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魂の器・第3章~3Girls end roll~

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魂の器・第3章~3Girls end roll~
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 第2章 空京にて
    挿話【1】〜それぞれの祈り・承前〜

「いっえーい! 空京到着なのだーっ!!」
 空京の地を1番に踏むと、春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)は笑顔全開で言った。歩きながら、一緒に降りてきたピノにポッキーを勧める。
「ピノちゃん疲れてない? ぽっきー食べるー?」
「うん! 食べるよーっ!」
「ケイラちゃんも食べるー?」
「あ、じゃあもらおうかな……」
「何でそんなに元気なんだ……」
 そんな感じにハイテンションな真菜華に、ラスはローテンションに呆れた声を出した。まあ、おかげで沈みがちだったピノが元気になってきているようだし助かっている部分もあるのだが。
 そこで、もう1人のハイテンション、日下部 社(くさかべ・やしろ)が降りてきた。
「長い旅やったなあ! 色々動き回って大変やったけどこれで帰路につけるんやな?」
「いや、まだ1箇所……」
「ん? ラッスンどこか寄ってくんか?」
「ああ……」
 これっぽっちも自分は行きたくないのだが。
「よっしゃ! んじゃ、俺も最後まで付きおうたるわ♪」
「言うと思った……」
 その心情を察したのかどうなのか、社は即そう言った。ありがとう、という言葉を発するのは気恥ずかしく、気のない調子でラスは返す。2人の後ろからは千尋が降りてきて、社に名残惜しそうな声を出した。
「やー兄、もうお帰りなの? もっと皆と遊びたかったよー」
「だいじょーぶやちー! 遊べるでー♪ まだまだ一緒や、ラッスン達に最後まで付き合うからな!」
「やったー♪ まだ皆と遊べるんだねー☆」
「遊べるって……楽しい所に行くんじゃないぞ? どっちかというとその対極な所に行くんだぞ!?」
 やっぱりこいつ分かってない……!? さっきのは気のせいだったか……。
「そんな細かいこと、気にすんなって、ラッスン!」
「細かいのか!? それは、細かいのか!?」

 そして、皆で駅の外に出て。ファーシーは天沼矛へ行くという紫音達と別れの挨拶を交わしていた。
「じゃあ、お疲れ。まあ、用事が終わったらしばらくはのんびりしろよ」
「そうするわ。今回は本当に、何度も助けてくれてありがとう。あと、紫音さんはナンパばっかりしてちゃだめよ!」
「う、そ、それは……!」
 まさかここで言われるとは、と少々慌てる紫音。
「そうどす。少し控えてくれないと困りおすえ」
 彼の隣の風花が言い、アルスが2人を促す。
「では、そろそろ帰るのじゃ」
「じゃあね。気をつけてね!」
「貴公も気をつけるのじゃぞ」
 アストレイアも微笑んで踵を返し、4人はシャンバラ宮殿の方に向かっていく。
 一方、レン・オズワルド(れん・おずわるど)は空京警察に電話をかけていた。
「……そうだ。チェリーと……関係者が面会を希望している。山田の弔いだ。……ああ、それで、これから行きたいんだが。……分かった。そう時間は掛からない」
「アポ取れたのか?」
 電話を切ったレンに、ラスが声を掛ける。
「行くまでに準備しておくそうだ」
「……骨、在ったのか」
「何で? 空京で亡くなったなら空京にいるんじゃないの?」
 不本意そうに言うラスに、ファーシーが首を傾げる。
「無縁仏で寺に預けられるとか、身内がいたら行く行くはそっちに返されたりもするだろ……多分」
「お待たせ、花、買って来たよ」
