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とりかえばや男の娘 二回

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とりかえばや男の娘 二回

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 静かな夜だ……。

 張番所の中で夜食を食べながら、藤岡琢磨は思った。彼は、この奉行所に勤務する牢屋同心だ。
 いつもなら、聞こえてくる新入りの泣き叫ぶ声も、今日はほとんど聞こえてこない。毎晩のように繰り返される牢名主の新入りいびりも、今日は休みのようだ。いつもこんな風ならいいのに……。
 そう思いつつ、琢磨が大あくびをした、その時。

 パア……ン!

 突然、どこからか銃声が聞こえて来た。
「なんだ?」
 と、琢磨は立ち上がる。
 明らかに銃声だった。何者かが侵入したと思われる。
「誰だ?」
 琢磨は、番所の外に出た。しかし、誰もいないようだ。

 気のせいか? いや、そんなはずはない。あれほどはっきり銃声が鳴ったのだ。

 ……それにしても、変だ。
 と、琢磨は首をかしげる。
 ……あんな派手な音が聞こえたのに、同僚が一人も飛び出してこない。牢の方も相変わらず、静かだ……いや、静かすぎる……!
 
 ようやく、琢磨が『異変』に気付いた時には既に遅かった。背後から何者かに襲われ、口と手を押さえられた。そして……。
 木にくくりつけられた琢磨の顔をカレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)が覗き込む。その手にはパッフェルカスタムが握られている。
「お……お前が銃声の主か?」
 尋ねる琢磨にカレンデュラはうなずいた。
「そうさ。驚かせて悪かったな、兄さん。リュンリュンはどこにいる?」
「リュ……リュンリュン?」
「ああ。青みがかった黒髪の女の子が、連れてこられただろ?」
「ああ。奈落人を操ったとかいうあの美人か? お前達はあの娘の仲間なのか?」
「そうだ。リュンリュン(竜胆)を閉じ込めるなんて許せねえ! リュンリュンはうす汚い牢より空の下が一番だ!! だから、助けに来たんだぜ」
「馬鹿な奴らだな。牢破りは重罪だという事は知っているだろう?」
「それくらい分かってるさ」
 大岡永谷が顔をのぞかせる。
「けど、俺は今回のことには、裏があると思うんだ」
「裏だと?」
「そうだ。そいつらの狙いは、竜胆の処刑が目的で、真実はどうでもいいんだろう。そんな状況で、竜胆を殺させるなんて許せないと思うから、全力を尽くすぜ」
「そうだ。ヤーヤー(ヤーヴェ)って奴もリュンリュンを狙ってるしな。ここは速めに救出して屋敷から去るのが一番だ」
 カレンデュラはうなずいた。
「だから、リュンリュンの居場所を教えてくれ」
「ふん。私も役人の端くれだ。牢破りの片棒が担げると思うか?」
 すると、カレンデュラは琢磨の首にパッフェルカスタムを突きつけて言った。
「おとなしく吐いた方がいいぜ。じゃないと、こいつがパア……ンと火を噴くかも」
 その言葉に琢磨が青ざめる。
「わ…分かった。じ……実は、私も、この件は何か怪しいと思っているんだ。だから、特別に教えてやる。お前らの探してる娘は、奉行所脇の特別牢に入れられている」
「奉行所? ここも奉行所内だろう?」
 カレンデュラの言葉に琢磨は首を振った。
「確かにここ全体をさして奉行所というが、私の言う奉行所は奉行が住んでいる屋敷をさしているのだ。ここから、南へ中庭を突っ切った所にある大きな屋敷だ。その屋敷を抜けた所に特別牢はある」
「分かったぜ。ありがとうな、兄さん」
 カレンデュラがうなずくと、どこからかリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が現れて、琢磨に近づいて来た。
 その右目はドラゴンアーツで龍の瞳になっており、両手の甲にはヒロイックアサルトで織田家の家紋が浮かび上がり、超感覚で大きな犬耳と1mある長い尻尾が生えていた。
「あ……あわわわ」
 その姿を見て怯える琢磨の肩に手を当てると、リアトリスは吸精幻夜でその首筋に噛み付いた。
「な……」
 驚く琢磨の血をリアトリスは吸っていく。琢磨の思考が混乱し始める。そして、琢磨はがっくりとうなだれた。
「これで、しばらくは助けを呼んだりできないと思うよ」
 リアトリスはそう言って立ち上がると、口に残った血をペッペッと吐き出した。
「どうしたんだ?」
 たずねるカレンデュラにリアトリスは答える。
「うん。この人の血、塩分高めの料理を食べていたせいかしょっぱいんだ……」
 確かに琢磨の食べ残したうどんのつゆは真っ黒で、いかにも塩分が高そうだった。
「口直ししなきゃ」
 リアトリスは持って来たバター茶を飲んで気分をリフレッシュ。それから、竜胆のいる牢へと移動し始めた。