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料理バトルは命がけ

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料理バトルは命がけ

リアクション

『さてドンドン行くよー! 次からはちょっとお料理のジャンルが同じものが続くよ!』
『えっと、次からは洋食の料理が続くみたいだね。それじゃ、始めるよ!』

「さ、たーんと召し上がってください♪」
 小野寺 裕香(おのでら・ゆうか)が各々に配ったのは、見た目はごく普通のハヤシライス。
「また汁物か……」
「ハーティオン大丈夫?」
 ラブに問われると、ハーティオンは振り返りながら言った。
「大丈夫だ、問題ない」
「それ死亡フラグよ……しかもかなり古い……」
 そんなやり取りをしつつ、審査員達がハヤシライスを口に運ぶ、

「「んぶッ!」」

 そして正悟とラブが噴出した。二人して口を押えて床に転がっている。
「え!? ど、どうしたんですか!?」
「あー、やっぱこうなったか」
 その光景を見て裕香はおろおろとするが、矢雷 風翔(やらい・ふしょう)は予想がついていたのか冷静に呟く。
「んー……この感じ、酸か? 変なもん入れるよなぁ」
「お、よく解ったな。その通りだ」
 菫の言葉に感心したように風翔が言った。酸味を入れる為に酸を入れる、というとんでもない事をしでかしているハヤシライスであった。今床でのたうちまわっている二人は焼ける口内の痛みと戦っている所だ。
「というかよく平気だな」
「あたしはまぁ耐性があるってことで」
「ヒ……トオッテル」
 菫とベアードはそう言いつつ、酸入りハヤシライスを口に運ぶ。
「グルルゥ……ギャオォォォォ!」
 そんな折、ドラゴランダーが吼えた。その咆哮はまるで怒っているようであった。
「何かあれ怒ってるっぽいな」
「そりゃ怒るでしょ。肉と見せかけて木の皮なんて入っているし……痛ッ!」
 菫が何かを吐きだす。そこには刃物の破片が転がっていた。
「あ、包丁欠けていると思ったら中にあったんですね」
「本当にろくなもん入れないね」
「……ウマ(ブシュッ)」
 そうこうしている内に、ベアードが完食直前、血を噴出し倒れた。刃に当たったようである
「ギャイン! ギャイン!」
 その横ではドラゴランダーが首を横に振ってハヤシライスを残していた。肉の代わりに木の皮が入っていたのが気に入らなかったようだ。
「……あ、あら? 何かお二人が痙攣しているんですが……」
 裕香の言う通り、床をのたうちまわっていた二人がピクピクと痙攣していた。
「あー、そういや変なキノコ入れてたっけなー」
「本当にろくなもん入れないわね……ほい、完食っと」
 そうこう言っている内に菫も皿を空にしていた。
 結果としては2名が完食、4名がギブアップという評価に終わった。
 ちなみにハーティオンは初めの数口で体が動かなくなりギブアップとなった。汁物の上酸は拙かったようでひっそりと死亡フラグを回収していたのであった。

「さて、次は私達のようだな」
 自信満々の笑みを浮かべてミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)が皿に盛りつけるのはカレーである。
「おいミリー、オレが作ったハンバーグ均等に入るようにしろよ」
「うむ、わかっているとも」
 横からセレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)の指示を受けつつ盛り付けた皿を審査員達に配る。見た感じは一口サイズのハンバーグ入りのカレーである。
「……やけにシャバシャバしてるな」
「やたらと水っぽいわね……」
 正悟と菫の言う通り、ルーが随分と水っぽいカレーであった。
「ふふふ……味を加える為に梨を入れたのでね。リンゴでないところがポイントだ」
 ミリーネの言葉に二人がげんなりとした表情になる。梨に含まれている水分で薄まったのだろうか。
 それでもカレーならば大抵の味は消える。多少の不要な素材があったとしても大丈夫である。
「「んぶッ!」」
 その幻想は、一口食べてぶち殺された。
「どうだ、中々の味だろう?」
 口を押えて悶える二人に自信満々のミリーネ。何処をどう取ればそうなる。
「〜〜〜! あ、甘ッ! 何だよこれ!?」
 漸く口を開いた正悟。口の中ではカレーの味と同時に、甘い味が広がっていた。それは交わることなく不協和音を奏でている。
 そんな正悟を見てミリーネが不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、チョコを入れるとコクが出るというからとりあえず大量にぶち込んでみた。辛さと一緒に甘さも味わえる、という私の発想はどうかな?」
「ろくなもんじゃないっての……うぇ……」
 菫が口の中に残る甘味に顔を顰める。
「……はて、カレーとはこのような味だったろうか?」
 横でヒョイヒョイとカレーを口に運び、ハーティオンが首を傾げる。
「そんなわけないわよ……これは無いわ……」
 その横でラブが顔を顰める。その隣ではベアードが何も言わずヒョイヒョイとカレーを口に運んでいた。火が通っていれば何でもアリか。
「ギャオォォン!」
「あら、ドラゴランダーどうしたのかしら?」
「ふむ、ハンバーグが入っているのが嬉しいようだ」
「ああ、それはオレが作った奴だな。折角だから食ってくれ」
 セレンに促され、ハンバーグをスプーンですくうと全員で口に運ぶ。
――その瞬間、セレンの口元が歪んだ。
「ぶぉあッ!?」
 噛んだ瞬間、正悟の口の中が爆発した、
「「んぅぅぅぅぅ!」」
 その横では菫とラブが口を押えて床を転がりまわっている。
「よっしゃ、成功!」
 その姿にセレンがガッツポーズを決める。
「せ、セレン殿! 何をしたのだ!」
 ミリーネが慌ててセレンを問い詰める。
「ん? いや辛さを調節するためにさ、ハンバーグの中にハバネロと青唐辛子を仕込んだカプセルを入れといたんだよ」
「あ、あの爆発は!?」
「刺激欲しいだろ?」
「あ、貴女という人は食べ物を何だと思っているのだ!」
「いやその辺はお前に言われたくないんだが」
 屍を築いたその横では、
「……」
ベアードがひっそりと死んでいた。爆発する奴に当たったようである。
「ギャオォォン!」
 そしてドラゴランダーは嬉しそうに尻尾を振っていた。肉であれば辛かろうが爆発しようがどうでもいいようである。
 ちなみにハーティオンは恒例の如く固まっていた。水分と糖分がダメージだったようである。
 結果として見てみると、5名をダウンさせて終わった中々の危険物質が出来上がったようである。

