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平安屋敷の赤い目

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平安屋敷の赤い目

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 静かな展示室にはリースの声だけが聞こえて居る。
「はい。はい。
 そうなんです。本によるとそのような伝承があったと言うのは多々あってどれが今回の事件に該当するのか
分からないんですけど……」
 電話の相手は放送室にいる者達だ。
 彼等は鬼を封じる解決策にある程度の目星をつけていた。
『絵巻の陰陽師は武器を持っていた。刀と宝玉。
 その力が有れば再び封じる事もかのうであろう
 私の管轄外ではあるが、先程展示物を見た際に確か似たようなものがあったように記憶しているが』
「刀にはさっきそれらしきものを見つけました。
 でも……宝玉。そんなもの此処にあったでしょうか」
 リースは振り向いて二人のパートナーを見るが、マーガレットも隆元も首を横に振っている。
『こちらから姫神司が従者を伴って受け取りに向かう。
 それまでに見つけておいて貰えるか』
「は、はい」
 内線を切ったリースが青い顔をしている。
「どしたのリース、そんな顔して」
「何かあったのか?」
「ど、どうしよう。武器捜してって」
「ええ!?」
「先生が多分絵に書いてある刀と玉の形だって。
 刀はそこのケースの中だけど…… 
 た、たまなんてそんなのここにあった!?」
「おい、小娘!
 おぬしがケースをやぶっていたのであろう?」
「そ、そんなこと言われたってあたしは知らないよー!!」
 三人はどったんばったん中を探し始めるが、資料も展示物も使わないものはマーガレットが投げて山にしていたので、
中々見つける事が出来ない。
「もしかして手に取ったりしても、気づかないでどっかに放り投げちゃってるかも!」
「なんだと小娘!? 大体おぬしはいつもそう」
「なんですって!!」
「ふ、二人とも今は喧嘩は……」
 そこでガラッと勢いよく扉を開けて入ってきたのは司だ。
「早かったですね。
 あれ? 従者の方は?」
「……くっキノコマン、わたくしを庇って……
 おいし」
「おいしい?」
「いやいや、おしい奴をなくした。そなたの献身無駄にはせぬぞ!」
 司はよよよとしなってみせるが、彼女の口元を見てリースは仲間の二人を振り向く。

 ――食べちゃったのかな
 ――食べたかも
 ――食べたのであろうな

「そんなことより」
「そんな事!?」
「武器は見つけたのであろうな」
「そ、それが……」
「む、まだ見つかって無……あー!!!」
 司の視線が床のあたりに動いた所で彼女は思い切り声を上げた。
「そなたらこんな貴重そうなものをゴミ箱の中に捨てるなんて……」
「マーガレット……」
「お主」 
 じっとりとした皆の視線を受けて、マーガレットは両手で円盾で自分の顔を隠す。
「だ、だってこんな汚い感じの玉がまさか……ごめんなさーい!!」
「……まあなんにせよ、見つかって良かった。
 教授の所まで持って行って確認して頂こう」
 司は言うと、刀と宝玉を手に放送室に向かう。
 用事を終えたリースらも同じく合流しようと付いて歩いていた。
「しかしこの武器、どうやって使うのであろう。
 出来ればわたくしが振るえるといいのだが」
「そうですね、刀は兎も角宝玉……それに封印となると」
 何時の間にか彼等の前に立ちはだかっていたのは餓鬼の群れと悪霊二匹だ。
「矢張りただでは持っていかせてくれんか」
「でも逆にこれが本物だという証明にもなりますね」
 いつもより大胆な発言をしたリースは両手に神楽鈴を持つと、舞うようにそれを奏でる。
 シャン。シャン。という美しい音は、悪しき力と思いで動く悪霊らには苦痛でしかないらしい。
 隆元は懐から鉄扇を取り出した。
 シャン。
 シャン。
 鈴の音に合わせるように隆元は餓鬼の爪の攻撃を下がりながら払い、もう一度払う。
 無防備になった餓鬼に隆元は足を踏み込むと、鉄扇の付きを喉元に喰らわせた。
 マーガレットはリースを襲おうとする餓鬼の前に立ちはだかると、攻撃をバックラーで受けたまま、
得意のテニスの要領で女王のソードブレイカーをフルスイングした。
 その時。餓鬼の悲鳴に混じってか細い悲鳴が上がっていた。
「きゃあ!」
 悲鳴はリースのものだった。
 刀と宝玉を持っていた彼女を餓鬼が襲ったので、武器が落ちてしまったのだ。
「ひ、拾わなきゃ!」
 ガラ空きになっている彼女の元へ、餓鬼が迫っている。
 司は翼の剣を鞘から抜くと、そのまま翼の剣で的確に相手をさばきながら、ライトブリンガーで餓鬼らを打ち滅ぼした。
「司さん! ありがとうございます」
 司は美しい黒髪と長いスカートをなびかせ、リースの声に笑顔で応じる。
 だが状況は良くない。
 ――これ程の相手、しかも倒す事が出来ない悪霊二匹。
 このままどう持たせればいい?
 司は考えている。すると、打刀が真横を飛んできた。
「んなッ!!」
 司が目をぱちぱちしていると、刀の軌道そのままに走ってくる男が居た。
 東條 葵(とうじょう・あおい)を伴った東條 カガチ(とうじょう・かがち)だ。
 彼が投げた刀、花散里が刺さったままの餓鬼の隣の餓鬼を蛟紡 風雅で袈裟に切り込み、
左手で花散里を抜きつつぐるりとまわると、その反動を生かし風雅で胴を抜くと、ちらと後ろを振り返った。
 後ろでは葵が、海から譲り受けた豆を攻撃の効かない悪霊に向かって投げて居る。
 カガチはリースの方を見て何と餓鬼の攻撃を刀で止めながら喋り出した。
「もしかしてそこに落ちちゃってんのが噂の武器かい?」
「ああ、だがどうやって使うのやら……」
「あの……アクリト先生の所へ持っていかない事には」
「ま、そーだわな」
 気の抜けた台詞を放ちながら刃を下まで落として、餓鬼が二つに割れ見通しが良くなった部分に
カガチは驚く。
「山葉? 山葉じゃねぇか!」
 餓鬼の群れの中に山葉涼司の姿があったのだ。
 どうにも目の前のものを食べる為だけに動き頭の回らない彼等を、正しくここまで導いてきたのは
鬼に操られた彼だったようだ。
「山葉の奴、カッコいい事してそんなになりやがって!
 葵ちゃん!!」
「分かった!」
 葵は涼司に豆を当てようとするが、涼司の動きは早く、当たらない。
「援護する!」
 外れた豆を隆元が扇子を開き軌道を変え涼司に当てて行く。
 聖なる豆を喰らった山葉は絶叫を上げた。
 その彼の悲鳴に導かれたものが居る。

「涼司……くん?」
 山葉の婚約者、火村 加夜(ひむら・かや)だった。