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第13章 魂を作り出す太極器story2

「皆っ!太極器の魔道具、探してきたよっ。それと生命の魔術の本もね」
 エースたちに高炉状の魔道具と本を見せる。
「お帰り、クマラ。アルファさん、これで合ってるかな?」
「えぇ、それで合ってますわ」
「チューブとはこれか・・・?」
「ありがとうございます、アスカさん」
「ふぅ・・・もう男の口調で話す必要なかったわねぇ」
「俺とミニスは、銀色のフラスコの作り方だけだな」
「お疲れ様でした、紫音。それと・・・ミニス・・・さん?」
「フンッ、礼なんて言われる必要ないわ」
 馴れ合いなんてごめんだというふうにツンとした態度を取る。
「俺の方は協力してくれそうな研究者を連れてきた」
「ん〜・・・なりゆきで、何かそんなことになったんだが。よろしくな」
「大変だったでしょう?淵さん」
「いや、これもオメガ殿のためのことだからな・・・」
「さっそく製造を始めるか。―・・・気を乱し・・・心の安寧を許さず・・・闇へと誘え」
 唯斗は魔道具を結晶化機能に切り替え、蓋に触れて闇術を唱えると、ポタ・・・ポタ・・・と漆黒の雫が容器の中へ落ちる。
 液体から霧状へと変わり、だんだんと中心へ集まっていき、小さな黒い結晶となった。
「これを持っていてくれ」
 蓋を開けて睡蓮に預ける。
「はい、兄さん。キレイですね・・・鉱石みたい・・・」
「1つでいいのか?」
 唯斗がラスコットに結晶がいくついるのか聞く。
「どういう性格にしたいかによるな」
「俺たちは悪い方にしようとかは考えていないが?」
「光と闇が1対1なら、どちらにも染まりやすくなるし。闇を2つにしたら、悪い子になる。3つならもう凶悪だな」
「いい子にするには光術3つじゃだめなの?」
「嘘をまったくつかない優しい性格になるけど。一歩間違えれば、詐欺とか遭いやすい子になっちゃうぞ」
 闇が必要なのか疑問に思ったルカルカに、そんなの菩薩か騙されやすい可哀想な子になると答えた。
「う〜ん騙すようなヤツがいたら、・・・ルカがぶっ飛ばしちゃうわ。でも・・・代わりに怒っても、どうして怒ったのか分かってくれなさそうよね」
「まぁそうなるな。だから善にしたいなら、光術の結晶は2つ・・・闇術の結晶が1つの方が、人格のバランスがとれるはずだ」
「それなら、同じサイズにした方がよさそうですね。術はあまり得意じゃありませんけど、やってみます・・・」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は唯斗から魔道具を受け取り、蓋の上に手を乗せ光術を唱え始める。
「卑しき者の穢れを清め・・・光の彼方への導へと進め・・・」
「魔力が足りないようだぞ、プラチナム。それでは感情のバランスが悪くなってしまう。もっと清浄なる力を注ぐのだ!」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は魔力もっと込めるのだとアドバイスする。
「―・・・はいっ」
 器の中に真珠のような輝きの雫が垂れ、霧状となり・・・徐々に集まっていき、小さな白い結晶へ変化する。
「睡蓮さん、これを・・・」
「はい、お預かりします!」
「後、もう1つですか・・・」
 蓋に手を乗せて光術を唱えて2つ目の結晶を作る。
「何んとか・・・同じサイズに作れましたね。これを砕いて欠片にするんでしたっけ?」
「その方が、早く溶けるんですのよ」
「砕くならルカが適任か」
「えぇ!?―・・・ルカか弱い女の子なのに」
「なら今だけ、か弱い女の子を卒業してくれ」
「これです、お願いしますね」
「んもぅ、分かったわよ。オメガさんのためだもんね。―・・・うりゃっ♪」
 淵の頼みにしぶしぶ、睡蓮から受け取った結晶を、ドラゴンアーツのパワーを目一杯込めて砕く。
「せっかくキレイだったのに惨い・・・」
 彼女に聞こえないように小さな声音で、傍からエースがボソッと言う。
「茶色のチューブと闇術の破片を魔道具に入れて、チューブに溶け込ませるんですの」
「結晶だけ溶かすんだから・・・対象を設定しておかないとな」
 唯斗は魔道具を調節し、砕いてもらった結晶と共に入れる。
 結晶は固体から液体へ変化し、チューブへ吸い込まれるように溶け込んでいく。
「ほぅ、色は変わらぬのか・・・」
 目の前に光景にエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は不思議そうに眺める。
「残りの2本は光術の破片だな」
 均等にバランスを保つため、唯斗は水色のチューブと緑色のチューブを、別々に加工する。
「問題は金属か・・・。手近なものといえば、砂鉄だな。本当は金や銀があるといいんだが、集めて純度の高い金属にするしかないな」
「一緒に集めましょう、兄さん」
「そうだな、地道な作業になるが。紫音、皆と魔道具に魔力を注いでいてくれないか?」
「特に設定をいじらなくて平気か?」
「あぁ、もう抽出出力はしてある」
「よし。ありったけの力をくれてやる!」
「ルカにも貸して。蓋に手を乗せればいいのよね?―・・・うぅ、本当に力を吸い取られる感じがするわ・・・」
 まるで身体に重力負荷がかかったかのように、容器の中へ吸い取られていく。
「じゃあ俺も・・・。―・・・っ、かなりキツイな」
「それくらいで十分どすぇ」
 メモを見ながら風花が量を確認する。



