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スリーピングホリデー

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スリーピングホリデー

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 空京の商店街を歩いていたヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、急に早川呼雪(はやかわ・こゆき)が眠ってしまって驚いた。すぐにお姫様抱っこして原因を探りに出てみたヘルだったが、すぐに掲示板へたどりついてしまった。
 今日は蕎麦を作ってみんなで食べるために買い物をしに来ていた。まだ物を買う前だったため良かったものの、ヘルがどんなにボケたおしても反応がないので寂しいだけだ。
「なるほど、この子が原因なんだね」
 と、ヘルは画面の中のミシェールを見つめた。幼い顔立ちからして背丈も小さそうだ。
「んー、女の子苛めるのは好きじゃないんだよねー。男の子いじるのは好きだけど☆」
 呟きながらコメント欄に文章を打ち込んでいく。

   *  *  *

57 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 14:06:30 ID:HeLAaujA
あ、空京商店街のモニュメント前でイチャイチャしてるカップル発見!
うわーラブラブだぁ☆

58 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 14:07:07 ID:M1Chel1E
むむ、その手には乗らないもんね☆
また捕まりそうになっちゃうwww

   *  *  *

「ダメかー……あれ?」
 すぐに来た返信を見て残念がったヘルは、そのすぐ後にチャットルームへの案内を見つけて目を丸くした。

   *  *  *

60 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 14:09:10 ID:M1Chel1E
うーん、チャットねぇ……
ゲーム内だったら得意なんだけどなー><

61 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 14:10:25 ID:Ga1zaCKd
他にも君と話したい人はいるだろう?
よければ来てくれないか?

62 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 14:11:46 ID:M1Chel1E
むむむ……そこまで言うなら分かったわ

   *  *  *

 チャットルームに入ってみると、思ったよりも多くの人がいた。ROM数はその倍だ。
 細心の注意を払いつつ、ミシェールはぴこぴことチャットを始めた。
 そんな彼女を気にする来栖だが、どうせ最後どうなるのかは予想がついていたため口出しはしない。
 それで居場所が割れようとも、それはすべてミシェール自身の責任だ。

「よぅ、マヤー」
 と、普段どおりに挨拶をする彼。
「何か分かったにゃっ?」
 いまだに動揺しているのか、マヤーの語尾がおかしい。
 構わずに唯斗は答えた。
「ああ、分かったよ。だからちょっと待ってな」
 と、階段を上がってトレルの自室を目指す。
 屋敷の中は先ほどまでに比べて、いくらか落ち着きを取り戻していた。使用人たちの手が空くことはないが、それぞれが状況に慣れてきたらしく、混乱はもうない。
 トレルの自室の扉を開けて、唯斗は八雲の反対側からその寝顔を覗き込んだ。
「ったく、可愛い顔して眠ってんな」
 と、笑う。
「それで、どうやったらトレルは目覚めるにゃ?」
「ん……ヒントは眠り姫、だってさ」
 はっとする八雲とマヤー。
 弥十郎は『精神感応』で兄へ伝えた。
『兄さん、眠り姫だって。だったらキスで……』
『黙ってろ』
『はい? だからキスで――』
 と、動揺する弥十郎に八雲ははっきりと言う。
『例えそうだとしても、相手の意識がないのにキスするのは不意打ちだ。フェアじゃない』
『むぅ……』
 せっかくの好機だというのに、八雲は真面目だった。
『やるなら、目が覚めてからだ』
 と、笑う。
『弥十郎……一番いいパンナコッタを頼む。起きたら、こいつに食わしてやりたい』
 すくっと立ち上がり、弥十郎は部屋を後にした。
 唯斗はトレルの頬をむにむにとつまんで遊んでいた。トレルは嫌がる様子を見せたが、目を覚ますことはない。
「……にゃ、にゃあ」
 ちらちらと八雲の方を見るマヤー。ヒントが分かったというのに、誰もそれを彼女へしないことが不思議でならなかった。否、自分がしてもいいのだろうかと悩んでいた。
 すると、ふいに唯斗がトレルから手を離し、呟いた。
「んじゃ、そろそろ起きる時間ですよっと」
 八雲とマヤーが耳を疑っている間に、唯斗はトレルの唇を奪ってしまう。
「!!」
「!?」
 ぱちっと目を開けるトレルお嬢様。
「よ、おはようトレル」
「…………っ、ゆいと!?」
 唇を襲った感触を思い出し、トレルは逃げるように上半身を起こした。直後に八雲の姿が目に入り、動揺する。
「う、うわ……ちょ、え、え!? 何でこんなところにいるの?」
 逃げ場がないことに気づき、トレルはベッドの上で身を縮めた。
「そりゃ、トレルが眠らされたって聞いたから、助けに来たに決まってんだろ」
 と、唯斗がさも当然のように言う。
 八雲はマヤーと目を合わせ、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。何かがおかしいぞ、この状況。
「俺は、俺の大事な奴は絶対に護るって決めてんだ」
「……は、はぁ」
「だから、どんなに些細なことでも、大事なトレルを放っておくわけないだろ」
 とても意味深な台詞だった。告白されているのかと疑うトレルだが、唯斗の表情はいつもと変わらない。それもそのはず、彼の「大事な」という言葉の後には「妹分の」という言葉があるからだ。しかし、その部分を抜いてしまえば伝わる思いも少し形を変えてしまう。
「……えーっと」
 と、トレルはその場にいる二人に視線をやってから、真っ赤になった頬を隠すように毛布を頭から被った。

『ワイルドペガサス』に乗って空を駆けていた宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)は、とある提案をするためにミシェールを探していた。
 街の人々を眠らせているのが彼女なら、これをもっと有効的に利用できないかと考えたのだ。しかも季節は冬、恋人たちのためのイベントが目白押しである。
 それらしき陰を探して、ひたすら走っていく祥子。

 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は走っていた。
 大切なパートナーであるミア・マハ(みあ・まは)を眠らされてしまい、ミシェールの挑発にわざと乗ってやったのだ。
「見つけたよ、ミシェール!」
 エヴァルトを撒いたと思ったら、今度は小さな女の子を背負った少女が追いかけてくる。
 ミシェールは来栖に顔を向けた。
「サー、あれやっちゃって」
「やってください、でしょう?」
「う、やってください」
「よろしい」
 と、来栖は頷いてレキの足元を狙って『氷術』を放つ。
「うわっ」
 とっさに足を止めて避けたレキ。相手には仲間がいるため、一筋縄ではいかなさそうだ。せめて、他の人たちと協力し合えたら……!