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こちらツァンダ公園前ゲームセンター

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こちらツァンダ公園前ゲームセンター

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<part3 持ち寄りコーナーは闇鍋のごとく>


 −−ゲームセンターなどに来たのは生まれて初めてだ。
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は正直戸惑っていた。そもそも娯楽施設に入ったこと自体がほとんどない。だから、ゲームセンターという単語は知り得ても、その実態は知らず、どんなものなのだろうと興味を覚えてやって来たのだが。
 ルールが理解できるのはプリント棍棒だけで、あとは皆目見当もつかない。仕方なく、店内をうろついて人のプレイを見物していた。

 真一郎は『リアル海底財宝探し』という立て看板が掲げられたコーナーにやって来た。
 どでかい水槽に水が満たされ、壺が五つ沈められている。水槽の中には獰猛そうなサメが何匹も泳いでいた。どんなゲームなのかと興味を惹かれて、真一郎は立ち止まる。
 鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)がデジタルビデオカメラで水槽を撮影している。彼女は店のプロモーションビデオをネットにアップするために、店内を撮って回っていた。といっても、ついでに珍プレイ集を作るのが本当の目的だったりするのだけれど。
 アトラクションの発案者であるカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、集まった客にルールを説明する。
「これは、実際に水に潜ってサメを避けながら、壺を一つ回収してくるゲームだよ。壺の中には豪華賞品が入ってるの。でも、五つのうち四つには毒ウミヘビが待ってるから気をつけてね」
「随分リスキーなゲームだねー」
 翔子はビデオカメラをズームアップし、画面の中央に壺をとらえた。
「それぐらいスリルがあった方が楽しいでしょ? 相棒にデモプレイをさせるから、みんなしっかり見ててね。ジュレ、お願い!」
 カレンの合図に応じ、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が前に進み出た。小柄な体にオモチャのようなスウェットスーツを身に着け、ちんまりとして可愛らしい。
「デモを担当するジュレール・リーヴェンディだ。先にゲームの攻略法を少し教えてやろう。まず言っておくが、このゲームは他のぬるいゲームのように何度もミスが許されるわけではない。このゲームの残樹は1だ」
「1ってつまり……」
 翔子がごくりと唾を飲んだ。
「もちろん自分の命だ。命は一つしかないかけがえのないものだと学校で教わっただろう。サメに喰われたらゲームオーバーだから、とにかく捕まらぬよう感覚を研ぎ澄ませ。あと、知らぬ馬鹿はおらぬと思うが、サメの弱点は鼻面だ。このゲームでは武器の持ち込みは禁止なので、追いつかれたらサメの鼻面を殴りつけろ」
 ジュレールは空中で拳をぶんぶんと振った。翔子が質問する。
「毒ウミヘビが入ってる壺を見分けるコツは?」
「神に祈れ」
「そんな無茶な!」
「無茶ではない。その証拠に我がクリアしてみせよう」
 ジュレールは跳躍し、宙返りして水槽に飛び込んだ。派手に水しぶきが跳ね上がる。ジュレールは華麗にサメのあいだをかいくぐり、水槽の底に潜った。壺を抱えて浮上し、水槽の外に跳ね出る。
「さてさて、当たりか外れか……」
 ジュレールは壺の口からコルク栓を抜いた。うなり声を上げてウミヘビが飛び出してくる。ジュレールはウミヘビの尻尾を掴んで振り回し、頭を床に叩きつけて気絶させる。
 カレンは代わりのウミヘビを入れた壺を水槽に沈めた。ジュレールが観客たちに視線を巡らす。
「さあ、誰かやってみる者はいないか。ん? そこのお前、挑戦したそうだな?」
「え? え?」
 最前列にいた少年に白羽の矢が立った。
「ぼ、僕はいいですよ! なんか怖いし!」
「そうか、武者震いするほど挑戦したいのか。なるほどな」
「大丈夫、ジュレがサポートしてくれるよ」
 ジュレールとカレンは少年を捕まえてスウェットスーツを着せた。少年を水槽に投げ込み、ジュレールも後を追う。水中でもがく少年。異変に気付いてサメが迫ってくる。殴るジュレール。噛まれる少年。
「これは凄いよ! ネットで凄い話題になりそうだよ!」
 翔子は大喜びで水槽の中の死闘を撮影した。
 ……これは自分には向いていなさそうだ。
 真一郎はそう思い、そっとその場を後にした。

