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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

リアクション

「はっはっは、ホント面白いこと考えるなぁ。ボクも一口乗せてもらうよ。強く、華麗に、美しく☆ ボクの武闘を魅せてあげる♪」
 乱闘が始まるこの時、鳴神 裁(なるかみ・さい)は要と合流しそのまま殴り合いに参加する。天御柱学院に所属する彼女が、どうしてこのくだらない乱闘に参加することを決めたのだろうか。
 それは、硬派な不良とのケンカにおける「あるシチュエーション」を体験したいからだった。
「硬派番長ってくらいだから、きっと拳で語り合えば友情が芽生えるはずだよね」
「あ、それって『なかなかやるな』『お前もな』っていうあれのこと?」
「そうそう! だって硬派な不良ってケンカの後に互いの実力を認め合って、友情を育むのが普通だよね」
「だよね! 全力で殴り合って、お互いボロボロなのに、それでも顔は笑ってるんだよね!」
「うんうん、ホント伝統芸だよね〜!」
 裁と要はやって来る不良を殴り倒しながらそのような暢気な会話を繰り広げていた。ただ適当に力任せに拳を振るう要と、新体操の動きを取り入れた独特の格闘技「新体操格闘」のトリッキーな立ち回りによって相手を翻弄しながら、格闘用の新体操リボンを振り回す裁。この両者に近づいた不良は、次の瞬間には倒されていた。
「いや、それ普通ではありませんからね〜? 伝統芸って、それ違いますからね〜?」
 裁の体の辺りから別の人間の声が聞こえてくる。声の主は、裁の身を包んでいる白地に蒼のラインの変身ヒロイン風の服――魔鎧のドール・ゴールド(どーる・ごーるど)だった。
「というか裁さん? 硬派番長狙うとか言っておいて、どうしてここにいるんですか〜? タイマン張るんじゃなかったんですか〜?」
 常に疑問系の間延びしたドールの声に、裁は苦笑する。
「いやぁ、そのつもりだったんだけど、こうも敵が多いとねぇ?」
 最初はげんだを探し出して1対1の勝負に持ち込む予定だったのだが、状況がそれを許さなかった。げんだの前には250人もの不良が集まっており、これらをある程度片付けない限りげんだに近寄るのは不可能だったのである。
 250人という数自体は脅威だが、その数を減らすことに関しては不安は無い。連れてきたパートナーの1人であるアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が、雑魚散らしと言わんばかりに大暴れしていたのである。
「ふふ、新しいおもちゃを試すちゃーんす♪ アリスと遊びましょ♪」
 新しいおもちゃこと霧隠れの衣――吸血鬼だけが扱える、自身とその身につけた物を霧に変える魔法の衣によって、アリスの姿は霧になる。
「おお、ほんとに霧になれた、すごいすごーい♪ よーし、裁ねぇさんの邪魔になりそうな取り巻きを張り切って倒しちゃうぞ♪」
 霧になった状態でアリスは不良の集団に向かって雷を落とした。
「サンダーブラストーびりびり〜♪」
「み、見えないところから雷ぃ!?」
「ま、魔法は、やめろおおおぉぉぉ!」
 ただでさえ接近戦しかしない学ランたちは、アリスのサンダーブラストでいとも簡単に倒されていく。そんな彼らに対し、アリスは容赦なく「吸精幻夜」を行う。
「運動したらおなかすいたわ。だから、あなたの血ちょーだい♪ ついでに魂まで吸い尽くしてあ・げ・る♪」
 このようにしてやりたい放題のアリスがいるため、裁はこの状況について大して心配せずに済むのだ。
 しかも、もう1ついい話があった。敵側のある人物がこちらに向かって突進してきているのである。
「どけどけー! 俺たちの縄張りを荒らそうとする者に天誅を加えてやるわー!」
 それはE級四天王のおおやまだった。
「ん? 硬派番長じゃないけどそれっぽい人が……。あの人でもいいかな……?」
 裁は別に四天王の座を狙っているというわけではない。「拳の会話で友情が芽生える」というのを体験したいだけであり、それを行うのにちょうどいい相手がげんだであると考えているだけである。もしそれが体験できるのであれば、別にげんだにこだわる必要は無い。それこそ雑魚の不良でも、E級の誰かでもいいのだ。
