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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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第8章「グランディオスの塔」
 
 
 東方大陸最北端。そこにそびえるグランディオスの塔は古来より魔族の拠点として時を刻んできた。
 その歴史の中では度々魔王という存在が現れ、そして時には人間と対立し、勇者と呼ばれる存在と戦う事もあった。
 そうした歴史の流れを追うように、また一つの勇者と魔王の物語が終焉を迎えようとしている――
 
 
「あ、大樹君だ。やっほ〜」
 意気込んで塔へとやって来た勇者達を最初に待ち受けていたのは神崎 輝(かんざき・ひかる)シエル・セアーズ(しえる・せあーず)だった。二人は篁 大樹の姿を見つけると大きく手を振り始める。
「輝にシエル! やっぱお前達も登場するんだ。っていうか二人は俺の事最初から知ってるんだな」
「何言ってるの。ボク達親友じゃない」
「そうよ。変な大樹君」
 今まで登場して来た人物は大樹の事を初対面か、あるいは勇者の仲間として認識している者ばかりだった。なので大樹個人としての交流がある設定となっているのは非常に珍しい例と言える。
「んで、二人はこんな所で何してんだ?」
「ん〜? それはねぇ……大樹君! 魔王様の敵である君達を通しはしないよ!」
 ビシッと指を突きつける輝。本物と比較すると若干テンションが高い。
「アハハ、楽しみだなぁ。ボク、大樹君とは一度戦ってみたかったんだよね」
「もちろん私もだよ、大樹君」
「シエル、お前ももしかして……?」
「待ってる間にいっぱい勉強しちゃった。お陰で沢山魔法を覚えたんだよ? ふふ……大樹君、勉強って面白いね〜」
「嘘だ! 俺の知ってるシエルはそんな事言わねぇ! 有り得ねぇ! こいつぁ偽者だ!!」
「ひど〜い! そんな事言う大樹君にはお仕置きなんだから! 炎と氷の合わせ技、お見舞いするよっ!」
 非常に信じがたく稀有な光景でやはりこれが現実では無いと感じざるを得ない状況だが、シエルの放った凍てつく炎が大樹へと襲い掛かる。
「げっ!? 本当にまともだ!」
「……大樹君、やっぱ馬鹿にしてるでしょ」
 
「ここで時間を無駄にする訳にはいかんな。私が喰い止めよう。皆は先に塔へ」
 妨害する輝達を対処する為、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が前に出た。彼女に続き、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)も弓を手に取る。
「ならワタシもここに残るわ! せっかく可愛い娘が相――コホン、エアーズを救ってもらった恩を返す機会だものね」
「何か不安な言葉が聞こえたけど……分かった、ここは二人に任せたぜ!」
 輝達の横を迂回し、塔の入り口へと向かう。だが輝の真横を通過する瞬間、その表情が微かに笑みを浮かべているのが見えた。
「瑠奈! 瑞樹!」
「はいっ!」
「ブレイジング・スター、空対地モード……砲撃開始!」
 輝の号令に応えて姿を隠していた神崎 瑠奈(かんざき・るな)一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が同時に姿を現す。瑞樹が展開している飛行翼の両翼から発射したミサイルが地上に降り注ぎ、その間を縫うようにして瑠奈が死角から刀で襲い掛かる。
「おわっ!? あぶねぇ!」
 当然地上にいた大樹達は散開を余儀なくされる。ミサイルが止む頃には、輝とシエルが塔の入り口を塞ぐように立ちはだかってしまった。
「ふふんっ。大樹君達の考える事はお見通しだよっ。ボク達を無視して塔に入るのは許さないんだから」
 入り口には二人が、どこか奇襲を狙える位置には瑠奈が。そして上空には瑞樹が待機している。特に瑞樹は先ほど発射したミサイル以外にも二門の六連ミサイルポッドと機晶キャノンで武装している。誰かが塔に侵入しようとしたらすぐにでもそれらを発射するつもりだ。
「動いたら撃ちます! というか撃ったら動きますよね? むしろ撃っていいですか?」
 上空でやけにうずうずしている火薬庫。非常に危険だ、色々と。
「さぁ、そろそろ戦おうよ、大樹君!」
 他の三人で動きを抑えた所で輝が大樹へと斬りかかる。戦斧の大きな一撃に対し、大樹は大剣を抜かざるを得なかった。
「くそっ、こうなりゃ……一発くらいは覚悟しろよ!」
「やっとやる気になってくれたね! それじゃ、行くよ!」
 