 そこで、駅中にある花屋に行っていた椎名 真(しいな・まこと)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が戻ってきた。真は1輪の白い花を、エースは花束を持っている。どちらも、丁寧に包まれていた。
「花、ねえ……。んなもん要らないと思うけどな」
 その言葉にエースは苦笑した。
「相変わらず、山田さんには冷たいんだな。……うん。俺は直接顔を合わせて居ないけれど……。死者はちゃんと送りだしてあげないといけない、と思うんだ」
「ふぅん……。まあ、俺がとやかく言うことでもないか」

「どうじゃファーシー! このつやつやのボディ! 素晴らしいじゃろ。自慢のセルシーちゃんじゃ! 傷一つ無いんじゃぞ!」
「そんなにアピールしなくても……。珍しいな、とは思うけど。ていうか、悪目立ちしそうよね」
 道中、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)に改造小型飛空艇を自慢されたファーシーは、困ったようにそう感想を述べた。元々車に興味がないので、真っ黒だなあ、としか思わないのだ。
「なんじゃと!? ファーシーは分かっとらんな、よし、今度ドライブじゃ!」
「ドライブ? よくわかんないな……」
 ドライブ自体の面白さもよく解らないし、乗せられてもなあ、という感じである。前に乗ったし。普通だったし。まあ、雨降った時に便利かもなあ……。
「アクアさんは、どう思う?」
「特に興味ありませんが……、どうして私に聞くんですか……」
 また、そんな話をする彼女達の後方では、赤羽 美央(あかばね・みお)魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)が会話をしていた。
「……一気にいろいろあって、大変でしたね。一時はどうなることかと思いましたが……。むむ、モフタン中毒が」
「そんな中毒聞いたことありません」
 サイレントスノーは、冷静に突っ込みを入れる。
「それにしても、モフタンはどこへ行ったんでしょう。私達やチェリーさんとライナスさんの研究所に行ったはずなのに、いつのまにかいなくなっていました。モフタンに会いたいです……。でも、ファーシーさん達の近くにいればきっとまた会えますよね」
 そうは言っても、こうして一緒にいるのは彼女なりにファーシーやアクアのことが気になるのだろう。そういった気持ちを自分の言葉ではうまく説明出来ないからモフタンに頼るのだろう、とサイレントスノーは思……
「モフタンって神出鬼没ですよね。気がついたら飛んできてくれるし、晩ご飯になりそうになってたりするし、会うたび会うたびに感動的な出会いをしている気がします」
 思……それは、誤りかもしれない。やっぱりただのモフタン中毒かもしれない。
「この前、アクア様をコワイ、キライと申していた記憶がありますが……」
「……そ、そういえば……」
 美央はがーん、といった顔をしてサイレントスノーを見上げる。そのまま数歩進み、はっと気付いたように表情を戻した。
「そうだ、アクアさんとファーシーさん、うまくいきそうでよかったです」
 ……若干、話題を逸らしたような気がしないでもない。
「機晶石にひびが入ってた時はどうなるかと思いましたが、今みたいになってよかったですね。生きていれば、きっとどんな問題も解決できるはずです。周りに、あんなにたくさんの人がいれば、彼女たちはきっと!」
 前を歩くアクアとファーシー達を見て小さくガッツポーズする。それが、少し勢いを落としてむー、というむずかしそうな顔になる。
「……でも、何かファーシーさんがまた気になることがありそうですよね。さっき、工房で何か考えすぎて倒れたとかなんとか……? むむむ、多分ファーシーさんは私より乙女ですから、私が話を聞いてもわからないんだろうなぁとは思いますが……むむむ、むむ」
 やっぱり、2人のことも気にしてるのだな、とサイレントスノーはふむふむと頷く。だが、そこでまた話題が戻った。
