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うそ~

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うそ~

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    ★    ★    ★
 
「酷い目に遭ったわ。いったい、さっきの化け物は何だったのかしら」
 自分の意志に反して巨大虱と戦ってしまったリカイン・フェルマータが、よろよろと世界樹中の通路を進んで行った。未だに、頭の上の鷽には気づいていない。
「それにしても、やっぱり場宿君は見つからないわよねえ」
 周囲をキョロキョロしながら進んで行くと、何やら教室の中をのぞき込んでいるジガン・シールダーズを見つけた。
「中に何かいるのかしら」
 興味を引かれて近づいていく。
 そんなリカイン・フェルマータに逸早く気づいたジガン・シールダーズであったが、しーっと静かにのポーズをとると再び中の様子を面白そうにのぞき込んだ。
「まったく。外はイコンやらで危ないから世界樹にやってきてみれば、面白いことになっているじゃねえか」
 中では、何やら音井 博季(おとい・ひろき)が必死に一人芝居のようなことをしていた。
「リ、リンネさん、愛してます! 僕と結婚してください!! ……うーん、ストレートすぎるかなあ」
 どうやら、鷽騒動のどさくさに紛れて、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)にプロポーズしてしまおうということらしい。もしかしたら、嘘から出た真、瓢箪から駒、棚からぼた餅、猫に小判になるかもしれない。
「その、絶対に幸せにします。してみせます……から」
 凄く真面目な様子に、ジガン・シールダーズが音をたてないように腹をかかえて笑いだした。
 リカイン・フェルマータとしては、純情でかわいいのにと思うのだが。
「いや、もちろん、リンネさんさえOKならで――僕は今すぐにでもOKですけど……。ああ、でもリンネさんの御両親にも御挨拶をしないと……って違う違う!! 予行演習なのに何先走ってる僕!!」
 ポカポカと自分の頭を両手で殴りながら、音井博季が叫んだ。
「とにかく、これで予行演習は完璧だ。後は、鷽を見つけて、リンネ・アシュリングという女の子に僕はプロポーズしてOKをもらったと嘘をつけば……でへでへ……でへへへへへ」
 思わず両頬の筋肉が力を失って、音井博季が幸せそうなでへへ笑いを浮かべた。
「鷽か、その妄想、叶えてやろうじゃないか」
 何か悪いことを思いついたらしく、ジガン・シールダーズがリカイン・フェルマータの頭の上にいた鷽をむんずとつかんだ。
「うぴょ〜」
「痛い、何するのよ!」
 一緒に髪の毛を何本か引き千切られて、リカイン・フェルマータが声を荒げた。
「はっ、だ、誰かいたのかい!?」
 誰もいないと思っていた音井博季があわてる。
「ダーリン、私よー。リンネ・アシュリングよ〜」
 華麗なステップを踏んで、鷽をわしづかみにしたジガン・シールダーズが教室の中へ飛び込んでいった。
「リ、リンネさん。い、いきなり、こ、こんな所へ。あわわわわ」
 狼狽した音井博季が、しどろもどろに言った。どうやら、鷽をつかんでいるジガン・シールダーズが自分はリンネ・アシュリングだと名乗ったので、音井博季の目にはそう映っているらしい。
「うげげげ……」
 軽くスキップをしてうふふと進んで行くジガン・シールダーズの姿に、リカイン・フェルマータがゲロゲロとその場にうずくまった。もの凄く夢見の悪い物を見てしまった気がする。
「リンネさん、ぼ、ぼ、ぼ、僕は……」
「ほほほほ……、私を捕まえてごらんなさーい」
「リンネさん……」
 顔を真っ赤に染めた音井博季が、指先を軽くつまんだ腕を左右に広げてスキップしていくジガン・シールダーズの後を追いかけた。
「あはははははは……」
「うふふふふふふ……」
