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イコン最終改造計画

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イコン最終改造計画

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第2章 改造開始、と、その前に……

「実際のところ、オレはイコンはあんまり好きじゃなかったりするんだな、これが」
「はぁ……」
【パラ実S級四天王】にして【パンツ番長】の異名を持つ国頭 武尊(くにがみ・たける)は近くにいたアレックス・レイフィールド相手にぼやいていた。
「そりゃロボットアニメとかゲームは好きだし、プラモの魔改造もやったことあるけどさ」
「自分がそれに乗るのはまた別問題ってか?」
「そういうこと」
 武尊自身は、イコンは人の身に過ぎた力であると強く認識している。確かにイコンの代表格である【イーグリット(機体コード:CHP003)】や【コームラント(機体コード:CHP004)】からして、大空を音速で飛び回り、その手に握り締めたビームサーベルで相手をぶった斬り、その腕に取り付けられたビームキャノンで並み居る敵をなぎ倒すのだ。当然といえば当然だが、まさに人間離れした存在である。「サロゲート・エイコーン(代理の聖像)」などという大層な異名がついているのも頷けるというものだ。
「でもパラ実のイコンって、確か乗用車程度のパワーしか持ってないって話だぜ?」
「パラ実イコンそれ自体は確かにそうだけどさ。でも脅威であることには変わりは無いよな」
「というと?」
「パラ実イコンがその体1つで戦うなら、まあ大したことはないだろうけど、例えば離偉漸屠100万体全部が離偉漸屠キャノン、あるいはビームキャノンでもマジックカノンでもいい、それを装備して一斉に撃ったら?」
「……ああ、そりゃ危険だわ」
「だろ?」
 パラ実イコン1体1体は脅威ではないかもしれない。だが数が揃いさえすれば脅威になりうる。いつぞやパラ実を占領しようとした渋谷のチーマーどもを相手どって、イコンを使った戦争が起きたことがあり、イコンの集団はその戦いに勝利したのだ――ちなみにその時の直接の相手はトラックやショベルカーなどの、いわゆる「はたらくくるま」だったという。
 パラ実以外でも天御柱学院はイコンでの戦いに明け暮れているし、イルミンスール魔法学校のあるザンスカール領内でも機動兵器【アルマイン】を使った戦いが行われた。薔薇の学舎のあるタシガンでもイコン戦が起き、ヒラニプラやヴァイシャリー、葦原島の周辺でも戦いがあった。蒼空学園のあるツァンダ、あるいは空京では目立ったイコン戦は展開されていないようだが、いずれ起こるであろうことは容易に想像できる。
 イコンの登場による戦火、いや戦禍の拡大! 武尊がイコンに乗るのを嫌がるのはまさにそれが理由だった。
「そういえば高島の奴が離偉漸屠持ってるってことは、種モミの塔の製造工場が操業再開した、ってことなのかな?」
「いや、その辺はどうなんだろうな……」
「……なんだ、君はパートナーだっていうのに何も知らないのか?」
「あいつの行動はいつも突然で唐突だからな。俺が気がついた時にはすでにあのイコンを持ってやがった」
「…………」
 いつのことだったか、武尊は種モミの塔に存在するイコン製造プラントを破壊するのに一役買ったことがあるという。もしまた活動を再開しているとすれば、いずれはまた壊しに行く必要がある……。
「で、アンタはそれを愚痴るためにここに来たのか?」
 苦笑しながらアレックスは武尊を見やった。
「……悪い、こんな話をするために来たんじゃなかったのにな」
 肩をすくめて武尊は前方に目を向ける。