「はぁ・・・・・・。この辺りに走っていったはずなのに、いないわね・・・」
 美羽は息を切らせ、ラスコットを追って走る。
「何かしら?人が集まっているみたいだけど」
「―・・・どっち側の者だ?」
 オルベールたちの護衛をしている蒼灯 鴉(そうひ・からす)が、彼女の背後から声をかける。
「少なくとも十天君側じゃないわ」
「そうか・・・。で、何の用だ」
「白衣を着た男の人を追ってきたのよ。ちょっと・・・お礼を言いたくってね」
「あまりそこへ近づけさせられない事情があるからな・・・。連れてくるから・・・、ここで待っていろ」
「そうね・・・。よく思っていない人もいるから、警戒する気持ちは分かるわ。いいわ、ここで待ってるから」
 ドッペルゲンガーが近くにいるとすぐ理解した彼女は、大人しく待つことにした。
「―・・・呼んで来たぞ。ただし・・・手短に話せ。敵の魔女に見つかっては、厄介なんでな・・・。陰で見晴らせてもらう・・・」
 彼を連れ戻しにやってくるかもしれないと、鴉も物陰から見張る。
「リボンのお嬢ちゃん、何かオレに用?」
「ヘルドさんを埋葬してくれてありがとう」
 タバコをふかしながら聞くラスコットに礼を言う。
「それでわざわざ来たわけ?」
「ええ、そのお礼を言いたくって来たの。それと・・・」
「まだ何かあるのか」
「どうしてヘルドさんを埋葬してくれたんですか?」
「十天君が利用するかもしれないしな。死んでまで利用されるなんて哀れじゃないか」
「(利用される・・・?2人は何か、関係があるのかしら・・・)」
 聞きたいことはいっぱいある・・・。
 質問攻めして困らせないように、我慢しながら少しずつ聞く。
「あなたも闇世界にいたの?」
「そこに哀れな男が1人いたからさ。気紛れに小言を言いにいってやったんだ」
「小言って・・・」
「どんなに願っても、恋しくても・・・。医師にあるまじき行為で、戻ってきたとしても・・・喜ばないってね。失ったら2度と戻らないんだからな・・・」
「(戻らない・・・そうよね。もう2度と・・・)」
 泣き出したくなるのを必死で堪える。
「―・・・ヘルドさんを、どこへ・・・埋葬したの」
「知ってどうするんだ?」
「どうしても知りたいの・・・お願い、教えて・・・っ」
「灯台下暗し。おそらくあんたが1番最初に行った場所ところの近くだ。それに哀れな男事態、そこから出ることを望まないしな」
「あの場所なのね・・・教えてくれてありがとう」
「別に・・・。たった1つしかないモンを、軽んじるのが好きじゃないだけだ。だからオレからのプレゼントを、研究所に置いてきてやったし」
「プレゼント・・・?」
「っそ、プレゼント♪開けてビックリってやつだな、マジで。あははっ」
「(ちょっとだけ似てる感じがするわ・・・。どういう仲だったのかしら)」
「すまないがもういいか・・・?こっちも、急ぎなんだ・・・」
「うん、ごめんね」
 おそらくこの2人の医者は、知り合いだったんだろうと分かったものの、聞きたいことがもっと増えてしまった。



