リアクション
―探偵サイド― 美羽とベアトリーチェと一緒に無事乗船が出来た火焔と橙歌の元に走り寄って来る人物があった。 その手には何やら四角い白いものが見える。 頭に青薔薇のコサージュを付け、白と青を基調としたふわふわのワンピースを着たオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)だ。 走りながら少しこけそうになっているのは、きっといつも履いている靴よりもヒールが高い黒い靴を履いているからだろう。 その後ろにはオルフェリアとお揃いのドレスを着た夕夜 御影(ゆうや・みかげ)が付いてきている。 違う点は頭に付けているコサージュの色だろうか。 青薔薇ではなく、ワインレッドの薔薇だ。 「探偵さん、探偵さん!」 「はい、なんでしょう?」 オルフェリアに話しかけられ、振り向く。 「わぁ! 本物の探偵さんなんですね! オルフェ、探偵さんなんて本でしか読んだことなかったですよ♪ あのあの、サイン下さい!!」 手に持っていたのはサイン色紙だったのだ。 1枚を火焔へ、もう1枚を橙歌へと差し出した。 「あー……ですが、今日は書くものは何も……」 困ったように火焔は頭をかく。 「勿論、持ってきてますよ! これでお願いします!」 オルフェリアはパーティー用の小さな鞄の中から細めのマジックを2人に差し出した。 「わかりました、では書かせてもらいますね」 「というか……なんで筆記用具くらい持ってきやがらないんですか、この野郎……ですの」 「ごめんなさい……」 そんな火焔と橙歌のやりとりも目を輝かせてオルフェリアは見ている。 「書けました」 「どうぞ……ですの」 火焔のサインは力強い文字で縦2列に苗字と名前が入っている。 橙歌のサインは何故か筆ペンで書いたんじゃないかという感じの仕上がりで、真ん中に縦書きになっている。 「ありがとうございますっ! 宝物にしますね!」 その言葉に火焔も橙歌も心なしか嬉しそうだ。 「次行きますよ!」 「うん!」 2人はどこか他の場所へと駆けて行ったのだった。 ーーーーーーーーーーーー 「嵐みたいな2人だったねぇ〜! 探偵さんはもしかして、お仕事なのかな?」 ゆっくりと近付いてきた秋月 葵(あきづき・あおい)が火焔にそう問いかけた。 水色のパーティードレスの胸元には大きなリボンが愛らしさを演出し、指には光精の指輪をはめている。 「はい、あの怪盗パープルバタフライが動いているようなのです」 「何簡単にべらべらしゃべりやがってるんですか……ですの」 「んごっ!」 軽すぎる口を止めてしまうように橙歌に唇を親指と人差し指で挟まれてしまった。 「そっかぁ〜、頑張ってね! 私はこれから生徒会執行部【白百合団】班長として、美緒ちゃんの周りでさりげなく護衛するつもりなんだ。また会ったら宜しくね!」 そう言うと、葵はさくさくと美緒の元へと歩いて行った。 ーーーーーーーーーーーー 「あけましておめでとうございますっ!」 「よっ! 今年も宜しくな!」 新年の挨拶をしてきたのはソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)と雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)だ。 ソアはうっすら緑色のプリンセスラインのひざ丈ドレスを可愛らしく着こなしているし、ベアはそのきぐるみの上からタキシードを着ている。 「明けましておめでとうございます。ドレス似合ってますね」 「こちらこそ宜しく……ですの。きぐるみにタキシード……」 橙歌はじっと、ベアのタキシードを珍しそうに見つめる。 「そんなに気になるか?」 「似合っているのが余計に面白い……ですの」 「それって褒めてるのか?」 「……」 無言になる橙歌にどう接して良いのか分からず、ベアは固まってしまった。 なんだか変な空気が流れる。 「え、えっと……その……今日は怪盗パープルバタフライがまた動くみたいですね!」 「あ、ああ、そうなんですよ。パーティーの招待状に前と同じベルガモットをメインにつかった香水の匂いがしましたし、何より、蝶も印刷されてますから」 「で、考えたんですけど、舞台があるみたいですし、その最中に盗みに来るんじゃないかと思います! みんなが舞台に夢中になっていれば、それだけ盗む隙もできますし、なおかつ目立ちますしね。ほら、たとえばこの招待状に書いてある手品を利用しちゃうとか良いですよねっ。観客から物を借りる手品とかよくありますし」 「なるほど!」 「……つか、そんなのも考えつかなかったのか……。お前ら、橙歌が頭脳担当で、火焔が体力馬鹿……じゃなかった、体力担当にしたらいいんじゃないのか?」 いつの間にか、変な空気から復活したベアがそう提案すると、みるみる火焔はしぼんでしまった。 「だ、ダメですよ! 抉るような事を言っちゃ!」 ソアの言葉にもっと縮んでしまう火焔。 