「頭を取られると不利……ならば、私が対抗しよう」
 上空の瑞樹を抑える為に小夜子がワイバーンに飛び乗る。飛翔を始めるワイバーンに向かい、瑞樹は砲撃を開始した。
「動きましたね? 今さら動いて無いと言っても通用しませんから。といいますか、発射」
 先ほど以上のミサイルが小夜子目掛けて襲い掛かるが、小夜子は巨大な盾、ラスターエスクードを構えて強引に接近する。防御を活かした戦いこそ小夜子の真骨頂だ。
「瑞樹ちゃんが危ない! こういう時は……サンダーブラスト!」
「小夜子ちゃんを護るわ! エアーズトップクラスの弓の腕……見せてあげる!」
「きゃっ! そっちが弓で来るなら、お返しっ!」
 空中戦をサポートする為にシエルが魔法を放ち、それを妨害する為にアルメリアがサイドワインダーをシエルに放つ。互いが互いの手を消して行く応酬の中、瑠奈はルイ・フリード(るい・ふりーど)への奇襲を繰り返していた。
「魔王様の邪魔は、誰にもさせないのです!」
 瑠奈の死角からの攻撃がルイを傷つける。だが各地を旅した歴戦の武道家であるルイは肉体を高め、上手く立ち回る事によりその傷を軽微なものにしていた。
「さぁどんどん来なさい! 私の鍛えられた肉体が全て受け止めてあげましょう!」
「……何か怖いのです。代わりにフラワシで、えいっ!」
 瑠奈のフラワシがルイの周囲を回る。そもそも瑠奈のフラワシは絵を描いたり回復したりといった補助的な役割しか出来ないのだが、出来ないなりに死角から触ったりする事で瑠奈の代わりに足止めを行うのだった。
 
 輝と大樹の戦いは互いが真正面から打ち合うものとなっていた。
「楽しいねぇっ、大樹君! こうやって戦うのも、さっ!」
「俺としてはとっとと……先に行かせて欲しいんだけど、なっ!」
 戦斧と大剣、パワー主体の二つの武器が再びぶつかり大きな音をたてる。
「だったら次で決めようよ。ボクの一撃……受け取ってよね!!」
 音速の一撃が大樹を襲う。その威力は鍔迫り合いになった大樹の剣を徐々に押すほどだ。
「くっ、舐めんじゃ……ねぇっ!」
 だが大樹も負けてはいない。そもそも両者は男同士だが、輝は女の子と間違われるほど華奢な人物だ。現実での輝はテクニック主体の戦いをする事からも分かる通り、単純なパワー比べでは大樹の方に分がある。ソニックブレードの威力を抑えきった大樹は逆に少しずつ戦斧を押し返し、最後は封印解凍で一気に押し切った。
「これで……どうだっ!!」
「わわっ! はぶっ!?」
 吹き飛んだ勢いで塔の壁に当たり、気を失ってしまう輝。するとそれを切っ掛けとして、シエル達三人の動きがぴたりと止まった。
「あ、あれ? 私今まで何を……あ、大樹君だ」
「ん? え〜っと、これってもしかして、正気に戻ったのか?」
 大樹の予想通り、輝を含めた四人は魔王軍に洗脳され、配下として使われていたらしい。その時の記憶はおぼろげにだが覚えているとの事だった。
「申し訳ありません、皆さん。ご迷惑をお掛けしまして」
「すみませんですにゃ〜」
 瑞樹と瑠奈が頭を下げる。ちなみに周囲は所々地面に穴が開いている。主に瑞樹のせいで。
「と、とりあえずさ! これから魔王を倒しに行くんでしょ? ボク達もついてくから、皆で頑張ろ〜!」
 輝が元気良く叫ぶ。ちなみにシンクでの加護を受けていない為に戦闘力が半減し、それにショックを受けるのはすぐ後の事だった。
 