「やっぱり、こういう時はモフタンが必要です。もふもふです。……むむ、でもさすがに今日は出会えないでしょうか……。いえ、奇跡を信じます」
「奇跡ですか……」
 さてどうでしょう、とか思いながら歩いていると、前方に公園が見えてきた。大きなものではなく、近隣住民の憩いの場、という感じがする。
「ふむ……取り敢えず、こういう日は公園でのんびりとするのも悪くないでしょう。ほら、モフタンはいなくてもハトはいるでしょうし。もしかしたら、ハトに混じってモフタンもいるかもしれないから落ち着きなさい」
「公園……、そうですね、むむむ……」
 美央は立ち寄ってみたそうに公園を見つめ、それからファーシー達に声を掛けた。
「ファーシーさん、少し公園に寄ってみませんか? モフ……休憩ということで」
「公園? あ、あそこの……、うーん、そうね。太郎さんの所に行く前に、心を落ち着けるのもいいかもね。ね、アクアさん」
「だから、どうして私に同意を求めるんですか……」

 ということで、皆で公園へ移動する。
「むー……みんな灰色のハトです。白鳩もいません……。もふもふもふたんに会いたいです。飛んできてくれないでしょうか……。願っていれば、何となく伝わるような気がするのですが」
 少し遠くからハトの群れから少し離れ、美央はしゃがんで膝を抱えていた。むー……、と、少しの間ハト達をじぃっと見つめて立ち上がる。
「仕方ありません、ハトで我慢します。ハトももふれば気持ちいいかもしれません」
 そして、美央はハトと追いかけっこを始めた。しかしハトは警戒心が強い。なかなかつかまらない。
 その頃――

 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は、シャルミエラ・ロビンス(しゃるみえら・ろびんす)、ペット達と巨大甲虫のザイフォンに乗って帰途についていた。
「……早く帰るぞ、繭螺が待っている……」
 パラミタ虎のグレッグに乗せて返した繭螺の事が気に掛かる。何事も無ければいいが、何か胸騒ぎのようなものがするのも事実だ。
 山田太郎とチェリーの起こした事件を追う内に知った自分の過去。そして、それに起因する立て続けに起こった事に未だ戸惑いもある。だが、アシャンテはもう迷っていなかった。
 ――自分自身の過去と真実に向き合う。
 向き合って受け入れ、その上で今の自分としてあり続ける決意を固めたのだ。
 気持ちの整理をつけるには、少し時間が掛かったが――
「……ん……」
 今は空京の上空。何気なく街を眺めていたアシャンテは、公園にて何だか大所帯の集団を見付けた。知った顔もあり、彼女は地上に降りてみることにした。ザイフォンに頼んで高度を下げる。ファーシーがそれに気付き、空を見た。
「あ、アシャンテさん!」
「……久しぶりだな……」
 ファーシーと軽く挨拶し、アシャンテはザイフォンから降りてチェリーに向き直った。顔を会わせるのは、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)達と共に事件の夜に空京の住居エリアで対峙して以来だ。
「チェリー……」
 名を呼ばれ、チェリーが身体を硬くするのが分かった。アシャンテに敵対する気はなかったが、あの後クルード達に追われた彼女が警戒するのも無理からぬことだろう。
「……元気そうだな……」
「Yes、良くなったようでなによりです」
 アシャンテに続き、シャルミエラも微笑んで丁寧に挨拶する。その2人に、チェリーは戸惑いの表情を浮かべた。そして、改めて謝罪の言葉を口にする。
「バズーカで、パートナーを撃ってしまって、悪かった……」
「…………。……いいんだ……。……寺院について、今回の事について蒸し返すつもりはない……。むしろ、私の過去を教えてくれて、感謝する……」
「……え……? そんな、私は……」
 少し間を空け、チェリーは言う。
「ただ、知っていることを話しただけだから……」
 本心からのアシャンテの礼に、自然と体から力が抜ける。そう、確かにアシャンテのこの言葉に嘘は無い。チェリーには感謝している。が、それはそれとして――