「―・・・そろそろ宿縁の魂の縁者を探さないとな。どうすれば適合者が分かるんだ?」
「えっとキミは・・・エースだっけ?そこのボウヤが持っている本に書いてあると思うんだけど」
「クマラ、ちょっと貸してくれ」
「うん、いいよ」
「―・・・全部ドイツ語か。日本語じゃ無理なのか?」
「無理だな。他の者が簡単に利用出来ないように、和訳を載せてないんだろ。生体魔術の一種だから、魔力を使うし消耗が激しいんだよな」
「俺に唱えろって?」
 遠まわしにそう言われている気がしたエースが問う。
「ん?そうじゃないのかい」
「いや・・・ドイツ語は・・・」
「オレもうおじさんだから、すぐ疲れちゃうんだけど」
「(俺もかなり消耗してるんだからな・・・」
「わらわに言っても無理じゃぞ。警備の者が減ってしまうんでな」
 視線で訴えるエースにアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は即断った。
「ははは・・・誰も引き受けないのか。まぁ、俺がやらないと適合者が分からないんじゃ、仕方ないか・・・。でも俺は誰が調べてくれるんだ」
「あ〜、最初だけチェックしてあげる。まずは、アルファとエースの手を平を重ねるんだ。提供者の手の方が下な」
「―・・・少し屈んだほうがいいか」
「で、オレが描く魔方陣の中心に、術の対象者が立つんだ。この場合、術者のオレは術の対象じゃないから陣の外だな」
 手頃な木の棒を拾ったラスコットは2人の周りに魔方陣を描く。
「Die Seele, Schicksal oder das nein, daβ Sie fordern, Die Seele, die Uns Verbindet, Verwandten・・・Karma, Aussehen entscheiden」
 “この魂、汝が求める宿縁か否か、魂で結ばれし・・・縁者か見極めよ”と唱えると・・・。
 2人の手の平の間から、赤い光が漏れ出す。
「う〜ん、違うみたいだな。緑の光なら、適合者ってことなんだけどさ」
「そうか・・・残念だな」
「じゃ、やってみて」
「後は俺がやるんだったな。それじゃあ紫音、そこに立ってくれ」
「俺も屈まなきゃ、アルファの手が届かないな」
「Die Seele, Schicksal oder das nein, daβ Sie fordern・・・」
 教えて言葉を思い出しながら静かに唱え・・・。
「Die Seele, die Uns Verbindet, Verwandten・・・Karma, Aussehen entscheiden」
 アルファとの宿縁の相手かどうか調べる。
「赤い光だな・・・」
「俺の魂をやれないのか・・・」
「次ぎはルカだ」
「ルカも屈まなきゃ、届かないね。このくらいでいい?」
「はい、大丈夫ですわ」
「―・・・緑色・・・・・・。ルカの魂が適合するぞ!」
 エースが2人の縁を調べると、彼女たちの手の平の間に淡い緑色の光が漏れ出した。
「本当!?これであと2つで、ここに留まれるか分かるわね♪」
「あぁ、そうだな。だんだん望みが見えてきたな」
「オイラも調べて!同じくらいの背だから屈まなくて平気だね」
「うん・・・、クマラも適合するな。後は、アリスの魂か」
「私でよければ使ってください!」
「睡蓮さんの魂は・・・おかしいな、何も反応がない」
「(そんな・・・。魂が足りないとアルファさんは留まれなくなってしまうのに・・・)」
