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リアクション
☆
相田 なぶらは力を手に入れた。
防戦一方でチャンスを狙っていたなぶら、これを機に攻勢に出る。
「人間に死を、死を、死を――!!!」
その叫びを跳ね返すようにシュトラールを跳ね上げ、官女の攻撃を大きく弾いた。
「外したらかなりヤバいが――やるしかない!!」
かねてから自らの攻撃の要、剣術と光術の組み合わせで特殊な攻撃ができないかと考えていたなぶら、修行の成果を試すにはいい機会であった。
外す気はしない――そう感じた。
「――ふぅ……――」
なぶらの体を取り囲むように次々と光の弾が浮き出てくる。光術を連続して召喚することで、自らの周囲に光弾を待機させているのだ。シュトラールとオーダーローブの効果で精神力の補助も充分にできている。
いつしか無数の光弾は輝きを増し、光の渦となってなぶらを囲んだ。
「――いくぞ!!」
光輝の渦におびえるようにひるむ官女に向かって、なぶらはライトブリンガーに乗せた勇敢なる力――イヌの力による強力な漸激を放つ!!
「シャイニング・ストーム・ブリンガー!!!」
叫びと共に放たれた一刀は、敵の体を切り裂き、光の渦が光術の奔流となって敵を襲う必殺の一撃となった。
「ギャアアアァァァッ!!」
元々光輝の攻撃には弱い刹苦人形、これほどの光の攻撃に襲われてはひとたまりもない。
完全に戦力を喪失した官女人形は、その場に崩れ落ちた。
「……はぁ……はぁっ……」
官女人形を倒したなぶらは、自身も肩で息をした。とりあえず上手くはいったものの、仕丁人形の力を借りたうえでも膨大な術のために精神力を使い果たしてしまったのだ。
オリジナルの必殺技とするには、まだまだ修行が必要に思えた。
「とりあえず……今度じっくり名前も考え直してみようか……」
剣を鞘に収め、そう呟くなぶらだった。
☆
ウルフィオナは授けられた力により更にスピードがアップし、しかも宙を飛べるようになっていた。
「うっひょー! こりゃあスゲぇ!」
双剣と蹴りによる得意のスタイルをさらにパワーアップさせたウルフィオナは、官女人形1体を激しい動きで翻弄していく。
「ギャあーッ!!!」
官女人形も必死に爪を振り回して応戦するが、まるでスピードにいていけていない。こうなるともはや攻撃の瞬間を狙うこともできない。
「行くぜ、全力全開!! フルスロットルだぁ!!!」
俊敏なる翼――キジの力を全開にしたウルフィオナの速さはもう目で追えるレベルではなかった。一陣の風となった彼女はもう誰にも止められない。
まるで一陣の嵐のように、官女人形を包みこんでいく。
「……ガ……ギィ……」
嵐が終わった時、そこには官女人形の残骸があった。全身を刃で刻まれ、武器である爪も失われている。
そのまま、音もなく崩れ落ちた。
「……あたしができるのは、ここまでだ……あとは、レイナに任せるさ」
ウルフィオナの呟きが、風に乗って、消えた。
☆
鳳明は、仕丁の力をその身に宿しながらも、官女人形相手に苦戦を強いられていた。
防戦一方になりながら、辛うじて官女の爪を避けている。
パートナーである天樹にはその理由が分かっていた。鳳明の実力が足りないのではない。
彼女には、官女を攻撃する意思がないのだ。
官女の爪をギリギリで避け、攻撃のチャンスを掴みながらも後の先、神速で相手のバランスを崩し、距離を取る。
「――フゥっ!!」
そこに天樹が流星錘を官女に絡みつかせようとするが、敵もふわふわと動き回りなかなかチャンスをつかめない。
『……娘、なぜ攻撃せぬ』
鳳明の中で、仕丁人形の声がした。
「だって……」
言いよどむ鳳明。そこに官女人形が鋭い攻撃を加え、鳳明の肩を切り裂いた。
「――ッ!!!」
鳳明の顔が苦痛に歪む。天樹は鳳明を援護しようとするが、官女の動きが止まっていることに気付く。
「……思い出して……」
鳳明の口から、絞り出すような言葉が漏れた。