 そこには彼のパートナーにして、最近【D級四天王】の地位を獲得した猫井 又吉(ねこい・またきち)が、高島要の眼前で何かを組み立てている光景があった。
「へぇ〜、じゃあこれを完全に組み立てちゃえばイコンになるんだね?」
「おうよ、まさにそうだぜ!」
 又吉が組み立てているのはプラモデルのように見える何かであった。
 何か、と表現するのは、それが厳密な意味でのプラモデルではないからである。プラモデルはプラモデルでも、それは「琴音ロボの等身大プラモ」だった。
 オンラインゲームファンの開運祈願を司る御藝神社、そこにいる巫女――天宮 琴音(あまみや・ことね)を模したイコン【琴音ロボ(機体コード:WM-1000)】。その外装は「コトネニウム合金」なる新世代の合金で作られており、イコンとして機能させるためには自らの手でプラモデルのように組み立てる必要があるという。パーツが「合金製」であるという時点で「プラモデル」ではないだろうという指摘は絶対にしてはいけない……。
 又吉がこのプラモデルを組み立てているのは、ひとえに要のイコン魔改造に協力するためであった。発想は非常に単純で、要の【離偉漸屠】の上に組み上がった琴音ロボを乗せてしまえば、それだけで巨大化が成り立つというわけだ。
「それだけじゃねえぜ。今日はパイルバンカーも持ってきてんだ」
「パイルバンカー?」
「大型の杭打ち器だ。ほら、どこかのカソック着た女が持ってる鉄塊みてーなもんだよ」
「ああ、あれか〜。で、そのパイルバンカーをどうするの?」
「お前のイコンの頭部、つまりリーゼント部分だな、そこに内蔵するんだよ。つまり隠し武器だ!」
「おお〜!」
「両手で相手の機体を掴み、そして頭突きの要領でリーゼントの中の杭をぶち込む! どうだ、ロマン溢れる攻撃だろ!?」
「かっこいい〜!」
「その上でこの琴音ロボだ! コイツを無理矢理乗っけちまえば、Sサイズとか言われてる離偉漸屠が一気にMサイズに早変わりだぜ! どうだ完璧だろ!」
「完璧すぎてもう言葉も出ないよ!」
「わははははは! そうだろそうだろ! もっと俺の天才っぷりに泣いて感謝していいんだぜ!?」
 そのような会話をはさみつつ、又吉はせっせとプラモデルを組み立てていく。ちなみにプラモデルやパイルバンカーは、又吉が所有する【出魂斗羅】に積んできたものである。
「又吉の奴がさ、イコンの魔改造に協力するってもうノリノリなんだよな」
 楽しそうに要と会話する又吉の姿を眺め、武尊は苦笑する。
 武尊がイコン嫌いであること知っているため、それに遠慮して又吉はイコンではなく出虎斗羅を乗り回しているのだ。本当ならイコンに乗りたいはずなのに、実に健気なことである。
 それならばせっかくのこの機会、生かさない手は無い。今日は心ゆくまでイコンに関わってもらうしかない。
「でもそうなると、オレは暇になるんだよな」
「で、アンタはどうするつもりなんだ?」
 アレックスが問うと、武尊はデジタルビデオカメラを取り出した。
「まあこうして魔改造に興じてるシーンでも撮ろうかと思ってね。ついでに商売する気でもいるし」
 この後行われるであろう品評会の方は別の誰かがビデオ撮影するだろう。ならばと武尊は、その「舞台裏」的な部分を撮影し、編集し、イコンマニアに売りつけようと思っていた。
「……品評会を撮影する、って話は聞いてないけどな」
「えっ、マジで?」
 アレックスの言葉に武尊は目を丸くする。
「まいったな、表側の撮影が無いのか……」
「もうこの際だし、撮っちまえばいいんじゃねえか? 必要なとこだけ編集で残すようにするとか……」
「……あんまりイコンには関わりたくないんだが、しょうがないか」
 結局武尊はこの後、メモリーの続く限り一連の風景の撮影に専念することとなる。

「まあしばらく待ってな。頑張ってコイツを組み立てちまうからよ!」
