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彼氏彼女の作り方 最終日

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彼氏彼女の作り方 最終日

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手を繋いで笑おう

 ――この店は、もしかしたら校長の趣味なのだろうか?
 そんな疑問を抱きつつ、柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は面白い催しだとパートナーたちと足を運ぶ。先日のお祭りで柚木 郁(ゆのき・いく)がお世話になったが接客してくれると聞き、さらにはお菓子も手作りで頑張っていると聞けば興味を持たない方がおかしい。
「あの、それじゃあテーブルに乗るだけ一通り全部下さい」
 にこにこと微笑む貴瀬を見て顔を曇らせる柚木 瀬伊(ゆのき・せい)とは違い、店員は「またか……」という顔をする。他にもそんな猛者がいたのかと思うと、その後は食べ過ぎで苦しんでないかと気になるが、まずはキョロキョロと落ち尽きない郁を大人しくさせるのが先決だ。
「ウサギのおにいさん、まだかなぁ?」
「良い子のところにしか来ないのかもしれないな。今の郁は行儀の良い子か?」
 瀬伊に言われてぷらぷらと揺らしていた足を止め、テーブルについていた腕もおろして真っ直ぐに椅子に座る。これで良いのか確認したくとも、煩くしていれば来てくれないのだろうかと不安げに見つめる郁の頭を撫でながら、瀬伊はそのまま待っているように告げる。
 そんな和やかな場面に、あの男変熊が飛び込んで来た。指名してもいない赤い羽根マスクをつけたミニスカメイドが現れて、貴瀬もポカンとしてしまう。
「えっと……? 真城さんが来るまでの間、お世話してくれる人……なのかな」
「はっはっは! 客を選り好みしていたら、危うく出番が無くなるところだった……ときに、この中にテクノクラートはいるか?」
 選り好みしていたことを反省しているのか、いないのか。職務質問からはいるメイドに呆気に取られながら、つい郁が無邪気に答えてしまう。
「えっとね、瀬伊おにいちゃんがそうだよ。貴瀬おにいちゃんはね、アドベンチャラーなんだよっ」
「うむっ、素直な良い子だ。ではサービスだ!」
 くるんっと1回転をしてミニパフェを差し出すと得意げに、そしてどこか恥ずかしげに微笑んで見せる。パフェ自体は星形に切られたカステラやアザランなどで可愛らしく盛りつけてあるのに、食欲を減退するサービス。男がミニスカートを履いており、それがこともあろうに変熊である。瀬伊や郁に見えたのが後ろ側であることが、せめてもの不幸中の幸いと呼びたいところだが……どちらにしても食事前に見る物ではない。
「一体君は……最後の最後まで何をやっているんだ、何をっ!」
 もし注文された品が片手で運びきれる量ならば、即刻取り押さえていただろう。直は両手に乗せたトレイを後悔しながら、つかつかと歩み寄れば変熊は悪びれもなく、寧ろふんぞり返って言い放つ。
「えっ? ノーパン喫茶は基本ですよ! これでしゃぶしゃぶ出せば官僚もイチコロだってじっちゃんが。真城様ならご存知ですよねっ!?」
 自分が産まれてまもなく、そんな嘆かわしい事件があったと噂程度に聞いたことがあるような気もしないが、その官僚とテクノクラートは違うということくらいわかるだろう。
 蔑みの目で見るのはにゃんくまも同じだが、「古すぎる……今は猫カフェの時代にゃ!」と得意げになっていることは、怒られている最中に言い出せない。こんな情けない一面もあるが、変熊はにゃんくまにとって師匠なのだから。
(まさか、それをしたいがために……笑いを取るために女の子へ職業を聞き回っていたのか?)
 何か出逢いを求める条件としてかと、服も着て奮闘する変熊を見て成長をしたんだと感心しかけたのに、全ては勘違いだったらしい。がっくりと肩を落とすと、どこからともなく競歩で近づいてきたが恐すぎるくらいに爽やかな笑みで変熊の肩を叩いた。
「まあ、ここではなんだ。続きは奥で聞こうではないか……なあ、変熊?」
 叩き終わった手を離すでもなく、ギリギリと握りしめ変熊へ威圧を送る黎は、スタッフルームでこんこんと説教を続ける。のち、変熊はデンジャーテープが貼られた洗い場で、黙々と皿洗いをさせられることとなる。
 こうして、実は本当に彼女が欲しかったりした変熊の出逢いは、この講座内では絶たれることになったのだ。

