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WahnsinnigWelt…全てを求め永遠を欲する

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第7章 壊れかけた信頼・・・

「ここがオメガさんの屋敷があるという洞窟ですか・・・」
 九十九 昴(つくも・すばる)は真っ暗な洞窟の奥を見つめ、初めて聞く名と情報なのに、何故か放っておくことが出来ない。
 “私が守らないと・・・守りたい・・・”と、引き寄せられるように足を踏み入れる。
「怒っていたりするかしら・・・。でも、ちゃんと言わなきゃ、伝わらないことだってあるもの・・・」
「あなたは・・・?」
 声音は弱々しくも、友を思う強さがこもった呟き声が聞こえ、後ろを振り返る。
「オメガさんと何かあったんですか?」
「えぇ・・・。オメガのドッペルゲンガーを・・・アルファをここへ連れてきちゃってね。怯えさせてしまったのよ」
「魂を奪われると思ったんでしょうね・・・。私が少し話をしてきます。えーっと・・・」
「泡でいいわ」
「それじゃあ、泡さんに会っても大丈夫そうでしたら窓から呼びますね」
「お願いね・・・」
 昴を見送りながら、友に嫌われていないか不安でいっぱいになる。
 屋敷の方では2人の姿を見た鬼灯とミィが、大慌てでかっ飛び神和 綺人(かんなぎ・あやと)に知らせる。
「えっ、泡さんが屋敷の近くに来ているの?―・・・で、もう1人ってまさか、ドッペルゲンガーかな・・・」
 彼の問いかけにミィたちはふるふると首を左右に振る。
「よかった・・・一緒じゃないんだ。でも何しに来たんだろうね。それで、もう1人ってどんな人?」
 2人は彼女の姿を描くように、ふよふよと宙を舞う。
「理由は分からないけど、一応・・・聞いてみた方がよさそうだね。また何かあると困るし。えっと・・・クリス」
「私は大丈夫ですから、行って来てください」
「クリス、怪我させちゃってごめんね。今度は君を守るから」
「ありがとうございます。私も・・・アヤの背中を守ります」
「この状況で来客?」
 刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)は眉を潜め、扉の方へ視線を移す。
「まぁいいわ・・・。ゴーストは私たちが相手をしているから、行ってきなさい」
「ごめんね、ありがとう」
 礼を言うと綺人はクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と共に扉の方へ走る。
 バリィイン。
「グギャッ・・・ギャヒィイ」
 窓を破り侵入してきたヒューマノイド・ドールが奇声を上げ、心臓の裂け目から綺人たちに向かって強酸を噴出す。
「前にも増して凶暴化しているな」
 2人に迫り来る酸の霧をユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が凍てつく炎を放ち防ぐ。
「オメガの恐怖心を呷ろうとしても無駄よ・・・。あなたたちは、私に斬り伏せられて朽ちるんだから」
 クレイモアの柄を両手でぎゅっと握り締め、刹那は床を蹴りゴーストを真っ二つになぎ払う。
 ベチャリと臓物が床にへばりつく。
「そんなに遊んで欲しいなら、外で遊びましょう?」
 再生しようとする亡者の触手を引っ掴んで、割れた窓の向こうへ放り投げ、大剣を手に窓の外へ出る。
「ねぇ・・・、こいつら。どれくらいで死ぬの?」
「だいたい3時間ほどだな」
「わたくしたちの力を消耗させて傷を負わせ、オメガさんの心を悲しみで満たそうという魂胆なんですよ」
「最低な考えね・・・。そんなやつら、さっさと消えてほしいわ」
 屋敷の中から言う神和 瀬織(かんなぎ・せお)に、ずいぶんと自己中な者がいたもんだとため息をつく。