「うわあああああ……」
 楽しそうに追いかけっこ補する二人を見たリカイン・フェルマータが思いっきりえづく。その身体の上を、何者かが飛び越えていった。
「I am A‐TAMAN!!」
 雄々しいかけ声と共に、パワードヘルムにピッチピッチなメイド服姿の謎のヒーローが、鉄拳でジガン・シールダーズを吹っ飛ばした。
「ああああ、リンネさんが。よくも!!」
「欺されるな。今やこの空間は邪悪に満ちている。私は、A‐TAMAN。君の目を覚まさせに来たのだ」
「えっ?」
 A‐TAMANに言われて、音井博季があらためて吹っ飛ばされたはずのリンネ・アシュリングを見た。壁にめり込んでいたのは、ジガン・シールダーズの姿だ。その手から、鷽が逃げだす。
「待て、逃がさん!」
 唖然とする音井博季をその場に残したまま、A‐TAMANがミニスカートを翻して鷽を追いかけていった。この場合、絶対領域はすでに狂気であって凶器である。
 通路を逃げる鷽は、正面から歩いてきた燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)を見つけると、素早くその背中に隠れた。
「永太? 何をやっているのですか?」
 A‐TAMANを見た燦式鎮護機ザイエンデがつぶやくように言った。そう、A‐TAMANの正体は神野 永太(じんの・えいた)であったのだ。
「いい所へ、動くなよザイン。今、その背中の鷽をやっつけてやるからな」
 A‐TAMANが、ビシッと燦式鎮護機ザイエンデ越しに鷽を指さして言った。
「鷽? じゃあ、さっきのがあの鷽なんですね」
 ちょっと感慨深げに、燦式鎮護機ザイエンデが言った。
「でも、何も殺してしまうことは……」
 死をそんなに軽く考えないでほしいと、燦式鎮護機ザイエンデは心の中で思った。
 最近考えるのは、人ではない自分の長い生と、人である神野永太の短い生の違いだ。このまま何ごともなければ、機晶姫である燦式鎮護機ザイエンデよりも先に、神野永太が寿命で死んでしまうだろう。そうしたら、その後をどうやって生きていけばいいのだろうか。
「私が人間だったら、永太と一緒に……。そうだ、鷽がいるなら……。私は人間です。だから……一緒に死んで、永太!」
「ちょっと待て、今、論理が突然飛んだ気がするぞ!」
 突っ込んでくる燦式鎮護機ザイエンデにむかって、神野永太が叫んだ。
「そんなことはありません。私は今人間になったはずですから、一緒に死ねます!」
 なんだか無理心中のオーラを全身から噴き出しながら燦式鎮護機ザイエンデが叫んだ。
「人間になったからって……。ザインは、最初から人間じゃないか。髪の毛一本も、さっきと変わっちゃいないぞ」
 ちょっとあっけにとられながら、神野永太が燦式鎮護機ザイエンデの攻撃を避けた。
「いいかげんにしないか、さもないと……」
 素早く燦式鎮護機ザイエンデの背後に回ったA‐TAMANが、取り出したメジャーを彼女の胸に叩きつけるようにして巻きつけた。
「おとなしくしないと、今測ったサイズを叫ぶ!」
「えっ?」
 ちょっと驚いた燦式鎮護機ザイエンデの動きが止まる。別に、神野永太に胸囲を測られたからではない。
 燦式鎮護機ザイエンデがあわてて身体を確かめてみると、確かにそれは機晶姫のままだった。
「うちょ〜」
 燦式鎮護機ザイエンデの背中から頭の上によじ登ってきた鷽が、ひときわ甲高く鳴いた。
「今だ!」
 A‐TAMANが、必殺の拳を鷽に見舞う。
 間一髪で鷽がそれを避けた。あわてて燦式鎮護機ザイエンデの上から逃げだしていく。
「わたし、今嘘をついたんじゃ……」
「そりゃ、心中しようなんて嘘っぱちだろうからなあ。行くぞ、ザイン。鷽を逃がすな。来い白馬よ!」
 A‐TAMANが呼ぶと、愛馬が通路を走ってきた。
 ひらりと飛び乗ろうとしたとき、ふっとかき消すように白馬の姿が消えた。ぴたんと、A‐TAMANが床に全身を打ちつけてひくひくと引きつる。鷽空間から外れたのだ。
「きゃあ、永太、死んじゃダメー!」