「思い出して欲しいんだ、貴女たちを作ってくれた人々の想いを。美しい人形を愛でてくれた人々の想いを。そして、雛祭りを迎えた時の貴女たちの想いを――!」
鳳明は官女の攻撃を受けながらも官女の腕を掴み、その動きを封じた。鋭い爪が食い込んだ肩から、血がにじむ。
「私では分不相応なことは分かっている。私の言葉なんて届かないだろうってことも……それでも、それでも私は貴女の前に立ちはだかるんだ!!」
鳳明の心で、仕丁の声が響いた。
『――娘よ、お主の意思は理解した。我々のような人形のことを想ってくれて感謝しよう……だが、いや、だからこそ頼む。あの官女人形を倒してやってはくれぬか』
「でも……」
『我々はただの人形ではない、それぞれに使命を持っておる。だが、彼女らは降り積もった災厄のせいで正常に働くことができぬ。一度あの仮の体を壊してやる必要があるのじゃ』
「……」
『頼む……彼女らとて、自らの意思に反して人間を襲わねばならぬこと、決して望んではおらぬのだ』
一瞬、鳳官女人形を抑えていた鳳明の手が緩んだ。
「――ッ、ギギァアァァァッ!!!」
チャンスとばかりに、壊れたスピーカーのようなヒビ割れた声を上げて、官女は鳳明に全力の突きを放った!!
「――ごめん」
だが、その爪は鳳明の頬をかすめるにとどまった。
巧妙なる技――サルの力で得られた奇跡的なタイミングのカウンター。
鳳明が官女の動きに合わせて一歩前に出て、踏み込んだつま先を内側に捻る。それにより生まれた前進の螺旋の動きを伝えた肘打ちが、官女の胸元に極まっていた。
「――」
断末魔の叫びを上げることもなく、官女人形は倒れた。
鳳明は倒れた官女人形を見て、涙を流す。
天樹は、小さく震えるその肩をぽんと叩いた。
「……天樹……」
天樹が指差した官女人形の顔は、少しだけ、微笑んでいるように見えた。
☆
「さぁさぁ泰輔、そろそろこの舞台も幕のようだよ――パパゲーノには花嫁がつきもの――残念ながら、僕の花嫁ではないけどね」
フランツのおどけた調子に合わせることもせずに、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は前に出た。
それぞれの戦いで倒された官女人形たち――その前に立って、胸元に持った『破邪の花びら』をかざす。
「あなたたちは、誰かの苦しみを代わりに背負って、それを少しでも軽くするために作られたもの――」
レイチェルは剣の花嫁。確かに、光条兵器を守護するために存在する彼女たちは、事情は違えどその役割は誰かに与えられたものであることも多いだろう。
「私もそう。私は戦うために作られたモノ。だから、そのことに誇りを持っています」
「……レイチェル……」
泰輔は、そんなレイチェルの横顔を見つめた。
官女人形を哀れむでもない、蔑むでもない凛とした表情。
そんな場合ではないと、分かってはいるのだけれど。
その横顔を、美しいと思った。
「どうか、本来の務めを思い出して下さい。あなたたちに課せられた、本当の役割。それを果たすことはきっと――さいわいに違いないのです」
そんなレイチェルの側に、レイナが歩いてきた。
「その花びらを使いましょう。私達の力を合わせれば、きっと浄化できるはずです……」
その言葉に、レイチェルは大きく頷いた。
『破邪の花びら』を大きくかざしたレイチェルは、レイナとタイミングを合わせて、二人でバニッシュを放った。
すると天空から神聖な光が降り注ぎ、『破邪の花びら』を包んだ。
「そう、私が壊れるその時には――私もその務めを果たしたことが大きな誇りになるはずです。あなたたちも、どうか――」
レイチェルの小さなささやきは、誰にも聞こえることはなかったけれど。
光に包まれた官女人形たちの体はやがて小さな光の塊となって、ゆっくりと天に登っていった。
ひらひらと、手を振るように。
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