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電子の国のアリスたち(前編)-エンプティ・エンティティ

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電子の国のアリスたち(前編)-エンプティ・エンティティ

リアクション

  15:33 2021/02/XX >aya:test
  15:33 2021/02/XX >aya:どうかな、こちら地下のスパコン室
  15:43 2021/02/XX >dal:使えるようだな、こちらはメインルーム
  15:46 2021/02/XX >jin:おkw
  15:49 2021/02/XX >jin:ちょっとこれからDOS仕掛ける予定
  15:49 2021/02/XX >jin:準備中です、できたら合図しま
  15:53 2021/02/XX >aya:了解、モニターがいるなら任せろ
  15:53 2021/02/XX >aya:こちらのスパコンの識別IDは『Carol004』なので、できれば除外条件してくれると助かる

 行儀悪くリュースと陣は地べたに座り込み、スタンドアローンのマシンでテストパターンを作っては試している。
「とりあえずやりたいこと説明しとこ。まずは数撃ちゃ当たるでネズミをいぶり出す。構内全部をDOS攻撃やな」
「かなり膨大ですよ、それに空大のシステムはそもそもDOSのカラクリを許すように出来ているでしょうか」
「だから権限もろてんやないか」
 疑問と応答、推論と試作を繰り返し、二人はプログラムを組んでいく。

「折角来てはみたものの、大学でなにか大きな事件があったようだな」
 林田 樹(はやしだ・いつき)は騒然とした構内に驚いていた。人が走り回っていて、誰かを捕まえて人を訪ねることもできそうにない。
「うー、ここまれきたおに…」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が残念そうに呟いた。
「今それどころではなさそうだからな、出直すしかないだろう」
    「…脳波…とれないとは…?」
       「…判らん…だが…」
 その時、断片的に聞こえてきた緊迫した声と、ストレッチャー特有の焦りを含む滑車の音に振り返る。
「ああー! にーに? ふゅーらーのにーにー!?」
「まさか、あれはリブラリア様ですの!?」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)はストレッチャーに乗せられた患者が、フューラーであることを見て取った。
 ジーナの腕に抱えられていたコタローが身を乗り出し、とうとう抜け出してストレッチャーに追いすがる。
 しかしそこに警備員が立ちはだかった、ただ事ではない。しかしコタローもひるまずに叫んだ。
「にーに、まりたんみたく、いなくなったったお?」
「何かあったんですか? 彼になにか?」
 あまりのものものしさに緒方 章(おがた・あきら)が前に出る。
「君達、彼の知り合いかい?」
「そのようなものです、コタローが彼にお世話になったものですから…」
 章に引っつかまれても、じたばたとコタローは去り行くストレッチャーに手を伸ばす。
 意を決して警備員は口を開いた。
「今構内のシステムがハッキングをうけているのは見ての通りだ。そして、不正アクセス元の寮では彼が昏倒していたんだ」
「まさか、彼が犯人だと?」
 樹が驚愕して問い詰めるが、警備員も心外なという顔だ。
「だとしても倒れているのはおかしいだろう? しかも傍には彼所有らしい容疑者、ええと人工知能というのかな、がいたんだ。
 そして彼のパートナーの教授は、パートナーロストの症状を起こしている」
 とたんにまたコタローが暴れ出す。
「やらーっ!! こた、まりたんみたく、ふゅーらのにーに、いなくなるお、やらーっ!!
 こた、おれーいうんらもん!! てくにょくりゃーとになったっれ、いうんらもん!」
 今度は警備員の胸元にしがみつき、必死に懇願した。
「おいたん、こたに、がっこのぱしょこん、かしてくらさい。こた、きょーのーなんれ、ぱしょこん、めんきょーしてまう!」
「そ、そうか…」
「ほんとのわるいこ、こた、さがしまう。おねまいします、おねまいします!!」
 びーびーと泣きわめくカエルの一生懸命さが伝わったのか、戸惑った警備員はコンピュータールームへの道順を教えてくれる。
「今有志の学生たちが集まって、ネットワーク側の原因を究明しようとしてるんだ。他校の生徒でも申告すれば参加させてもらえることになっている。能力があるなら行ってみるといいだろう」
 もちろん今回のみの措置ではあるし、身分証明は必要だが、ありがたいことだ。彼らはコンピュータールームへと急いだ。

 やはりさっきの警備員の動きが気になって、エースが情報を聞き込んできた。
「さっき警備員が容疑者を連行したらしい、それでアクリト学長が尋問をしてるとか…」
「なんやと? 犯人見つかったんか」
「そうなの? どんな奴?」
 早速ルカルカと陣が食いついた。エースは少し言葉を濁す。
「それが、…フューラーさんなんだが…」
「マジで…あのシスコンの人が!? まさかヒパティアちゃんが犯人とか言わんよな…ないない」
「誰だぁそいつ?」
 蕪之進が尋ねる。どうやら彼らの知人らしいのだが、犯人だとは思っていないようだ。
 ルカルカは何も言えない、友人やパートナーから話を聞いたことがあっても、自分が接触したことはない。だが勿論彼らを信じている。
「それが…彼は今昏睡状態で、シラード教授の方はパートナーロストの症状を引き起こしてるらしいんだ…尋問を受けているのが人工知能だと聞いた。間違いなくヒパティアさんなんだ…」
「…オーケー、テンション上がってきたで。なんにせよ捕まえりゃはっきりする」
 見知らぬ相手に向かってバキボキと指を鳴らし、プログラムの構想を練り直す。

