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リアクション
第1章 ラストの海の狩 story1
運転車両と2両分の修繕と内装工事を終えた魔列車は、ヴァイシャリー湖南の駅から、ヒラプニラへと駆けることが出来た。
しかし…残りの客車4両分は、いまだパラミタ内海の洞窟内に埋まったままだ。
発掘の様子を監督するべく、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は折りたたみ椅子に腰をかける。
「エリザベートちゃん、あったかーい紅茶をどうぞ♪」
神代 明日香(かみしろ・あすか)はミニテーブルにカップを置き、ティーポットでコポポ…と注ぎ淹れる。
「ありがとうございますぅ♪」
「最初の発掘からだいぶ経ちましたから、さすが少し冷えてきましたね」
暑い真夏の時期があっとゆう間に過ぎ、肌寒い季節になってきた。
少女の肩にコートをかけてやり、隣の椅子に座る。
「今日も食材を集めるんですかぁ?」
「えぇ、たくさん獲ってきますわ!!」
自信満々にミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が笑みを浮かべる。
「で、ルアーは俺なんだろ…」
その傍らで、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は海の底よりも深そうなため息をつく。
「他に適任者がいるとでも?」
「あぁ〜はいはい、やっぱりオレね…。やりゃあいいんでしょ、やりゃあ!あはは…はーっははははーー!!」
当然のように言うミカエラに諦めるしかないと悟った彼は、壊れたように大笑いし、男子用のテントへ駆け込んで水着に着替える。
釣竿に身体をゆわえると、パラミタ内海へドボンッとダイブした。
「―…エリザベートちゃん、もしかしてあの釣竿って……」
幼い校長の性格を知りつくしている明日香が、のんびりと寛ぎモードに入っている少女に声をかける。
「私がイコン用に、特注で頼みましたぁ〜♪」
現場で働いている者の労をねぎらうというよりも、自分が美味しいものをお腹いっぱい食べるために手配したのだ。
「そういうことにお金を使っちゃいけませんっ」
これにはさすがの明日香も、メッと叱るように顔を顰めた。
「レンタル用品の手配している時間があったら、ちゃんと現場監督しましょうね」
「新鮮な材料を調達するために必要不可欠なんですよぉ〜?皆さんが元気に働くためには、美味しいごはんも用意しなければいけないのですぅ〜!!」
獲物を獲ってくるのはテノーリオたちなのだが、エリザベートは反省する様子もなく、当然のように言い放つ。
パラミタ内海にやってきてからというもの、ますます贅沢に慣れてしまったせいか、わがままほうだいに振舞う。
「“食”こそが、生きていくうえでの大切な糧となるのですよ」
「おっしゃる通りです!そしてこの私が、獲れたて新鮮な食材で、皆さんの活力の元となる料理を作ってさしあげますっ」
砥いだばかりの包丁をきらめかせ、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が2人へ笑顔を向ける。
「ただでさえ発掘は重労働なんだし。せめてご飯くらい美味しくなきゃ、モチベーションが保てないだろうしな」
トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)も伊勢海老を素手で捕まえているテノーリオを眺めながら言う。
「はぁ…そういうものなんでしょうか」
上手く丸め込まれてしまったような感じがしつつも、明日香は頷いた。
大物を吊り上げようとミカエラはアイゼンティーゲルのサブパイロットとして搭乗し、機体の両手で巨大な釣竿を握る。
「クマは毛だらけですもの。毛ばり代わりに丁度いいですわね♪」
「数匹、こっちに向かってるぞ!」
ニャ〜ンズとイコンの距離を、トマスがモニターに表示する。
「ルアーっていうより、爪とぎに用の何かにされそうなんだけどーー!?」
いまにも鋭利なツメでじゃれつきそうな猫サメから逃れようと、必死な形相でテノーリオはバシャバシャと、設置網の方へ泳ぐ。
世界1のルアーとして生き様を見せる前に、くたーんと海に浮かぶのではと叫ぶ。
「あらあら、やっぱりクマのルアーはくいつきがよいですわね♪」
「まぁ、本当にくいつかれてるわけじゃないけどな」
パイロットの2人は竿を網の方へ動かしつつ、楽しそうにモニターを眺める。
「噛まれたら甘噛みどころじゃないだろ、これっ!!」
ちびっこならあむあむ、と可愛らしく噛むだけだろうが、成長したヤツはそうもいかない。
お口の中でギラリと輝く白い牙と、尖った爪で玩具にでもされた日には、ボロ雑巾どころじゃないだろう。
くねくねと左右に振られる釣り糸も、ニャ〜ンズにとっては目新しい玩具に見える。
「やばいな…イコンにじゃれるっていうより、釣り糸まで狙われているぞ」
「切られたらクマは玩具決定ですわね。そうなったらきっと、尾ビレでボールのように遊ばれてしまいますわ」
テノーリオにとっては危機的な状況なのだが、その弄ばれる姿をミカエラが想像する。
「気絶する前に、引き上げてあげましょう♪ウフフ、大漁ですわね」
網の前で竿を引くと、釣竿ごとテノーリオを浜辺へ置き、ニャ〜ンズを網に囲まれたプールへ放り込む。
「げっ、ミカエラ。網からニャ〜ンズが逃げ出してるんだけど!」
パートナーがルアー役の任務を完遂したのにも関わらず、尖った爪で網を破り逃げ出してしまった。
「このままでは、クマの努力が無駄になってしまいますわ!」
ミカエラはイコンで逃げようとするニャ〜ンズの尾ビレを掴み、子敬の方へ投げる。
「魯先生、後はよろしく!」
「これはまた、豪快な解体ショーですねっ」
トマスの声に我は射す光の閃刃を放ち、ぶつ切りにされた猫サメが、シートの上にボトボトと落ちる。
「うーむ、獲物は1匹ですか?」
「他のニャ〜ンズは逃げてしまったんですの」
海の底へ潜ってしまったニャ〜ンズを、モニターに映しながらミカエラが残念そうに言う。
距離的にもアイゼンでは、さすがに追えない位置まで逃げられてしまった。
「それでも、いろんな魚は確保出来たみたいですし。現場にいる方々の胃を満たすくらいの量はありそうですわ」
敗れた網に絡まっている魚たちを、そのまま浜辺の上に敷かれたシートへ置く。
「大きなサイズのヤツが1匹獲れたことですし。さっそく調理に取り掛かります!」
「これでやっと、新鮮なお刺身が食べられますねぇ♪」
監督として働いているといっても、ほとんど椅子に座ってのんびりしているだけのエリザベートが、にんまりと笑みを浮かべた。
「では、このお弁当…どうしましょうか?」
エリザベートのために作ってきたランチなのだが、食べてもらえないのではと、明日香はしょんぼりと俯いた。
「もちろん、いただきますよぉ♪」
まるで明日香のお弁当用の腹でもあるかのように、にっこりと微笑んで言う。
「私だけのために作ってきてくれたんですからねぇ〜」
「エリザベートちゃん専用のランチですよ♪お夕飯も作ってあげますからね」
「楽しみにしてますぅ〜」
自分だけのメイドさんのように扱っているようにも見えるが、お姉ちゃんに甘えている小さな妹のようにも見える。
紅茶の入った温かいカップで手を温めながら、パラミタ内海をのんびりと眺める。
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