「たまには……役に立つ時もある……ですの」 「橙歌くん……!」 意外な言葉を聞いて、しゅんとなっていた火焔がみるみる元に戻った。 「うざい……ですの」 「はい……」 「そうだ! イメージ改革しないか!? 例えば、格好良い名乗り口上とか!」 また落ち込みそうだった、火焔を気遣って、ベアがそんなことを言った。 「良いじゃないですか! ベア、何か良いのありますか?」 励まそうと、ソアものる。 ベアを見つめる目は小動物っぽくなっていた。 「そうだなぁ……こんなのどうだ?」 そう口上の言葉を火焔に言ってみると気に入ったのか、一気に復活をした。 「頑張れよ!」 「はい! 有難うございます!」 火焔はベアにお礼を言うと、笑顔を見せた。 「そうだ、私とベアは色々見て来ますね」 そう言うと、ソアはベアを連れて、船上に脱出用の乗り物がないか、探しにいったのだった。 ーーーーーーーーーーーー 「自分達も手伝うでありますっ!」 ちょっと着られてる感じのする紺のスーツを着た金住 健勝(かなずみ・けんしょう)がそう申し出てきた。 普段も地味なのだが、スーツのチョイスも地味で、地味に拍車がかかっている。 その後ろには銀色を基調とした着なれた感じのドレスを身に纏ったレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)がいた。 白いレースで出来たショールを羽織り、牡丹のペンダントを付けている。 「私達もあの招待状を見て、やってきたんですが、これってやっぱりあの怪盗ですよね?」 「はい、そうだと思います」 レジーナの問いにすぐ、火焔が答える。 「それじゃあ、自分達はちょっと会場を警備してくるであります! 何か怪しい人物がいたらすぐに知らせるでありますよ!」 そう言うと、2人は会話もそこそこに、警備を開始した。 レジーナがディテクトエビルを使用し、ふらふらと会場をうろつく。 「怪しいやつはどこでありますかー」 「そんな事で出てくるわけないと思いますけど?」 冷たい眼差しで健勝を見るが、まったく気づいていない。 (あー、せっかくの豪華パーティなのにこのままではもったいないであります。おなかも空いてきたし……) 「よし、レジーナ! ちょっと見張りを続けて欲しいであります!」 「え、はい」 真剣に健勝が言うので、レジーナは信用し、健勝と二手に分かれた。 真面目に警備をしていたレジーナはしばらくして、何やら料理が置いてある場所に聞き覚えのある声が聞こえてくると、足を伸ばしてみるとそこには―― 「ああ〜、美味しいであります〜! 最高であります〜! ローストビーフ! あ、あっちにはお餅のピザが〜! 鶏ハムロール!? それも美味しそうであります〜」 健勝が持っている取り皿の上には料理が山盛りになっている。 (ええっ!? もしかして、私って単なるスキル係でここに呼ばれたの?) レジーナが無言で殺気を出したのは言うまでもない。 「何やら、殺気を感じる気がするでありますが……気のせいでありますな!」 しかし、本人は全く気にしていなかった。 ーーーーーーーーーーーー 火焔達の元に行く前にと、燕尾服を着た月詠 司(つくよみ・つかさ)は機関室を覗きにきていた。 大きなモーターが沢山回っているし、何やら油のにおいがする。 「問題はなさそうですね……」 そう呟くとパーティー会場の方へと戻って行った。 しかし、司は気が付いていなかった。 その後ろにはパーティー会場で待つように言っておいたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)とウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)がこっそりつけて来ていた。 「ワタシ達を差し置いて、面白そうなところに行こうだなんて、そうはさせないわよ」 「だよね♪ 面白い機械がいっぱいで楽しいなぁ〜♪」 黒のイブニングドレスと赤い椿のコサージュを付けたシオンが楽しそうに言うと、白のサテンミディアムドレスを着たロキもわくわくと返す。 ロキはスキップをしながら、辺りを色々見て回り、シオンは違うところを見て回る。 「もうそろそろ行くわよー。ワタシ達がいないと、ツカサが探しに来ちゃいそうだし」 「うん!」 ロキは入口のところにいるシオンの元へと駆け寄り、それを見たシオンは先に入口を出た。 「あ、これなんだろう?」 走っていたのだが、足を止め、あるモーターの横を覗きこんだ。 そこにはキラリと輝く石が付いたレバーがあった。 「楽しい〜」 ロキは目を輝かせて、それを何回もガチャガチャと上下にする。 「まだー?」 シオンが遅い、ロキを心配して、もう一度声を掛けた。 「今行くよー」 満足したのかレバーをそのままに、シオンの元に走って行った。 |
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