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リアクション
第6章(4)
「んふ、久し振りじゃのぅ、おぬし。会いたかったぞ」
「私は……別に……」
別の場所ではファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)とリネン・エルフト(りねん・えるふと)。かつてツァンダ南東の村、シンク付近の森で盗賊騒ぎがあった時に共闘した者同士が対峙していた。初顔合わせとなるフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は戦いながらも二人のやり取りに関心を抱く。
「何だ、知り合いか?」
「別に……知り合いじゃ、ない」
「寂しいのぅ。わしはこんなにおぬしを求めておるのに」
「氷のプレゼントなんて……いらない……」
ファタの氷術を空中でかわしながらリネンが言う。ファタは氷術で足場を作った上で更に盾や氷柱、杖の先端に鎌状の氷を作るなどして戦っていた。
「なぁ、随分仲良さそうだけど、実際どうなんだ?」
二人の関係が良く分からないので後ろのヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)に尋ねる。ヘイリーは軽くため息をつきながらそれに答えた。
「向こう――ファタ・オルガナって言うんだけど、女の子が大好きなのよ」
「へぇ…………同志だな!」
「ほぅ、おぬしも理解出来るクチか」
「あぁ当然だね。可愛い女の子は最高さ!」
敵味方を越えて友情が成立した瞬間だった。どうしたものかとローザ・オ・ンブラ(ろーざ・おんぶら)とヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)がファタの方を見る。
「マスター、このまま続けてよろしいのですか?」
「せっかく戦えるんスからネェ。これで終わりってのは勘弁っスヨ」
「うむ、それはそれ、これはこれじゃ。とりあえず報酬分は足止めをしておくのじゃ」
「それジャ、やらせて貰うっスかネェ」
ヒルデガルドが軽身功を始めとして速度を強化し、壁伝いに空中へと上がる。上ではリネンとフェイミィの二人が迎撃態勢を取っていた。
「空中戦なら――」
「――負けねぇぜ!」
二人掛かりで地面に落とす。するとその隙を狙って、ローザがフラワシを近づけていた。
「さぁお受け下さい、大罪の業火を」
青白い炎がリネン達を襲う。多くの焔のフラワシの力が積み重なったフラワシの炎は、並では無い温度を誇っていた。
「だちゃちゃちゃ!」
「フェイミィ……!」
熱さに耐え切れず、フェイミィが水辺へと降りる。そこに目掛けて、ヒルデガルドがチャンスとばかりに突撃を始めた。
「そっちから降りてくれるとは、ありがたいッスネェ!」
「リネン!」
「うん……!」
水に浸かっているフェイミィはとっさに回避する事が出来ない。それをカバーする為にヘイリーとリネンが同時に動き出した。サイドワインダーで進行上に矢を放ち、僅かに動きが止まった所にリネンがアクセルブレスで時間を引き延ばし、降下する。
「……起動!」
「オ?」
発動時間は僅か5秒。だがその時間でリネンはヒルデガルドを剣で薙ぎ払うと同時にダッシュの勢いを別方向へと向けた。
「――オ、オォォォオ!?」
足場の少ない地形が災いし、ヒルデガルドは思い切り水しか無い方向に跳んで行く。結局勢いを殺しきる事は出来ずに、水へと豪快に突っ込んで行った。
「やれやれ……これは痛み分けじゃのぅ。まぁこれだけ足止めをしておけば十分じゃろうて」
二人が水没したのを見て、ファタが氷術の使用を止める。それを見てヘイリーも一旦弓を下ろした。
「あら、これ以上戦う気が無いって事?」
「うむ。わしの受けた依頼はあくまで時間稼ぎじゃからな。報酬分の働きはしたが、後はおぬし達と戯れている方が愉しそうじゃ。特に、おぬしのような15歳以下の少女ならの」
微笑みながらリネンを見るファタ。昨年の11月に起きた事件の際もこうしてアプローチをかけたものだ。だが――
「あ、リネンは春に誕生日を迎えたから、今は16歳よ」
「何……じゃと……!?」
時の流れは残酷だった。まぁファタにしてみれば16歳以上も十分ストライクゾーンではあるが。
複製体を相手するでも無く、因縁の相手を追う訳でも無かった者達は戦場を抜け、部屋の奥へと急行していた。
彼らの目的は複製体を生み出した者達を捕らえ、可能であればそれに関する情報と目的を調べ上げる事だった。
「いた! あそこだよ!」
先頭を走るクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が指差す方向には六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)がいた。鼎は追っ手がすぐ近くまで来ているのに気付くと、撤退を止めてこちらへと振り向く。
