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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!
寂れたホラーハウスを盛り上げよう!! 寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

リアクション

 一階、長テーブルが置かれた食堂。中は喫茶店で土産屋が併設されている。薄暗い店内を至る所にある蝋燭で照らし、静かな音楽が雰囲気を盛り上げている。

「ホラーハウスって聞いて心配したよ。お客さんとかだと思って。シンくんは?」
 イリア・ヘラー(いりあ・へらー)はほっとしたように同じように厨房にいるシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)に言った。
「……オレは大丈夫だぜ。ただの子供だましだろう。あんなの別に怖かねぇし……それより」
 と言いつつ料理の手を止めた。先ほど作っていたホラー料理が完成した。
 二人がいる厨房は、調理のため照明が明るい上に客席や併設されている土産屋も見渡せる。

「うわ、これあの料理のアレンジだね」
 イリアはシンの料理を見て声を上げた。見た目はホラーだが漂ってくる匂いは食欲をそそる。
「あぁ、ホラーを多めにしてみた」
 シンは一通りメニューを見てその中でも地味な料理をアレンジしていたのだ。
「お客さんのアイディアを受け付けたらもっと盛り上がるかも」
 そう言い、イリアも料理を始めた。
「試食して貰って商品化出来るか決めるか。ここは好きにしていいと言われてるしな。時々、ホラーらしく客を襲ってもいいとか」
 雇われた時にユルナに言われた事を思い出していた。怖いのが苦手なのに怖がらせ役を担う事になるとは予想外だった。そのため服装は地獄のコック姿である。
「そんな事言ってたね。写真の切れ端もあるもんね。もう少ししたらユルナさんも来るから彼女にも試食をして貰おうよ。イリアも完成!」
 そう言ってイリアは厨房近くの席をちらりと見つつ料理を完成させた。

 ちょうどその時、

「何か手伝える事は無いかのぅ」
 厨房近くの席に座っていたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が二人の様子を見に来た。ついでに何か手伝える事は無いかと。

「あ、ダーリン! ちょうど良かった。じゃーん」
 イリアは嬉しそうに先ほど完成した自分の料理とシンの料理を披露した。
「ほう、美味しそうじゃのぅ」
 ルファンは、二人の料理を見て感想を口にした。
「イリアとシンくんが作った料理だよ。メニューに載せられるか試食して」
 客が来るのはもう少し先なので今試食が出来るのはルファンだけ。
「よかろう」
 ルファンは快く二つの皿を手に近くのテーブルに行った。
「食べたら感想を教えろ。メニューの数が増えればハウスにも貢献出来るからな」
 シンは試食を始めたルファンに言った。
「うむ、承知した」
 シンに答え、早速試食を開始した。しばらくして二人の料理を食べ終え、空っぽになった皿を持って二人の元に戻った。

「で、どうだった?」
「メニューに入れられるか?」
 イリアとシンはルファンの判定が聞きたくて声を高くする。

「文句無しじゃ」
 ルファンの答えは一言だった。
 シンのホラーハンバーグはボリュームがあり、美味。見た目も怪しげな色のソースに奇妙な色をした目玉焼きが載っていた。アレンジ前は、ハンバーグとシンより迫力のないソースがかかっているだけだった。
 イリアは、真っ青なチャーハンを紫と赤色のグラデーションの卵焼きでくるんだオムレツだった。怪しげな色のソースで『ダーリンへ』と書かれてあった。

「ありがとう!」
「……そ、そうか」
 イリアは嬉しそうに言い、照れ屋のシンは言葉をどもらせた。

 この後、営業開始となりイリアは料理と接客に奔走し、シンは地獄のコックとして料理兼驚かし役を担当、ルファンはユルナが来るまで二人の手伝いをした。

 一階、読書好きの長男の書庫。

「真一郎さん、素敵だよ」
 純白プリンセスドレスを着たルカルカ・ルー(るかるか・るー)が嬉しそうに同じ驚かし役の鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)に言った。
「ルカルカも似合っていますよ」
 そう言う真一郎は、ボロボロのトレンチコートに帽子を目深に被り、中身はゾンビ風メイクをしていた。

「こうやって真一郎さんとデートが出来てルカ嬉しいな」
 ニコニコとルカルカは嬉しそうに言った。
「あぁ……デート、なのか?」
 ルカルカに頷くも思わず、疑問を口にしてしまう。デートならばもう少し明るい場所でもいいような気もするが。

 そこにもう一人、この部屋を担当する驚かし役が現れた。

「……薄暗く、静か。楽しくなりそうね」
 ルカルカと真一郎よりも早く来ていたセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)は艶やかな笑みを浮かべながら書庫を歩き回っていた。その笑みがとても似合うような格好をしていた。
 コウモリの翼に悪魔の角と尻尾を付け、胸を強調した純白の拘束具に似たボンテージにアームグローブ、サイハイソックス、ロングブーツ姿の妖艶なサキュヴァス。

