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今年もアツい夏の予感

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今年もアツい夏の予感
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リアクション

 少し場面を変えてみましょう。
 同時刻……。
 参加者たちの協力により、屋外プールの掃除はほぼ終わりかけていました。底に溜まっていた汚い泥やゴミなどは処理され、後は最後の仕上げにもう一度磨き上げるだけ。そんな状況の中、遊戯用の流れるプールでは、仕上げに取り掛かっている人たちがいました。
「も、もう〜……お掃除していない人の分まで私が頑張らないと……」
 イルミンスール魔法学校生のリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は、さっきから真面目に掃除する気配もなく長円形プールで競走して遊んでいるパートナーのハーフフェアリーマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)とドラゴニュートのナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)を見やりながら、懸命に作業に取り組んでいました。
 流れるプール近くの蛇口にホースを繋いで、流れるプールの外側で洗剤を使い汚れを一緒に排水溝に落とそうとしていると、目の前のプールの底ををデッキブラシを手にしたマーガレットとナディムが駆け抜けていきます。もう一周もう一周といいながら、何度競走しているのでしょうか、この二人は……。注意しても聞いてくれないので、リースはため息をつきながらも見て見ぬフリをするしかありません。
 といいますか、リースは今はっきりと光景が見えているのでしょうか。普段は眼鏡をかけているのですが、今日はプールということで裸眼なのです。実は周りがぼんやりとしか確認できておらず、全然別のところを掃除していたりします。
「あれは、一度ひどい目にあうか、他人に迷惑をかけて思い切り怒られた方がいい」
 プール内を競走している二人を睨みながら言ったのは、リースのパートナーの一人桐条 隆元(きりじょう・たかもと)です。彼はリースと共に真面目に掃除をしているのですが、そろそろ二人のおふざけに不快になってきているようです。
 そんな気も知らず、ビキニとショートパンツの水着姿のマーガレットは、流れるプールを走ってる最中に転んだりしたら格好悪いからということで、足で上手くブレーキをかけて水飛沫を飛ばしながらズシャー! と滑るように流れるプールの曲がり角を曲がろうとするほどの思い切りの良さ。お気に入りの水着が汚れるとか周りの人に水しぶきが掛かるかもとかぜんぜん気にしない全速力で駆け抜けます。
「この勝負、もらったぁあああ!!」
「甘いぜ、マーガレットッ!」
 追撃するナディムはニヤリと笑みを浮かべます。
 実は、彼の使っているデッキブラシは、ブラシの部分が外れるようになっているのです。それを外し、ナディムはブラシの部分をマーガレットに向けて思い切り投げつけます。
「ふふん、それくらいお見通しよっ!」
 マーガレットは頭を少し横にずらして相手の攻撃をたくみにかわします。標的を失ったブラシの先は、掃除をしている隆元に一直線に……。
「……」
 彼は、このことあるを想定し準備をしていた【風術】でブラシの先を吹き飛ばします。それは勢いを保ったまま彼方へと飛んでいってしまい視界から消えました。ガンッ! とどこかにぶつかる音が離れた所でしましたが、何にぶつかったのでしょうか。
「?」
 と……不意に、背後に気配を感じてリースは振り返ります。その視線の先……真後ろから奇妙な機械体がすごい勢いでやってきます。ボディに今吹っ飛んだデッキブラシが刺さるようにめり込んでおり、まるで怒って報復に来たような勢いです。
「え?」
 リースが目を丸くしたのも無理はありません。それは、異様な……丸っこいボディから、掃除用アーム兼ホースが8本伸びているというもので、一言で言い表すなら、巨大なタコっぽいロボなのでありました。実はこいつ、別の場所でドクターハデスが暴走させた掃除ロボオクトパXなのです。五匹(?)のうち、四匹までは謎の巨大ローラーに踏み潰されたり助けに来た人たちに破壊されたりしたのですが、一匹だけ生き残っていたのです。ですが、そんな事情をリースが知る由もありません。
「きゃああああっっ!?」
 触手のようにうねうねと伸びたホースに絡み取られてリースは悲鳴を上げます。まるで意思を持った動きで、触手はリースの着用していた濃紺に白ストライプの競泳用水着をまさぐり剥ぎ取ろうと吸引します。
「ひいぃぃっ……なにこれっ、いやぁぁっっ……!?」
「……ええもんみつけたわ」
 マーガレットたちがリースを救助しようと飛び出す前に、さらに後ろから人影が現れます。リースを襲うオクトパXをガシリと鷲づかみにしたのは、様々な負の称号を持つ男瀬山 裕輝(せやま・ひろき)です。今回彼は真面目に水着も着てきていますしお掃除道具も借りてプールを綺麗にするためにやってきていたのです。
「ちょうど吸引力が足らん思っとったところや。このヘンテコな機械もろうて帰ろか」
 裕輝は、掃除ロボに襲われているリースをヒーローのように助けに来たのではありませんでした。効率を重視するために 駆逐破砕艇を用いて一気に片付けようとしていたのですが、ゴミの回収率が思うように伸びず悩んでいたところにオクトパXを見つけたのです。これだけよく吸い付きよく動く掃除ロボなら、彼の期待にこたえてくれるでしょう。もらっていくことにします。
「……って、取れへんやん。えらいよう引っ付いとるなぁ」
「ちょ、そんなに引っ張らないでください……!」
 オクトパXから力任せに引き剥がそうとする裕輝に、リースは涙目になります。
「あ、あんた、いい加減にしてよね!」
 怒ったマーガレットが止めに入ろうとします。
「……あ、しもた。手元くるったわ」
 裕輝が手にしていた掃除ロボのホースが今度はマーガレットの胸に吸い付きます。
「きゃあああっっ!」
「……よっしゃ、外れた」
 スポン、ずるっという音がしてオクトパXのホースがマーガレットのビキニの胸の部分ごと引き剥がされます。
「きゃあああああっっ!」
 もう一度悲鳴を上げるマーガレット。胸を両腕で隠しながら、その場にぺたんと座り込んでしまいます。
「さて、帰ろか。これで掃除がようはかどるで」
「ちょっと待て、お前!」
 ナディムと隆元が追いかけてきますが、裕輝は全く聞いていません。オクトパXを抱えて 駆逐破砕艇にまたがると、口笛を吹きながら全速で去っていってしまいました。
「……」
 その場に座り込んで俯いたままのマーガレットに、ナディムがそっと上着をかけます。隆元がリースを抱えるようにして連れて行きます。
 この場では、それ以上の言葉は要らないようでした。