「……どうぞ。熱いので気を付けて」
 セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)が淡々と無表情に審査員に配るのはハンバーグである。
 熱せられた鉄板皿に乗せられ、かけられたデミグラスソースがジュウジュウと音を立てている。
 見た目に関しては普通、というよりは美味しそうな部類に入る物である。匂いに関しても特に問題は無し。
 恐る恐る一口サイズに切り分け、審査員達は口に運ぶ。
「「「げふぉあッ!」」」
 そして吐き出す。
 菫、正悟、ラブが口を押さえて倒れ込む。もう今日何度目かわからない光景だ。
「あ、甘ッ!? 辛ッ!?」
「か、辛! 痛ッ!? んで甘ぇ!?」
 菫と正悟がのた打ち回りながら口にするのは『辛い』という単語と『甘い』という単語である。どちらか、ではない。どちらも口の中を襲っていた。
 あまりの凄まじさに、ラブは既に意識を手放していた。
「……ク、クククッ、アハハハハッ! どうですかお味は!?」
 無表情から一転、邪悪な笑みで高笑いするセイル。
「辛くもあって甘くもある……それで正解ですよ。今回ハンバーグにはタバスコ……なんて物よりはるかに凄い物を入れてあります」
 そう言ってセイルが取り出したのはとある瓶。
「このスパイスは710万スコヴィルというタバスコの約3千倍の辛さを誇る物です……たったの大匙2杯しか入れていませんが、タバスコで換算すると約90リットル分は濃縮されているのですよ! 生きながらにして口を焼かれる感触は如何ですかね!?」
 ちなみに710万スコヴィルという数値は警察などが使用する鎮圧用催涙弾を超える数値であるらしい。
「辛いだけではなんなので、デミグラスソースには砂糖の約1万倍甘いと言われているネオテームを使用してみました! 砂糖にして90kg相当の甘さなんてそう味わえるものではないでしょう! 極限の辛さと甘さが奏でるハーモニーを堪能なさってください!」
 高笑いを上げるセイル。菫と正悟はのたうちまわっていたが、やがてゆっくりと首と手を横に振った。『もうアカン』という意味だ。
「やはり料理は破壊力ですね……しかし……」
 くるりとセイルが向き直る。視界に入ったのは、ハーティオンとベアード、ドラゴランダーの3名である。
「甘いソースに辛いハンバーグ! そういうのもあるのか」
「……ウマイウマイ」
「ンギャオォォォン!」
 3名の前には、空になった鉄板皿が残されていた。
「……人外に対する破壊力を考慮に入れるべきでしたか……」
 それを見て、セイルは顎に手を当て考える仕草を見せた。
 味覚を持つ生物相手には効果的であったが、持たない者には通用せず、という結果で終わった。