「……あたしの他に誰かいるみたいね」
 楽しい計画を立てながら歩いていたセフィーは、前方から甘い話し声を耳にした。

「あんた達もここなの?」
 甘い空気を作り出しているルカルカと真一郎に訊ねた。

「そうだよ」
「あなたもですか」
 ルカルカと真一郎はほぼ同時に答えた。

「そうよ。やって来た人を驚かせる役。こんな面白い依頼、楽しまない訳にはいかないもの」
 セフィーはふふふと妖しい笑みを浮かべながら言った。すっかり何をするのか考えているようだ。その内容は着ている衣装が如実に語っている。
「だよね。ルカも真一郎さんと本物の恐怖というものをお客さんに与えるんだよ」
 ルカルカはこくりとセフィーの言葉に頷いた。
「……本物のねぇ。なかなか素敵じゃない」
 セフィーはじっと獲物を見る目で純白プリンセスドレスを着たかわいいルカルカを見た。
「それより、二組いる事ですから順番でも決めませんか」
 真一郎は危険を察し、ルカルカの前に立った。セフィーにルカルカが見えないように。
「あら、優しいのね。あたしはどっちでも構わないわよ」
 セフィーは真一郎にも獲物を狙う目を向け、口元に笑みを浮かべた。
「そうですか。どうしますか?」
 どんなに艶やかな笑みを浮かべても動じない真一郎は背後にいるルカルカに聞いた。
「じゃぁ、ルカ達が一番!」
 真一郎の後ろからルカルカが答えた。すっかり見えなくなって声だけ。
「それで構わないわよ。あたしは色々と準備をしたりと適当に時間を過ごすわ」
 セフィーはそう言って書庫の奥に引っ込んだ。

 一階、廊下。

「この絶好の機会に適任を出撃させない訳にはいかないでありますよ!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は共に驚かし役として連れて来たイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)に言った。
「適任なのはともかく我は何をすればよいのだ?」
 イングラハムは薄暗く静かな廊下を見回しながら吹雪に計画を訊ねた。
「ナノマシン拡散を使い、そのヌメヌメを使うでありますよ。いい声でささやくのもありであります」
 あらかじめ考えていたのか吹雪はすぐに答えた。
「そして、自分は透過飴を使って連携するでありますよ。細かな指示はその都度出すであります」
 吹雪は自分の行動もきっちりと伝えた。
「……吹雪、誰かいるようだ」
 吹雪に答えようとしたイングラハムはふと視線の先に誰かがいる事に気付き、注意がそちらにいった。
「本当であります。同じ驚かし役でありますかー?」
 吹雪もつられるように振り向き、やって来る黒ローブの人物に訊ねた。

 ホラーハウスの話を聞きつけ、驚かし役として参加したエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)
「なかなかの環境ですね。雇われた以上は思い切り怖がらせないといけませんね」
 ゆっくりと薄暗い一階の廊下を歩き回っていた。

「しかし、場違いな道具には笑いましたが、どこのスプラッターハウスなんでしょうねぇ」
 ふと用意されたチェンソーなどの道具を思い出し、薄く笑った。
「この黒ローブ姿で視覚的なトコロから攻めてみますかね」
 闇にも紛れるほどの漆黒のローブにフードを深くかぶっているエッツェルはすっかり計画を立てていた。特殊メイクが必要無い自分の容姿を存分に活用しようと。

 歩き回っていたエッツェルはふと呼び声に気付き、足を止めた。
「私と同じ役目の人がいるみたいですね」
 視線の先にいたのは吹雪とイングラハムだった。
「あなた方も驚かし役ですか」
 声をかけてきた二人に言った。
「そうであります。よかったら連携などしませんか」
 吹雪は驚かせるバリエーションを増やそうとエッツェルに連携の提案をした。
「構いませんよ」
 エッツェルは、断る理由はどこにも無いので申し出を受けた。
「我らがエッツェルがいる場所まで追い込もうと思うが」
 イングラハムが詳しい計画を説明した。
「それで問題ありませんよ」
 追い込まれた客にとどめを刺す役目となった。
「では連携実行の際は、連絡をするであります」
「分かりました。では……」
 実行の際の連絡手段を話し合ってから三人は別れた。
 吹雪とイングラハムは一階の廊下に待機し、エッツェルはハウス内をゆっくりと歩き回った。
 途中、地下室の驚かし役の勧誘を受け、
「……参加出来そうであれば、時間を見計らい次第、向かいますよ」
 とエッツェルは地下室の演出家に答えた。