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今年もアツい夏の予感

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その6:安全運転してください。 


「ククク……素人がロボットなどを扱おうとするからそんな事態に陥る。ここは、この専門家に任せてもらおうか」
 トレードマークの白衣をなびかせて、プールサイドに真打が登場します。悪の秘密結社オリュンポス大幹部、ドクター・ハデス(どくたー・はです)。彼もまた、自慢の掃除メカを引っさげてやってきたのでありました。
「プール掃除であれば、この天才科学者である俺の発明品に任せておけ!」
 水着の上から白衣を羽織ったハデスがどこからともなく取り出したのは、謎のリモコンです。
「さあ我が発明品、水中専用お掃除ロボ・オクトパXよ! プール掃除など、とっとと片付けてしまうのだっ!」
 ハデスの背後からリモコン操作で現れたのは、【オートマタ】を改造して造った『自称・水中専用お掃除ロボ』です。そいつが五匹(?)も現れます。その形状は、丸っこいボディから、掃除用アーム兼ホースが8本伸びているというもので、一言で言い表すなら、巨大なタコっぽいロボなのでありました。
 ハデスの指示に従いオクトパXは忠実にプールを掃除し始めます。サクサク作業を進めていきますが、昨年から放置されてあったプールはさすがに汚さも一筋縄ではいきません。
「……むう、このプール、なかなかに手強い汚れだな。ククク……こうなったら、隠し機能・全方位シャワーの出番だな!」
 思っていたほど効率よく進まないのに痺れを切らして、ハデスは、リモコンに隠しコマンドを入力し、一気にプール掃除を終わらせようとします。
「あっ……! ちょ、ちょっと、兄さん! 何ですか、そのロボットは!?」
 掃除ロボの駆動音を聞きつけ、慌てて駆け寄ってきたのはハデスのパートナーの高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)です。
「見ての通りのオクトパXだが、なにか?」
「今すぐに止めてください。兄さんが掃除用ロボット出すと、大抵暴走するんですから!」
「くくく……、心配は無用だ。今のところ何の異常も……おや?」
 ハデスは首をかしげながらリモコンをカチカチといじり始めます。どういうわけか、ロボが言うことを聞かなくなってしまいました。
「むう、いかん。今の全方位シャワーで、オクトパXの制御コンピュータの回路がショートしたか」
 うねうねとホースを触手のように蠢かせ水を噴射させながらあらぬ方向へ動き出したロボを見て、ハデスは納得気味に頷きます。
「やはり、予算をけちって、防水機能を付けなかったのは失敗だったようだな。今後の課題にしておこう」
「ああっ、やっぱりこの展開ですかっ! アルテミスちゃん、せめて、他の人たちに害が及ばないように……」
 咲耶はアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)に助力を求めます。
「わ、分かりました、咲耶お姉ちゃん! 暴走したロボの被害が他の人に及ばないように、食い止めます!」
 スカート付きのワンピース水着を着たアルテミスは、駆けつけてくるなり暴走したロボたちを食い止めるためにその前に立ちふさがります。
「ここはオリュンポスの騎士アルテミスが通しませんっ!」
 凛々しく宣言しながら愛用の剣を構えようと背中に手を回しますが……当然、そこには何もありません。
「ああっ、ぶ、武器がないですっ!? ……って、きゃああっ!」
 アルテミスが戸惑っているうちに、タコ型掃除ロボオクトパXはホースを触手のように伸ばし獲物を捕らえます。
「きゃっ、だ、だめっ! 変なとこ触らないでっ…!」
 オクトパXの触手はアルテミスの身体をまさぐり始めます。
「あ、アルテミスちゃんっ! 待ってて、今助けてあげるから……って、こっちにも来たぁ!?」
 唖然と事態を見つめていた咲耶も後ろからやってきたオクトパXの触手に絡め取られてしまいます。
「きゃああっっ、水着が……!? やめて、やめてぇっっ!」

グシャッ! バギバギバギバリリリィッッ!

 いいところだったのですが、どういうわけか不意に横合いから飛び出してきた巨大なロードローラーがオクトパXに衝突し轢き潰してしまいます。といいますか、このレジャープールの中にどうやって入ってきたのでしょうか、こんなロードローラー。不気味な駆動音をかき鳴らして走っていきます。
「……ん? なにか踏んだか……?」
 掃除ロボに衝突したロードローラーを操っているのは黒髪ロングの小柄な女の子柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)です。彼女はパートナーの徳川 家康(とくがわ・いえやす)の提案で、自前で用意した愛車、『轢キ潰ス者(ロードローラー)』のローラー部分をモップ生地でぐるっと巻き、効率よくプール掃除をしている最中だったのです。これでも、真面目に作業に取り組んでいるのでありました。
「ふむ、意外に何とかなるものじゃな。バカと鋏は使い様とも言うが、まさかこれを掃除に用いる日が来るとは」
 助手席の家康は一人頷きます。
「氷藍、ちゃんと安全運転じゃぞ? これが超重量級のロードローラーだという事を忘れてはならん」
「家康ー、お前の案も中々どうしてぶっ飛んでるようで役に立つじゃないか」
 愛車の快走に氷藍が満足げに笑みを浮かべた時でした。
「……ん、なんだあいつは……?」
 プールの片隅で、じっと氷藍たちを見つめているサングラスの人物に気づいたのです。そいつは、氷藍を探してやってきたジャクリーン・ヘンドリクソン(じゃくりーん・へんどりくそん)と言う名の人物で、あろうことかバイクに跨がり銃剣を担ぎ、一心不乱に何かもぐもぐと食べています。
「何だあの兄ちゃん……ギャグか? 罰ゲームか何かか? とにかく相手にしない方が……」
「……」
 ジャクリーンは氷藍と目が合うと同時に、バイクのスロットルを全開にします。轟音と共に猛スピードで追いかけてきたではありませんか。
 ドゥン、ドゥン!
「はぁぁぁ……っ!?」
 氷藍は目を疑います。発砲してきたのです。大勢がいる前だというのに。
「って来た!? こっち来た!! 逃げるぞ家康! 絶対あれは相手にするとろくな事が無い!!」
「……逃げろ、逃げるんじゃ! ただし安全運転……安全運転しろと言っておろうがぁあ!!!」
 ロードローラーのスピードを上げる氷藍、ウォォォン! とバイク音を響かせながら追いかけてくるジャクリーン。一体何が起こっているのでしょうか……?