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夏初月のダイヤモンド

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夏初月のダイヤモンド

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【第二章】1

「きゃあああああ」「いやあああ」「こないで下さいい」
 自称、悪の天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)んトコの三人娘こと
高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)そしてヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)はランジェリーフロアで強盗団に襲われていた。
 しょうもない――等と言うと自称悪の天才科学者は全力で否定するだろうが――悪の幹部にしておくには勿体ない程の容姿を持つ彼女達だ。
 強盗団も男なので彼女達のような美少女が真っ先に狙われるのは至極当たり前な事だった。
「ふひひ、いいからそのスリップを脱げよ姉ちゃん。
 痛い目には合わせねぇから」
 残念ながら屈強とは言えない程度の体形の強盗Aと、これまた残念な感じの容姿の強盗Bが咲耶とアルテミスに迫っている。
 普段ならば騎士であるアルテミスの敵にならない程度の男達だが、今のアルテミスは丸腰の上に下着姿だ。
 それに引き換え相手は、手に光条兵器の銃らしき武器を携えている。

 どう考えてもアルテミスが劣勢だ。

「咲耶お姉さま、どうしましょう」
「今は従うしかなさそうですね。
 スリップを脱ぐだけで……許されるなら」
 勿論本意ではない。
 しかし咲耶は顔を赤らめつつも、安全な道を選ぼうとしていた。
「そーそー早いとこ脱いで終わりにしちゃおうよ。ほらほら」
 二人の男の下卑た視線が送られてアルテミスは握った拳に力を込めるが、咲耶の心配そうな表情を見てしまうと無理をする訳にはいかない。
「くっ……」
 アルテミスは仕方なく暗色のスリップの肩紐に細く白い指を掛ける。
 咲耶も折角逃げる際にそれだけは履く事が出来たボトムのボタンを外し始めた。
「うひょー!! 生脱ぎかよ! 最高だぜ!」
 女の子が恥辱に耐えながら服を脱ぐ。
 という最高のショーに強盗達のテンションはMAXまで上がっている。
 正直彼らに限った事ではないが、強盗団のその殆どが”女の服をむいて下着を確かめる”という行為に興奮を覚え、本来の目的である”ダイヤモンドブラジャー”の件等忘れ去っていた。
 目をこれでもかと言う程見開き血走らせた二人の強盗は、咲耶とアルテミスの一挙一動も見逃すまいと近づいてくる。
「あの……そ、そんなに近づかれては……」
「逆に脱ぎにく……あ」
「あ?」
 咲耶が目を丸くして彼らの後ろ見ている。
「……?」
 異変に気付いた強盗が後ろを振り向くと、彼等の背後には何時の間にか鮮やかな青い髪のメイド服を着た少女が棒立ちで突っ立っていた。
「なんだ? この姉ちゃん……」
「咲耶お姉ちゃんとアルテミスちゃんの安全を第一と判断。
 攻撃の後、一時撤退します!」
「撤退? 何言って――ぐおっ」「ふがっ」
 意味が理解できないままボケた面で少女を見つめていた強盗達の横っ面を何処からともなく飛んできた、いや彼等が振り向く前に既に少女が放っていたロケットパンチが吹っ飛ばしてしまう。
 見事に決まったコンボの被害者を気にも留めずに、少女――ヘスティアは落ちたロケットパンチを拾いに向かった。
「ありがとうヘスティアちゃん」
「助かりました」
 照れたようにえへへと笑うヘスティアを見ながら、アルテミスはまた誤射されるのではないかとドキドキしていた胸をなでおろしていた。


