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第3章 リトル・ガーデン・ティーパーティー

「はぁいっ。みんな、おつかれさまだねっ」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、中庭のハーブ園の中から、和泉 真奈(いずみ・まな)と一緒に摘んできたハーブの葉の香りに、小さなお鼻をひくひくとさせてその香りを楽しみながら、ガーデンテーブルの間をスイスイとにこやかな笑顔で回っていた。
「やっぱり、摘みたてのハーブの香りは、格別だねっ!ありがとう。ほら、日奈々……」
 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)はミルディアからハーブティーを受け取ると、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)がやけどしないように気をつけながら、テーブルの上にカップを置いた。
「本当に、良い香りですぅ……。ありがとう……です」
 日奈々はミルディアに小さく会釈をした。ミルディアは日奈々の耳元に口を寄せると
「千百合ちゃんと、良い思い出ができたっ?」
 と、聞いた。日奈々は、赤い顔をして、俯いた。
 その様子を見ていた、真奈は、なんだかとても……幸せな気持ちになった。夕日を浴びたみんなの顔は、一仕事終えた達成感からか、とても満足そうに見える。
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、そんな真奈の持っている、トレイの上のハーブティーの香りに惹かれて、声をかけた。
「真奈おねえちゃんっ。ボクにもお茶をくださいな♪」
「はっ!はい!!……う、はぁわわわわ……」
「あっ!あぶないです!!」

 かっちゃん

 とっさに手を出したヴァーナーのおかげで、最悪の事態は免れた。
「ふぅ。よかったです!大丈夫ですか?」
「す……すみません。少し、こぼしてしまいました……」
「これくらい、大丈夫です!それよりボクが急に声をかけたから……ごめんなさい!」
 頭をぺこりと下げると、真奈も申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんな!わたくしこそ。ボーっとしていたものだから……」
「キレイな花壇になったんだもん。見とれちゃうよねー」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が小さな身体にツインテールを揺らしながら、二人の顔をきょろきょろと見比べた。ネージュの持っているトレイには、美しい色のハーブティーの入ったポットが載っている。
「せっかくだから、いろんな種類のハーブティーを用意したんだー。みんなで飲みながら……」
「お菓子も食べるです!」
 3人は顔を合わせて、くすくすと笑った。

 ガーデン作りの時についた土を払い落して、少しずつガーデンテーブルに人が揃ってきた頃、みんなが作ったお菓子も運ばれてきた。
「疲れた時には、やっぱり甘いモノですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、昨日さんざん試食したお菓子に手を伸ばす。
「ほら、ヘリシャ。おいしくできてるですぅ」
「よかったね!キレイなお庭もできたし。みんな喜んでくれているみたいだし」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)はみんなが美味しそうに食べてくれているか気にしている様子のヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)の頭をぽんぽんとしながら言った。
「本当に、良い記念になりましたわ。花時計もとても素晴らしいですわ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、みんなの作業風景やお花の写真を納めたデジカメをふりふり、満足そうだ。
「そうだね。花時計って初めてみたけど、キレイだね!」
「ほんとですぅ」
「これが、メイベルさんの作ったお菓子?」
佐々良 縁(ささら・よすが)は、りんごのクッキーをつまみながら言った。ひょいっと口の中に入れる。もぐもぐ。
「庭ってけっこー作るのじみだよなー。ねーちゃん、俺つかれちゃったー」
 縁は佐々良 睦月(ささら・むつき)の口に、クッキーを放り込んだ。んぐんぐ。
「うんまい!」
 睦月はメイベルたちが配る前のお菓子の山から、自分の分をがっつりと寄り分けた。

 お菓子とお茶が配られはじめた頃、夕焼けの中に透き通る歌声が流れてきた。
 迦 陵(か・りょう)が、ガーデンの中に特別に作られたステージの上で、ゆったりと曲調に合わせて、言葉を紡ぎ始める。決して大きな歌声ではないが、それでもその透き通るような声は、静かに、そして確実にリトル・ガーデンの中に響き渡る。
「美しい歌声ですわね」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が感嘆したようにつぶやくと、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)はそっと、その隣に寄り添った。小夜子は少し寂しげなまなざしを亜璃珠に向けた。
「どうしたの、小夜子」
「いえ……。本当に、美しい声ですわ」
「そうね」
 亜璃珠がそっと、小夜子の髪を撫でると、小夜子は亜璃珠の腕に顔を埋めた。そんな小夜子の姿をエンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)は少しだけ、複雑な気持ちで見つめていた。