「気を取り直して、と……お食事をお運びしましたが、別の席へご案内しましょうか?」
「大丈夫です、お気遣い無く。まあ、女の子に当たるよりは俺たちで良かったのかな、なんて……」
 苦笑する貴瀬に頭を下げつつ配膳を済ますと、郁がじっと直を見つめている。あんなに待っていたウサギのおにいさんが現れても声をかけないので、どうしたのだろうかと貴瀬が声をかければ、きょとんと小首を傾げた。
「ウサギの、おにいさん? おねえさん?」
「あー……おにいさん。この格好が紛らわしいよね、せめてパットが無ければマシなんだろうけど」
「あのね、えっとね。このあいだは、こまらせてごめんなさいっ」
 ぺこり、と頭を下げて謝られるも、寧ろ迷惑をかけたのはこちら側だ。パートナーの不始末を説明するのは難しいだろうが、懐いてくれている郁の話し相手をし始めると、瀬伊はおもむろに貴瀬へ話しかけた。
「そう言えば、まだ自覚が無いのか? ずっと一緒にいたい……そう思うのは、相手に対して特別に好きという感情を抱いているからではないのか?」
「いきなりだな。特別の好き……ねぇ。彼はただ傍にいて、一緒に遊んだりした……うん、それだけだよ?」
「……お前が気にかける事自体、特別だと言っているのだがな」
 だとしても、正直あの男は気にくわない。それがパートナーとしてでも兄心でもなくだろ言えば、貴瀬はどんな顔をするだろうか。小さな呟きは貴瀬に届くわけもなく、また何か聞かれたらどうしよう、とケーキに手もつけずそわそわとし始める姿を黙って見ている事しかできない。
 郁が直に食べさせてもらっているのを見て、貴瀬は思わず話題転換に話しかけた。
「それよりも! 真城さんには好きな人とかいないの? こんな講座を開いてたくらいだし」
「いるかいないか、と聞かれれば……まあ、いるかな」
「郁もー! 貴瀬おにいちゃんも瀬伊おにいちゃんも、ウサギのおにいさんも……みんなみんなだーいすきだよっ♪」
 無邪気な笑みに愛情を返すように、貴瀬は郁の額にキスをする。特別な好きは、まだわからなくてもいい。こうやってみんなで過ごせる時間が、何より幸せだと思うから。それでは押すことも引くことも出来ない微妙な心境の瀬伊は、恋心を自覚して離れてしまうならこのままでも良いか、と今は見守ろうと思うのだった。

