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リアクション
第六章
ベルクとフレンディス、セシルと恋はコーヒーカップにやってきていた。
ウォーターフラッシュを堪能したカノコとナカノもちょうどコーヒーカップへと並んでいた。
それぞれカップに乗り込むと、ゆっくりとコーヒーカップが周回を始める。
カップを回転させるために、中央の皿に二人で一緒に手を置く。それだけでもベルクにとってはひとつの進展に思えて嬉しかった。
「マスター、あれが正しい乗り方なのでしょうか」
「あ? ……なんだよあれ!!」
フレンディスが指した先では、物理法則を超えた勢いとしか思えない速度で回転するコーヒーカップだった。
乗っているカノコとナカノは遠心力で首が横に倒れたままあがらなくなっている。
カップの中心部からは明らかに不穏な音が響いていた。
「フレイ、あれは違う。コーヒーカップはこうやって、ゆったり回して楽しむものなんだぜ」
「なるほど! そうなのですね」
緩やかな回転で周囲の景色も楽しむベルクたちの耳に、凄まじい声が聞こえてきた。
「回転は全開でドリフトォォ! いける! 手ごたえはある! カノコのカフェインがいけると教えてくれている! ヒャッハー!」
もはや残像しか見えないスピードのカップを見ながら、ベルクはふと見覚えのある犬の姿を思い浮かべた。
「つか、もしかしてアレに乗ってるのってグーフ……」
「グロッキーです!!!!!!!!!!!!」
「あ、ああ、悪ぃ……」
凄まじい回転の中から聴こえてきた叫び声にも似た主張にベルクはなぜか思わず謝った。
「マスター、グロッキーというのは名前なのでしょうか。それともあの回転による体調のことを言っているのでしょうか」
「……どっちだろうな」
そんな二人の疑問をよそに、カノコたちのカップは相変わらず単体で高速回転を続けていた。
「セシル殿、コーヒーカップというのは……」
「私たちのような楽しみ方が正解ですわ」
「そうですよね」
「もう誰もこのスピードにはついてこれへん!! ッハーーーーー!!」
カノコが首が横になったまま叫んだその瞬間、カップを支えていたネジがはじけとび、カップごと柵の外へと回転しながら飛んでゆく。
ナカノははっきりしない意識の中で、カノコと自分のために空とぶ魔法とメイドインヘブンをぼんやりと発動するのだった。
「マスター、遊園地って凄く楽しいですね! 私、もう一度あのコーヒーカップに乗りたいです!!」
次のアトラクションを探している間、フレンディスは普段の控えめな彼女からは想像もできないはしゃぎようだった。
それを見たゲストたちが、次々とコーヒーカップに向かっていく。
「……フレイ、せっかくならステージより乗り物の方がいいよな? 乗り物いくぞ」
ステージの近くを通りがかったとき、ベルクは ディテクトエビルで危機を察知したため、即座にステージを離れようとする。
次のステージで展開されるのは「3大ヒーローVS秘密結社オリュンポス デスティニーランドの大決戦」と題されたヒーローショーだった。
控室では最終調整が行われ、スタッフがバタバタと駆け回っていた。
ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は小道具や、ステージ上での事故を想定した救急道具の最終チェックを行っていた。ヒーローショーとはいえ、様々な能力を持ったキャストたちがバトルを演じるのだ。
小道具や救急道具のミスが大きな事故につながる可能性はいくらでもある。
安全を重視した小道具だが、特撮ヒーロー番組鑑賞を趣味とするティアの指示により、かなり本格的なものが出来上がっていた。
衣装を担当した蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は、激しいアクションにも耐えられるよう各衣装の最終点検をすると、出演者たちの着替えを手伝っていく。
着替えの途中で衣装について要望が出てくることもあったが、裁縫の腕を生かし素早く対応していく。
「じゃあ母ちゃん、行ってくるぜ」
黄 健勇(ほぁん・じぇんよん)が朱里に声をかけた。
人質役として、開始時点では客席に紛れていなければならないのだ。
「頑張ってね。楽しみにしてるから!」
「おう!」
そう言うと、健勇はゲストの入場が始まる前の客席へ向かって走っていった。
奈落では、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)たちが本番前の緊張もなく、穏やかに話していた。
「一度ヒーローショーを見た事があるんだが、結構楽しそうだった。俺もゴルガイスも黒い装備が多いし、悪役には丁度いいだろう」
「ヒーローショーに出たいと聞いた時は子供らしくて良いと思ったが……。まさか悪役を選ぶとは。我の予想の斜め上を行く選択……。妙な所で我が友に似てきたな」
先日ステージの打診があった際に、迷わず悪役での出演を望んだグラキエスの姿を思い出し、ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は苦笑いをこぼした。
「芝居とは言え場を盛り上げるための悪役だ、派手にやってみるか」
「グラキエスが悪役ならば、我はそれに従う怪人だな。せいぜい恐ろしげに振る舞ってやろう」
「いくらお芝居とは言ってもやるのが契約者ですし、怪我しないように気を付けてくださいね」
ステージには出演せず、奈落での照明と音響操作を担当するロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が声をかける。
「一人で音響と照明というのも、なかなか大変だな」
「大丈夫ですよ、エンド。制御機器に本体の状態で接続すれば自由に操作もできますから、アドリブにも対応できます」
「そうか。楽しみだな」
三人はしばらく談笑した後、最初の持ち場へと向かった。
「へぇ、ここが遊園地なんだぁ……すごいね、翠ちゃん! ……翠、ちゃん? ……まさか私、また迷子になっちゃった!?」
同じ頃、昼過ぎにランドに到着したアリス・ウィリス(ありす・うぃりす)が入場ゲート付近で迷子になっていた。
きょろきょろと辺りを見回すが、探し人を見つけることができない。
「えぇと、えぇと、とりあえずあの人に付いていってみよう」
どうしようもないので、とりあえず子供連れの母親らしき人の後を付いていってみることにした。
数分後。
「さ、着いた。ここがデスティニーランドね。人が多いから迷子にならないよう注意してね? 特にアリス。……あれ? アリス? 忠告する以前から迷子になっちゃったの? あの子……」
ゲートを通過したミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)はアリスの姿が見えないことに気付き焦る。
「えへへ、今日は遊園地! 楽しみなの!……えっ、お姉ちゃんどうしたの? ……って、アリスちゃんが居ない……? えぇっ、また迷子になっちゃったの!?」
後ろから付いてきた及川 翠(おいかわ・みどり)も驚きの声を上げた。
「えぇと、銃型HCで発信機の検索を……あら? 反応が無い? 困ったわね、どうしようかしら……」
「HCで探せないの? アリスちゃ〜ん、どこ〜?」
アリスが「銃型HC」を忘れて来てしまったため、発信機での捜索ができなかったのだ。
「とりあえず、探してみるしかないわね」
「うん」
翠とミリアはアリスを探して混雑する園内をしばらく歩きまわった。
「あら? みんなが同じ方向に向かってるみたいね。アリスもいるかもしれないわ。付いていってみましょう」
「そうだね」
二人は人の流れに乗って、ステージのほうへ向かっていく。
「こっちだよー!!」
ステージ前に到着すると、なぜか最前列で立ち上がっていたアリスが嬉しそうに手を振った。
「アリスちゃんだ! お姉ちゃん、良かったね!!」
「そうね」
二人はアリスの隣の席に腰を下ろした。
ヒーローショーを目当てにランドにきた子供たちも多く、開演前から客席は大賑わいを見せていた。
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