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眠り王子

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眠り王子

リアクション


●運命に導かれてやって来ました! 2

 ヴィナの執拗なボディタッチとディープなキスが続く中。

「うはー、やっぱり窓近くにテント張ってて正解でしたっ。まさにベストポジション! ここからだとよく見えますっ」
 テントの中からこそっと外を覗きながら、葉月 可憐(はづき・かれん)がぽしょぽしょ隣のアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)につぶやいた。

 2人は腐女子デバガメーズを結成し、もう何日も前からテント持ち込みで張り込んでいたのだ。
 待ち続けること幾星霜……ひたすら王子様と運命の相手のロマンチックなキスシーンを見るためだけに、昼も夜もここで待ち続けた。
 だから当然、変熊 仮面(へんくま・かめん)が来たときもテントの中にいたし、あれが変熊だというのも知っている。

 なのになぜここにいるのか?

 実はあのとき、テントの中ではこんな会話がこしょこしょ繰り広げられていたのだった。

「ルドルフ王子、別の部屋に移っちゃった。私たちも移動しましょうか?」
「……アリス、それって全然おいしくないですよ! 私たちがここにいるのは何のため!?」
「え? 王子と、王子の王子様との運命のキスを見るためですぅ」
「そうよ! でも移動しちゃうとキス見えないじゃない!」
「ええ? 移動しないと見えないんじゃないの?」
 あれ、変熊さんだから、運命の人候補者たちがいくらキスしたって目覚めそうじゃないし。

「だからいいんじゃない! いっぱいいっぱいちゅーちゅーするのが見えるんですよ! おいしいです!!」

  ――運命のキスだのロマンチックだのはどうでもよくなったらしい。

 待ちくたびれて頭の一部が壊れたのか、それともついに訪れたこの日にテンションが上がりまくったのか、建前が消えて本音が出た。
 とにかくたくさんの男×男のキスシーンが見えたらそれでいいようだ。

 変熊さん、黙って寝てたら美形だしね。
 王子の王子様候補者たちも、美形ばっかりだしね。
「もうwktkです。早く皆さん、ちゅーちゅーしちゃってください〜」

 腐女子オーラをギンギンギラギラ発散させているテントの横には、いつの間にかスポーツドリンクの乗ったダンボールが移動してきていた。


「もういつまで待たせるノ〜!! 長すぎるノネ〜!」
 しびれをきらした候補者の1人、マトリョーシカ着ぐるみのキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)がプンプンと声を上げた。
「いくら長々キスしたって、ハズレはアタリに変わらないノネ〜」

「そんなことはない! こうして刺激を与え続ければ、目覚めを誘発することだってある! 実際、体は反応しているじゃないか!」
 と、下半身を指すヴィナ。
 それはもう仕方ない。変熊さん自身だってどうしようもない生理現象なんだから。

(う〜む。こんなことでバレたらせっかくのちゅーちゅーがだいなしだ。心頭滅却して静めねば)
 一生懸命、氷のプールで寒中水泳している姿を想像したりして、必死に体を静めている変熊ルドルフの努力をあざ笑うように、候補者全員が変熊ルドルフにむらがった。

「こうなったらミーだってベタベタいっぱいスルノヨ!」
「順番なんか関係ないわ! 目覚めさせたモンがアタリっちゅーこっちゃ!」

 全員でおさわりしほうだい。
(おっ……おおおおお〜〜〜♪ こ、これを待ってたんだぁ〜)
 変熊さん大喜び。

 しかしだれが、いくらどんなに情熱的な、ハードな、ディープな、キスやボディタッチをしても、王子は目覚めなかった。

  ――そりゃそーだ。

(ここはガマンガマン。そうしたらこの先にもっとオイシイご褒美が、きっと待っているぞ!)
 いろんなキスやおさわりをゲットできた変熊ルドルフの胸は、いまや期待にぱんぱんにふくらんでいる。


「ルーツ、あなたもするんですわぁ」
 ひと通り王子の王子様候補が試し終えたあと、スケッチブックをペンでとんとん叩きながら師王 アスカ(しおう・あすか)が催促した。
 これには端にひっそり控えていたルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)もビックリ。
 王子の王子様候補がこれだけいるんだから、自分はしないでいいとばかり思っていたのだ。
「いや、もう我は必要ないだろう、モデルには十分事足りただろうから…」

「いいから、やれ」
 アスカがああ言ってるんだから。と、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がドンッ。
「…………ッ!……ッ!」
 こうしてルーツにも、忘れたくても忘れられない黒歴史的記憶が生まれたのだった。


「んじゃああとはオレと、コイツだけだなっ!!」
 んぱー、んぱー、と鼻息荒く意気込むシレン。
「えー? シレン親分、俺もやるんですかぁ?」
 スレヴィは嫌悪を隠そうともしない。
 ルドルフ・メンデルスゾーンは尊敬している。だけど同じ名前と顔のヤツ、てめーは駄目だ。つーか、同じ名前と顔だというだけで許しがたい。

「くそおっ!! もしおまえがそうだったら、決闘だ!! 絶対許すものか!!」
 息巻くヴィナに、意地悪くニシシと笑って、熊男シレンが台座に歩み寄ろうとしたときだった。


「待て待てーーー!!」

 うまぐるみ・陣が入り口から飛び込んできた。
「俺にもさせろ!!」
 と、ティエンを降ろし、ずかずか王子の台座に歩み寄るや、彼は顔を近づけキスするかに見せて寸前、こそっとポケットから取り出していたブート・ジョロキアを王子の口の中いっぱいに突っ込んだのだった。

 説明しよう! ブート・ジョロキアとは、世界一辛いトウガラシである。
 いや、それはもう「辛い」ではなく「痛い」のだ。もうとんでもなく。そばに近寄るだけで涙が出てくるし、接触してると皮膚に痛みが走るくらい。

(これだけ刺激与えてやりゃ、死人だって目ぇさますだろ)

 そしてこぼれて発覚するのを防ぐ口ふさぎの意味で、王子の口をしっかり手でおおう。顔をものすごーーく接近させるが、キスはしない。しているふうに見せているだけだ。
 スケッチャーやデバガメーズたちはともかく、背後にいる王子の王子様候補たちには全く仕掛けが分からない。

「!!!!!!!!!!!ッ」
 これにはさすがに変熊ルドルフも、目をむかずにはいられなかった。

「おっ! 起――」
 きた、と陣が叫ぼうとしたとき。

 ドカン! と何か硬い物が破砕する音がして、陣の側面に吹き飛ばされた入り口のドアがぶち当たった。

 ドアごと窓から放り出され落下する陣。――おいでませ、いばらの森。

 その隙に、変熊ルドルフは口の中のトウガラシを吐き出して、また狸寝入りを始めた。
 だれもその様子を見ている者はいなかった。なぜなら、全員ドアの吹き飛んできた入り口の方を見ていたからだ。

 そして、そこに新たに現れた者を見て、全員が、あっと口を大きく開いた。


 ついに、インキュバス仲良 いちご(なかよし・いちご)が現れたのである!