 閉店時間も近づき、空いた客席を片付ける遠野 歌菜(とおの・かな)は、充実した1日を送れたのかとても上機嫌だ。本当は月崎 羽純(つきざき・はすみ)も一緒にフロアで接客出来ればと思っていたのだが、女装はどうしても無理だと頑なに断られ続け、自分が見たいと思う程だから男女問わずナンパされることになっていたかもしれない。
 そんな不安に怯えることなく、キッチンへ行けば言葉は無くともアイコンタクトが出来て、それぞれに仕事をしながらもちょっとした恋人っぽい空気を楽しめるのは良かった。
「羽純くん、もうすぐ客席のほうは打ち上げの準備が整いそうだよ!」
「それじゃ、俺たちだけ先に休憩させてもらおうか」
 キッチンに小さな折りたたみの椅子を広げて歌菜を座らせると、打ち上げ用のケーキの側に隠してあった今日1番人気だったケーキを取り出した。
「えっ!? これ、売り切れだって言ってなかった」
「そこは裏方特権……てことにしておいてくれ、気にするな」
 そうは言われても、お客様が食べられなかった物に手を付けるのは憚られる。まじまじと出て来た2個を見比べて、歌菜はプッと吹き出した。
「そーやって誤魔化すってことは、これ羽純くんが切ったんでしょー。ちょこっと崩れてるね」
「あーもう、細かい事ぁいいんだよ!」
 紅茶を蒸らしてる中、手持ちぶさたになった羽純は紅茶を待ちきれず嬉しそうに1口頬張る歌菜を見て、失敗したことは悔しいがこの笑顔を見るための失敗だったなら……と考えかけ頭を振る。自分はそれでよくても、ずるずると続ければ2人ともダメになってしまうと考えたからだ。
 楽しかったこと、困ったこと。ケーキをつつきながら出てくる話は接客をしていた歌菜のほうが多く、そしてそれは執事をしているからといって必ずしも女性客の話ばかりじゃない。
「……俺も、歌菜と一緒に執事をすりゃあ良かったかな」
「もう、みんなで相談して決めたんだからメイドさんじゃなきゃダメだよ」
 そう力説する歌菜の頭を支え、口元についたケーキの欠片を舐め取る。突然のことに歌菜が固まれば、羽純はにっこりと微笑んだ。
「こんなに大きくなっても、そうやって子供っぽいところが抜けないお嬢様が心配で心配で……なんてな」
「わ、私だって羽純くんがナンパされたらって思うと心配だったんだから! だから、おあいこだよっ」
「なんで?」
 こつんと額を重ねて真っ直ぐ覗き込まれても、いつキッチンに人が入ってくるかと思うと落ち着かなくて冷静になれと歌菜は心の中で繰り返す。
「ナンパなんてされてもされなくても、俺のとこに永久就職させるのは誰かさんだけだけど?」
 自分が同じように妬いていただなんて、格好悪くて口に出来ない。今はただ、同じ気持ちでいてくれた彼女を安心させたくて唇を近づける。
「おい羽純、フロアの準備が整ったそうだが――」
 今日1日、一緒にキッチンで作業していたユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)は、店が終わることでクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が何かしでかすのでは無いかと心配し、作業がほとんどなくなった所で女装をしていなかった羽純に着替えに行きたい旨を伝えて出払っていた。
 しかし、彼女と参加していることも聞いていたのだから、もう少し気を遣ってやるべきだったかと思う瞬間に顔を出してしまった。
「……なんだったら、皆の着替えもあるだろうし…………開始をもう30分ほど遅らせるように伝えるが?」
「いっ、いーって! 始めるなら料理運ぶし、な!」
「そうそう! みんな待ってるんだよねっ? 早くしてあげないと、……ねっ!?」
 慌てて立ち上がる彼らに対し少し申し訳なく思いながら、ユーリもまた作業に戻る。神和 綺人(かんなぎ・あやと)の無事は確認したし、今日起きた大きな騒ぎの中で殺傷事件が起きてないということは、クリスが愛でていた綺人の女装もナンパをされるまでには至らなかったのだろう。
(何か渡したい物があると言っていたし……壊れるような惨事に巻き込まれる前に、クリスへ渡せるといいのだが)
 運び出される料理の数々に、スタッフ一同は歓声を上げる。特別な人を持て成した者は、そのまま早退してデートに出かけたり片付けを手伝うことで相手も残っていたりしたようだが、大多数の人は恥ずかしい中にも満足のいく結果が出せたようで朗らかだ。
「アヤ、見つけました! ……良かった、まだ着替えて無かったのですね」
「うん、着替える前に打ち上げ始まっちゃったし、タイミング掴めなくて」
(折角素敵な格好をしてるのです、そういう方が出ないように打ち上げは閉店と同時を薦めて成功ですね)
 何か一瞬、クリスから黒いものが見えたような気がするが、気にしないようにしてみんなが集まる可愛らしい部屋から和室へと綺人は誘いを促す。まさにその瞬間、2人に声をかけようと手を伸ばしかけたユーリがいたのだが……クリスを怒らさないように声をかけるようと、言葉を選んでいる最中に和室へ向かわれてしまった。
(綺人……強く生きろよ)
そうして、騒がしい部屋を抜けて2人きりになった綺人は、今のうちにとクリスにプレゼントを差し出した。シンプルな包装だったけれど、残っていたプリザーブドフラワーを添えたことで随分華やかになったと思う。
「チョコチップのものと、抹茶のマーブルのものの二種類のクッキーを作ってみたんだ。いつも、クリスにはお世話になってるし」
「アヤ、これを私に? 本当に貰っていいんですか?」
 顔を綻ばせ、何度も確認するクリスはとても女の子らしい。こんな些細なもので喜んでくれるなんて、やっぱり用意してきて良かったなと綺人も頬を緩ませたとき――クリスは綺人に飛びつくように抱きついて、勢い余って押し倒してしまった。
「ったた……クリス、喜んでくれるのは嬉しいけれど、少しは加減を……」
「だってアヤからのお誘いですもの。居ても立ってもいられないですよ!」
「…………え?」
 飾りになるかと拝借したプリザーブドフラワー。添えてしまったのはハナミズキ、花言葉は『私の想いを受けてください』……どうやら、肉食女子なクリスの中で、都合の良いように何かが変換されたらしい。
 いつも守ってくれているクリスへのお礼の品で襲われることになろうとは。綺人は清々しいくらいの笑顔を浮かべるクリスに、困惑するばかりだった。

