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再建、デスティニーランド!

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第三章

 少し離れたところでは、上半身はセーラー服の上着、下半身には白鳥のおもちゃを装着した天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)が大騒ぎを繰り広げていた。
「魔威破魔 三二一!! 貴様に物申す! グワァワワッ!」
「なっ、なんだよっ」
「普通のかわいいパンツとか穿いてるとかありえねぇ! ドロワーズ穿けよ!!! グワッ!」
「意味わかんねえし! 何だよその格好!」
 話すたびに腰をクイックイッっと上下左右に振ることにより、おもちゃの白鳥の首を振らせる鬼羅の姿に、何事かと周囲に人だかりができる。
「い、一応録っといたほうがいいよね。スクープはスクープだもん」
 ドン引きつつも、そのプロ根性でカメラはしっかりと回すプーチン。しかし恐らく放送規制がかかるであろうその状況に、レポートを入れるのは控えておいた。
「この格好はデスティニーファンとして敬意を表し、マスコットの親友のあの鳥っぽい奴の姿を再現したまでだ。どうだすごいだろう!! グワァワワッ!」
「ってことは、さっきからやってるその語尾、鳥っぽい奴を意識してるってこと? ちょっともう三鬼黙ってないでなんとかしてよ!」
 ギャラリーに紛れ呆然と状況を見ていた浦安 三鬼(うらやす・みつき)は、突然話を振られ慌てて言葉を返した。
「あの鳥って、アヒルじゃなかったっけ……?」
「……さぁ! 穿くのだ!!! このドロワーズを!!! いまここで!!!」
「あ。流しやがった」
「絶対、嫌!!!」
「仕方ない……嫌がるのであれば実力行使だ!! ……あ、グワッ!」
「あんたそれさっきも言い忘れてたじゃん!!」
 アクセルギアを使い、無理やりにでも三二一にドロワーズを穿かせようとする鬼羅だったが、ぽんと肩を叩かれ一瞬動きが止まる。
「ちょっと奥のアトラクションに行きましょうか」
 黒服を身にまとった3人の男がにこにこと話しかける。
「そんなことしてる場合じゃないグワッ!」
 語尾が混乱してきた鬼羅は興奮のあまりなぜか全裸になる。
「わあ、鳥ですらなくなった」
 三鬼が呟いている間にも黒服たちは鬼羅にすっぽりと着ぐるみを被せると、周囲に手を振りながら笑顔のまま、暴れる着ぐるみを引きずってどこかへと連れ去っていった。
「なんだったんだよ、もう」
「あの着ぐるみどっから出したんだ? すげえ力だったよなあの黒服3人……」
 残された三二一と三鬼はどっと疲れた身体を引きずって、またランド内を回り始めるのだった。
 
