リアクション
● 白い髪だった。まるで雪のように美しく、それすらも透き通って透明に澄み切ってしまうかのような色――そんな白い髪を靡かせた少女を見やりながら、琳 鳳明(りん・ほうめい)は大地から生えたような岩に腰を降ろしていた。 少女はいま、薪を組んでいた。コビアたちが帰ってくるのを待ちながら、懸命に自分の役目というものをこなしているのである。そんな彼女の護衛も兼ねて、鳳明、そしてパートナーである南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)は、彼女とともに仲間たちの帰りを待って待機しているのだった。 とはいうものの――護衛と言ってもこの近辺は獣などそうそう出るところではない。ほとんどやることはない、というのが現状だった。 「ねえねえ、シアルさん」 「はい?」 岩から腰をあげた鳳明は、シアルのもとまで近寄って一緒に薪を組み始める。ついでに、興味深げに彼女は聞いた。 「シアルさんは……何でコビアくんの旅について行こうと思ったの?」 そもそも……シアルはシャンバラ大荒野に隠されていた遺跡に残されていた、制御用の機晶姫だ。ジンブラ団に保護される結果にはなったものの、彼女がそれからどうしてジンブラ団を離れたのか――コビアとともに遺跡の試練を戦いぬいた鳳明には、気にかかるところだった。 半ば顔を伏せるようにして黙っていたシアルに、鳳明は続けて言った。 「あ……もしかしてコビアくんの事が好きとかっ?」 「ううん……そんなことじゃないわ」 質問に、まったく動じることなく冷静な否定を返すシアル。 女の性分か。興味津々だった鳳明はいかにも残念そうに、なーんだぁ……と声をこぼした。なにが残念なのか、シアルは不思議そうに小首をかしげていたが、やがて彼女は答えを返した。 「私は……私が誰なのかを、知りたいだけなの」 「私が……誰なのか?」 「そう。それを知るために、彼と一緒に行こうと思ったの」 彼女は旅についていくことを決めたとき、何を思って、何を見ていたのだろうか。いつの間にか薪を手にすることも忘れて、鳳明は遠くどこかを見ているシアルを見つめていた。 と――そのとき、ヒラニィが突然わめき始めた。 「………っだー、暇だー! わしはアウトドア系なんだ! こんな所でただ待つとか耐えられんっ。ってか、麻羅は緋雨についてってコビアんとこ行っておるんだろ? ぬぅ、あやつだけに手柄を立てられるのだけは我慢できん! …………いや、暇が耐えられない以上に、だからな? ……本当だぞ?」 誰も聞いていないことを一人で弁解するヒラニィ。どうやら暇すぎて耐え切れなかったらしい。土地の精霊たる地祇が『暇なんて耐えられません』と言っていいのかどうかは疑問だが、彼女にその枠は当てはまらないようだ。 「よし、おぬしらが行かんのならわしだけで行ってやるわいっ。なーに、飛空挺でひとっ飛び…………」 呆然とする鳳明たちを置いて、小型飛空艇へと向かったヒラニィ。 が――動力の鍵を回そうとしてピタ……っと立ち止まった。というか、立ち尽くした。 「鳳明め! 飛空挺の鍵を抜いたな!?」 あ……と声を漏らして、鳳明はポケットの中に鍵が入っていることを思い出した。どうやら、目の前で喚きたてる地祇の信用は底辺にあるらしい。 ヒラニィは地団駄を踏んで、自暴自棄になったように言い放った。 「もういい! 鳳明も……そしてついでにシアルも来い! どうせシアルもコビアに会いたいのだろう? わしが連れてってやる! 任せろ、無事コビアの元まで送ってやるわい!」 ぽかん……として立ち尽くすシアルと鳳明。 だが――しばらくして思考を取り戻した鳳明は、うん、と頷いた。 「お仕事を終えた男の子を迎えに行くのはヒロインの特権だよね。よしシアルさん、一緒にコビアくんを迎えに行こう!」 「で、でも……」 「大丈夫、コビアくんはシアルさんの事を邪魔だなんて思ってないよ、絶対。それにね、コビアくんきっと喜ぶよ?」 喜ぶ――そう聞いたとき、なぜかシアルは少しだけ心が高揚する何かを感じた。理解できない何か。それを見透かしているかのように、鳳明は笑った。彼女の手を引っ張って、半ば強制的に飛空艇へと連れ込む鳳明とヒラニィ。 「え、そ、その……!?」 「よし、行くぞ!」 戸惑ったシアルの声を待たずして、ヒラニィの掛け声とともに、三人が乗り込んだ小型飛空艇は大地を発った。 |
||