「持久戦なら・・・斬るよりも、潰してあげたほうがいいかしら」
 触手が身体を掠めようと臆せず、大剣で鈍器のように頭部を殴りつけ、岩場へぶっ飛ばし叩き潰す。
「―・・・背後を狙おうとしても、死体の匂いで分かるわよ」
 超感覚で鼻をひくつかせ、スウェーで喉元を狙おうとする爪を見切り、スッと屈み足払いをかける。
 地面へ転ぶキラーパペットの背を踏み、無慈悲に叩き殺す。
「こいつは再生しないのね。死んでまで利用されても、哀れに思って躊躇なんてしてやらないわ」
 ベチッと飛んできた返り血を指で拭い、冷淡な口調で言い放つ。
「殺さなきゃ、こっちが殺されるもの」
 ただの死体と成り果てた者を冷たい眼差しで見下ろす。
「綺人とクリスたちの話は、まだ終わっていないみたいね・・・」
 屋敷の外で昴と話している2人をちらりと見る。
「昴さんはオメガさんと、どうしても2人きりで話したいのかな」
「えぇ、出来れば・・・」
「信用するしないっていうより、ちょっと事件があったから。知っている人が傍にいないと、逆に不安がらせちゃうんだよ」
「―・・・そうなんですか」
「ごめんね、気分悪くさせちゃうかもしれないけど。こっちもいろいろと事情があるからさ。―・・・分かってくれるよね?」
「はい・・・。よかれと思っても、かえって不安にさせてしまうなら仕方ないです」
「オメガさんは2階の部屋にいるから、北都さんに一応話してから入ってね」
「分かりました、ありがとうございます」
 ぺこっと軽く頭を下げると、昴は2階へ走っていった。


 トントン。
 昴は軽くドアをノックし、部屋にオメガがいるか確かめる。
「―・・・返事がないですね。別の部屋でしょうか」
「誰か来たみたい、僕が見てくるよ」
 またドッペルゲンガーが来たかも・・・と思い、オメガの代わりに清泉 北都(いずみ・ほくと)が部屋の外へ出る。
「あの・・・オメガさんは、このドアの向こうにいるんですか」
「えっと、まずは目的を話してもらおうかな」
「少しでも彼女の恐怖心を和らげてあげたい・・・そう思ってきたんです」
「僕と中にいる昶も一緒に聞かせてもらうけど、いいかな?」
「本当は1対1の方がいいんですけど。誰も疑わず無条件で入れるような状況ではないようですし」
「出来れば僕も、そんなふうに思ったりしたくないんだけどね。それと・・・知っている人がいないと、オメガさんが不安がっちゃうかもしれないからね」
「玄関の扉のところでも、そう言われましたから・・・」
 綺人にも同じことを言われ、逆に誰彼構わず受け入れるのは危険だから止むを得ない。
「では、入らせてもらいますね」
 条件を飲むことにして部屋に入れてもらう。
「(よかった・・・、禁猟区は反応していないみたい)」
 銀色のブレスレットに反応がないのを見て、北都はほっと息をつく。
「ドッペルゲンガーのオメガさん・・・アルファさんのことですけど。もう、オメガさんの魂を狙わないと知ったら・・・どう思いますか」
 その名を聞いただけでぴくっと手が震えるのを見て、恐怖心を和らげるのはやっぱり無理なんでしょうか、と考え込む。
「本物になり代わりたい・・・その本質を全て変えるのは、とても難しいことですわ。わたくしに魂が全て戻ったら、彼女はここへは留まれなくなるんですもの」
「(これ以上、私がアルファさんのことを話すのは、彼女の心によくない影響を与えてしまいそうですね)」
 だんだんと表情を曇らせる彼女を見つめ、泡から話した方がいいかとアルファの話を止める。
「屋敷の外で何か起こっているんですの?」
「え・・・?―・・・いいえ、何もありませんよ」
 アルファが突然現れたことで、自分の周りで何か起こっているのではと、感づきそうな彼女に優しく微笑みかける。
「私が、あなたを守る刀となります。皆もいますし、何も・・・怖がることはありません」
 大きな理由はないのに彼女を守ってあげたい。
