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 そのバイトに集まった者達は空京郊外の研究施設に連れてこられていた。
 そこで数名毎に分けられ、各部屋に通される。

 01と番号が書かれただけの殺風景な部屋。
 その中に美菜と歩の姿があった。

 と言っても、歩の姿は肉眼には見えていない。
 元々バイトに応募していなかった歩は、光学迷彩で姿を隠し、美菜に張り付いてここに潜入しているのだ。
「うぅ、緊張してきた」
 バイトの開始時間まであとわずか。
 次第に美菜の鼓動は速まっていく。
「……」
 歩は完全に押し黙っていた。
 ここはもう適地なのだから、油断は禁物。
 どこにマイクが仕込まれているかわかったものじゃない。
 今うかつに動けば美菜を窮地に追い込むことになるだろう。
「はぁ」
 美菜はため息をつく。
 姿が見えない、声も聞こえないではそこに居るのか居ないのかもわからない。
 美菜は心細くしているのだった。
「君、大丈夫?」
 同室となったカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が心配そうに美菜の顔をのぞき込む。
「え、うん、だ、大丈夫」
「ホントに? 震えてるよ?」
 美菜とは逆に、カレンはまったくの自然体だった。

(この人はこのバイトが危険だって知らないのかな?)
 そんな疑問を抱く美菜。
 ここは教えるべきなんだろうか?
 いやいや、この部屋が盗聴でもされていたら皆無事では済まない。
 ぎりぎりまで知らせない方が良いだろう。

 そんな事を考えていたせいか、美菜はとても険しい表情を浮かべていたらしい。
「ふふっ、もっとリラックスした方がいいよ」
 美菜を安心させるかのように、カレンが微笑みかける。
「はい……そのカレンさん」
「? なに?」
「カレンさんはどうしてこのバイトに?」
 美菜から見て、カレンはお金に困っているようには見えなかった。
 仮にお金に困っていたとしても、こんなバイトに来る人間には思えなかったのだ。
「んー、そうだねー、君と同じ、かな」
 おどけながら答えるカレン。
 だがそう答えたカレンが一瞬、目配せしたように美菜には見えた。
(ボクも味方だよ)
 そう言われているようで、なんとも言えない安心感を感じる美菜だった。

「ふ……どうやら良い面子に恵まれたようです」
 そんな二人の様子を見ながら雨宮 七日(あめみや・なのか)がつぶやいた。
 パートナー、日比谷 皐月(ひびや・さつき)が倒れ、現在一人で動いる七日にとって、彼女達の存在は寂しさを紛らわせてくれたのだろう。
「え?」
「いえ、何でもないです……せっかくの楽なバイトです、みんなで楽しくやりましょう」
 カモフラージュの為か、後半部分をわざと大きめの声で言う七日。
「そうだね、楽して儲かるなんて最高だよ」
 かれんもそれに乗ってみることにした。
「稼いだお金で何買おうかなー」
 美菜も続く。
 姿を見せぬ盗聴者はこの会話を聞いて、どんな風に考えているだろう?
 そんなことを想像すると、楽しくてしょうがなかった。

 そして……その時は訪れる。

「はいはい、みんな、お薬の時間よ」
 特製の睡眠薬を手にアテフェフが各部屋を廻る。
 ここで眠ったら最後と、みんなわかっていた。
(絶対に眠らされるものか)
 クレアに貰ったお守りを握りしめ、美菜は睡眠薬を口に含んだ。