「ありゃ、バレちゃいましたか……ディング、パース。私ゃちょっぴり喧嘩してから行きますよ」
「はいはい、キャッチ。それじゃ、私は先に帰りますかね」
何かを受け取ったディング・セストスラビク(でぃんぐ・せすとすらびく)が一人奥へと逃走を続ける。
「あの逃げた一人が怪しいわね。ルカ達はあれを追いかけましょう!」
「いいだろう」
「あの距離なら俺達が適任だな。任せとけ」
「そういう訳で、こちらは頼んだぞ」
ディングを追いかけ、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)、夏侯 淵(かこう・えん)の四人がダッシュローラーで加速する。残った者の内、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)もそれを追って行った。
「今逃げた者、何かを受け取っていたようだな」
「ここにあった物で、かつ重要な物だと見るべきか……まさか、あのシスターが言っていた神具……? だとしたら逃す訳には……!」
魔鎧である曹丕 子桓(そうひ・しかん)が見ていた物に俄然興味を抱く氷藍。勘違いが続いたまま、彼はどこまでも走り続けて行くのだった。
最終的に残ったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)達は鼎の相手だ。逃がさないように四方を固め、慎重に接近する。
「さて、大人しくして貰おうか。抵抗するようなら多少痛い目に遭う事になるぞ」
「一応そうなった時には後で僕が回復しますけど……出来ればこのまま捕まって頂けませんか?」
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が対照的な雰囲気で投降を迫る。
「困りましたねぇ。私はあくまで今回協力してるだけの一介の研究者なんですが……ま、せっかくだからここの研究の代わりに、私の武装をお見せしましょう」
いきなり魔道銃を取り出す。そのまま四方に向け、ヘルファイアの効果が篭った魔力弾を乱射し始めた。
「プルガトリー・オープナー! 榴弾乱射!」
「くっ! 仕方無い……メシエ!」
「あぁ、その炎、相殺させて貰おう」
魔力弾を回避しつつ、ファイアストームでお返しする。更に別方向からはエースが光の閃刃で銃そのものを狙い撃った。
「痛た! いくら武器に自信があっても人数差は考えるべきでしたかね、これは……」
「だからメシエが大人しくしろと言ったのに……それじゃあクマラ、ルカ達に連絡を入れてくれるかな。こっちは完了したって」
「オッケーだよエース。カニに電話しておくね」
テキパキと行動するエース達。その中心で大人しくしながら、鼎はディングが無事に逃げ切れるかを考えていた。
(ダッシュで行かれてしまいましたからねぇ。神殿を出る前に追いつかれちゃうかな。すり替え用に作っておいたマジックアイテムの偽物、どうせなら組織相手に使ったのだけじゃなくて、もう一つ用意しておけば良かったですかね……)
その『本物』を持って逃走を行ったディングは、鼎の予想通りルカルカ達のダッシュによって早い段階で包囲されていた。
「いやぁ、参りましたね。思わず貴方達からも逃げちゃいましたけど、実は私達、組織を裏切って逃げてた所なんですよ。だからこのまま見逃して……くれませんよねぇ?」
「さすがにそれではい分かりましたとは言えないと思うのよね……」
「ルカの言う通りだな。っていうか、今俺の方にクマラの奴から連絡があったぜ。さっきの白衣の奴、抵抗して来たってさ。まぁもう捕まえたみてぇだけど」
「あ〜らら、鼎さん捕まっちゃったのか。なら仕方無いですねぇ。戦いは苦手ですし、大人しくしますよ」
鼎に要求されない限りは基本的に戦わないディングがあっさりと降参する。丁度そこに、氷藍が走ってやって来た。
「……神具はどこだ?」
「は?」
いきなりの内容にハテナマークが浮かぶディング。既に戦闘終了と判断した曹丕が魔鎧形態から戻り、補足する。
「先ほどお前がパートナーと思われし人物から受け取っていた物だ。まだ持っているのであろう?」
「あ、あぁ。あれなら実は逃げる途中に落として――」
「――はいないな。追跡中にそのような素振りは見られなかった」
ダリルが退路を塞ぐ。観念したディングがポケットからマジックアイテムを取り出すと、氷藍はそれを大事そうに受け取った。が――
「これが……神具?」
「珍しい感じはするが、氷藍の言う神具とやらには合わない気がするな。せっかくだ、後でついでに調査して貰ってはどうだ?」
「ん……分かった」
曹丕の言葉に頷く。氷藍の希望通りの結果には残念ながらならないが、ともあれ、これにて全ての部屋での戦いが終了した――
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