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【●】歪な天使の群れ

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【●】歪な天使の群れ

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第六章

「この慟哭は彼らの心から聞こえるもの……死をもってしかその心が解放されないのは心が痛む。しかし、彼らが空京を蹂躙すれば無辜の民に危害が及ぶそれだけは絶対に防がなければならない。この街を守るために私は剣を取ろう。私自身がこの街を護る矛になるんだ」
 ドーン01、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が{ICN0004496#ソーサルナイト}で天使の群れへと向かっていく。
 クレアも同じ想いだった。
 彼らの嘆きを聞いてじっとしていることは出来ない。彼らはかつて出会ったヴァルキリーの英雄たちと同じ。死ぬことでしか救われない悲しい魂。
 だからこそ、魂の安寧をもたらすものとして彼らを救済しなければならないのだ。
 そう考え、戦うことを選んだ。
「ソーサルナイト?で出撃するのは初めてだけど、ソーサルナイトやカニングフォークのデータを移してあるし、私とおにいちゃんのコンビなら上手くやれるよ」
「そうだな」
 クレアの言葉に涼介は頷いた。
 すぐ後ろに、ドーン02、東 朱鷺(あずま・とき)ルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)流星が続く。
 朱鷺は元々イコン操縦はほとんどせず、流星の操縦も今回が初めてである。
 だが、今回の事件を解決するため、そして今後のためにもイコンの操縦技術の獲得は必須であると考え、参戦した。
 初操縦に加え初のチーム戦である。
「朱鷺、こうして近づいてみると思っていた以上に大きいですね」
「数も多いですし、なかなかてこずりそうですね」
 不安要素は多いが、支援機として、仲間のために出来ることをやろうと決意する。
 ドーン03、湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)の乗るウィンドセイバーは、ドーン04、岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)山口 順子(やまぐち・じゅんこ)飛燕、ドーン05、富永 佐那(とみなが・さな)北条 氏康(ほうじょう・うじやす)ザーヴィスチと3機編隊で行動する。
 ドーン3は正三角形の頂点のボジションに展開した。
「とにかく、陣形維持を最優先で意識していくか」
「了解。亮一兄貴と富永さんと一定の距離を保つようにするぜ」
「大切な誰かを守りたくて志願したんでしょうけど……もう終わりにしましょう」
 亮一に応答した伸宏の後ろで、順子が哀しそうに微笑む。
「ドーン……暁、か……。相手が天使ならば、此方は暁の堕天使ルシファーとなって倒しに行くまでですね」
「前衛の二機に攻撃が来た所を機動力を生かし、わしらと亮一、伸宏のMサイズイコン3機で横合いから攻撃を仕掛けようぞ」
 佐那と氏康も、天使たちの群れを見つめながら決意を固めた。

 その上空では、リーダー機である佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)グレイゴーストが、戦闘を観察・記録すると共に解析を行うことで敵の行動パターンや特性などの看破を目指していた。
 情報を収集してはアニスがとりまとめ、戦略図などをメンバーに随時提供する。

「こちらドーン01。空京に再接近している天使の群れとエンカウント!」
「ドーン02。ドーン01と共に接敵。ドーン01の援護に入ります」
「了解。ドーン03以下3機はフォーメーションを崩さず、エンカウントしだい潰していってね」
「長引きそうだな」
 アニスがメンバーに指示を出している間に、和輝はざっと天使の反応を確認する。
 とにかく数が多く、イコンの通常エネルギーで耐えしのげるとは思えなかった。
「こちらドーン・リーダー機。戦闘長期化に備え、緊急時のエネルギー補給協力を要請したい」
 即座に空大に連絡を取ると、エネルギー補給の協力の約束を取り付けた。
「アニス、みんなに伝えてくれる?」
「本当はオペレートなんてやりたくないんだけど、和輝に全部任せるわけにもいかないし……う〜っ、我慢! こちらドーン・リーダー機だよ。空大と話はついてるから、エネルギーが足りなくなったら向かってね」
「「「「「了解」」」」」
 アニスからのコールに、総員が応答する。
「もっとも、空大に補給に行ける距離まで戦線が移動したら、本当に緊急事態ですけどね」
 和輝がぼそりと呟く。
 天使たちが連携をとりながら行動をしているため、なかなか戦線を崩すことができず苦戦するメンバーたち。
「おにいちゃん!」
「囲まれたか。ドーン02、大丈夫か!?」
「大丈夫です。槍と剣はこちらが」
「分かった。こっちは盾をメインに攻撃する!」
 天使たちの動きについて、ルビーが密にアニスと連絡を取り合い、周辺状況と併せて随時情報を朱鷺に伝えていく。

