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ここはパラ実プリズン~大脱走!!~

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ここはパラ実プリズン~大脱走!!~

リアクション

   7

 ――ヴァウ!! ヴァウヴァウヴァウ!!

 三頭の賢狼に囲まれ、アイザックは壁際に追いつめられていた。
「さあっ、大人しく捕まりなさい!」
 ビシッ! と人差し指を突きつけたのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。彼女とパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、絶対に脱獄するはずのアイザックとウィリアムを捕まえようと、あらゆる手段を講じていた。
 眠らされそうになったら【不寝番】、姿を消したら賢狼、もし飛んで逃げたら【タービュランス】といった具合だ。更に騒ぎが起きたときは陽動作戦であると踏んで、じっと我慢していた。
 その甲斐はあった。アイザックは姿を消していたわけではないが、臭いを覚えていた賢狼たちが反応し、見つけ出すことが出来た。
「パートナーはどうしたの!?」
「ウィルのこと?」
「他にいる!?」
「さあ。途中で別れたからなあ。もう逃げてるんじゃないかな」
「フザケないでよ!」
「待ってください、アイザックさん。この火事は、計画の内だったんですか?」
 カッカしている美羽を遮り、ベアトリーチェが尋ねた。
「何でそんなことを?」
「これまで、【サイコメトリ】でも何でも、脱獄の計画は一切見つかりませんでした。この計画、あなた方は知らなかったんじゃありませんか?」
 くすっとアイザックは笑った。
「確かに僕らは何も知らされていなかった。そもそも捕まった時点で、おしまいだと思っていたしね」
「おしまいって……刑務所に入っても知らん顔ですか!?」
 ベアトリーチェが唖然とする。「一体、あなた方の仲間って……」
「仲間とはちょっと違う。手段が同じだけで、目的は違うから」
「つまり、目的の異なる人々が集まった――より仕事をしやすくするために? 個人より、大勢の方がやりやすいから?」
「雇われたと言ってもいいかもしれない。僕にはやりたいことがあった。その方法を教えてくれて、手段を与えてくれた」
「――それが、黒幕」
「そう。だから捕まったときは、自己責任でという決まりだった。まさか、助けが来るとは思っていなかったんだよ」
「そう! その仲間は!?」
「さあ」
 アイザックは美羽に肩を竦めて見せた。
「やることがあるからと出て行った。この火事は多分、彼の仕業だろう。――僕の知っていることは、それぐらいだよ。さあ、捕まえるなら捕まえればいい」
 美羽とベアトリーチェは顔を見合わせた。
「随分、大人しくない?」
「僕は一介の元学生だからね。抵抗しても、たかが知れている」
 ベアトリーチェがハッと息を飲む。
「時間稼ぎですか?」
 アイザックはにっこり笑った。
「【サイコメトリ】で調べても無駄だよ。僕は何も知らない。聞かされていない。ウィルは多分逃げるだろう」
「冗談じゃないわよ!! 何が何でも、爆破犯を捕まえるって決めてたんだから!」
「僕で我慢してくれないかな」
 美羽の怒りは治まらず、出来ればアイザックを一発か二発蹴りたいようであったが、無抵抗の相手に暴力を振るうわけにはいかない。
 ベアトリーチェはアイザックの両手に手錠をはめながら、これからこの人はどうするんだろうと思っていた。
 その様子を少し離れたところから眺めていた人物がいる。セリオス・ヒューレーだ。
 アイザックとウィリアムを追跡し、黒幕か仲間と合流するところを一網打尽にするつもりでつけていたが、無駄になってしまった。今更どうすることも出来ず、クローラの方がうまくいっていればいいけど、と考えていた。


 狭い場所での戦闘は、紫月 唯斗の得意とするところである。
 だが、今度ばかりは勝手が違っていた。
 受刑者がスプリンクラーを壊していったため、独房の消火は遅々として進んでいなかった。それでもいくつかは作動しているようで、廊下と牢内は水浸しだ。その上を移動すると、身軽な唯斗でもパシャパシャ音を立ててしまう。
 どこかの部屋からは、煙が流れ出ている。室内のマットレスや小物など、燃料になる物が燃え尽きたら、消えるだろうか? その前に隣に燃え移るだろうか?
 そう考えただけでぞっとし、唯斗は短期勝負に持ち込む気でいた。
【神速】と【軽身功】でスピードを上げ、更に装備で素早く動けるようにした。おかげでゲドーの【ファイアストーム】や【雷術】は避けられたが、こちらから攻撃しようとすると、傍にいるレイスの不気味さに近寄れないでいる。
 身の毛もよだつ気分でいると、【エンドレス・ナイトメア】を食らってしまった。今は頭の中からガンガンと五寸釘を打たれているような気分だ。目がチカチカして、吐き気もある。
 ひょっとするとゲドーは、唯斗が最も苦手なタイプかもしれなかった。
「おいおい忍者ちゃ〜ん、どうしたどうしたかも〜ん?」
 ひゃっひゃっひゃっと笑うゲドーの姿さえ不快だ。――いや、これは元からか。
 こんな時、仲間がいれば――と後悔する。戦力を分担させたのが仇になった。近づけさえすれば――。
 パキリ、と小さな音がした。
「……何だ?」
 ゲドーが眉を上げた。唯斗もそれに気が付いた。空気が振動している。
 その振動が次第に大きくなっていく。目に見えないが、何かが荒れ狂っているのが分かった。唯斗のポータラカマスクにも衝撃があった。
 しかし、より酷かったのはゲドーだ。傍らのアンデッドが耐え切れずに倒れた。
「おいおいおい!? 何だこれ!?」
 ゲドーは身を伏せた。しかし、その振動が彼の体にぶつかり、腕で頭を抱えて堪えるしかなかった。
「――【カタクリズム】か!」
 サイコキネシスの嵐が、ゲドーとレイスを襲う。バシッ、バシッ、バシッ、と見えない鞭で叩かれているようだ。
 やがてその嵐が通り過ぎ、静かになった。と、唯斗がゲドーの目の前にいた。
「……や、やあ、忍者ちゃん。その恰好、素敵ネ」
 ゲドーはにーっこり満面の笑みを浮かべた。もちろん、効果はなかった。
 渾身の力を込めた【鳳凰の拳】を叩きこまれ、ゲドーは壁に激突した。目玉と舌が飛び出し、唯斗が離れると壁をずるりと落ちて行った。
「……折れたかな」
「そうだろうな」
 壁に開いた穴を見て、クローラ・テレスコピウムは頷いた。
「助かったよ。危うくやられるところだった」
 唯斗は水浸しの廊下に尻をついた。正直、もう立ちたくなかった。
「ニコルソンを探しているんだが、知らないか?」
 え? と唯斗はクローラを見上げた。
「二人がどうかしたのか?」
「知らないのか? この男、ここだけでなく、特別房にも忍び込んだんだ」
「まさか――おい、お前、起きろ!」
 唯斗はゲドーの襟をつかんで前後に揺さぶったが、首がガクガクいうだけで、完全に目がイッている。
「何てこった……」
「この様子では、どういう計画か知るのは難しそうだな」
「【サイコメトリ】探せる奴を見つけてこよう……」
 クローラの持ってきた「戦乱の絆」で縛り上げ、ついでに機晶スタンガンでスキル封じを施した後、唯斗はゲドーの体を担ぎ、よいせよいせと唸りながら外へ向かった。