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うそ~

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うそ~

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    ★    ★    ★
 
「うおっ、突然イコンが吹っ飛んできましたよ。どうやら、鷽にやられたようですね。しょせん、聖像とはいえ、代理は代理。いいでしょう、ここらへんで真打ちの登場といきましょう!」
 イルミンスールの森にある樹のてっぺんに立ったクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、すぐ横を遙か彼方へとすっ飛んでいったイコンを見送って言った。
 前方を見据えると、金色に輝く巨大な鷽がのっしのっしと近づいてくる。
「これは大きい。いいでしょう、相手にとって不足なしです。何を隠そう、私こそはまるで天使のような人だといつも言われる、ぺぺぺぺぺ天使、クロセル・ラインツァートなのです。さあ、来なさい三つの僕(しもべ)よ!」
 ひょいと、クロセル・ラインツァートが空に飛びあがった。頭上に黒く光る輪が現れ、背中には黒い翼が羽ばたいている。
「来なさい、怪鳥巨大マナ様!」
 クロセル・ラインツァートの言葉と共に、森の木立が激しくゆれて巨大なドラゴンが木の葉を巻きあげて浮上してきた。
 いや、訂正する。巨大なマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)だ。ちんまりずんぐりした体形は元のままである。
「しゅわっちなのだ」
 クロセル・ラインツァートに作ってもらった銀色の巨人のパジャマを着たままポーズをつける。
「きゃー、マナさまー、ステキでーす! かわいさ13倍増しです。体積的には2197倍でお腹いっぱいです!!」
 地上で待機していたシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が、携帯で写真を撮りまくりながら叫んだ。
「こら、そこの僕、早くもう一人と一緒に攻撃を……」
 巨大マナ様の頭の上に立ったクロセル・ラインツァートが、シャーミアン・ロウにむかって叫んだ。
「あれは留守番。そんなことも分からないとは、とんだゴミですね」
 マナ様の上から降りろ下郎と、シャーミアン・ロウが腕を突きあげて叫ぶ。本当なら攻撃したいところなのだが、マナ様にあたってしまうので手出しができないでいる。
「仕方ありませんね。私たちだけで、鷽と戦うとしましょう。行きますよ、マナさん」
「じょわぁなのだあ」
 クロセル・ラインツァートにうながされて、ちっちゃな翼をパタパタさせて、巨大マナ様がゆっくりと巨大鷽に近づいていく。
「わーい、スペクタクルだよ。よおし、スケッチするよー」
 怪獣大決戦の光景をまのあたりにして、ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が目を輝かせた。
「ふーん、適当にやってればあ」
 寝転んだ立川 るる(たちかわ・るる)が、地面の上をゴロゴロと転がりながら返事をした。
「るるったら、どうしたんだもん」
 戸惑うように、ラピス・ラズリが訊ねた。
「だってえ、デコトラの納車まだなんだもーん。それまでは、馬鹿らしくって、やる気なんか出ないもんねー」
 プチッと引き千切った草を口に銜えてぷらぷらさせながら、立川るるがお行儀悪く答えた。
「おらおらおら、邪魔だー、どきやがれー!」
 そこへ、なぜか乗っていた小型飛空艇が突然デコトラに変わってしまったジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)が、運転席の屋根の上に立って暴走しながらやってきた。
「トラック、キタ―!!」
 がばっと、立川るるが勢いよく立ちあがった。突然やる気が出たらしい。
「止まれー!」
 いきなり巨大エコバッグ型光条兵器をデコトラの前に広げて叫ぶ。
「ちょ、やめろ、馬鹿野郎!」
 デコトラが急停止して、ジガン・シールダーズがポーンと空に投げ出された。
 ペチッ。
「いやーん」
「おや、尻尾に何かあたりましたか? 大丈夫ですよ、マナさん。今は鷽に集中してください」
 クロセル・ラインツァートに言われて、巨大マナ様が大きく口を開いた。本当は腕を十字に組みたかったのだが、いかんせん両手が届かない。
 口から迸った光線が、巨大鷽にあたって敵がよろめいた。
「いてててて。酷いことしやがる」
「きゅう……」
 いきなり降ってきたジガン・シールダーズの下では、シャーミアン・ロウが気絶していた。
「人をピンポン球みたいに扱いやがって。なんてイコンだ。イコンならイコンらしく、もっと攻撃的な姿をしろってんだ。頭には角、翼にはトゲ、足には蹴爪、目は三つ、両手はハサミ、お腹が赤く輝いて、触手のような舌がでろんと……」
 打ち身をさすりながら、ジガン・シールダーズが悪態をついた。
「ううーん……。いきなり、何が降ってきて……。きゃあ、それがしのマナ様があぁぁぁ……ぶくぶくぶく」
 意識を取り戻したシャーミアン・ロウであったが、ジガン・シールダーズが叫ぶままに恐ろしい姿に変身したマナ・ウィンスレットを見て、ぶくぶくと泡を吹いてひっくり返ってしまった。
「うしょお〜」
 唖然として震えあがった鷽の上に、巨大マナ様が墜落してきた。巨体に押し潰されて、鷽がボンと煙をあげて消滅する。
「むぎゅう」
 投げ出されたクロセル・ラインツァートと小さくなったマナ・ウィンスレットが団子になって地面に頭を突っ込んで気絶する。
 ぽん!
「あああ、るるのトラックがあぁぁぁ!」
 デコトラの車体に頬をスリスリして恍惚としていた立川るるが、突然デコトラが小型飛空艇に変わってしまって、つんのめるようにして地面に転んだ。
「大丈夫? ねえ、見てみて、ちゃんと描けたんだよ」
 そう言うと、ラピス・ラズリが、自分がスケッチした巨大マナ様のとても恐ろしくて描写ができない絵を立川るるに見せた。
「うきゃあー!」
 一目見て、立川るるがひっくり返る。
 おぞましく変身した巨大マナ様に、さらにラピス・ラズリ画伯の絵のセンスが加わったその物体は、はっきり言ってすでに絵ではなく、兵器であった。
「なんだか分かんねえが、やばそうだな。とんずらするぜ」
 やっと元に戻った小型飛空艇に飛び乗ると、ジガン・シールダーズは、一人きょとんとするラピス・ラズリを残して、その場から逃げだしていった。