【第二章】2

「ここかッ!?」
 スライディングをしそうな勢いで更衣室に飛び込むと、佐野和輝は肩で息をしながら空いているカーテンから中を覗いた。
 だがそこには誰も居ない。
「アニス! スノー! ルーシェリア!」
 和輝は他の閉りっぱなしのカーテンの向こうへパートナー達、そして彼女達と一緒に行くと言ったルーシェリアの名前を呼んでみるものの返事は返ってこない。
「ここじゃ無いのか」
 和輝は踵を返してフロアの反対側へ走って行く。
 事件が起こったと放送が入った時、和輝はすぐに強化人間のアニスと精神感応のテレパシー通信を行った。
 ”どうやらフロア内に強盗が居るらしい事”。
 ”その強盗達が女性達を襲っている事”。
 その二つの事実を聞いただけで和輝はろくに続きも聞かないまま走り出していた。
 自分を慕ってくれる二人のパートナーと友人が、何処の馬の骨と知れない男達に触れられる等到底許せる事ではない。
 そう思って和輝は全力でフロア内を掛け回っていたのだ。
「スノー! ルーシェリア! 何処に居る!?」
 もう何度呼んだだろうか。普段は冷静な性格でここまで声を張った事もないから喉が枯れそうだ。
「アニス、居たら返事してくれ!!」
 和輝がもう一度叫んだ時だ。
「和輝!!」
 やっと応えが返ってきた。
 声のした方を見て見ると、ずっと探していた三人の近くに強盗が近づいているのが見える。
 しかし彼女達はというと、強盗達が近くへ来ている事に気付いていないらしい。
「糞っ!」
 和輝は丸腰なのも気にせずにそちらへ走って行た。
 一方の女性達――ルーテシェリアとスノーはというと、和輝がこちらへやってきている事で慌ててしまっていた。
「か、和輝さん??」
「え? アニス……ちょっ、和輝を呼んじゃったの!?」
「ん? 何か悪かった?」
「悪いって……だって私達下着のままなのに!!」
 ルーシェリアとスノーがもじもじと身体を隠していると、その隙に強盗の一人が近づいてくるとルーシェリアの腕を掴んだ。
「きゃ!」
「ルーシェリアお姉ちゃん!」
 アニスが悲鳴を上げたのとほぼ同時くらいだった。
「汚い手で、触るんじゃねぇ!!」
 和輝は強盗の後ろから腕を掴むと、ルーシェリアのそいつの腕から引き離して捻りあげる。
「いてててて!」
 和輝に乱暴に振り棄てられた腕をさすっている強盗を見下ろすと、和輝は低い声で呟いた。
「……テメェ等、地獄を見る覚悟は出来てるんだろうな」
「かず」
 アニスが何か言う前に和輝は動いていた。
 捻り棄てられた時にバランスを崩していた先程の強盗の背中に、振り上げの反動を利用して下ろした和輝の脚が落とされる。
「ッッ!!」
 和輝の脚は寄生虫によって筋力強化されている為、蹴りも通常の人間の繰り出すそれとは違っていた。 
 強烈なかかと落としに声も出ない程悶えている間に、和輝はその強盗の横に居た仲間の強盗に向かって頭突きを喰らわせた。
 ――倒れる。
 と思ったが和輝はそれを許さなかった。
 左手ですばやく相手の襟を掴むとそのまま引き寄せて、右手で頬と顎の当たりを殴りつける。
 勢いで口から何本かの歯が飛び出したが、和輝は裏拳で反対側の頬をひっぱたく。
「おおおまさに地獄」
 アニスが関心していると、何かに気付いたスノーが叫んだ。
「和輝、後ろ!!」
 言うと同時に彼女の黒くセクシーなランジェリーと、柔らかな肌が硬質なものへと変化していく。
「うぅ……そういえば最初からこうすれば下着姿を見られずに済んだのに」
 魔鎧と化したスノーは反動で女体化してしまった和輝と共に、後ろにきていた強盗の腹に真っすぐに繰り出した蹴りを入れる。
「死になさい! 女の敵!!」
 攻撃をまともにくらった強盗は後ろのディスプレイを巻き込みながら吹き飛んで行くと、山盛りの下着を上に被って動かなくなっていた。
 それを見ていた二人の目に、強い光が入ってくる。
「はあああ!」
 則天去私――心身の調和が取れたモンクのみが体得できる必殺の拳をルーシェリアは繰り出していた。
「ルーシェリアお姉ちゃん凄い! ありがとう!」
 強盗から守らたアニスは目を輝かせてルーシェリアを見ている。
 同性から慕われるというのは何だか誇らしい気分だ。
 ルーシェリアがふふっと笑っていると、反射的に彼女を見ていた和輝と目が合った。
「和輝さん、どうですぅ。
 私も中々やるでしょぉ?」
「ああ、そうだな。だがそれより服を着た方がいい」
「へ?」
 よく分かっていないままのルーシェリアに、スノーの魔鎧化を解いた和輝は着ていた上着をかけてやる。
 そこで漸くルーシェリアは自分が下着姿のまま思いきりよく格闘をしていた事に気付いた。
「あ……私和輝さんの前で……きゃあああ!」
 時すでに遅しなのだが、ルーシェリアは胸元を隠してへたり込む。
 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、和輝は買い物の袋から買ったばかりの服を取り出していた。
「アニス、これ着て」
「ありがとー、えへへ、アニスの下着姿は和輝しか見ちゃ駄目なんだもんね」
「スノーは魔鎧化で我慢しててくれ」
「分かったわ」
 皆下着姿だというのに酷く淡泊にパートナーの世話を焼いている和輝を見て、ルーシェリアはがっくりと肩を落とした。
「……全く反応なしですか?
 ……それはそれで傷付くですぅ」