「次はエーファ達だよー。エーファのほっこほこオムライス、ふわとろ卵仕立てを召し上がれー」
 エーファ・ブラマンジェ(えーふぁ・ぶらまんじぇ)が運んできたオムライスを見て、審査員一同『え゛!?』と声を出して固まった。
 そこにあったのはオムライス――と呼ぶには明らかに色が異なっていた。
 卵は黄色……ではなくラベンダーの色をしているし、かかっているソース(恐らくデミグラスソース)は空色。所々見えるキノコはパステルピンクで、チキンライスはミントグリーンであった。
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!」
 カイ・フリートベルク(かい・ふりーとべるく)が思わず叫ぶ。
「オオカミ君うるさいー」
「うるさいとかじゃねぇよ! 何だあの色は!? 作る前まであんな色してなかったじゃねぇか! 炒める作業の後何があったんだよ! 思い出そうとしても(中略)ってなって思い出せないし!」
「そこは企業秘密、というものだよーオオカミ君」
 ちっちっち、とエーファが指を鳴らす。
「中の米や肉まで変色させるってろくな企業じゃねぇな……」
「ま、まぁまぁ……不思議な色、だけど……私は……綺麗、だと思う……な」
 どうどう、と玖珂 美鈴(くが・みれい)がカイを宥める。
「いやいや、食事にあんな色を求めるのが間違えだろ……俺だったら食う事を拒否するわ……」
 カイは疲れた様にげんなりした表情になった。
「ささ、冷めないうちに召し上がれー」
 エーファが勧めると、躊躇いはしたもののゆっくりと審査員達はオムライスを口に運んだ。
 そして、動きを止めた。
「……う、美味い?」
 そして首を傾げている。見た目に反して美味のオムライスに。
「味は普通なんだよな、あれでも……」
「美味しい、よね……エーファの料理…‥‥」
 そのリアクションを見てエーファの料理の味を知るカイと美鈴が呟く。
「あれ、食べてみたいな……で、でも……審査員じゃないとダメ、だよね……後で余り、貰おう……かな……」
「いや待てお前、ルール思い出せ。絶対何か仕掛けられてるぞ……ってほら、見てみろ」
「あ……」
 カイに促され、美鈴が審査員を見る。そこでは笑い転げている正悟とラブが居た。ハーティオンとベアードも動きがどことなくぎこちない。
「……おい、何入れた」
 カイがジロリとエーファを見ると、彼女が取り出したのは先程カイ自身が切っていたキノコであった。
「隠し味のキノコー、パッと見マッシュルームっぽいけど何とびっくり笑い茸ー。美味しすぎて笑いがまんなくなっちゃう仕様なのー」
「そ、それかよ……って待て、この場合俺が悪いことになるのか?」
「犯人はオオカミ君ー」
「か、カイ……? ひ、ひどい……」
「いや待てそんなわけねぇだろ!」
――結局、キノコの効果により途中で4人は食べきれなかったが、耐性のある菫とそもそもキノコを食べなかったドラゴランダーの2人は無事残った。

「はぁい……フラット達の料理はこれよぉ……」
 フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)が審査員達に配るのはオムライス。最近よく見かけるようになったチキンライスの上にオムレツを乗せるタイプの物である。
「さぁ、召し上がれぇ……」
 ニヤニヤと口を歪めてフラットが言う。その後ろではフラットと同じようにニヤニヤと笑みを浮かべるミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)と、ワクワクと何か期待しているような顔をしているトラキア・オルフェ(とらきあ・おるふぇ)が居た。
 その存在を不気味に思いつつ、オムレツをそっと割る。
『う゛……』
 そして手を止める。
 中に入っていたのは、牛の目玉。そして色がおかしい肉に群がる蛆虫であった。
「ふむ、オムレツにはこんな物が入っているのか」
 ハーティオンが首を傾げるが、そんな彼を見てラブがブンブンと首を横に振る。
「いやいやいやいや! そんなわけないわよ! 何よこれ!」
「おかしい……ぜってぇおかしい……こ、こっちは大丈夫だよな?」
 正悟がチキンライスを見る。見た目は普通であるが、オムレツがオムレツだけに何があるかはわからない。作り手を見てもニヤニヤと笑っているだけ。
 腹を括り、チキンライスにスプーンを入れた――瞬間、爆発した。
 爆風自体は大したことないが、チキンライスが爆散するのには十分な物。中に入っていた金属製の杭やガラス片といった凶器が審査員に突き刺さる。それと同時にオムレツの中身も散乱。
 出来上がったのは凶器が突き刺さり、目玉や蛆虫塗れになる審査員達であった。
「ぃやったぁ! 大成功ー!」
 その光景を見てトラキアが大いにはしゃぐ。
「うふふ……やったねぇミリー……」
「上手くいったねーフラット」
 フラットとミリーが口の端を吊り上げる様にして笑みを浮かべた。
 爆発により菫、正悟、ラブ、そしてベアードが倒れたまま起き上がらない。
「……今の爆発でオムライスがなくなってしまったのだが、この場合どうなるのだ?」
 爆発に耐え切ったハーティオンとドラゴランダーが、空の皿を前に首を傾げた。
――結果としては、4名が失神KO。残り2名は完食という評価で終了することになった。