 その気持ちに嘘偽りなんてないけど悪戯に恐怖心を呷りたくはない。
「でも、今日ここへ来たのは・・・。皆さんと同じく、オメガさんと楽しく話したくてきたんです」
 自分のために誰かが傷つくのを恐れる彼女に、十天君たちが放ったゴーストを倒すために来たことを伏せておいた。
「もう1人・・・オメガさんと話がしたい人がいるんですけど」
「誰ですの?」
「泡さん・・・という方です」
「―・・・泡さんが?それって・・・1人でですの」
「えぇ、そうです」
 震える瞳を見て無理そうか、と思いつつ返事を待つ。
「分かりました・・・お会いしますわ」
「では、呼びますね」
 窓の外にいる泡を見下ろし、小さく頷いて了解をもらえたサインを出す。
 部屋に入ることを許された泡は仮面を外した。
「(そう簡単に近づけさせてはくれないみたいね・・・)」
 オメガの前へ行こうとするが、狼の姿の昶に低く唸り声を上げられ、警戒されてしまった。
 泡は止むを得ず、彼女から少し離れた場所に立ち、すぐさま土下座する。
「この前はごめんなさい!理由も分からずドッペルゲンガーが現れたら、そりゃ驚くわよね」
 友の心が自分から離れそうになっている距離感を痛いほど感じ、顔を上げられないまま話を続ける。
「今から私たちが行おうとしていること、全てを話すわ・・・。信じる信じないは任せるけど“私は嘘はつかない”」
「あんなマネしておいて、今更何を話そうっていうんだ?」
「不安を呷ることなら遠慮してね」
「そう思われるのも無理ないわ。だけどそんなマネは絶対しないから・・・」
 警戒心を解こうとしない昶と北都に言われるのは当然だと言う。
「オメガ、アルファに魂を返してもらうために。今・・・皆が代わりになるものを作ってもらっているの。それには魂がやっぱり必要なんだけど心配しないで」
 話すならゴーストの気配のない、今しかないと話始める。
「提供していまった人は、どうなってしまいますの?」
「大丈夫よ、感情が乏しくなったりするわけじゃないから。他の皆は魔道具を作るために、材料を集めに行っているわ」
「危険なこととか・・・ないですわよね」
「隠し事をしないって約束をしたから言うけど。十天君の研究所に・・・材料があるの。だけど皆、無事に戻ってくるから・・・心配したり、不安がったりしないで・・・。信じて待ってて」
「わたくしのドッペルゲンガー・・・アルファさんは、新しい魂を手に入れたらどうするんですの」
「一緒に暮らしたりは出来ないわよね」
「当たり前じゃないか。理性で制御しようとしても、本能が欲して欲にかられていつ奪われるか分からないんだ」
「(アルファさんとオメガさんが傍にいることは、やっぱり無理なんですか・・・)」
 突然、本能に目覚めて襲いかねないと昶の話に、昴は恐怖心を柔らげてあげることは出来ないのかと沈んだ顔をする。
「そう・・・離れて暮らすしかないみたいね。アルファにはオメガに近寄らないように行っておくわね」
「泡さん、もう顔を上げてください」
「私のこと・・・すぐ許して欲しいなんて言わないけど。オメガが許してくれるなら、また会いに来ても・・・いいかしら」
「許すもなにも・・・。私と泡さんはお友達なんですのよ。いつでも・・・会いに来てください」
「本当に・・・いいの?」
 自分の耳を疑うかのように、ぱっと顔を上げる。
「ドッペルゲンガーが現れた時は、とても怖かったですし。泡さんがどうして連れて来たのか、理解出来ませんでしたわ。でも・・・それで会わなくなるなんて、寂しいですもの・・・」
「えぇ、全部片付いたら。また遊びに行くわ。私、そろそろ戻らないと」
「もう行ってしまうんですの?」
「皆が待ってるからね。あ・・・それと」
 ドアの前で立ち止まり・・・。
「部屋に入れてくれて、ありがとう。正直言うともう・・・、会ってもくれないと思って、ちょっと怖かったわ」
 オメガの方へ振り返り、口元を微笑ませると部屋を出て行った。