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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン

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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン
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空京(2)

 空京の賑わう町を歩く。
 魔女の格好をしたユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は、先ほどからちらちらと吸血鬼に扮した黒崎竜斗(くろさき・りゅうと)を見ていた。腕を組んで歩きたいのだが、恥ずかしくてなかなか行動に移せない。
 しかし、パーティーの中心部へ来るとさすがに人が多く、ユリナは混雑に便乗して竜斗と腕を組んだ。
「おっ」
 竜斗は驚いた様子だが、ユリナの表情を見て納得した。
「は、はぐれちゃわないように、と思って……」
「ああ、そうだな」
 たまにはこんな風にして歩くのもいいだろう。竜斗は彼女と組んだ腕から力を抜いた。
「トリックオアトリート!」
 ふと背後を振り返ると、お化けの仮装をしたリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)が道行く人からお菓子をもらっていた。そばにいたセクシーな黒猫姿のミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)もついでにお菓子を受け取っている。
「お兄ちゃん! ハロウィンって素敵なお祭りだね!」
 と、竜斗の視線に気づいたリゼルヴィアが駆けてくる。
「見てみて、こんなにお菓子もらっちゃった!」
 両腕いっぱいのお菓子に満足げなリゼルヴィア。
 ミリーネは自分の格好が恥ずかしいのか、やたらと人の目を気にしていた。
「や、やっぱりこの衣装はちょっと……」
 と、露出した肌を隠そうとする。
 別に似合っていないわけでもなく、むしろ人からしたら目の保養にしかならないのだが、恥ずかしがる気持ちも分かる。ユリナはミリーネを少し羨ましいと思いつつ、竜斗と絡めた腕に力を込めた。ぎゅっと距離が縮んで、心なし気分が落ち着いた。
 歩道のあちこちに出された露店を適当に見て回りつつ、浮かれる人々に混ざってパーティーを楽しむ。
 どんどん増えていくお菓子の数に、リゼルヴィアは終始笑顔を浮かべていた。
「お菓子だけじゃあれだし、そろそろ何か食うか?」
「あ、はい、そうですね……たくさんあって迷っちゃいますが」
「ハロウィンなんだし、それっぽいものがいいよな。パンプキン系の」
「主殿、それならあちらの方にそれらしき店が」
「そうか。じゃあ、行ってみよう」
 と、方向転換をしてのんびりと歩き出す。ハロウィンの喧騒が耳に心地良い。
 幸せというものは思ったよりも近くにあるものらしい。ユリナはそんなことを思いながら、竜斗の温もりを感じていた。

 幸せなカップルはここにもいた。
 死神の仮装をした神崎優(かんざき・ゆう)と、魔女の仮装をした神崎零(かんざき・れい)だ。
 さまざまな衣装を着た人々で賑わう街を歩きながら、零はふと尋ねた。
「ねぇ、この仮装……どうかな?」
 振り返った優は彼女を見て、素直に答えを返す。
「似合ってるし、とても可愛いと思う」
「……うん」
 魔女の仮装をする人たちの中で、自分だけ浮いているような気がしていた。しかし、優に可愛いと言ってもらえるだけで自信が持てる。
 照れながらもにこっと笑って、零は言い返した。
「優も、すごく似合ってるよ」
 すると優も嬉しそうな顔をした。
 さりげなく手をつなぎながら、二人でのんびり歩いて回る。いつもと違う街並み、人々。心が浮き足立つのは、隣に大好きな人がいるからだ。
「それにしても」
 と、優がふいに口を開いた。
 言葉の続きを待って零は彼の横顔を見る。
「俺たち、結婚したのに、いまだに恋人気分が抜けてないよな」
 目が合って、どちらともなく笑い出す。
「ええ、言われてみれば確かに」
「もう夫婦なのにな」
 それは決して悪いことではなかったが、妙な気分なのは確かだった。こうしてデートをしていても、恋人だった頃とあまり変わりないのだ。
「まぁ、嫌いじゃないけどな」
「ええ」
 しかし、それが優と零なのだろう。
 二人にっこり微笑みあって、ハロウィンを楽しんだ。


ツァンダ(4)

「今回こそ、今までの汚名を返上する必殺のお菓子を作り上げたいです。ルミーナさん、指導お願いしますっ!」
 と、頭をぺこりと下げるアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)
 ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)はにこっと頷き、お菓子作りの準備を始めた。
「では、簡単に出来る普通のクッキーを作りましょう」
「はい!」
 アイナは料理音痴だった。しかし、今回のハロウィンではルミーナの指導を受けて必殺のお菓子を作ろうとしていた。……何かおかしい気がするが、気にしてはいけない。
 クッキー生地をこね始めた彼女たちを見守るのは風祭隼人(かざまつり・はやと)。ルミーナのお菓子をゲットするのが目的だが、アイナの料理音痴が被害を出さないよう注意していた。

