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第2章 花時計で時を刻め

「うわぁ、いい天気になってよかったねっ!」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、澄み渡った空を仰ぎながら言った。
「本当アル。花壇作り日和アル」
 チムチム・リー(ちむちむ・りー)は、泥よけ用のエプロンを後ろ手に結びながら、レキと同じように空を仰いだ。

 百合園女学院、中庭。
 季節ごとに色とりどりの花を咲かせ、百合園女学院の生徒の憩いの場となっている中庭も、この季節にはなんとなくもの寂しい雰囲気が漂っていた。土を休ませる、というのももちろん大切なことではあるのだけれど、やはり乙女の園に相応しい華やかさというものがほしいもの。
 桜井 静香(さくらい・しずか)が提案した「中庭をみんなでキレイにしよう&お茶会」は、冬の終わりにもの寂しさを感じていた百合園女学院の生徒たちを、少しウキウキとした気分にさせた。もちろん、せっかくの機会に百合園女学院内に入ってみたい、という他校生のお誘いもOKなので、女の子のお茶会を楽しみにしている人も多いはずだ。
 しかし、庭作りは案外力仕事が多いものなのだ、が……。
「力仕事は任せるアル!」
 チムチムは、近くから大きなスコップを引きよせて、力強く「ざくっ」と花壇の土に突き立てた。一度、土を掘り返して、良い土壌を作ってからでなければ、花壇作りははじまらない。
 チムチムは気持ち良さそうに空を仰いでいるレキに向かって、気合いを入れた声をかけた。
「本当に、ガーデニング日和ですわ」
 谷中 里子(たになか・さとこ)は、ロングの手袋に手を入れながら、チムチムに向かって声をかけた。こちらもバッチリ気合いの入った格好である。
「良いお天気ですものね。でも、こんなに良いお天気ですと、日に焼けてしまいます……」
 ドロッセル・タウザントブラット(どろっせる・たうざんとぶらっと)は、里子の腕に日焼け止めを塗るために、手のひらをそっと肌の上に滑らせた。
「ドロッセルのほうが、肌白いんだから、自分にしっかりと塗らないとダメですわよ」
「大丈夫です。私の分はすでに、塗りましたから……」
「それならいいけど。……みなさんも、しっかり塗らないとダメですわよ」
 里子はドロッセルの手から日焼け止めを受け取ると、レキに小さなサンプルを差し出した。
「ボクももらっちゃっていいの?」
「ええ。ドロッセルがいただきものの日焼け止めのサンプルをたくさん持ってきているので、よかったら使ってくださるとうれしいですわ」
「うわあ。ありがとっ!チムチム、塗ってくれる?」
「わかったアル」
「あっ!いいなぁ。ボク、準備はしっかりしてきたのに、日焼け止めのことはすっかり忘れてたよ!」
 峰谷 恵(みねたに・けい)は、自分の白い腕をさすりながら言った。
「あら、スコップとかクワとか、道具はたくさん持ってきたのに、自分のお手入れは忘れたんですか?」
 エーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)は恵に手渡されたガーデニング用の手袋に手を通した。
「そうなんだよー。って、そういうエーファはちゃんと持ってきたのっ?」
「私も忘れました」
 エーファはしれっと言ってのける。
「まあまあ、みなさんの分もありますから、使ってくださいな」
 里子は、二人のやりとりを微笑ましく見ながら、恵とエーファ、一緒にいるグライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)レスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)にも、日焼け止めを渡した。
「せっかくの白い肌、大切にしなくてはいけませんわ」
「どうもありがとっ!エーファ、手袋の前に日焼け止め塗らなくちゃっ」
「腕の後ろの部分は、自分では上手に濡れないのよね!……あ。香苗さん!ちょうどいいところに。ボクの腕に塗ってくれる?」
 春には緑がアーチを作る土台となっている、ガーデンアーチをくぐって中庭には入ってきた姫野 香苗(ひめの・かなえ)に恵が声をかけた。
「ごきげんよう。……ん?日焼け止め?」
「ごきげんよう。香苗さんにも、あとで塗って上げるから、先に塗ってくれるっ?」
「ん……。いいよ。みんな、今日のガーデニングの準備?」
「そうアル。まずはみんなで花壇の状態を整えるアル」
 チムチムはすでにレキとともに完全武装をしている。
「香苗さんも、一緒に花壇の土台作りしよーよっ」
「ん……ありがとっ」
「ガーデニングはベース作りが大切ですわ!気合いれてやりますわよ!」
「ガーデニングはセレブのたしなみ、ですか?」
 気合をいれた里子にドロッセルは、にこにこしながら声をかけた。
「もちろんですわ。さ、みんなでがんばりますわよっ」
 里子は日焼け止めを塗りあっている乙女たちを見つめて、にっこりと笑った。

「花壇を上手に作るためには、土台をしっかりと整えることが大事だよ〜」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、小さなシャベル片手にざくざくと雑草を掘り返している。
「歩ちゃん、ボクも手伝うです!」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、歩の腰に抱きつくように、後ろからハグハグした。
「うぁっ。ヴァーナーちゃん!びっくりしたぁ」
「尻もちついて、スカート汚れてるよ」
「あ。円ちゃん、ありがと♪」
 桐生 円(きりゅう・まどか)は、歩をひっぱり起こした。
「大丈夫ですか?」
 円の隣にいたアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)も、にこにこと歩とヴァーナーを見つめている。
「あああ。ごめんね、歩ちゃん!」
「大丈夫だよっ♪」
「ヴァーナーちゃん、一緒に雑草抜く?」
「はいっ!向こうで小夜子ちゃんたちも準備してるから、みんなで一緒に花壇を作るです!」
「うんっ。そうしよっか」
 歩は、ヴァーナーの頭をなでなでしながら言った。
「じゃあ、ボク、みんなを呼んでくるです!」
「はーい!じゃあ、あたし道具持ってきておくね♪」
「一人じゃ大変だよ。道具持ってくるの、手伝うよ」
「手伝います!」
「円ちゃん、アリウムちゃん、ありがと!」

「歩、円、道具を持ってきてくれたのね。おつかれさま」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が、ヴァーナーに引っ張られてやってきた。今回は、中庭の入り口になっているアーチから、現在、休ませていた円形の花壇、5区画に花壇作りをしていいことになっている。
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、ガーデニングに参加しに来ている人たちを、きょろきょろと見まわした。とても澄み渡った青空からは、春のきざしを感じさせるような明るい太陽の光が降り注いでいる。
「今日は、ガーデニング日和ですね。ご主人様、日焼けにお気をつけてください」
 マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)は、どこからもらってきたのか、日焼け止めの小さなパックを取り出して、亜璃珠に差し出した。
「あら、マリカ、どうしたのコレ?」
「あちらで、ドロッセル様が、配ってらして……」
「そうなの。マリカ、塗って差し上げてよ」
「えっ、そんな……!あ、あの……亜璃珠様に私が……」
「ふふっ、そう?ありがとう」
 亜璃珠はマリカの反応を楽しそうに見つめた。
「あの、みなさんの分もくださったので……よかったら」
「はいっ!じゃあ、みんなで日焼け止め塗ったら、土台作りをはじめましょうか♪」
 歩は道具をずりずりと持ってきて、土を掘り返す準備を始めた。
「ねぇ、みんなで花時計……作らない?」
 多比良 幽那(たひら・ゆうな)が、アルラウネを引き連れて現れて、にっこりとほほ笑んだ。