 コタローは、警備室に頼んで、先ほどの異常なアクセスログを貰い受けた。
「なんか…へんね…」
 フューラーたちが犯人ではないと疑っていないコタローは、容疑をなんとしても晴らそうとひたすらログをさかのぼっている。
「にーにのおうちから、あくしぇすっていってらの…」
 偽装した怪しいコードが、確かに寮から学校へのネットワークを辿っている。
 だがもっと前に、ちょうど最初のクラッキングの直後ぐらいに、寮へと向かう痕跡があるのだ。
 そしてそのアクセス間隔がおかしい、回数がものすごい。それはパスをブルートアタックで破るためなのだろうが、複数の機器に同時にアクセスして、それらのすべてにノータイムで対応するなどとは。高度に対応プログラムを組んでいるか…
「にんめんりゃ、ない? うにゅー?」
 そこでコタローは思い出した。
「…にーにのいもーもは、じんこーちのー…。でもにーにのいもーも、ひぱたん、んーなことしない!」
 だからそれはにせもので、そのにせものが犯人なのだと、持てるデータの限りコタローは追求していった。
「うにゅ…めがぱちぱちすうの…」
 目元をごしごしこすって、気合を一発いれた。


「とりあえず、一旦5W1Hを整理しない?」
 ルカルカがメインルームで、情報の整理を進める。
「そうだな」
「何時、何処でor何処から、誰が、何のために、どうやって、何をしたかを潰していこう」
「いつ。13:00からだお」
 コタローが吸盤をかぞえる。
「何処で。空京大学で」
 エースが手を広げる。少なくともターゲットはここだ。
「誰が。今尋問されてるやつら、でも違うってんだろ?」
「ちまうお! にーにちまうお! ひぱたんちまうお!」
「へぇへぇ。少なくとも、それっぽいのはカメラには写ってねえからなあ…」
「ネズミやネズミ、ラットって呼ぼうや」
 コタローが蕪之進に抗議。陣の提案。
「何のために。…まだわからん」
 まだデータが足りない、ダリルが腕を組む。
「どうやって。…はこれからやな」
 少なくとも、もう一度敵が動くまではなんとも言えない。
「何をしたか。セキュリティシステムを狂わせた」
 リュースがいくつか指を折ったが、結局はセキュリティシステムの問題に集約されるだけだ。
「とりあえず、今のところは判ったこと申告ねがいます。はい、何時のキミ」
 ルカルカがコタローを差した。
「んと、13:00にらいがくでぼーん、13:02はにーにのおうちにどーん、14:56でにーにのとこからばーん」
「…ええとそれは、13:00のはどこから? 13:02は大学からフューラーさんとこで、14:56は大学に向けてってことよね」
「いーっぱいみたお、れも、ろこからも、ないお」
 コタローは一生懸命手を広げて、どれだけログをさらったかを主張する。
 13:00の分は少なくとも、同じ痕跡がどこからか何処からきたかという記録はなかったのだ。
「何のために、なんだが。少なくとも、学校中の電子錠を狂わせる意味がどこにある?」
 大学は積極的に技術公開しているほうである、何らかの知的財産や情報が目的だとしても、大事にする意味がない。
「もっと大事にしたいなら、もっと何かあるわよね」
 エースはその点、レスキュー活動していた学生の話も聞いてきている。
「スプリンクラー誤作動、冷暖房、エアコンで空気抜かれた、ぐらいだ」
 空気を抜かれたのに到っては、幸い人もいないのだ。
「この報告から人に危害を積極的に加える方法だったら、スプリンクラーと漏電、空気抜いていくを組み合わせるしかないよな」
「漏電は不確実だな。スプリンクラーとこの時期に冷房、それから空気を抜く、速攻性がないか現実感もない」
「ねえ、実は…学生達が無茶してセキュリティに追い討ちとか…」
「…否定しきれないなあ、いろいろと」

  16:14 2021/02/XX >A-S:報告、今アクリト学長が犯人を尋問中とのこと
  16:15 2021/02/XX >aya:本当か?
  16:17 2021/02/XX >A-S:だが個人的にだけど、犯人ではないと思ってる
  16:17 2021/02/XX >A-S:引続き、捜索していきます
  16:17 2021/02/XX >aya:知り合いか?
  16:17 2021/02/XX >aya:承知した、疑いが晴れるといいな