはいえ、しょせんは片思いなので、デートの約束をしたわけではない。むしろ、誕生日だからといって、買い物に誘ってくれた天海護の方が正確には先約ということになる。
 それにしても、こんなイベント主導の日に誕生日というのは、運がいいのか悪いのかちょっと図りかねる。
「まあ、勝負は来年ということで。今年は、せっかくの兄貴のお誘いだ。ちゃんと楽しまなくちゃな」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ? もう買っちゃったよ。ほら、クリスマスプレゼントだ」
 包装されたてのパーカーの入った包みを、天海護が天海北斗にさし出した。
「サンキュー、兄貴。ありがたく着させていただくぜ」
 嬉しそうに、天海北斗がプレゼントを受け取った。
「まいどありがとーございましたー」
 緋桜遙遠に見送られて、二人が歩きだす。
「さて、今度はどこかで誕生日プレゼントを探さないとな」
「えっ、プレゼントなら、今もらったぜ」
 天海護の言葉に、天海北斗が怪訝な顔をする。
「それはそれ、これはこれ。今のはクリスマスプレゼントだよ。誕生日プレゼントはちゃんと別に買わなくちゃな。だって、キミの誕生日は、クリスマスとはまったく別のキミだけの物だろ」
 天海護は、そう言って微笑んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「ちょっと買いすぎちゃったかしら。大丈夫ですか、レイディス様」
 空京でのショッピングを終えたナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)が、たくさんの荷物をかかえたレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)に訊ねた。
「なあに、こんくらい楽勝だぜ」
 余裕を見せて、レイディス・アルフェインが答える。
 重さ的にはレイディス・アルフェインの言う通りなのだが、たくさんの紙バックを両手にぶら下げた姿は、数だけで限界という感じだ。ナナ・マキャフリーの家まで袋が持ってくれればいいのだが。
 中身は、クリスマスやお正月用の食料品がほとんどで、他にも、ショウウインドウにかじりついていたナナ・マキャフリーが、ちょっと発作的に買った服などの袋が混じっている。
 大変だから自分も荷物を持つというナナ・マキャフリーに、レイディス・アルフェインは頑として買った物の袋は自分が運ぶと言いはった。
「寒いから、早く帰ろうね」
 それを気遣って、ナナ・マキャフリーが家路を急いだ。