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リアクション
その8:いよいよプール開きです。
全員が力を合わせて掃除したプールに綺麗な水が張られることになりました。昨年からの汚れは完全に落とされ、今年の新しい夏を飾るにふさわしいプールとして生まれ変わったのです。
「皆様のおかげです。ありがとうございました!」
管理人の沢渡 宗男は、掃除に協力してくれた全員に目いっぱいの感謝の言葉を投げかけました。
「前置きはいたしません。皆さん、存分に楽しんでくださいっ!」
さあ、楽しいプールの時間の始まりです。
○
「よーし、ようやくこの日が来たな。今日はこの夏一足早く泳ぎをマスターするぞ」
シャンバラ教導団の源 鉄心(みなもと・てっしん)は、さっそく小さな子供用のプールにやってきました。彼が決意を込めた台詞をはいたのは、もちろん自分が泳げずにマスターするためではありません。パートナーのイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が泳げないため、手ほどきをしにきたのです。
「とりあえずは浅い所で練習だな。足がつくなら怖くないだろ?」
「お、おう……ですわ」
掃除疲れで少々テンションが下がっていたイコナはそろりそろりと水に足をつけます。
「冷たっ!?」
「シャワーしっかり浴びただろ。準備体操もしただろ。なら平気だ、最初は冷たく感じるけど、すぐになれるから。ほら……大丈夫だからゆっくり入ってごらん……」
先に水に入った鉄心は、戸惑いぎみのイコナの手を取って優しく招き入れます。
「あ、あううう……。ひっ……ふぅ……」
イコナは息を止めながら少しずつ水に入ってきましたが、いったん肩まで浸かってしまうとすぐに慣れたようにニッコリと微笑みます。
「えへへ〜、気持ちいい〜です」
特に専門的な水泳トレーニング知識があるわけではありませんが、鉄心は基本的な水との接し方から教えていきます。ゆっくりと何度も繰り返して。
「ほら、じたばたするな。もっと力を抜いてだな……」
「はい、ですわ」
バシャバシャバシャ……。
水を怖がって自滅さえしなければ、慣れれば泳げるだろうから、焦って成果を出そうとしなくてもまぁ大丈夫だろう……などと考えながら、鉄心は出来るところから出来るところまで焦らずにゆっくりと教えていきます。
「よ〜し、いいぞ。その調子その調子」
変にスパルタで苦手意識を増幅させてしまっては逆効果だろうと、鉄心は時には褒めながら訓練を進めます。
「こ、これくらい、当然ですわ!」
いつもあんまり構ってくれない鉄心が優しい(?)のでテンションあがって元気になっていくイコナ。
「今日中にあの滑り台を逆流できるくらいになって見せますの!」
「そうか、後で一緒に登ろうな」
「はい、ですわ」
鉄心は、水に浮いて息継ぎさえ出来るようになればあとはどうとでもなる、と速く泳ぐ技術を覚えさせるより溺れない為の心構え、と訓練を施します。
「大分泳げるようになってきましたわ。もう一人でも大丈夫な気がしますっ」
「そうか……じゃあ手を離してみるぞ」
これまでは鉄心が手を引いていたところ、そう言うならと手を離してみます。
「……ぶくぶくぶく」
「……はい、もう少しがんばろうな。イコナなら出来るさ」
すぐに助けあげ、ゲホゲホ咳き込むイコナを鉄心は慰めます。
「まあ、無理せずにゆっくり習得しよう。今日は時間はたっぷりあるんだからさ」
「……はい、ですわ」
無理はさせず、適度に休憩を挟みながら、進歩があったら褒めて。本人がやる気になってきたらある程度自主性に任せて。溺れてしまわないようにそれとなく見ててはやろう……と鉄心が考えていると
「……」
向こうから見覚えのある顔が流れてきて鉄心は目を丸くします。ぷっかり浮いたまま流れてきたのは、我慢大会に出場しているはずの小暮でありました。
「あ、小暮さん……」
イコナの練習のため遊んでもらえず退屈していたティー・ティー(てぃー・てぃー)が小暮の傍まで寄っていきます。
「優勝おめでとうございます! がんばったですね」
「……」
「……もしかして、負けたんですか?」
「……100%の確率で」
「調子、悪かったんですよね……?」
ティーが苦笑すると小暮はポツリと呟きます。
「160%の力を出し切った。いい勝負だった、悔いはない……」
「でも、何でもやりすぎは体にも良くないですから。……それより、鉄心もイコナちゃんも二人の世界でヒマだし、遊んでくれませんか?」
ティーは思い切って言ってみます。
「今遊んでいるが」
「浮いているだけですよね……? ……じゃあ私も浮いてみます……」
「……」
「……あの、楽しいですか、これ……?」
「50%くらいの確率で」
二人はしばらく空を眺めながら浮いていました。時間がゆっくり流れていく……そんなのもいいかも、とティーは思ったりしていました。