リアクション
与えよ、されば、報われん 「つまり、人に物を与えて、好きな物を奪えばいいってわけだ。うっしゃあ、簡単だぜえぃ!」 さる人物からもらった、パラ実新書『俺はこうしてパネェ幸せを手に入れたぜぇ』の表紙をバンバンと叩くと、南 鮪(みなみ・まぐろ)は、スパイクバイクにまたがった。荷台には、アイテムを詰めるだけ積んでいる。 「さあ、最高の一日の始まりだぜ!」 ★ ★ ★ 『最悪の一日……というわけじゃないか、まだ……』 目覚めたら、自分の頭の中だった。 「おう、気がついたか。このまま寝ててくれてもよかったんだが」 椎葉 諒(しいば・りょう)が、憑依して身体を借りている椎名 真(しいな・まこと)にむかって呼びかけた。端から見れば、まるで危ない独り言だ。 『それで、今日は、いったい何をするつもりなんだ?』 こう活発に動かれて、意識だけ寝ていられるかと、椎名真はため息にも似た意識を絞り出した。 「いやな、ナラカのバイト先の上司からレポート頼まれてしまってな」 『バイト!?』 いったいなんのバイトだと思ったが、聞くと怖いので椎名真はあえて訊ねなかった。 「なんでも、今パラミタでブームになってる物を調べてきてくれって話でな。ほら、ブームにどっぷりと浸かった奴らが、後五十年もすればナラカに落ちてくるだろう。すると、そいつらがハマっていた物がナラカでブームになるだろうって話なんだが」 そのままだとなんだか凄くまともな商売の話に聞こえなくもないが、ひどく気の長い話でもある。 『まあいい、協力してあげるよ。そうだなあ、ブームを調べるなら街に行くのが早いね。空京にでも行ってみるかい?』 「そいつはいいじゃないか。さっそく出発しよう。足…引っ張るんじゃないぞ」 『身体を動かしているのは諒だろう。くれぐれも転ばないでくれよ』 いつもの調子で意見をまとめると、椎名真(椎葉諒)は自宅を出発した。 ★ ★ ★ 「久々のヒラニプラじゃな」 ちょっとニコニコしながら、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)に言った。 「しばらく、ジュレにはメンテナンス受けさせてあげられなかったもんね。今日は、しっかりと看てもらおうね」 「うむ。いざというときに動けなかったりしては大変だからな」 そのとおりだと、ジュレール・リーヴェンディがうなずいた。 イルミンスール魔法学校からヒラニプラに行くには魔法の箒で飛んでいくのが最短距離ではあるが、直線ルートが安全とも限らない。それに、メンテナンスを受ける前に疲れてしまってはいけないだろうということで、二人はいったん空京に出て来たのだった。ここからであれば、鉄道を使ってヒラニプラまで楽に行くことができる。 「できたら、新しいレールガンなどほしいし、他にもこう光る……」 御機嫌でジュレール・リーヴェンディが機晶キャノン零式を振り回しながらおねだりを始めたときであった。 突然、けたたましいバイクのエンジン音が近づいてきた。 「光り物なら、これだぜえ!」 ホークアイで遠方から捉えたジュレール・リーヴェンディの唇の動きを読唇した南鮪が、カレン・クレスティアたちの前で勢いよくスパイクバイクを横にむけて止めた。 「な、何!?」 驚くカレン・クレスティアを尻目に、南鮪がジュレール・リーヴェンディの頭にカポンと光るモヒカンを被せた。 「な、何をする〜」 「じゃ、代わりにこれはいただいていくぜ。やったぜ、アイテムレベルアップだぜ!」 唖然とする、ジュレール・リーヴェンディの機晶キャノンを奪うと、南鮪は猛スピードで走り去って行ってしまった。 「ああ、我の機晶キャノンがあっ!!」 ジュレール・リーヴェンディが半べそで手をのばすが、すでに南鮪の姿は見えなくなっていた。 「はうぅ〜、なんてことにぃ〜」 「カレン、取り返すのだ!」 「うーん、どうしよう。新しいの買ってあげるから。その方がいいでしょ?」 「ぶーっ……」 被せられたモヒカンをプルプルふるわせながら、ジュレール・リーヴェンディが唸る。ちょっと位置がずれたモヒカンが、ぴかぴかと光った。 ★ ★ ★ 「いい天気。空京もすっかり秋よねえ」 「秋晴れだね」 のんびりと空京の大通りを連れ立って歩きながら、水神 樹(みなかみ・いつき)と水神 誠(みなかみ・まこと)の姉弟が青空を見あげた。大空に浮かぶパラミタ大陸は空が近いのか、空の青は鮮やかで濃い。 「それで、何を買うんだい?」 荷物持ちとして姉についてきた水神誠が、あらためて訊ねた。 「そうねえ、とりあえずは秋物の服かな。あわてずのんびりと、行きましょ」 |
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