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第一章 パトロールを、開始する!


「じゃあ、みんな! 海に潜む不埒な輩を取り締まりに出発よ!」
「おー!」
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の音頭に、白波理沙(しらなみ・りさ)白波舞(しらなみ・まい)チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)の三人は拳を振り上げた。
「パンダ隊隊長として、腕が鳴るよ! 乙女の敵は撲滅しないと!」
理沙がやる気十分なのを見て、舞とチェルシーも頷いた。
「そうよね。女の子の身体を、そんな誰でも見ていいような安っぽいモノと思われても迷惑だし。ここは私たちが目を光らせておかないと」
「理沙さん、舞さん、その意気ですわ! 不埒な輩には、覗きという行動はおろか、その腐った精神をフルボっこにして叩きなおしてあげなきゃですわね!」
可愛い容姿から発せられたやる気(と書いて、殺る気)満々の発言をしたチェルシーに、雅羅はうんうんと頷いた。
「三人とも頼もしい! なぜか私には厄災が降りかかるけど……、三人が一緒だと心強いよ!」
そうして女性四人が結束を高め、パトロールへ繰り出そうとした矢先である。
「むっ! なんだか邪な視線を感じる!」
「超感覚ね、理沙! その視線は、一体どこから?」
「うーん……あそこ!」
理沙が指差した先には一人の男……、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がじぃいい〜っと熱い視線を雅羅に送っていた。
「むっ、胸を凝視してますわ!」
「こっそり覗いていないとはいえ、あんなに堂々と女性の胸元を見るなんて! セクシュアルハラスメントだわ!」
「雅羅が受けた屈辱は、私たち三人が晴らして見せるからね! よーし! パンダ隊、出撃ー!」
「えっ、あっ……」
戸惑う雅羅はそのままに、パンダ隊の三人は怒涛の勢いでエヴァルトに迫った。
「ちょっと、そこのあんた!」
「ん? 俺か?」
「あんた以外に誰がいるのよ! 海だっていうのに、ロボロボしいし……。さては、その中に何か仕込んでるわね?」
「な、何を言う! これは、事情があってサイボーグ化したのだ!」
「……怪しい。ねえ?」
理沙の言葉に、舞とチェルシーも冷ややかな眼差しをエヴァルトに向けたまま頷いた。
「大体、ここから雅羅の胸元を凝視してたネタは上がってるのよ! なんてったって、私の超感覚があんたから発せられる、並々ならぬ雅羅に対する執着心をキャッチしたんだから!」
「ご、誤解だ! 俺は、ただ」
「ただ?」
じりじりと三人ににじり寄られ、エヴァルトがあわや風前の灯、となりそうになったとき。
「おっ、お兄ちゃんをいじめないでくださいっ!」
ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が飛び込んできたのである。
「!」
さすがに小さな女の子の前でフルボッコ敢行はマズイと思い、三人が身を引くと、ミュリエルはエヴァルトの陰にさっと隠れた。
「お兄ちゃんは、胸元を見てたんじゃありません……。お兄ちゃんは……」
語尾が小さくなっていって最後には聞き取れなくなったものの、三人はミュリエルの言い分を聞き、改めてエヴァルトに向き直った。
「その子の言ってること、本当なの?」
「あ、ああ」
「じゃあ、何を見てたって言うんですの? この期に及んで、嘘なんてついたら……」
チェルシーがボッと火を出したのを見て、エヴァルトは早口で答えた。
「サンダースの持つ、バントラインスペシャルを見てたんだ! 実物を見るのは初めてだったから……あまりの迫力につい凝視してしまった!」
「バントラインスペシャル、ですって?」
チェルシーが火を引っ込め、唖然としていると、今更ながら雅羅が砂に足を取られながらやって来た。
「このバントラインスペシャルがどうかしたの?」
雅羅がバントラインスペシャルを下げている場所に、パンダ隊の目がいき……、あたりは一瞬静まり返った。
「胸元っていうか、胸に近いよね! アハハ」
「理沙……」
「でも、そうすると……並々ならぬ、執着心……というのは?」
「いや……俺も最初は警備をしようとしてたんだ。そうしたら、サンダースを見つけてな。これほどの名銃、めったにお目にかかれるものじゃないだろう!」
「つまり。雅羅というより、バントラインスペシャルに惹かれたってこと?」
舞のまとめに、エヴァルトは力強く頷いた。
「いかにも」
「……なんって、紛らわしいの!」
「あやうく銃で撃っちゃうところだったわ」
理沙と舞が悪びれもせずに言い放つのを聞き、エヴァルトが息を呑む背後で、ミュリエルが雅羅に
「はじめまして。ミュリエル・クロンティリスです。お兄ちゃんが大好きです」
と、可愛く挨拶した。
その様子を見ていた白麻戌子(しろま・いぬこ)は、ほくそ笑んだ。そして、傍らで面倒くさそうにしていた四谷大助(しや・だいすけ)の名前を呼んだ。
「ん? なんだよワンコ」
「聞きたまえ大助。さっきから見ていたところ、あの雅羅とかいうキミの後輩、なかなかのナイスバディだ。それに加えて……」
戌子の目線の先には、グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)がいた。
「彼女は騎士とはいえお嬢様だ。二人とも目を離してたら……、危ないだろうなあ。誰かが守ってあげないと、いつ不埒な奴の手に落ちることやら」
「……!」
大助が表情を引き締め、グレムの元へと慌てて駆けて行くのを、戌子は楽しそうに見送った。
「さてさて。面白くなってきたなあ」
二人の会話を聞いていなかったグレムは、駆け寄ってきた大助を見るなり目くじらを立てた。
「コラ大助! サボってるんじゃないわよっ」
「ごめん」
「えっ」
あっさり詫びを入れられ、グレムは唖然とした。
「どうしたの、何かあった? ワンコさんと何か話してたみたいだけど」
「オレ、見回りに参加しようと思って。グレムも一緒に来いよ」
「え? あ、私……喉が渇いたから、飲み物を買おうと……」
「そんなの、オレが買ってきてやるから! 先にあそこにいる雅羅たちと合流してて」
そう言うなり、大助は飲み物を買いに行くべく走り出す。その速さ……神速の如し、である。
「さっきまでだらけてたのに、急にやる気になったわね……。不気味だわ」
首をかしげながら雅羅たちパトロール組とグレムが合流した直後に、飲み物を持った大助が戻ってきた。
「雅羅、グレム。ほら、飲み物。あまり無理して倒れるなよ。只でさえ日光で暑いんだ」
「ありがとう」
「珍しく気が利くわね。でも、どうせならみんなの分、買って来るべきじゃない?」
雅羅に礼を言われて照れている大助を見て、ちょっと不機嫌になったグレムがそう言うと、
「わかった。もう一回行ってくる」
大助はまたも飲み物を買いに走ることになったのだった。