 盛りあがる店内を見渡し、口元の寂しくなったヴィスタは煙草を咥えて表に出る。店内の片付けは早々に始めたのに看板が残っていて、こういうところはまだ子供かと手のかかる生徒たちに苦笑してしまう。
「ま、一服が終わったら片付けといてやるか」
 火をつけようとした所で、妙な視線に気付き路地のほうを見る。店の影に隠れているつもりなのか、フードに付いたウサ耳がゆらゆらと建物の影から何者かの存在を告げている。
 何をするのかと見ていれば、次は深呼吸をするような片腕の動き。ぐっと拳を握ったかと思うと、いきなり走りだした。
「……? おい、店はもう閉めちまってるけど何か用か?」
「閉店ってことは、そのっ! スタッフさんはもう、手が空いてらっしゃったりしてなかったり……!」
 先日の復活祭でヴィスタに何も告げることが出来ず……いや、盛大な告白をして逃亡してしまった白銀 司(しろがね・つかさ)は再チャレンジがしたくて店を訪れた。仕事中は忙しいだろうから閉店まで待ち、また出会い頭に告白などしないよう、制服の上から羽織ったパーカーのフードをしっかりと被った。これでヴィスタを直視することを避けて冷静に会話しようと思ったのだが、些か深く被りすぎて視界が宜しくない上にいつ会えるかと緊張状態にあったため、既に冷静さを失いつつあるようだ。
「ああ、中で打ち上げやってるくらいだし言付けくらいなら受け取るぜ」
「ヴィッ、ヴィスタさんに! 一言だけでいいんです、お返事を聞かせてください。会わせて下さい、お願いしますっ!」
 勢いよく看板に向かって頭を下げる彼女に、本人は笑うしかない。堪えきれないその笑い声は、必死に目を瞑って頭を下げていた司の『ヴィスタに会ったら』というシミュレートを打ち消すくらい大きなものだった。
「まったく、落ち着きのない嬢ちゃんだな。悪くはねぇが……くくっ、まさかスルーされて看板に頼まれるとは」
「ち、違うんです! 私はただ、ヴィスタさんが大好きで! ……ハッ! じゃなくてっ、いや違わないんですけど、でもその……」
 またやってしまった。赤くなる頬は到底フードでは隠しきれなくて、縁を掴んだまま口ごもってしまう。だけど、ここで逃げたらいつまでも先に進めない。逃げ出したくなる足を踏み留めて、司はきちんとヴィスタに向き合った。
「私、白銀司って言います。この前、空京の結婚式場でのお祭りでイースターエッグを渡したんですけどっ」
「そりゃ覚えてるさ。あんなインパクトある渡され方をされちゃあ忘れるほうが難しいだろ」
「す、すみません驚かせて……でも、嘘じゃなくて本当で…………お友達に、なってください!」
 今度こそ、間違えずに言えた。頭を下げた視界には、ヴィスタの靴も映ってる。大丈夫。
 そう言い聞かす司を前に、ヴィスタは言葉を失ってしまう。ここまで直球に来られた以上、友達と言われても気が無いのなら丁重にお断りするべきだし、かと言って年頃の少女というのは1番やっかいだ。
 自分と倍以上の年が離れているだろう彼女へ最良の言葉。それを探すようにポケットを探り、懐中時計の感触を確かめる。結局は、そこへ辿り着いてしまうんだ。
「ばーか、友達ってのは頼んでなってもらうモンじゃねぇだろ?」
 フード越しにぐしゃぐしゃと頭を撫でると、司はバランスを崩しそうになってわたわたと上体を起こす。ニッと笑ったヴィスタからは気を悪くしたような様子は伺えないが、友達になってくれると受け取っても良いのだろうか。叫ばないように言葉を選んでいるのか、ちらりと見上げてくる司を待たずにヴィスタは続ける。
「ついでに、若いんだから広く世界を見ろ。それでも俺が良いって言うなら真面目に考えてやるよ」
 ポンポンとひとしきり撫で終わった頭を叩くと、ヴィスタは看板を抱えて店内に戻ってしまう。あっけなく1人きりになって、全ては夢だったのかもしれないと思うけれど、フード越しに感じた感触はきっと夢じゃない。司はドアに向かってお辞儀をすると、元気にパートナーの待つ場所まで駆け出すのだった。



