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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別

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第四十二篇:佐野 和輝×アニス・パラス×スノー・クライム×桜井 静香
 もしもパラミタのない世界があったら――これは、そんな世界での恋物語。
「これで文化祭の出し物は決定だね!」
 学級委員の一人桜井 静香(さくらい・しずか)は黒板を軽く叩いて、隣に立つもう一人の学級委員佐野 和輝(さの・かずき)に目配せした。
 学級委員を務める二人は、大変優秀であるとして知られている。
 そして、それと同時に恐ろしいほど仲が良いにも関わらず“親友”に留まっている二人としても知られているのだ。周囲の者たちは皆一様に「早く付き合えよ!!」とイライラしている。
 そして、和輝と静香の友人であるアニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)は二人の事情を知っているが、和輝が好きなために別の意味でイライラしている。
 そんな騒がしくも楽しい和輝の学園生活。さて、今日の騒動は――。
「和輝! アニスが来たよっ!」
 ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響いたと同時、アニスが和輝と静香の教室に飛び込んできたのだ。そして、そのまま和輝の胸にも飛び込む。
「まったく……しょうがないな」
 そう言って苦笑しながらも和輝はアニスの髪の毛を撫でてやる。
 これがいつものアニスの作戦だった。
 小柄で後輩という条件を利用して、和輝の膝の上に座ったり、我侭を言って二人が接する時間を奪う――。
 だが、子供または妹が出来たような感情を和輝と静香に抱かせてしまい、割り込むどころか逆により親密にさせてしまっているのだが、アニス当人は和輝に構ってもらえる嬉しさから気づいていない。
 すると、今度は二人のクラスメイトであるスノーが和輝と静香に声をかけた。和輝と静香を分断しようという、彼女なりの作戦だ。
「和輝、今日の授業で少しわからないところがあって……すまないけれど教えてくれないかしら? 静香、学級委員としての仕事を頼みたいのだけど――」
 だが、スノーが全てを言い終わるよりも早く、和輝と静香の仲を進展させたいクラスメイトたちが一斉に声を上げた。
「桜井さん! 俺、手伝うよ!」
「そうそう、あたしたちが手伝うからちゃっちゃと仕事を終わらせて、佐野くんと一緒に買い物にでも行きなよ」
 ――二人の仲を進展させたい者達が、静香の仕事を手伝うなどして効果なし。
 それがいつもの作戦結果だった。
「だ、か、ら……俺は静香と付き合う気はないっての!」
 そして、最終的には和輝が叫ぶ――これがいつものパターンである。
「ほう……そんな贅沢なことを言う輩はどこのどいつだ」
「静香ちゃんとの仲をふいにしようなど、なんたる狼藉か」
「あえて言おう……リア充爆発しろ!」
 不意に殺気を感じて振り返った和輝は戦慄した。彼のことを羨む男子生徒たちが、和輝のことを凄まじい形相で睨んでいたのだ。
 ある者は拳を鳴らし、ある者は木刀やバットを構え、ある者はチェーンを振り回している。
「頼むから……普通の学園生活を送らせてくれぇぇぇっっ!」
 和輝は全力疾走でとにかく逃げ出す。無論、追ってくる男子生徒たち。
「アニスを置いてかないでっ!」
「和輝、私を置いていかないわよね?」
 そして、アニスとスノーも追ってくる。
 気付けば大量の生徒たちに追われながら、和輝は今日も学校中を全力疾走していた。
 そんな騒がしくも楽しい和輝の学園生活。
 もしもパラミタのない世界があったら――これは、そんな世界での恋物語。