 暗い森の中へ独りきりでいさせたくないと、魔女の手をぎゅっと握る。
「―・・・緑色の・・・光が。私も・・・適合するっていうことですか?」
「うん、これで揃ったぞ」
「やったぁあ!アルファさんがずっとここにいられるんですよね!」
 嬉しさのあまりぎゅっと魔女に抱きついたその時・・・。
 睡蓮の背後を雷術が通過する。
「気づかれてしまったようじゃ」
 アルスは追ってこようとするウィザードを、天のいかづちで大木を倒して阻む。
「皆、ひとまずここから離れるよう!」
「ドッペルゲンガーをこっちへよこしなさいっ」
 別の追っ手が嵐のフラワシで襲撃する。
「うぐっ」
 紫音とアストレイアが睡蓮を守る盾となる。
「大丈夫か・・・アストレイア」
「我のことなど案ずるな・・・。主を守る魔鎧なのじゃぞ。今はこの場から逃げることだけを考えるのじゃ」
「ここで連れ去られるわけにはいかない!」
 ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は魔女の懐へ飛び込み、ヒプノシスで眠らせる。
「長く留まりすぎるものじゃないな」
「ぐちっても仕方ないわよ。私たちがやっているのは、命を1つ作り出すのと同じことだし。魔法学校でやろうにも、他の人に見られたら自分もやろうとか思われちゃうじゃないの」
「それに魂を扱うしな。何か騒動を起こされたりでもしたら厄介だ」
「アルファちゃん専用のものだし、他の人に合うとも思えないわ」
「まだくるみたいだぞ」
「あの女がきっと、ドッペルゲンガーを引き込もうとしているんだわ。許せない、この悪魔!―・・・きゃぅっ」
 オルベールを狙う間もなく、ブラックコートで気配を隠した蒼灯 鴉(そうひ・からす)に、手刀で気絶させれてしまう。
「これでもいないと困るんでな・・・」
「ちょっと!これってどういうことよ」
「―・・・そのままの意味だ、女悪魔」
「フフッ、その女悪魔を頑張って守ってね♪」
「ルーツ・・・念のため、催眠術をかけてやってくれ・・・」
「仲間を呼ばれては面倒だからな」
 気絶しているがすぐに目を覚ましては面倒だと、ヒプノシスで眠らせておく。
「あの茂みの中へ隠れよう」
 ルーツたちは魔女が離れていくのを、じっと息を潜めて待つ。
「見つけた?」
「ううん、いないわ・・・」
「違う道に逃げたのかしら」
「そうかもしれないわね、手分けして探しましょう」
 魔女たちはルーツたちがオメガのドッペルゲンガーを連れ去ったと思い、血眼になって探す。
「―・・・行ったみたいだな。研究所からもっと離れないとな」
 連れ戻されて十天君の手に落ちないように、森に惑わされないよう・・・。
 急げ・・・急げと・・・。
 森の出口へ逃げようとひたすら走り続ける。

担当マスターより

▼担当マスター

按条境一

▼マスターコメント

こんばんは。

誰が味方で、誰が裏切るのか・・・というのは、判断しづらいところではないでしょうか。
そんな中・・・。
ついに数人の生徒が研究所に侵入し、十天君のリーダーとも、戦いが始まっているわけですが。
完全不死と不老不死の研究も進んでいます。

一方では、ドッペルゲンガーの魂を作り出す魔道具の製作まで始まっていますね。
果たして、魔女の追ってから逃れられて、無事に完成させることが出来るのでしょうか。
それも次回の話の中になります。

一部の方に称号をお送りさせていただきました。
それではまた次回、シナリオでお会いできる日を楽しみにお待ちしております。