 打ち上げも終わり、全ての生徒が着替えて店を出て行く。その姿を見送り、ジェイダスはやっと立ち上がった。
「今日は良い成果をあげたようだな。少し覚束無い者もいたが、伸びしろがあると目を瞑ろう。他の収穫もあったしな」
「ありがとうございます。収穫というのは、ご趣味のほうで……という雰囲気でも無さそうですが」
 もしそうであれば目当ての生徒に声をかけるだろうし、満足をしたならその時点で店を去るはず。打ち上げが終わるこの瞬間まで残り、生徒たちを観察していたのには何か意味があるのではと直は問いかける。しかし、多くは語らずジェイダスはエリオを呼びつけた。
「今回の事後処理や新入生歓迎会、中間考査など終わり次第……そうだな、6月の中旬までに時間を取ってもらおうか」
「それは構いませんが……ルドルフではなく俺が、ですか?」
「アレには別件を任せてある。おまえたちに言いつける所用と関連することだが、単身のほうが動きやすいだろうと思ってな」
 通常の催しであれば、イエニチェリ1人に一任してもらえることが多い。なのに、ルドルフが影で動く上にエリオと共に事に当たれと言うジェイダスからは、余程失敗してはならない事態が起きているのだと言うことが伝わってくる。
「……この件に、ヴィスタはどうされますか」
「ルドルフからの報告待ちとなるが、呼ぶことになるだろうな。――兎狩りを命じることになれば」
 笑みを濃くするジェイダスを遠目から見ていたフェンリルは、会話こそ聞こえないものの目を逸らすことが出来なかった。あの笑みは、いつかラドゥが見せたものと同じ。

 ――……ジェイダスからの命令だと言えば納得するのか? 異性装の似合う者にはさせよとのお達しだとしたら?