 又吉のその言葉に従って、要はその場を離れ他のイコンを見に行こうとする。そんな彼女の元に、1体のイコンと共に客がやって来た。【ケルヴェイム】を駆るリネン・エルフト(りねん・えるふと)ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)である。
「おお? 何かゴッツいのが来たね」
 シャンバラより東に位置するカナン。そこで発見されたイコン【アンズー(機体コード:Anzu)】に小型の飛行ユニットやパワーローダーを取り付け、腕のドリルをボウガンに変えたその機体から降り立ったリネンとユーベルは、早速とばかりに要に近づく。
「こんにちは高島。……ちょっといい?」
「ん、なにかな?」
 話を聞く体勢を整え、要はリネンの次の言葉を待った。
「いえね、あなた確か『モノが大きくて、その上でパワーも大きい』のがいいみたいだけど……」
「うん、基本的に私はパワー主義者だしね」
「……それ、実はあんまりオススメできないのよね」
「ほへ?」
 リネンは無表情のまま――表情が硬いと言うよりは、単に表情を作るのが下手なだけである――背後のケルヴェイムを見やる。
「このイコン……、ケルヴェイムって言うんだけどね。……高島の求めるのと、結構一致してると思わない?」
「んん〜?」
 ケルヴェイムはアンズーをカスタマイズしたイコンであるが、リネンが言うには、カスタマイズの結果、それなりに目立つ程度の重量級イコンになってしまったのだという。確かにそれなりのパワーは得られたのだが、その代償も大きいらしい。
 だが要の反応は今ひとつ良くなかった。
「……なんだろう。あんまり大きいって感じないんだけどなぁ」
「え……。この怪物マシン同然のこれを見てそう思うの……?」
 アンズーは俗に言う「Mサイズ」に分類されるイコンである。リネン曰く、カスタマイズの結果「Mサイズが詐欺くさい大きさ」になったそうなのだが、要に言わせれば同じMサイズにしか見えないというのだ。
「カスタマイズでゴツくなったのは分かるけど、大きくなったって感じはしないのよね」
「……そ、そう」
 大きさという点で要のリアクションを得られず、リネンはかすかに声を震わせる。
「ま、いいわ……。とりあえず私が言いたいのはね……」
 気を取り直し、リネンは本来言いたかったことを舌に乗せる。
「このケルヴェイム、……まあ作ったのは私たち2人じゃないんだけど、……はっきり言って、使いづらいわよ?」
「へ、そうなの?」
 リネンの主張とはこうだ。
 アンズーのカスタマイズ品であるこのイコンは、確かにそれ相応のパワー、戦闘力を得ることはできた。ボウガンから発射される矢を命中させることができれば、それなりの破壊力は期待できる。だがその反面、非常に目立つような外観となり、しかも重量がありすぎて移動スピードがあまり無いという。
「パワーはあるけれど、重いし、目立つし……。戦場まで辿り着けないことも多いくらい……」
「あ〜、それは確かに大変だね〜」
 パワー主義者である要もその意見に関しては理解を示した。確かにパワーを重点的に求めた場合、普通ならそれに比例して重量が増え、扱いづらくなる可能性が高くなる。彼女が普段扱う光条兵器――刃渡り3メートル強の巨大剣からしてそうなのだ。もっとも、要はその点を考えた上で、それでもなお大型であることにこだわるのだが……。
「まあリネンの意見はちょっと極端なところがあるかもしれませんけど……」
 隣にいたユーベルも口を挟む。
「あまり大きすぎても、それはそれで逆効果だったりするんですわ。イコンの場合は、例えば視界が悪くなるとか、あるいは乗り込むのが大変になるとか、ね」
 何事もほどほどがいい。結局のところ、ユーベルとリネンの言いたいのはそこなのだ。
「そう、何事もほどほどが一番なんですわ。何事も。……ええ、何事も」
 しみじみと語るユーベルはなぜかその視線を落としていた。
 彼女の視線の先にあったのは、自身のパートナーの胸元……。
「……!?」
