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リアクション
【第三章】
企画展示室で事件が起こった時、その場には沢山の生徒や客が居た。
だからその場から逃れられたものはアクリトや静香だけではなかった。
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)もその一人だ。
廊下から静香の悲鳴を聞き展示室に入った彼女は、美緒が喰われる現場を見てしまっていた。
次々に襲ってくる餓鬼を怒りに任せて見境なく倒して、
そうしてやっとの事で美緒が居ると思ったその場に辿り着いたが、その時には美緒の姿はその場に無くなっていた。
「美緒さん……一体どこに……」
呟きが口から洩れると同じく、小夜子は何かの影を目にする。
くるくる巻いた桃色の髪、百合園女学院の制服の裾がひらめいている。
「あれは!!」
小夜子は影を追いかける。
影は浮かんでは消え、彼女を何処かへと導いて行った。
*
「駄目!!」
放送室の中、ルカルカは悔しそうに机を叩き椅子に身体を預ける。
「どうしたのだ?」
入り口を固めている司が心配する声に、うなだれて居たルカルカがHCとノートパソコンを立ち上げて話しだした。
「今校内の様子はこれらで監視カメラに繋ぐ事でカルキノスと確認してるでしょ。
何だか妙な動きを見つけたから、注意喚起をしようと思ってHCで呼びかけてるんだけど急に繋がんなくなって……」
司がアクリトを振り返ると、彼も同じように首を横に振っている。
「こちらも放送を流してはいるのだが、反応がない」
「あの生徒達誘導されてるような気がして仕方無いんだよね」
ルカルカが心配そうにパソコンの画面に映し出された監視カメラの映像を覗いている。
それを後ろからカルキノスも同じように覗きこんだ。
「もしそうだとしても俺達が今ここから行って止める術はないな」
カルキノスの言葉に司は反射的に手を剣の柄に伸ばしていた。
「……彼等が気付いてくれるのを祈るしかない」
*
放送室の者たちが必死にアプローチを仕掛けて居るが、それは全く届かないまま
小夜子は平安屋敷の庭のような場所に誘導されていた。
状況を確認しようと辺りをぐるりと見てみて、小夜子の目はある場所に止まったまま動かなくなる。
「美緒……さん!?」
彼女が見て居たのは美緒の姿。
だが首から上が無くなっていた。
「う、貴様ああよくも!!」
平静を保つ事等出来ない。
大切な、大好きな彼女が辱められたような気がして小夜子は走り出した。
美緒の姿はその場から消えると、その場に餓鬼の群れが現れる。
まさに誘導されていたのだが、そんな事は今の小夜子には関係無かった。
身体ごと雷霆の拳の破気を放つ。
前方に居た餓鬼達は纏めて吹き飛ばされ、小夜子の足元には震脚(しんきゃく)の衝撃で地面が抉られていた。
間を置かずに小夜子の身体は次の型に動いている。
吹き飛ばされずに残っていた横の餓鬼を前掃腿(ぜんそうたい)で払い、後ろからきた餓鬼に
流れる様に掌底(しょうてい)を当てると、二起脚(にききゃく)で顎を蹴りあげる。
その間に左から襲いかかってきた餓鬼を姿勢を低くして腹部に一発殴り上げると、餓鬼は勢いのまま
右からきた餓鬼を巻き込んで倒れる。
小夜子は飛び上がると、そこへ向かって上から拳を振り下ろした。
7秒もたたない内の出来ごとだ。
最後の衝撃と共に、周囲に残っていた餓鬼の足元が震えた。
姿勢を戻した小夜子が動く度に、周囲には骨が軋み、粉々に砕ける音が響きわたる。
金の刺繍と深いスリットの入ったチャイナドレスの裾は激しくはためいているが、当の本人には傷ひとつ付いていない。
戦いの最中、小夜子は美緒の姿を目にとめて居た。
「美緒さん! 美緒さん!!」
目の前の餓鬼を蹴散らしながら走って行こうとする。
だが、彼女の目の前に黒い影が現れていた。
影は一際大きくなり、ふたつの姿に分かれて彼女の前に立ちはだかる。
白と黒の何か。
煙のような姿で形は定まらないものの反射的にその二匹が強いものだと、小夜子は理解した。
手加減等出来ない。
全力の力を込めて拳聖必殺の連打技、七曜拳を喰らわせるのだが……
「何?」
連打の攻撃は全て相手の胴体擦りぬけてゆく。
――攻撃が効かない!?
動揺する隙をついて、餓鬼が彼女の腹を後から掴んでいた。
前には二匹の悪霊の姿がゆらゆらと揺れている。
――死ぬ。避けられない。
美緒さん、美緒さん……。
コレが、悪い夢でありますように。
無念の思いを残して、小夜子の姿は悪霊の影の中に消えた。
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