「ランディ、どうしたんだい? なにか校長先生に話でもあるなら待ってるけど」
 ウェルチに声をかけられ、ハッとしたように向き直る。
 今回は同じようにメイド服を着て近くにいることでやり過ごすことが出来た。けれど次は? どうかこれが自分の早とちりであってほしいと願いながら、フェンリルはしっかりとウェルチの手を握り帰路につくのだった。






 そして、皆が1日の思い出を振り返り談笑する頃。たった1人で絵本を繰り返し読む少女がいた。
 鉄格子のはまった窓に、何重にもかけられた扉の鍵。彼女が声を枯らすまで叫んだ所で、到底外には響かないであろうこの場所で、小さな明かりを頼りに何度もお気に入りのページを開く。
 ガラスの靴を持って迎えに来たり、口づけで深い眠りから起こしてくれたり。どの絵本を見ても颯爽と現れ助けてくれる青年は、いつか時が来たら自分の前にも現れるのだろうか。
 思い描く彼女の夢を遮るようにガチャリ、と重い鍵が開く。入ってきた人影を、少女は笑顔で出迎えた。
「まあ、お帰りなさいまし。今日はお忙しい日だとお聞きしておりましたから、お会い出来て嬉しゅうございますわ」
 ふんわりとしたスカートの裾を持って一礼する彼女を、来客は褒めてやる。囚われの身のように見える彼女は、どうやらここに来てから作法や言葉を覚えたようで、教養を身につけた自分が誇らしく、そして嬉しいようだ。
 浮かれ気分の彼女に水を差すように、来客が手にしたアマリリスは語りかける。白地にピンクのラインが入った少女のようなそれは、やはり花言葉の通りお喋りなのかもしれない。
 ――霧濃く薔薇の揺れる場所からお逃げなさい。
 ずっと喫茶店に飾られていたアマリリスは、最後の力を振り絞るように訴え続けるのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅野 悠希

▼マスターコメント

恋愛シナリオなのかコメディシナリオなのか、よくわからないドタバタ劇にお付き合い頂きましてありがとうございました!
薔薇学の喫茶室はとても人気だということで、そういう正統派喫茶店やイケメンに甲斐甲斐しくお世話されると言う点で執事喫茶、あわよくばホストクラブなんてやってみたいなーと思いつつ始めたシナリオだったのですが……一体何処で間違えたのでしょう。
私もNPCも予想外の結果で、おかげで色々盛り込むことが出来ました。薔薇学生の皆さん、覚悟をしておいてくださいね!

以前のシナリオでも行いましたが、偽名を使うアクションは可能ですが登場時にはキャラクターの名前も合わせて記載されます
PC情報としては隠すことが出来ますが、PL情報としては隠せませんのでご注意ください。

また、ウェルチは数々の魔鎧を作成してきていますので、皆様の魔鎧の中にも彼が作成したものはあるかもしれません。
もちろん全部が全部彼が作ったわけでもありませんが、彼作だからと言って、特別弱点や秘密を知っていることにはなりません


次回シナリオは20日に新歓シナリオ。こちらは葦原&薔薇学です。
新入生も先輩方も楽しめるシナリオになっていると思うので、よろしくお願い致します。
そちらを提出次第、6月上旬〜中旬で薔薇学シナリオを行います。
どんなシナリオになるかは今回のお話で予想がつく方も多いでしょうが、ほぼそれに間違いありません。
薔薇学生のみなさんはもちろん、他校生の方もお気軽に参加して下さると嬉しいです。


最後になりますが、お待たせして申し訳ありませんでした。
お時間頂いた関係で、個別コメントと称号が必要最低限になってしまい大変申し訳ありません。
このシナリオで何らかの縁が出来たり、お互いの仲に変化があれば嬉しいです。