 真一郎は『ハイパーろくりんピック』というゲーム機の前に移動した。
 筐体を持ち込んだネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、客の長原 淳二(ながはら・じゅんじ)と椅子を並べて遊び方を教えている。
「これはね、いろんな競技がコレクションされたバラエティゲームなんだよっ! 連打が基本だから、だいたい一番端っこのボタンだけを使うの。競技は『七夕笹飾り君投げ』と、『ざんすかクラッシュ』、『大荒野タネモミ奪取』、『リザーブ・ウォー』、『アクション居合い斬り』の五種類。どれかやってみる?」
「そうですね。じゃあ、『七夕笹飾り君投げ』というのを」
 淳二は台上のスティックをひねってミニゲームを選択した。
「これは連打でパワーを溜めて、投げる角度を最後にボタンを押す時間で決めるの。できるだけ高くまで飛ばして、いいターゲットを射落とせたらポイントが上がるんだよ。せっかくだから、あたしも参戦するね!」
「はい、勝負しましょう」
 二人は各自のボタンに指を載せて待機した。画面で秒読みが始まる。
 −−3、2、1、START!
「てやああああああああ!」
「うおおおおおおおおお!」
 二人の指がボタンを連打する。契約者の持つ力を無駄に発揮して、某名人など比較にならない速度で連打する。もはや残像すら見える手さばきに、後ろで眺めていた真一郎は感嘆の声を漏らした。
 分割された二人の画面で、それぞれの七夕笹飾りくんが投擲される。夜空を吹っ飛ぶ七夕飾りくん。雲海を抜け、渡り鳥の群れを弾き散らし、さらに高く高く飛ぶ。
「やたー! 人工衛星ぶっ壊したよ−!」
「こっちは太陽を破壊しましたよー!」
 ネージュと淳二が歓声を上げる。
 人工衛星のかけらがデブリと化し、軌道上の人工衛星を次々と砕いていった。地球に火の雨が降り注ぐ。
 太陽が破壊された方の画面では、太陽が爆発して炎を吹き散らし、水星、金星、と次々と惑星を呑み込んでいった。妙にリアルな映像で迫力がある。
 二人が熱中してゲームする様子を、真一郎は微笑みながら眺めた。


 Bump Bump Revolution、通称BBR。それは各種受け身を取ってパネルを叩くという、斬新なリズムゲームである。明らかに例のダンスゲームのパクリなうえ、なぜ作ったのか不明な仕様から、迷作音楽アクションとしてマニアのあいだでは名高い。
 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)はそのBBRの筐体を持ち込み、自ら華麗にプレイしていた。パフォーマーとしての経験や、超感覚、フラワシまで駆使して、パネルの上で舞う。跳ねる。首で立って逆さまジャンプまでやってのける。
 見事な受け身が決まる度、観客のあいだからは大きな歓声が上がった。それを見ていた真一郎がつぶやく。
「わざわざ受け身を取る必要はあるんですかね……?」
 フィーアの動きがぴたりと止まった。立ち上がって腰に両手を当てる。
「僕も今そう思っていた! 普通に足で押せばいいよな! 僕はBBRにこの言葉を捧げよう!」
 一息吸って。
「すべてが意味ないな!」
 フィーアの笑いがゲームセンターの一角に響いた。

 バイトとして店に入った朱野 芹香(あけの・せりか)は、サッカーゴールを持ち込んで『PKチャレンジ』というアトラクションを取り仕切っていた。キーパー役は、百合園サッカー部のスーパーGKと恐れられた芹香自身。
 今も、客が放ったシュートを芹香が止めたところだった。
「さあ、次は誰!? こんなシュートじゃ芹香の守備は破れないよ!」
 客たちは顔を見合わせる。これで連続百二十回のセーブ、無失点だ。
「じゃ、俺が挑戦するぜ!」
 山葉 聡(やまは・さとし)が自分を親指で指差して申し出た。最初はブラッディグラップル3のコーナーにいたのだが、誰も遊んでくれないので寂しくなってこっちに来たのだ。
「だが、俺が勝ったらあんたに俺とデートしてもらう。どうだ?」
「悪いけど男に興味はないよ。景品は用意してるから頑張って」
「ち、まあそれでもいいけどよ」
 芹香が聡にサッカーボールを投げてよこした。聡は精神を集中させ、丹田に力を込める。胸の前で十字を切り、準備万端。右脚を後ろの高々と振り上げ、遠心力を利用して振り抜く。
 鋭いシュートが放たれた。ボールは弓なりに走り、ゴールの隅ぎりぎりへと突き進む。芹香の長身が跳んだ。伸ばされた両手が、がっちりとボールを掴む。軽やかな破裂音。
「ふふ、なかなかいいシュートだったけど、僕には通用しないね!」
 芹香は不敵な笑みを浮かべた。