「ねぇねぇ、アディ!このミルフィーユ、ほーんとっ!美味しいよ!」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は感激したように、さっくさくのパイ生地をフォークでつんつんとして見せた。
「さゆみ、お行儀悪いですわよ」
「そんなこと言わないでさっ、ほら。アディも、あーんっだよ!」
「ミルフィーユだったら、まだまだあるよ!」
 秋月 葵(あきづき・あおい)が、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の前にお皿を差し出した。その上には、イチゴのミルフィーユがキレイに切り分けられて載せられている。
「お口に合えば、うれしいな♪」
「このミルフィーユ、あなたが作ったの?」
「うんっ。そうだよ〜。気に入ってもらえた……かな?」
「とっても!お料理上手なんだねっ。今度私にも教えて欲しいなぁ」
「もっちろん!いつでも大歓迎だよっ」
 葵はうれしそうに、二人の前にジンジャーティーも置いた。
「ガーデン作り、おつかれさまっ!しっかりあったまってね♪」
「ありがとう」
 アディもにこっと笑った。少し冷えてきた風に、あたたかいお茶がうれしい。
「少し冷えてきたねっ」
「そうですわね」

「静香様、ラズィーヤ様、ハーブティーをどうぞ」
 十六夜 朔夜(いざよい・さくや)は湯気の上がるカップを、二人の前に置いた。二人の周りには、ガーデニング作りを終わった乙女たちが残ったお花で作った首飾りや、お菓子を運んでいる。
清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、ハート型のジャムクッキーを差し出した。
「静香様、これ……たたたた食べていただけすとうれしいどす!」
「清良川さん、ありがとう。美味しそうだね!」
 桜井 静香(さくらい・しずか)は、エリスから受け取ったジャムクッキーを、口に入れた。
「ん……、、、おいしい、よっ!」
 静香はもぐもぐと咀嚼した後に、ちょこっとお茶を飲んだあとに、そう言った。
「……なんか、反応がヘンどす、ね……??」
 エリスは、静香に差し出したクッキーの山の中から、ひとつつまむと口に入れた。……ジャリッ。
「……しょ、しょっぱいどすううううううううう!!!!!!!」
 エリスは、自分の口の中のクッキーを吐き出すわけにも行かず、右往左往。そばにいたネージュが走って水の入ったコップを持ってきた。エリスは受け取って、んくんくと飲みほした。静香はネージュにありがとう、と言って口をつけた。
「ししししし静香様!!!!ももも申し訳ないどす!!」
「清良川さん、大丈夫だよ!作ってくれてうれしかったよっ」
 エリスは、クッキーを紙ごとつかむと、ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)の姿を探した。ティアは、こちらの様子を邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)と話しながら、横目で見ている。
「ティアー!なんってことするどすかあああ!!!」
「なぁに?エリスってば、どうかしましたの?」
「どうかしたじゃないどす!!!このクッキー!!!」
 エリスはずいっとティアの前にクッキーの紙差し出した。
「すっごい味どすよ!!」
 壹與比売は、バレンタイン以来甘いモノはこりごり、と手を出していない。最後の味見を買って出たのはティアだ。
「作るのに、失敗しちゃったのかしら?」
「ティアー!もうっ!やっていいイタズラとダメなイタズラがあるどすようう」
 エリスは若干、涙目モードになってきた。ティアは、エリスの頭をなでなでと撫でると
「まぁ、失敗することもありますわよ、ね?」
 と、壹與比売にウインクした。
「え……、それはもちろん、そうでございますけれども。でも……」
 エリスの涙目モードに、ちょっぴりうろたえていた壹與比売は、どうフォローしていいのかわからない様子。
「エリスちゃん、泣かないで。……おっかしぃなぁ。失敗するところなんてなかったはずだけど」
 騒ぎを聞きつけた葵がやってきて、エリスを慰めた。お菓子作りを教えた責任を感じているようだ。
「まぁ、失敗もありますわよ、ね」
 フィリッパはそっとティアにお菓子作りをしている時にとった画像を見せた。そこにはバッチリと……。
「まぁ、そういうこともありますわ」
 ティアは、小さな赤い舌を出して、反省したわよ、と自分の頭をぽりぽりとかいた。
 果たしてその反省は、思いがけずエリスを泣かせてしまったことなのか、それとも証拠写真を撮られてしまったことへのものなのかは不明である……。

 陵の儚い姿が、紺色の空に映えるようになった頃、リトル・ガーデンのお茶会はお開きとなったのであった。


≪おしまい≫

担当マスターより

▼担当マスター

藤森あず

▼マスターコメント

  東北地方太平洋沖地震によって、被害に見舞われた皆さまに
  心よりお見舞い申し上げますとともに、
  一刻も早い復旧をお祈り申し上げます。

  マスターを担当しました藤森あずです。
  今回は、リトル・ガーデンへのご参加ありがとうございました。
  シナリオの公開も、延期に延期を重ねてしまい
  ご参加くださった皆さまには、大変申し訳ありませんでした。
  シナリオ内では、あたたかい雰囲気を
味わうことができると良いなと思います。
  
  まだまだ、震災後の混乱が続いております。
  どうか皆さま、安全に過ごされますように。
  ご自愛くださいませ。

  それではまた、別のシナリオでお会いいたしましょう。