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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン

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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン
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リアクション

 意気揚々と舞台へ出ていった友美を見送って控え室から出て行くと、天宮琴音のコスプレをした獅子神玲(ししがみ・あきら)が声をかけてきた。
「小谷友美さんでしたっけ? 何か話してたみたいですけど」
「ええ、ちょっと……ね」
 にやりと微笑むささらを見て、玲は首を傾げた。
「何か良いことあったんですか? というか、あの人の舞台、見なくていいんですか?」
「もちろん見たいですが、もう席は埋まっているでしょう?」
「ああ、それもそうでしたね」
 そう言って玲は良い匂いのする方へ顔を向けた。
「先ほどから、あっちに行列の出来ているお店があるんですよね……行ってきます」
「また食べる気ですか?」
「はい! だってお腹空きましたもん」

「ジャスティシアですの!」
 自信たっぷりにティセラを真似た友美。観客からの受けは微妙だったが、その堂々とした姿は好印象だった。
 しかし、十二星華のコスプレをしているのは友美一人ではなかった。
 リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は自分が引いたくじに書かれた文字を見て、まず初めに疑った。
「……サビク、ですか」
 十二星華であればシャムシエルのはずなのだが、どうやらこのくじが示す相手は隣にいる彼女らしい。
 一方のサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は『ミルザム』と書かれたくじを引いていた。とはいえ、今の彼女だとコスプレしにくいため、実際に着用するのはシリウスの踊り子衣装だ。
 最後にくじを引いたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は頬を引きつらせた。
「これは……マジでやるの?」
「もう引いてしまったのですから、やるしかありませんわ」
「うん、コスプレパーティーだしね」
 結果にさほど不満がないらしいリーブラとサビクを見て、シリウスは溜め息をついた。
 数分後、それぞれの衣装に着替えた三人は、あっという間に注目の的になった。
「おや、こんなところにもティセラが……」
「あれはもしかしてミルザム?」
「もう一人は……誰でしょう?」
 ざわざわと囁き合う人々。赤い髪のティセラを指さしては、先ほどの友美と比べる人々がほとんどだ。
 それを受けて、サビクはその場に立ち止まった。
「ミルザムがやらねば誰がやるっ!」
 と、観衆に向かって微妙に間違えた台詞を叫ぶ。ノリノリのようだが、わざとそう見せているだけのようにも見えた。
「サビクさん、何してるんですか!」
「え、だってコスプレってなりきるものでしょ? ねぇ、シリウス?」
 同意を求められたシリウスに視線が集まる。これはいわゆる、無茶ぶりである。シリウスはぐっと拳を握りしめた。
「……っ、ジャスティシアですの!」
 言った。やりきった。
 しかし、直後にシリウスは笑い出してしまう。
「ダメだ、これはオレのキャラじゃ絶対ムリ!」
 自分には似合わないと分かっていたため、ずっと耐えていたのだ。衣装の本人とは正反対の笑い声をあげる彼女だが、友美よりも十二星華を分かっている感じがした。その点では、こちらの方が良いかもしれない。
 リーブラはそんな彼女を宥めつつ、サビクへの対応に戸惑っていた。こちらを見ている人々は、コスプレコンテストにも通じる盛り上がりようだ。
「……はぁ、困りましたわ」
 溜め息をつくリーブラをよそに、サビクは再びミルザムになりきり始めていた。

 所戻ってコンテスト会場。
 様々な出場者がいる中で、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は全身真っ黒になっていた。魔法少女が失望するとなってしまうという、漆黒の魔女をイメージしたコスプレだ。
 ゴスロリとはまた違った衣装に、観客が沸いた。
 今のネージュはまさに、漆黒の魔女だった。
「思い知らせてあげる! 本当の混沌(カオス)を!!」
 愛らしい外見とは裏腹のコンセプト、友美にも負けない堂々とした姿、見事である。

 コンテストの最後に現われたのは一組の天使と悪魔だった。
 ふんわりしたミニスカートのワンピースをどちらも着ていたが、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は白で、頭には輪っかを、背にはやわらかな羽を着けていた。
 悪魔へ扮するのは神代明日香(かみしろ・あすか)だ。頭には角、尻に先端が三角形になったしっぽを着けている。
 すべて明日香の手作りだったため、サイズはぴったりだ。
「うぅ……やっぱり、ちょっと短すぎるのですぅ」
 と、観客を見渡してスカート丈を気にするエリザベート。
 明日香はにっこり微笑むと、彼女へ言った。
「大丈夫ですよ、十分に可愛いですから」
「……そ、そうは言ってもぉ」
 さすがにお年頃のエリザベートだ。恥ずかしくないわけがなかった。
 二人が舞台袖へ消え、残すは結果発表のみとなった。予想外にレベルが高かったため、審査員たちの評議は長引くことが予想された。

 コスプレコンテストを見ていた御神楽環菜(みかぐら・かんな)は、夫である御神楽陽太(みかぐら・ようた)へ言う。
「出なくて良かったみたいね」
 エリザベートやジェイダスが出場したのに、まさか環菜まで出ていたら大変なことになっていだろう。否、それはそれで盛り上がったかもしれないが。
「そうですね、環菜」
 と、陽太は笑う。すでに夫婦揃ってコスプレをしているだけで、二人には十分だった。
 席を立った環菜が時刻を確認しながら言う。
「結果発表までは時間があるわね」
「屋台で何か買って食べましょうか? ほら、さっきの行列がすごくて買えなかった屋台とか」
 言いながら立ち上がり、歩き出した妻の後を追う。
「いいわね。行きましょう」
 二人で並んで歩き出せば、自然と手と手が触れ合い、重なった。
 列車の運転手に扮した陽太と、車掌に扮した環菜。他と違う衣装のためか、周囲からの注目度は高かった。
 コンテストの結果発表を待つ間に、広場の方ではダンスタイムが始まっていた。
 屋台で買ったパンプキンパイと飲み物を手に、テーブル席へ座る。
「やっぱり子どもが多いわね」
「そうですね……お菓子がもらえるからでしょうか」
 ダンスをしている人間も、大人と子どもが半々くらいだ。
 その様子を見ていた陽太は、ふと彼女の視線を感じた。顔をそちらへ向ければ、何か言いたげな様子の環菜。
「どうかしましたか?」
「……べ、別に」
 と、ダンスをしている人々の方を気にする。
 陽太は彼女の言わんとするところに気づいて、にこっと微笑んだ。
「これが食べ終わったら、俺たちも踊りましょう」
 すると環菜も、はにかむように微笑んだ。
「ええ」
 結婚してからはいつだって手を取ることの出来る距離にいる。しかし、ハロウィンパーティーという特別な日常は一年に一度しか来ない。
 今日だからこそ出来ることがある。今日だからこそ、見ることの出来る笑顔も。