「なんでお客が寄り付かないのかしら? おっかしいわね〜」
 ラブ・リトル(らぶ・りとる)は自分の持ち込んだ筐体の前で膨れていた。
「……当然なのではないか? このゲームでは」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は筐体をちらりと見やる。
 その名も『監獄史大戦』。けばけばしい黄色と黒の警告色が筐体に塗られ、スピーカーはやたらと悲鳴が聞こえているし、画面では老若男女が無差別に撃たれている。なんだかもう、近づいてはいけないオーラが出まくりだった。
「これは知る人ぞ知る伝説のカードゲームなのよ! 実在の犯罪者がプリントされたカードでデッキを作って、要人の暗殺から銀行強盗まで、ありとあらゆる犯罪にチャレンジするの! あまりの危なさに制作会社が業務停止処分! 筐体は即日撤去! あったのになかったことにされた最凶の犯罪ゲーム! それなのになぜみんな飛びつかないの!?」
「なぜ飛びつくと思うのかが疑問だ。これは公共の場に置くのは問題があるのではないか? 年齢制限とか……」
「R18指定ならされてないわよ! 会社の経営陣が法律とか規則とか大嫌いで、審査すら受けてないから!」
 聞けば聞くほど危険なゲームだった。
 ラブは腕組みして首をひねる。
「一般の客はしたがらないとしても、モヒカンたちは大喜びでプレイすると思うんだけどなあ。あ、そっか」
 目を見開き、ハーティオンをびしっと指差す。
「ハーティオンがいけないのよ。そんなごつい体で警備ロボみたいに仁王立ちしてるから! モヒカンが怖がって近寄れないじゃない!」
「私のせいなのか……?」
 ハーティオンは自分の体を見下ろした。彼は日本の古代遺跡から発掘されたロボットである。それもアンドロイドではなく、合体する系の巨大ロボを縮小したような外見。縮小したといってもその身長は三メートル近くあり、周囲に及ぼす威圧感もはなはだしい。
「そうよ。ちょっと店先で客引きしてきて」
「分かった」
「あ、忘れてた! これも!」
 ラブは段ボールの中から電飾を取りだしてハーティオンに渡した。
「これを体に巻いて、雷術でピカピカ光らせるの。犯罪ゲームで暗いイメージがあるかもしれないから、明るい感じにイメージアップするのよ。レッツゴー!」
 −−このゲームには誰も近寄らないように客を誘導せねばな。
 ハーティオンはそう思いながら店外の方へと歩き出した。


