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【●】歪な天使の群れ

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【●】歪な天使の群れ

リアクション

「さぁ、醜い欠陥ボディを、再利用させてもらいましょう! ただ死ぬだけよりも、後の世のために貢献できたほうが、あなた方にとっても幸福というものでしょう!」
 行き止まりで小さな広場のようになった洞窟の一角で、ゼブルがテンション高く天使たちとの戦闘を繰り広げていた。
「実践的錯覚で間合いを外すよう仕向けつつ、観測の結ぇぇっ果から行動予測を用いて全力・回避! 念を入れてミラージュも展開!」
 天使たちの集団攻撃も、避けようともせずにフラワシの妙技鉄で全て受け止めると、天使がフラワシに触れた部分を悪疫で侵食していく。 
 怯んだところを嵐で即座に切除すると、そのままの勢いで四肢の解体をはじめる。
 ゼブルは慈悲で切断した部位を治しつつ解剖を続けていく。
「医学の知識のおぉぉかげでどこをどう解剖すれば死なないかは大体把握してるので心配無用! 安心して私に身を委ねなさぁぁぁい!」
 天使の胴体に収まる内臓、頭部に収まる脳髄の働き、肉体を走る神経系の役割。それらが既知とする生物達とどう違うのか。それらを確認し、記録しようとするゼブル。
「ほう、ほう、ほーーーーーーう!!!」
 しかし、天使たちには内蔵などは存在せず、エネルギーの塊が肉体を構成していた。切っても切っても白い断面しか見えない。

「和深さん……!」
「ひでぇな」
「月夜、白花、下がるんだ」
 駆けつけた和深や刀真は、その姿を目撃すると、思わず立ち止まった。
「最悪だな」
 刀真がはき捨てるように言う。
「こぉぉぁのガラクタ諸君を助けるために動くぐらいの善人ならば仕方ぁあない! だがしかし、ここで一つの解を教えて差し上げよう! 特に守護天使の方がよぉぉく聞いてください!」
 そこで一息いれると、ゼブルはさらに恍惚として続けた。
「あれらは確かに醜いバケモノ! しかし、あの姿も、君ら守護天使が歩んだかもしれない一つの進化の形! 過去の者達の探求の末の叡智の結晶! それを否定するとはすなわち進化の否定! 探求の否定! それだけは許されなぁい! 故に、君達を妨害させていただきます!」
 それだけ言うと、解剖中の天使を転がし飛び出してくる。
「困った方ですね。お話は通じないようです」
「ああ、とんだ外道だぜ」
 和深と流は諦めたように首を振る。
「行くぞ。これ以上こんなもの二人に見せるわけにはいかない」
 刀真はそれだけ言うと、月夜と白花をくぼみの外へと誘導していく。
「刀真さん!」
 禁猟区で天使の出現を察知した白花が叫ぶ。
「ああ!」
 効果的な攻撃を繰り出すために必要な動きやタイミングなどのポイントを見つけることが重要だ。
 殺気看破で気配を探ると、斜め後ろの壁から天使たちが次々と出現する。
 不意討ちを警戒し、天使の視線や構え、重心移動と間合い、呼吸と気配から攻撃を見切っていく。
 見切った攻撃に合わせて素早く踏み込み、ポイントをずらす事で威力を殺しながら、死角に周り込んで躱すと、そのまま死角に回り込み、受け流す事で出来た隙を突いて白の剣で天使の首を刎ねた。 
 月夜は天使たちを牽制しつつ、強化光条兵器の特性を使い天使以外を全て透過するように設定したラスターハンドガンとスナイプで天使の頭を撃ち抜き、刀真を援護していく。
「安心しろよ。あんな奴の実験には使わせねえから!!」
 叫びながら、和深も天使たちに向かっていく。
 流は和深の動きに合わせ常に少し前に出て、和深を守る位置で戦闘を展開していった。
 天使が絶叫を上げようと口を開いた。
 咄嗟に流が和深を庇うように直線状から共に避ける。
 天使の意識がそちらにいった瞬間、刀真はワイヤークローを首に絡みつかせ、強く引く事で喉を締め上げて声を出せないようにした。
 月夜がスナイプでその口を狙って銃を撃ち確実に仕留める。
「とっとと出てこい。俺たちが相手してやるよ!!」
 和深が叫ぶ。
 ゼブルのいる空間に迷い込んでしまう天使がいないよう、ここで解放することができるよう、必死だった。
 流や刀真たちと自然に連携し、奥へと続く道を塞ぐような配置で戦闘を展開していく。
「これで最後だな。顕現せよ……黒の剣!」
 刀真は齧り付いてこようとする天使を白の剣で受け止めると、右手に《光条兵器》を発現して、口を寄せるために晒された首を刎ね落とした。
「刀真さん!」
 天使たちの残骸に塗れた刀真の姿を見た白花は、自身の願いを叶えるために危険に跳び込んでくれた事に対する想いを言葉にできず、ギュッと刀真に抱きついた。
「汚れるぞ……?」
 優しくその頭をなでながら、刀真は言う。
「貴方と同じになれるなら、むしろ望む所です」
「そうか」
 そんな姿をみた月夜は、後で自分も抱き付いて、頭を撫でて貰いたいと思うのだった。
「これぐらいしかできませんね」
「ああ、そうだな。悔しいけどな」
 和深と流は倒した天使たちを丁寧に並べていく。
 できるだけ平らで、ゆっくりと眠れそうな場所を探しながら。
 一通り安置すると、白花の鯨ひげのヴァイオリンのレクイエムが響き始めた。

「ふむ、これぐらいならすぐに治まるじゃろう」
 他の仲間たちとエメネアの元を目指していたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は、天使との戦闘で負傷した者を次々とフォローしていた。
 手際よく応急手当やヒールを施していく。
「行くぜぇぇっ!」
 その際でも、必ずギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)が視界に入るよう、注意していた。
 戦う事が大好きな彼は歪な化け物だろうが神様だろうが、お構いなしなのだ。終始テンション高く、楽しそうに戦っている。
「そちらは壁しかないじゃろうが。どうせなら動き回っているものと戦ったほうがよかろう?」
「当たり前だな!!」
「ほれ、あちらにまた、天使の群れが現れたようじゃのぅ」
「俺様がぶっ潰してやるぜ!!!」
「やれやれ、騒がしいのぅ」
 時折勢い余って洞窟の壁を壊しそうになるため、その都度ルファンがうまく勢いを誘導していく。
 ギャドルを天使たちのほうへ誘導すると、ルファンは再び負傷者たちの応急手当に当たった。
 ギャドルは遠慮のカケラも見せず殴る蹴るなどの武術面の他に、口から火術による火を噴き出して相手を燃やすなど一見修羅のような戦いを繰り広げる。
 治療を終えたルファンも、三節棍、武術を使って天使達に向かっていく。
 他メンバーのフォローやギャドルの暴走をうまく押さえる冷静さを保ちながらも、至近距離の遠当てなど遠慮のない戦闘手段を選ぶ。
 天使達が解放を望んでいることがわかっているからだ。
「うおぉぉぉおぉぉぉ!!」
 ギャドルの勢いで運よく最後の扉代わりの岩が壊れると、洞窟には不似合いな扉が現れた。
「ここみたいですね」
 難波朔夜からの情報を照らし合わせた笹野朔夜が頷いてみせる。
 この向こうにエメネアと首謀者の黒い犬がいる。
 そう確信した面々はお互いの顔を見合わせ頷き合うと、一斉に扉を破壊した。