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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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(存分にこのお祭りを楽しむことにしましょうかね)
 そう思いながら、花祭りの会場を歩くのは鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)だ。
 早速、花を愛でるため、展示会場の方へと向かう。
 様々な大きさの鉢植えに、これまた様々な大きさ、色とりどりの花々が見目良く植えられていた。
(癒されますね……)
 花を愛でながらそう思っていれば、ふと視線の内に仲の良さそうなカップルが映り込んだ。
 好意を寄せていた相手が、最近、別の方と付き合い始めたことを知り、寄せていた思いも儚くなってしまったことを思い出してしまう。
(……心の傷も癒されるといいのですが……)
 思い出してしまった思いを振り切って、貴仁は再び、花へと目を向けた。
 その後も菓子などの屋台を巡って、味覚でも花を楽しんだ。
「それにしても……」
(緒に来たうちのエロ神様が近くに居ませんね。なにか、悪戯しなきゃ良いんですけど……)
 そんなことを思いながら、貴仁は花の形をした焼き菓子を頬張るのであった。



「テキ屋かよ!」
 空京大学時代の先輩のツテでバイトを紹介してもらった如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、案内された屋台の前で、思わず声を上げてしまった。
 けれども、調理が伴わないだけマシだと己を納得させて、いざ、バイトに励み出す。
 商品である小物は、洒落ていて、どんな服装にも似合うのか様々な女性陣がひっきりなしに買いに来る。
 おかげで、休まる暇もないくらい忙しいのだが、その分、これはこれでやりがいがあって楽しいと、次第に感じてきた。
(小物と言っても小さなアクセサリもあるし、少し大きくなればポーチとかケースとか……サイズもいろいろあるみたいだね。中でも、指輪とかネックレスといったような感じの小さいサイズ程度のモノが一番人気があるな……)
 客が買っていくものを見ていれば、どんなものが人気なのかが分かっていく。
 そうして楽しんでいると、客足がやや少なくなった。
 目玉の催し物でも始まったのか、人の流れはステージのある広場の方へと向いている。
「……あ、いらっしゃい! って、美緒とラナさんじゃん」
 それでもふと指した影に顔を上げて声を掛ければ、見知った顔が並んでいた。
「こんにちは。今日は、お店を出してらっしゃるんですね」
「いや、ただのバイトだよ。2人は、祭りを楽しみに?」
 驚いた様子を見せる美緒に、応えてから、正悟は問い返した。
「ええ。昨年、わたくし1人で楽しんだものだから、今年はお姉様にもこのお花の数々を見てもらいたくて」
「美緒が土産話にしてくれた様子がとても楽しそうでしたから、是非、直に見てみたいと思いまして」
 2人の応えに、正悟は「楽しんでいるようだね」と頷いた。
 暫く、祭りの他の会場の様子を聞いたり、他愛もない日常の話をしていると、美緒の視線が売り物の方へと向いているのを正悟は見つけた。
「……良かったら、1つずつどう? プレゼントするよ?」
「いえ、そういうわけにはまいりませんわ」
 正悟の申し出に、美緒は首を振って遠慮する。そのまま押されてしまわぬよう、見るのもそこそこに、色違いでお揃いの花のブローチを購入した。
「あまり長居をしては、お店番の邪魔ですわね」
「そろそろ他のところを見に行きましょうか、美緒。それでは」
「お買い上げありがとうございました。気をつけてな」
 歩き出す2人を見送って、正悟はバイトを再開した。



「何があるのかしらね」
 花をモチーフにした菓子や料理が出されると聞いた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、会場を訪れていた。
 食べられるだけ食べるつもりではいるけれど、それでも限界はある。それに、食べすぎは……太る元だ。
 彼女は先ず、屋台の端から端まで歩いてみて、どんな菓子や料理が並んでいるのか確認した。
 飴細工や焼き菓子を中心に、食べるのも惜しいほど可愛らしい菓子や彩り良く手の込んだ料理がそれぞれの屋台で提供されている。
 一通り確認し終えた祥子は食べたいと思ったものから順に食べ始める。
 最初はあっさりと、食用花を用いたサラダを口にした。
「う……」
 ドレッシングとの相性がイマイチで、早々に凹んでしまうけれど、完食し終えた後、花の形をしつつもふんわりとした食感の焼き菓子を口に運んだ。
「美味しい……!」
 こちらは程よい甘さが口の中に広がって、素直に賞賛の言葉が漏れる。
 屋台の間を進みながら、祥子は目に付けていた菓子や料理を食べては、一喜一憂した。
「それにしても……この広場、ちょっと暑いわね? 人が多いから、かしら?」
 屋台の先にある広場に着く頃にはそう感じていて、彼女は羽織っていた上着を1枚脱ぐのであった。



 花祭りの会場へと訪れた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)とパートナーであり恋人でもある東峰院 香奈(とうほういん・かな)は、会場を彩る鉢植えの花を見て回っていた。
「この花、昔しーちゃんが私にプレゼントしてくれた花に少し似てるね?」
 そう言いながら微笑む香奈が指差した花は、百合の1種だ。言うとおり、彼女が髪飾りとして付けている花に良く似ている。
「オトメユリか〜懐かしいな〜」
 忍もその花を見て、懐かしさに頬を緩めた。
 香奈が付けている花は、姫小百合の花を真似て作ったアクセサリーで、彼が初めて彼女にプレゼントした想い出の品物だ。
 姫小百合――またの名をオトメユリと呼ばれるその花は、香奈の気に入っている花の1つで、それを知った忍が一生懸命、真似て作ったのだ。
 そんな百合の鉢植えをじっくりと見てから、2人は次の鉢植えの方へと移動した。