 ユーベルの悪意がこもっているかもしれない――本人は決して悪意を持っているわけではなかったが――視線を浴び、リネンは思わず胸を両腕で隠そうとする。だが何カップあるか分からないその巨乳が完全に隠れるわけがなく、腕の分だけ形を変えるにとどまるだけだった。
「何事も、ほどほどですわ……」
「何となく言いたいことはわかったよ……。確かにこれは、ね……」
 要もつられてリネンの胸を凝視する。どちらかといえば中性的で、一目見ただけでは男か女か分からない要の胸は、はっきり言って非常に小さかった――それでも手を当てれば「ある」と分かる程度には存在しているのだが……。
 ついでに言えば「ほどほどがいい」と主張するユーベルの胸も非常に大きいのだが、果たしてこれは指摘していいものかどうか……。
「と、とにかく、私が言いたいのは、大きいと困ることもあるってことと……」
「え、何それ、嫌味?」
「い、いや、そうじゃなくて、胸の話じゃなくて……!」
 話題を変えようと、リネンはユーベルから光条兵器――パートナーの名前と同じ「ユーベルキャリバー」を抜き出して構える。
 構えた先にあったのは、壊れて廃棄処分同然となったパラ実イコンである――何者かがイコン戦を行い、敗れた末にそのまま放置したのだろう。
 そしてリネンはそのイコンに全力で剣を振り下ろした。
「ふっ!」
 ユーベルキャリバーの一撃を浴びたパラ実イコンは、その場で2つに切り分けられ、完全な残骸へと変貌した。
「おお〜!」
 この即興のパフォーマンスに要は素直に拍手を送る。
 リネンがこのようなことができるのは、まず第1に彼女が少なくともゴーストイコンを相手に立ち回れる程度の実力を持っているということ――それは先日ツァンダにて行われたシャンバラ復興チャリティー音楽祭での1シーンがそれを証明している――、第2に切り捨てたイコンがゴーストイコンをはるかに下回る性能のパラ実イコンであること、第3にそのイコンが最初からスクラップになっていたことが理由である。
「まあ、こんな風に……、パワーを出すなら生身でも十分、ということなのよ……」
「は〜、なるほど〜」
 確かに鍛えられた契約者の中には、このようにしてイコンを破壊できるものが現れたりする。その点を普通に考えれば、何も大きさを求める必要など無いのだ。
 そう、あくまでも普通に考えれば、である。だが要の思考はリネンの想像の斜め上を行くものだった。
「でもそんな剣でイコンをぶった斬れるってことはさ、もっと大きい剣ならそれこそイーグリットとかをバラバラにできるってことじゃない?」
「……人の話聞いてた?」
 大きい剣でそれなりの成果が得られるなら、もっと大きい剣があればもっと成果が得られるじゃない。要の考えはどうしてもここから離れることがない。
 まずは大きさ。高島要という女は、1にも2にもそれを求める女なのである。
「まあでも言いたいことは何となく分かったよ?」
「……本当に?」
 要の発言にリネンの眉が寄る。
「そりゃまあ、大きすぎたらその分攻撃の的になることくらい私にだってわかるよ。懐に飛び込まれたら弱いってこともさ」
「それでもあえて、その、大きさを求めるの?」
「そりゃもちろん!」
 そうでなければ自分のアイデンティティーが成り立たない。要はそう主張していた。
「まあとにかくさ、そっちの言いたいことは分かったけど、だからといって『はい、そーですか』と取りやめにするわけにもいかないんだよね」
 イコンの魔改造を行うという目的のために大勢の人間が集まったのだ。リネンとユーベルの主張だけでそれを全て中止することはできない。
「まあ今回の魔改造が本当に無意味なものかどうか結論出すのはさ、とりあえず終わってからにしない? 意外と面白いことがあったりするかもしれないしさ」
 その言葉と共にリネンの意見をしりぞけ、要は再びイコンの見学を行うことにした。