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アラン少年の千夜一夜物語

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アラン少年の千夜一夜物語

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「ハロー! ご機嫌いかかデスカ〜?」
 ドアを勢いよく開けて入ってきたのはディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)だ。
「もう夜だぞ? 静かに入れんのか?」
「ごほ! ごほっ!」
 アランの言葉を聞いたセバスチャンが口に拳を軽く当て、咳払いをする。
「なんだセバスチャン? 風邪か?」
「いえ……アラン様、ご自分の事を棚に上げてはいけませんよ」
「う……わ、わかった。気を付ける……」
「はい」
 セバスチャンは1つ頷いてから、ディンスに椅子を勧めた。
「で、なんだかおかしな口調だが……大丈夫なのか?」
「物語ですヨネ! 任せてヨ! 私、こう見えてもミンストレル。吟遊詩人ヨ。……これが吟遊詩人としての初お仕事ですケド……」
「う? 何か言ったか?」
「いえいえ! なんでもナイデスヨ! さあさあ、ニホンのコテンゲーノーを勉強してみた私の話を聞いてネ!」
「おお! それは初だ! 楽しみだぞ♪」


『卵泥棒の蛇』



 ある夜、卵の好きな蛇が、塀を越えて養鶏場に忍び込みマシタ。
「好物が沢山ある。至福だ」
 さっそく卵を丸のみデス。
「いくらでも入る」
 ゴクンごくんゴクンごくん。
「ぷはぁ〜、喰った!」
 蛇は膨れた体を満足そうにゆすって言いマス。
「どこかにぶつけりゃ、腹の中の卵は潰れる。そしたら消化は簡単。すぐに元通りの大きさだ」
 そう言うと、蛇は体をあちらの塀にぶつかっては……ドーン。
 こちらの大岩にぶつかっては……ドーン。
 ところが、いくら体を動かしても変化ナッシング。
「今晩のは少し殻が丈夫だな」
 蛇はお腹をゆすって考えマス。
「そうだ、いくら硬くてもあそこから飛び降りれば……」
 蛇は塀の横にある屋根よりも高い木によじ登って……ジャンプ!
 すると――
 ぼよ〜ん!!
 体が跳ねかえったではありマセンカ!
 そう、蛇が食べたのは卵に似せたスーパーボールだったのデス!
 養鶏場の夜間対策恐るベシ!
「うわぁ〜! お助けぇ〜!」
 蛇は塀を越え電線を越え、そのまた上まで弾んで、やがて見えなくなりマシタ。
 結局、雲の上まで跳ねて、ずっとそのまま戻って来ない。
 無理もありません。
 卵泥棒の一件で足がついてますからネ。
 捕まらないよう、高飛びして雲隠れデス。
 どうやら、名前も変えたようですね。
 噂では、この蛇、今は『龍』なんだそうで!


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「おお〜〜〜〜!! セバスチャン! 座布団だ! 座布団を5枚……いや、10枚こやつに出してやるのだ!」
「アラン様……一体、いつそんな知識を? 残念ながらこの部屋に座布団はございません。ですが……美味しい紅茶ならございます。心行くまで飲んで行ってください」
 アランの支持でセバスチャンは今持っている最高級のダージリンを淹れてディンスをもてなした。
「またいつでも話を聞かせてくれてよいのだぞ!」
 アランはそう言うと、ぷいっとそっぽを向いた。
「これが世に言うツンデレというやつデスネ」
 ディンスはそう言うと、ティーカップに口をつけたのだった。