 『監獄史大戦』の隣には、もう一つ危険な筐体が設置されていた。『波羅蜜多挫悪奴2』である。
「こっちこっち! 雅羅ちゃんにお勧めのガンシューティングがあるのよ! 一緒に遊ぼ!」
 筐体を持ち込んだ想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の手を引いてやって来る。
「あら、ガンシューティング? 言っておくけど私、銃の扱いにかけては誰にも負けないわよ」
 雅羅は豊かな金髪を手の平ですいて背中になびかせる。
 二人は筐体の前面に置いてあったガンコントローラを握った。瑠兎子の義弟の想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が、投入口にコインを入れて操作の説明をする。
「攻撃は敵に向かって撃つだけ。画面の外に銃口を向けて撃つと、リロードできるよ。サブウェポンを拾うと、その武器を使える。火炎放射器は銃身の左のスイッチ、手榴弾は右のスイッチで使えるよ。マシンガンを拾ったら、弾がなくなるまで大口径弾で連射できるからね」
「分かったわ」
 雅羅はうなずいてガンコンを構えた。
 画面に『START!』と文字が飛び出した。ヒャッハー! という喚声と共に、大量のモヒカンたちがわらわらと沸いてくる。雅羅はほとんど腕を動かさずに、細かい動きでモヒカンを屠っていった。
「さすがね、雅羅ちゃん! 本当のドンパチだけじゃなくてゲームの方も得意なのね!」
「当然よ!」
 瑠兎子と雅羅は言葉を交わしつつも、その目は画面から離れない。スピーカーはモヒカンたちの悲鳴を鳴り響かせる。そして、現実のモヒカンたちが店のどこかから走ってきた。
「おい、こっちから仲間の悲鳴がするぜ!」「誰か知らねえが相手にはたっぷりお礼しねえとな!」「ひゃはー」
 そう、この『波羅蜜多挫悪奴2』が危険とされるのは、ごきぶりホイホイのごとくパラ実生を引き寄せるからなのだった。そのせいでこのゲームが置かれた施設ではトラブルが絶えず、筐体は全国から姿を消したのである。
「おいおいてめえら、俺らの仲間になにしてやがった!? 死体がねえが隠したな!?」
 モヒカンの一人が怒鳴りつける。雅羅はモヒカンを睨んだ。
「なに言ってるの。ただのゲームよ」
「ただのゲーム!? 俺らを殺すのがゲームだったと!? てめえ許さねえ! とりあえず、ひゃくまんえん寄こしな!」
「めんどくさい連中ね……。ここで暴れるわけにもいかないし……」
 雅羅は腰のホルスターに一度目をやったが、手には取らずため息をつく。
「そんなときのために、このゲームにはとっておきの機能があるのよ、雅羅ちゃん。なんとガンコンが超強力なエアガンになってるの! 今マシンガンを拾ったばかりだから、連射もできるわ!」
 瑠兎子はモヒカンに向かってガンコンを構えた。
「そう、それは好都合だわ。あなたたち、覚悟はできてるわよね!?」
 雅羅も銃口をモヒカンに向ける。
 ゲームではない本物のモヒカンの悲鳴が響き渡った。


 たいむちゃんの着ぐるみを着たスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)と、ウサギ型のゆる族であるアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)。バイトとして店に入った二人は目下、凶悪な子供たちの集団に囲まれていた。
 最初は平和なものだったのだ。二人が持っている風船を頂戴とか、サービスの飴を頂戴とか、そんな幼げな要求をされ、二人ともニコニコしながら配っていた。
 だがそのうち子供たちが増長しだして……、なぜか今の二人は子供たちに殴られまくっていた。腹を殴る子供。膝を蹴る子供。尻に浣腸を喰らわす子供。華麗な三回転ジャンプキックでスレヴィのうなじを襲う子供までいる。
「ちょ、ちょっと皆さんー! やめてくださいー! あ、いや、やめてピョン!」
 アレフティナは兎キャラを作りながら叫んだ。
 スポーツ刈りの子供が拳を固める。
「俺はやめねえ! これは俺の戦いなんだ! 誰にも邪魔はさせねえ! たとえお天道さまにもな!」
「なんでお前らそんなに本気なんだよ! じゃなくて、本気なんだウサ!?」
 スレヴィは子供のジャブをかわす。着ぐるみで守られているとはいえ、妙に子供たちの攻撃力が高くて衝撃も侮れない。
「それは自分の胸に聞きな! みんな、力を合わせて行くぞ! これが俺たちの全力だああああ!」
 子供たちがときの声を上げて一斉に襲いかかってくる。
「いい加減にしろ!」
「してください!」
 スレヴィはベアハッグで、アレフティナは当て身で子供たちを次々と昏倒させた。アレフティナは床に伸びた子供たちを困って見下ろす。
「どうします……、これ。店長に見つかったら怒られますよー」
「証拠隠滅だ! さっきもらった薬を試してみようぜ」
 スレヴィはスポーツ刈りの口に錠剤を飲ませた。途端、少年はぬいぐるみに変化する。殴ってこないから普通に子供らしくて可愛らしい。
「いい感じだな。花と一緒に店の外に飾り付けようぜ。販促になっていいだろ」
「バレたらもっと怒られそうな気がしますけど……」
 アレフティナは危ぶんだが、他に良案もないので仕方なく従った。