 一方、隼人の双子の兄である風祭優斗(かざまつり・ゆうと)は幽霊のコスプレをして、友人たちからお菓子をもらい歩いていた。
 魔女へ扮したミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)らも連れ立って歩いている。
「みんな用意がいいですね」
 と、ミルザムを見る優斗。
「そうですね、もうこんなに集まってしまいました」
 そう言って手に提げたかごへ視線を落とす。一時間前は空だったはずなのに、あっという間にお菓子で埋め尽くされている。
「あとでゆっくり食べましょう」
「はい、賛成です」
「私も賛成です」
「僕もー」
 テレサとミアも声を上げた。
 のんびりと帰路を歩きながら、ふと優斗はポケットから紙を取り出した。父である風祭天斗(かざまつり・てんと)より渡されたメモだ。神の言葉とやらが記されているらしいが……。
 足を止めた優斗は三人を見ると言った。
「トリックオアトリート! お菓子くれなきゃキスするぞ」
 三人の表情が固まる。
 渡す用の手作りお菓子を取り出したテレサとミアは、互いに目を合わせた。今、この人は何と言った?
「優斗さん……? 何か、間違えてはいませんか?」
 と、ミルザムもやや引き気味だ。
 テレサがぱくり、お菓子を食べてしまうとミアも真似をした。
「え? え、何で自分で食べるの?」
「こ、このお菓子は失敗作なんです! ですから、お渡しできるお菓子はありませんから……キスしていいですよ?」
 と、テレサ。
「僕もお腹が減ってたんだもん! だ、だからお菓子はあげないから、代わりに……キスしていいよ?」
 と、ミアまで言い始める。
 自分の失態に気づいた優斗がとっさにミルザムへ助けを求めようとすると、彼女は分かりやすく視線を逸らしていた。
「いや、あの、ミルザムさん、これは何かの間違いで――」
 言い訳をしようとする優斗。テレサとミアは口を尖らせると、すぐに彼の身柄を確保した。
「わわっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
 と、抵抗する優斗。キスするつもりはさらさら無い様子だ。テレサは優斗をその場に正座させた。
「幽霊さん、自分の発言には責任を持たなきゃいけないんですよ!」
「キスするって言った以上は、キスしなきゃいけないんだよ!」
「嘘つきは泥棒の始まりなんですよ!」
「嘘つきは犯罪者の始まりなんだよ!」
 同時に二人から責められ、見る見るうちに身を縮めていく優斗。
 ミルザムはその様子を見ながら、くすくすとおかしそうに笑っていた。

「出来ました! さっそく、味見してもらってきますね」
 と、アイナは出来立てのクッキーを数枚、手にして外へ出て行った。
 不安に思いながらもルミーナへ近づく隼人。
「ありがとう、ルミーナさん。これでアイナの料理音痴が少しでも良くなるといいんだけど」
「ふふ、そうですわね。でも、今日のクッキーは大丈夫だと思いますわ」
 そう言ってルミーナはクッキーを小袋へ詰め始めた。オレンジ色のリボンでラッピングをして、隼人へ手渡す。
「はい、どうぞ」

 外へ出るなり目に入ったのは、女性へ声をかけている天斗の姿だった。狼男の格好をしているだけに、何となくナンパが似合う。
 しかし、彼の発した言葉にアイナは耳を疑うことになる。
「トリックオアトリート! お菓子くれなきゃキスするぞ」
 もちろん、困惑の表情を向けてくる女性。
「ということで、そこの素敵なお嬢さん。お菓子はくれなくてもいいので、俺にキスさせてください」
「い、いいです……!」
 と、逃げられてしまう天斗。その二択は危険だということに、彼は何故気づかないのだろう。
 アイナは彼の元へ行くと、声をかけた。
「お菓子が欲しいなら、こちらをどうぞ」
「お、何だ。クッキーか」
 疑うことなく天斗はクッキーを口へ運んだ。見た目は普通だったが、味は……。
「!?」
 天斗の表情が嬉しそうに歪んだ。苦しみからか、はたまた喜びなのか、ものすごい表情だ。
「美味しいですか?」
 ぶんぶんと首を振る天斗。明らかな否定表現だったが、アイナは言った。
「さすがルミーナさん。さあ、あとはこれを優斗さんに渡して、あのバカ隼人を見返すだけですね!」
 同じ頃、屋内では隼人が天斗と同じ状態に陥っていた。しかし、隼人は愛しのルミーナへ笑顔を返すしかなかった。どうやらアイナの料理音痴はルミーナの腕でさえ治せないものらしい。
 そして数十分後、すっかり落ち込んだ優斗もまた、アイナの手により悲惨な体験をさせられることになるのだった……哀れ、風祭親子。