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平安屋敷の赤い目

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平安屋敷の赤い目

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「セレン、校庭よ!」
 セレンフィリティとセレアナは、和輝達の姿を目にして、外に出ようと走ってきた。
 だが、扉という扉を開きやっとの事で辿り着いた校庭に、元の和輝の姿は無い。
 二本の角が生えた和輝に空から引きずり降ろされたアニスが、無表情のままぼろぼろと涙をこぼしている。
 セレンフィリティが彼女の近くに群がろう迫る餓鬼に向かって冷線銃を撃っている間、
セレアナは豆を悪霊に向かって投げつけて居た。
 二三度投げたところで、痺れを切らしたセレンフィリティの声が耳に入る。
「セレアナ、まだなの!?」
「コイツッ! 放送の通り矢張り特殊な存在のようね。
 怯んではいるけど中々、引かないッ!!」
 攻撃が効かない以上ここはセレアナに任せるしかない。
 セレンフィリティは武器を手にすると、信管を引き抜き捨てる。
「目と耳を塞ぎなさい!」
 叫ぶと機晶爆弾を投げつけアニスを囲む餓鬼の群れを爆撃していく。
 爆炎と爆風は、アニスを巻き込まずに餓鬼のみを一層していた。
 実は正確に計算され尽くした行動だが、周りにはとても雑な攻撃をしているようにしか見えない
彼女らしい攻撃方法だ。
「相変わらずむちゃくちゃね」
「そっちは?」
「やっと行ってくれた」
 セレンフィリティとセレアナはアニスの方を向き直る。
 アニスが到底話せる状況でないのは分かっていたので、セレンフィリティはセレアナに向かって話し掛けた。
「セレアナ、彼が分かる?」
「ええ、データで確認したわ。
 空京大学の佐野和輝ね。年齢は……」
 言いながらセレアナは豆に手を伸ばして、眉をひそめる。
「どうしたの?」
「……残り少ないわ」
「え!?」
 セレンフィリティは慌ててセレアナのロングコートのポケットを覗き込む。
 中に沢山残っていたはずの豆は、十数粒しか見当たらない。
「さっきの悪霊を払うのに使っちゃったのよ」
 二人の下で、和輝に掴まれたままのアニスは涙を流し続けている。
 このままにしてはおけない。
「いちかばちか。残り全部ぶつけてみましょ」
 一粒、二粒と和輝に豆をぶつけていく。
 和輝はその度に苦しそうに悲鳴を上げるが、額の角は徐々に縮んでいった。
「効いてるわ!」
「ええ、でも……」
「残りあと一粒」
「……彼の年には足りて無い」
 セレアナは和輝に豆を投げ、言う。
 和輝は人と鬼の仲間の間をさまよっているらしい。
 呻きながらアニスの服を掴んでいる和輝を見て、セレンフィリティは表情をひきしめる。
 人の命を救う為に、犠牲を払わなきゃならない事もある。
 例えそれが自分の身を切るような事でも、軍人には決断しなければならない事だ。
 セレンフィリティはアニスの腕を掴む。
「このまま彼を連れて行く事はできないわ。
 行くわよ。」
「……え?」
「食堂で皆が保護されている。
 そこまであたし達が連れて行くわ」
「いや……和輝と一緒に……」
 セレンフィリティはアニスの言葉を最後まで聞かずに彼女を無理やり持ち上げると、
抱き上げて走り出す。
 アニスは声を上げ、セレンフィリティの腕の中で暴れるが、セレンフィリティは止まる事はない。
 十分程走ったところで、セレアナは周囲の風景がひとつのパターンに当てはまる事に気が付いた。
「セレン! このパターンだと次の揺らぎでこの100メートル先に食堂が現れるわ」
 セレアナが言うが、セレンフィリティは突然足を止める。
「セレン?」
 セレンフィリティはセレアナの胸に、ぐったりと疲れ切っているアニスを押しつける。

 ――追ってきたか。

 彼女達の後ろにあの白い悪霊がやってきていたのだ。
「セレアナ、後は任せるわ。
 でも、あたしは必ず戻ってくるから。心配しなくていいよ」
 セレンフィリティが走り出すのを見て、セレアナはこみ上げる気持ちをぐっとこらえ反対側に走り出す。
 もう二度と、自分の相棒に――恋人に会えないかもしれない。
 それでも自分達は国家の軍人で、いつかこうなる事は覚悟の上。
 冷たいようだがそれが自分達の意思で、セレンフィリティとセレアナの関係なのだ。
 胸の中で小さくしゃくりを上げるアニスを固く抱きしめ、セレアナは食堂を目指した。