 そんな中、水上広場からわーっという歓声が上がり、プーチンは急ぎそちらへ向かう。
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)がサーカスの開始を告げ観客に一礼をすると、タイミング良く音楽がかかる。
 ジャンプして現れた狼姿のスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)の足元からサフラン・ポインセチア(さふらん・ぽいんせちあ)が飛び出した。
「わあ! 大きい犬さんと、羽の生えたイルカさんだあ!!」
 興奮した子供たちの声に、スプリングロンドは少し笑う。
「狼、なのだがな」
 呟きつつも所定の位置につき、リアトリスの合図を待つ。
「キュルルキュイー!」
 期待に満ちた子供たちの目に、サフランも楽しそうだ。
「主役の狼プリン君と空飛ぶイルカのサフラン君です。さあ、イッツショータイム!」
 笑顔でそう声を上げると、大きなフラフープを掲げた。
 サフランが飛び上がり、フラフープの中央を回転しながら飛びぬける。
 その周囲をスプリングロンドが立ちこぎの体勢で自転車でぐるぐると回りはじめた。
 リアトリスが持っていたフラフープをサフランに投げると、サフランは口でキャッチし、その場でフラフープをまわしはじめる。
 周囲からはどっと歓声が上がった。
「ステージだけではなく、広場でもサーカスが見られたりするんですねー! とっても盛り上がってます!」
 サーカスや観客の様子をしっかりと収録しながら、プーチンがリポートする。
 サフランはひととおりフラフープを回すとリアトリスに投げて返した。
 続いてスプリングロンドが二本足で立ち器用にバランスをとりながら、変則的なスピードで転がるゆるスターを乗りこなしてみせる。
「さあ、このふたりとバレーボールしたい人、いるかなー?」
 リアトリスの言葉に、夢中になって見ていた子供たちが一斉に手を上げる。
「じゃあ、君と……君ににお願いしようかな」
 リアトリスが男の子と女の子を一人ずつ選ぶと手を引いて戻ってくる。
「プリン君、サフラン君、よろしくね!」
「キューキュキュッ!!」
 サフランは嬉しそうに声を上げると、ビーチボールをサーブした。子供たちに取りやすいようにゆったりとした弧を描く。
「ワン!」
 戻ってきたボールを打ち返すときに、スプリングロンドは合図代わりに声をかける。子供たちのイメージを壊さないよう、犬の鳴き声を意識していた。
 子供二人が変な方向にボールを飛ばしても、スプリングロンドの機敏さとサフランの羽とで見事にラリーを続ける様子に拍手喝采が巻き起こった。
「キュルルル!」
 ご機嫌でボールのやりとりをしていたサフランは、一通りラリーが終わると協力してくれた二人をハグする。
 独特の羽の感触に、二人の子供は楽しそうに笑った。
 サフランはフロッギー人形を両ヒレで持つと、遊んでくれたお礼に女の子に渡した。
「ありがとう!」
 女の子は嬉しそうにはしゃぐと、お礼を言いながらサフランに飛びつく。
 スプリングロンドはおもちゃの車を箱に入れて、口で咥えて男の子に渡した。
「犬さん、ありがとう!」
 箱を大事そうに抱えてお礼を言うと、母親のところへ駆け戻っていく。
「ありがとうございましたー! みなさん、デスティニーランドをめいっぱい楽しんでくださいね!」
 そう挨拶し、頭を下げたリアトリスの隣でサフランはヒレでバイバイ、スプリングロンドは右前足でバイバイをして見せた。
「お義父さん、サフラン君、お疲れ様!」
「盛り上がったようで何よりだよ」
「キュッキュキュッ!」
 楽屋で一息入れるリアトリスのところに、ヴォルトがやってきた。
「素晴らしいショーでした。ありがとうございます」
「子供たちのおかげだよ。僕たちも楽しかったしね」
 その言葉に改めて礼を言うと、ヴォルトは再びランド内へと戻っていくのだった。
「僕たちも回ってみよっか」
 リアトリスたちも、ランドを回ってみることにした。

「運命って名前の遊園地かぁ。何だかカッコいいかも。ここで運命の王子様が見つかったり……とか。きゃー、どうしよう!」
 一人でランドを訪れた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)はそう呟きながらゲートをくぐる。
 歩は「運命」という言葉が好きだった。無駄なことなんて一つもない。
 それが歩の信念だ。「運命」を信じているから。
 一人でも楽しめるゆったりとしたアトラクションを中心に、カップルたちを観察しながらランド内を回っていく。
「色んな人がいて、それぞれが好きになって結ばれる。これってきっとすごいこと。そして、他の人にもそういう出会いがあるから、いつかあたしにもそういう出会いがあるって信じられる。ケンカをする人もいるし、それで別れちゃう人もいる。全部が全部良いことって訳じゃないけど、それでもその出会いはきっと無駄じゃないはず」
 賑やかなランドの中で、焦ることも急ぐこともせず、たまに好みのタイプの男性がいないかこそこそと周りを見ながら自分のペースでのんびりと過ごす。
「そういえば、一人で来てる人なんてほとんどいないだろうけど、男の子って男の子同士でこういうところ来たりするのかな? うん、でも、少ない中でもしそういう人を見つけられたら、本当に素敵だな」