 そして都合よくE級のおおやまがやって来る。裁がこれを見逃す手は無かったが、おおやまがターゲットにしたのは要だった。
 叫びながらおおやまは真っ直ぐ要の方に向かってきて、何も持たぬ手で彼女を殴りつける。もちろん要の方もただで殴られるような真似はせず、両腕を交差させて攻撃を受け止める。
「あれ〜? 硬派な不良さんは女子供には手を出さないのが普通じゃないの?」
「確かに普通だが、向かってくるのならばたとえ女子供でも全力を尽くすのが俺だ」
 止められた拳を引き戻そうとせず、おおやまは不適に笑う。
「おいおい、何をそんなにてこずってやがる。俺はそんな弱い奴に負けた覚えは無いぜ?」
 突然横合いからまた別の人物の声と戦闘用イコプラが割り込み、腕を引いたおおやまと要の間に電撃が走った。
「はっはっは、おもしれーことやってんじゃねーか。俺も混ぜろや」
 イコプラの持ち主は後藤 山田(ごとう・さんだ)。裁のパートナーの1人である。
「よう要、ずいぶんと手間取ってるみたいじゃねえか」
「…………」
「いいか忘れるなよ。てめえを倒すのは俺の役目なんだ。こんなところでE級ごときにやられんなよ」
「…………」
 山田が要とおおやまの間に割り込み、そのままおおやまと対峙する。その姿はまるで遅れてやってきたライバルキャラといったところだが、肝心の要はしきりに首をかしげていた。
「要?」
 反応が鈍い要に山田は不安になる。まさか、何かしら怒らせるようなことでもしたのだろうか。
 だが要の口から出てきたのは、意外な言葉だった。
「……えっと、どちらさま?」
「え?」
 要が首をかしげていたのは、目の前の人間が何者だったかを思い出すためだった。
「え、誰って、後藤山田だよ。覚えてないのか?」
「全然」
「てめえ、俺とケンカして勝ったじゃねえか?」
「っていうか、初対面じゃないの?」

 唐突だが、ここでシナリオガイドを思い出していただきたい。果たして高島要は「いつ」契約者になった、とあるだろうか。
 そう、「最近」である。
 要は最近になってアレックスとパートナー契約を交わし、契約者となったわけだが、それ以前は単なるいち地球人だったということであり、契約者であることが求められるシャンバラの学校には通っていないということである。
 つまり、シャンバラの契約者と会話するのはこの事件こそが最初といっても過言ではないのだ。だからこそ英霊の山田と要は「会った事があるはずが無い」というわけである。
 まして要には「ケンカに明け暮れていた」という経歴は無い。今回はたまたまやりたいことがケンカだったというだけで、普段から不良を演じているわけではないのだ。そんな要に向かって「そんな奴に負けた覚えは無い」と言うのは、そもそも成り立たない。初対面なのだから。

「あ〜っと……、勘違い、だったかな……?」
 最近は「やられ役」ばかりを演じており不遇な扱いを受けているという山田は、今回こそ汚名返上と言わんばかりにカッコよく登場してみたのだが、どうやら少々勘違いが過ぎたらしい。
「……まあ、それならそれでもいい。これから知り合いになればいいんだからな」
「まあそれはそうだね。というわけで今後ともよろしく」
「ああ、よろしく」
 気を取り直して山田はイコプラを構え直した。
「まあそんなわけだから、ここは俺に任せておけ。てめえにゃやることがあるんだろ?」
「あ、そうだ! あの番長さんとケンカしに行かないと!」
 ようやく自分の目的を思い出したのか、要はアレックスと共にその場を後にする。
「じゃ〜ね〜、山田(やまだ)さん!」
「山田(やまだ)じゃねぇ、俺の名はサンダーだぁぁ!」
 お約束とばかりに名前の読みを間違われ、山田は憤慨せざるを得なかった。
「いやいやちょっと待ってよ山田。せっかくいい相手がやってきたのにそれを邪魔するの?」
 山田の動きに異議を唱えたのは裁だった。もちろんおおやまにもこだわる必要は無かったのだが、これを見逃したら次は誰を相手にすればいいのか。
「……別にいいだろうが。最近はやられフラグばっかりだったんだからよ……」