「ドーン01と02が囲まれちゃったみたい。戦線維持して欲しかったけど、みんなで向かってー」
「了解」
 アニスからの指示に、亮一が返す。
 
「やれやれ、以前の殲滅砲といい、今回の堕天使といい、まるっきり負ける側の超兵器だよなぁ……。末期の古代シャンバラ王国って相当追い詰められてたんだな」
 リーダー機からドーン01と02包囲の連絡を受けた亮一は、後続2機とともにエンカウント地点へと加速する。
「まあ、それは兎も角だ。奴らを空京に入れる訳にはいかない以上、ここで食い止めるぞ!」
「ドーン01、および02機体確認。周辺敵数およそ20ですわ。……亮一さん、あの人達を解放してあげましょう」
 梓は殲滅砲で自分達、剣の花嫁が発射用の使い捨て動力源扱いされていた事もあるので、天使には同情する部分も有った。
 それと同時に、倒す事以外の救済手段が無い事も理解している。だからこそ、本気で天使たちと向き合う。
 梓の誘導で目的地に到達すると、涼介隊を包囲する形で展開する天使に対し、レーザーバルカンで牽制しつつ注意を引いて攻撃を繰り出していく。
「槍が厄介ですね」
 ルビーがぼやく。
「追っかけてくるんだもん。どうにかしたいよね」
 クレアが同意した。
 和輝は基本的には自衛行動のみで、味方が危険になっても戦闘には参加せずに偵察と管制行動に集中している。
「アニス、振り切るよ」
「はーい!」
 損害による偵察行動の支障を危惧し、戦闘に入りそうなタイミングで隙を見つけると機動性に物を言わせて天使たちをを振りきる。
 涼介たちに合流した亮一が、槍天使の投擲した槍をギロチンアームで切り払いつつ、天使にも斬り込んでいった。
「前衛の涼介と朱鷺の機体に続きながら二機を射撃で援護。前衛の二機に攻撃が来た所を機動力を生かし自機や亮一、伸宏のMサイズイコン3機で横合いから攻撃を仕掛けようぞ」
 リーダー機からの情報と氏康の提案を活かしながら、佐那は戦闘を開始する。
 破岩突による突進が決まったら、返す刀でビームを盾の天使へ突き立て、一思いに天使たちを仕留めにかかった。
 盾を構えた天使たちが列を形成し、なかなか攻撃が通用しない。
 その隙間を縫うように、剣を持った天使たちが飛び出し、切りかかってきた。
「こうでなくてはいけません。やっぱり戦闘は白兵でなければっ!」
「調な突撃では敵に読まれる故、遮二無二に突撃するのではなく機動力を活かし縦横に翻弄、敵の上下左右あらゆる方向に回り込んだ上で突進を行うのじゃ」
「分かりました、殿!」
 盾の天使を倒したら各個撃破を狙い残る二体には奥の手を使用し一刀の下に苦しまないよう斬り伏せる。
 誰かの命を護る為に、誰かの命を奪う……その覚悟はとっくにできていた。
「古代王国の所業は決して称賛されるべきものではないでしょう。しかし、それという理由を作った鏖殺寺院は決して赦されるべきものではありません。強硬派のブラッディディバインも、穏健とされる回顧派も……」
 切り伏せた天使を見つめながら、佐那が誰にともなく語りかけた。
「……こんな事までやらなきゃならん程、古代シャンバラ王国って切羽詰ってたのか?」
 伸宏は戦線に合流すると、前衛の亮一と左翼の佐那を後方からビームキャノンで援護する。
「すまんがアンタ等を助けるにはこの方法しか思いつかなくてね、悪く思わないでくれ!」
 MVブレードを使用し投擲された槍の切り払いや格闘戦距離まで接近した敵への攻撃を展開する。
 リーダー機からの情報を各機で取りまとめ、連携しながら攻撃を展開していくが、とにかく天使たちの数が多く、攻撃にかかるエネルギー消費量が大きい。
 涼介は武器へのエネルギー・弾丸が尽きそうになるとシールドからマジックソードを抜き、切り替える。
 ドーン1としての自分の役割が前線構築兼盾であるため、自機が落ちることでチーム全体に迷惑がかかってしまうことを強く認識していた。
 エネルギー消費を押さえるために無茶な動きも必要となってくるが、即座に朱鷺が歌を使いフォローに回る。
「残弾、エネルギー残量低下! 残り39%!」
 順子が伸宏に告げる。
「亮一さん、こちらも残弾、エネルギー残量が40%を切りました」
「大体同じタイミングで戦闘を開始しているんだ。当然といえば当然だよね。これは今後のチーム戦の参考になりそうかな」
「ねぇねぇ和輝、そろそろいいかな??」
 各機体のエネルギー残量が警告レベルに近づいてきたことを察すると、アニスは唐突に重荷になるヴリトラ砲を捨てるついでに、落下機動を味方へ合わせた。
「にっげろ〜」
 アニスは戦闘の隙を突くと、離脱を開始した。

「同時に3機か……ドーン01と02はどうだ!?」
「こちらドーン01。残りおよそ60%! もう少しもちそうだよ!」
「私たちはエネルギー消費を抑えながら動くから、もう少しは戦線維持できそうだ!」
「ドーン02、エネルギー残量およそ55%。我らももう少しはもつ」
「皆さんの補給中は、こちらが盾になり、ドーン01をフォローしましょう」
 亮一に、クレアと涼介が状況を伝えると、ルビーと朱鷺も即座に反応する。
「では、防御はドーン02に任せて、私たちは攻撃に専念するよ!」
「時間差で補給に向かうか!?」
「できるものならそうしたいんですが……」
「わしらは、すぐにでも向かわんと、身動きが取れなくなりそうじゃ」
 伸宏の提案に、佐那と氏康は機体の状況を見ながら答える。
「くっ……エネルギー残量30%を切りましたね。ドーン05、戦線保持できません!」
 佐那が悔しげに回線を開く。
「伸宏君、こちらも間もなく30%になるよ」
「くっそぅ、ドーン04、こっちも一旦後退し、空大のイコン施設で補給に向かう!」
「残り32%。亮一さん、帰還レベルに達します!」
「すまない! 3機同時にいったん補給のため離脱する!」
「「了解!!」」
 
 チームによる連携で多くの天使たちを沈黙させたものの、そもそもの数の差はなかなか覆すことができない。
 涼介と朱鷺は、少しずつ天使たちの数に圧され目前まで迫ってきてしまった空京を振り返ると、唇をかみ締めるのだった。