 事件に巻き込まれた憤りがないわけではない。アシャンテは、関心無さそうに自分達を見ていたラスに目を移した。
「……ちょうどいいところに居合わせたな」
「……は?」
 突然意味の判らない事を言われ、しかし微妙に嫌な予感がしてラスは後ずさる。アシャンテは、ザイフォンの上にいた毒蛇のポリューシュを両手で掴んだ。彼の口元がひきつる。 更に後ずさる。
「ちょ、待てお前、なにやって……!」
「蓮華……」
 蛇の頭の上にいたティーカッ……カンフーパンダの蓮華に声をかけると、蓮華はそれきた! とばかりにジャンプした。そのままアチョーッとドロップキックを仕掛けてくる。蓮華の特技だ。
「!?」
 やっぱり、と思いつつ避けることもかなわず、見事顔面にキックを食らって空を仰ぐハメになった。蓮華はくるくるっと宙を回転し、しゅたっと見事に着地する。おぉ〜、とつい拍手が起こるほどだ。
「拍手をするな拍手を!」
 片手で地面に手をついて片手で顔を抑え、ラスはアシャンテを見上げる。それにしても、ファーシーを鍋にしかけた時とかファーシー復活の時とか校長室に盗みに入った時とかにアシャンテのアニマル達(虎とかこの蛇とかスナジゴクとか)にはいろいろやられたものだが――
「今日に関しては動物仕掛けられる覚えはねーぞ! て、ちょ……」
 アシャンテがポリューシュを近付けてきて慌てる。ポリューシュは、最近肩にいるエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)の毒蛇よりもぶっとい。長い。大きい。エイムの毒蛇がかわいく見えてくるほどだ。いや、決して可愛くはないが。
「……特に理由はないが……言ってみれば、八つ当たりだな」
「なんだそれ、ふざけ……!」
 当然の抗議の途中でポリューシュに乗り移ってこられ、ラスは絶句した。鳥肌全開だ。
「……好きにしていいぞ……締めても這っても、何なら噛んでも……」
「噛んでもって……あ、おいパンダ、人の頭に乗るな。小ヘビも、何ポリューシュに興味持ってんだ! 食われるぞ。毒うつされるぞ」
「…………」
 その光景を、チェリーはお礼を言われた時よりも更に戸惑いながら見つめていた。アシャンテが自分の前で、身構えず襲っても来ず、気を抜いた表情で遊んでいる。それが信じられなくて……、現実を受け入れるのに、少し時間が掛かった。
(でも……)
 八つ当たりと言っていたし、これまでに思うところが無かったわけでもないのだろう。何となく、今の展開は自分に原因があるような気がする。チェリーは蛇にまとわりつかれて冷や汗をかいているラスに近寄った。
「何か……、ごめん」
「……謝らなくていいから、これ何とかしてくれ……」
「……ええと、この蛇すごいうきうきしてるんだけど……、『別に害意はないよ? なんでそんなに嫌がるのかな? この子は平気みたいなのに♪』と……」
「……お前には散々被害受けてきてんだ! 当然だろ!」
「……『ま、飽きたら降りるしー。そんな気にしないでよ』と……」
「誰が通訳しろって言った。どかせって言ってんだ!」
「……勝手にどくならいいんじゃないか? ……なあ、ポリューシュ……」
(What……? 何故でしょう……マスター、どこか楽しそう……)
 シャルミエラもまた、そんな事を言うアシャンテに戸惑っていた。だが、彼女達を見ているうちに、再び喜びの感情がわきあがってくるのが分かる。シャルミエラはその気持ちを抱いたまま、彼等に問いかけた。
「Oh、こんな大人数でどこへ行く所だったんです?」
「太郎さん……、チェリーさんのパートナーさんに会いに行くの。えと、もう亡くなってるんだけど……」
「…………」
 ファーシーの言い方から、アシャンテは弔いに行くのだと察しがついた。黙ったまま考え、ちらりとチェリーを見てから彼女は言った。
「……私も行こう……」
「は!?」
 その台詞に、ラスはものすごくイヤそうな顔をした。