 今回こそ汚名返上のチャンスだというのに、裁に邪魔されたらまたフラグが立ってしまう。山田としてもここは譲れない一線だった。
 だがそんな2人を邪魔するかのように別の乱入者が押し寄せてきた。
「ぎょわあああああ!?」
「な、なんでこんな所に動物があああ!?」
 乱闘現場の一画で不良たちの悲鳴があがる。おおやまや裁たちが何事かとそちらを見ると、1人の女性がヒポグリフを乗り回して大暴れする姿があった。
 女性の名は伏見 明子(ふしみ・めいこ)。かつて百合園生だったが、とある事情により自主的にパラ実生になった者である。
「わははははーっ! 遠からんものは耳に聞けーい! 近からんものは目にもみよーっ!」
 両手に構えた怯懦のカーマインを撃ちまくり、近くにいる学ランは蹴り飛ばし、ついでに乗っているヒポグリフで引き倒したりともうやりたい放題である。
 そんなヒポグリフの動きが目に入ったのか、ドールが素っ頓狂な声をあげた。
「むむ、アレは伝説の『あにまるすぺしゃる』〜!?」
「知っているのかドール!」
 ドールの話しぶりに乗って、裁が自身の胸元――ドールは魔鎧状態なので、裁の視線は自然と自分を向くことになるのだ――に目をやる。
「ええ、昔聞いたことがあるのですよ〜? 背中に乗れるような動物であれば何でも乗ることができ、そしてそれと共に敵の只中に飛び込んで大暴れ、ある時は1発、またある時は10発くらいのコンボを叩き込む大技ですよ〜? まさかこの目で拝める日がこようとは〜?」
 ドールの解説は少々「でっち上げ」が含まれていたが、状況の説明は非常に正しかった。明子の乗り回すヒポグリフの体当たりに巻き込まれた不良は、大抵が1度で吹き飛ばされるが、当たった場所が悪ければ、弾き飛ばされ空中に投げ出されている最中に次の攻撃が命中する、という最悪のコンボを食らう破目になるのだ。
「おらおらー! まだまだこんなもんじゃないわよー!」
 明子は最初からこの乱闘に加わるつもりではなかった。大きな騒ぎになって意はいるが、別に街中で暴れているわけではなく、無関係の人間を巻き込んでいるわけではない。巻き込まれた者がいるとすれば同じパラ実生か、あるいは一般人とは程遠い契約者であるが、それを抜きにすれば誰かに迷惑をかけているとは言い難かった。
 だが目の前で展開される乱闘の光景を見続けていると、お嬢様の皮を何枚もかぶったガキ大将同然の明子としては、ついつい血が騒いでしまう。
(ち、ちょっとくらい、混ざっても……、いいわよね?)
 そしてこの結果である。これはもはや「ちょっとくらい」で済むようなレベルではなかった。
 そもそも乱入して暴れるのが目的だったため、敵と味方の区別などしていない。その結果、彼女とヒポグリフはいつの間にかおおやまや裁のいる地点にまでたどりついてしまった。
「ち、ちょっと待て! 乗り物での無双はさすがに反則だぞ!?」
「結局暴れてるんだから皆同じ穴の狢よーっ!」
「わけがわからないよ!」
 おおやまと裁の文句など意に介せず、明子はその場でさらに暴れた。
 その結果、巻き込まれた形のおおやまはヒポグリフの一撃を受け、空高く飛ばされる。
「ぐほっ!? ……だが、何のこれしき!」
 飛ばされはしたが、おおやまは何とか空中で体勢を立て直す。着地するには少々高すぎる気がするが、それさえ我慢すれば後はあのヒポグリフ女がどこかに行くまでやり過ごせばいい。
 だがおおやまが明子をやり過ごすことは無かった。おおやま1人だけが乱闘の場から離れたのを知った裁が、大山に追いつく形で飛び上がってきたのである。
「ん!?」
「ボクは風。キミに風を捉えることができる?」
 ヒポグリフや、それに弾き飛ばされた不良を踏み台にしてやってきた裁は新体操のリボンを振り回しておおやまに間合いを誤認させ、そのついでに視界を塞ぎ、その状態からブラインドナイブスの動きを応用した蹴りを叩き込んだ。
 その姿はまるで、荒れ狂う嵐のようだった。
「おぐふうっ!?」
 腹に叩き込まれた蹴りにより、おおやまは空中で失神した。そのため、裁が望んだ「殴り合いの後の友情シーン」を達成させることはできなかった。
 その上、山田は汚名を重ねることは無かったものの、汚名をすすぐ機会には恵まれなかった。
「というか俺、イコプラで放電実験1発やっただけじゃねえか……」