 
 塔内部は螺旋階段が壁を伝うように作られていた。中心は所々が吹き抜けとなり、そこから飛行タイプの魔物が時折姿を見せている。
「今までの魔物とは雰囲気が違うな。考え無しに登ってはすぐに戦力を削られてしまうぞ」
 上を見上げた夏侯 淵(かこう・えん)の危惧はもっともだった。出来るだけ魔王との戦いを有利にする為、賢者ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がその頭脳で有効な手を導き出す。
「ここは役割を明確に分けるべきだな。魔王との戦闘を行う為に力を温存する者と、それらを護り、敵を食い止める者」
「なら下は俺達が引き受けてやるよ。その代わりお前達は勇者をエスコートしてやりな」
「菊が残るなら僕もやね」
 飛鳥 菊(あすか・きく)エミリオ・ザナッティ(えみりお・ざなってぃ)が最初に宣言する。それ以外にも飛鳥 桜(あすか・さくら)や壬生狼など、何人かが下層階の敵を引き止めて援護する形となった。
「それじゃ皆、ルカについて来て!」
 先頭のルカルカ・ルー(るかるか・るー)が走り、皆がそれに続く。途端に塔のあちこちにいた魔物が勇者達目掛けて襲いかかってきた。だがそれらは全て、下からの援護射撃が追い落としていく。
「出だしは順調。さて、どこから変わってくるかしら」
 
 ルカルカのつぶやきが形になりだしたのは、塔の半分ほどを過ぎた頃だった。これまで順調にきていた勇者達だったが、下からの援護が弱まっていくのと同時に徐々に強力な魔物が増えてきた為、その二つの要因によって急に進軍ペースが落ち始めてしまったのだ。
「くそっ、これじゃ進めねぇ! まだ先があるってのに……」
 魔物を吹き抜けに落としながら大樹が言う。今は大樹だけでなく、本来魔王と戦う人員だった者も剣を抜く事を余儀なくされていた。
「諦めるのはまだ早いわ!」
 そんな時、先頭で必死に道を切り開くルカルカが大樹を鼓舞した。
「勇者は困難にも屈さず、勇気を持って挑む者。その気持ちが、心に炎があるのなら誰だって勇者と呼ばれる資格がある」
 勇者は職業では無い。今この場にいる全員が勇者なのだ。そう言いたげなルカルカの言葉に応えるように、小夜子、アルメリア、ルイが他の者を護るように展開を始めた。
「ならば私はあなた達勇者を支える盾となろう。さぁ、ここは私達に任せて先に行け!」
「安心して。こんな敵くらいすぐに倒して合流してあげるから」
「その通りです! さぁ皆さんは魔王の下へ。そして勇気ある若者達で未来を手にして下さい!」
「皆……分かった、ここは任せたぜ。すぐに追いついて来いよ!」
 大樹の言葉を切っ掛けに、三人以外が上へと進む。残された小夜子達はこちらの数倍の敵相手に一歩も譲らず、この場所を死守する為に戦っていた。
「まったく、物好きな二人だ」
 小夜子の盾が三人への攻撃を防ぎ、盾越しの真空波が魔物の翼を断って地上へと落とす。
「それはお互い様じゃないかな。そんな小夜子ちゃんも嫌いじゃないけどね」
 アルメリアの矢が次々と空中の魔物に命中し、落下に他の魔物を巻き込む形で数を減らしていく。
「はっはっは! 私達は皆同じ気持ちなのですよ。勇者の為、皆さんの為、全力を尽くしましょう!」
 ルイの正拳が魔物の顔面を捉え、さらに回し蹴りで螺旋階段から蹴り落とす。
「そうだな。二人とも、この戦いが終わったら……一度聖都に遊びに来ると良い。その時は歓迎しよう」
「本当? それじゃあその時は美味しいお店でお茶しようね」
「良いですな。 ご招待頂ければすぐにでも飛んで行きますよ!」
 三人の勇者の戦いは続く。彼らが希望を託した勇者達。その道を助ける為に――