「さて、お掃除開始や。ドンドン吸い込むでぇ!」
  駆逐破砕艇に掃除ロボを備え付けた裕輝は、プールを走り始めます。ただし、この駆逐破砕艇はとんでもないじゃじゃ馬属性なのです。上手く走れません。
 きゃああああっっ! と女の子たちの悲鳴が起こります。傍を通り過ぎるたびに、オクトパXの吸引ホースが水着に吸い付き、悪い場合は引き剥がしていきます。
「そこまでだ、悪党!」
 そんな裕輝の前に立ちはだかったのは、パートナーの鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)です。自分のマスターが女の子にひどいことをしているという噂を聞いて、止めに……いや退治しに来たのです。
「せめてもの情け。ひと思いに楽にしてやるから、覚悟しろ」
「忙しいねん。後や」
 掃除に懸命の裕輝は、狙い過たず偲の纏っていた浴衣を引っぺがしていきます。
「な……っ!?」
「驚きなや。自分みたいな奴の水着なんぞ拝んでも何の得にもならんわ」
「ほぉ、そうか。よほど死にたいようだな……」
「ヤル気かぁ? それやったらやったるが」
 追いかけてくる偲を迎え撃とうとして、裕輝は思いとどまり進路を変更します。彼を追いかけてくるのは偲だけではありませんでした。巻き込まれた女の子たちが怒って追いかけてきます。
「ふっ、諦めぇ……。最低と最悪もオレが担い、そんでもって最厄も同じくや……」
 裕輝はそう呟きながら、水着のたくさん吸い付いた 駆逐破砕艇を反転させ退却しようとします。
「まあ、後は他の人がやってくれるやろ。もう面倒になったから帰r」 
 彼の台詞は途中で途切れました。ズンっ! という衝撃と共に、彼の全身に電流が走りその場に硬直します。
コカーンパンチ! や。まだ試し撃ちやけど、どんなもんやろ?」
 不意に物陰から現れ裕輝の駆逐破砕艇に飛び乗っていたのはパートナーの瀬山 慧奈(せやま・けいな)でした。立ち乗りで腰を上げていた裕輝の股間を的確に撃ち抜いています。恥じらいもなく拳にフッと息を吹きかけた彼女は、天真爛漫な表情で尋ねます。
「ところで、バカ兄貴は、こんなところで何しとったん? エライ騒ぎになってるやん。……あれ?」
 股間を押さえ白目を剥き口から泡を吹いたたまま裕輝は動かなくなっていました。操縦を失いマシンはいよいよ制御が利かなくなります。激しい振動に慧奈は駆逐破砕艇から振り落とされ、地面にたたきつけられました。
「痛っ! あほー、あぶないやんか!? ……え?」
 起き上がった慧奈は目を疑います。

ゴガシャアアッッ! ベギボギミシバリリリィッッ!

 どういうわけか突然横合いから飛び出してきた巨大なロードローラーが裕輝の乗った制御を失った駆逐破砕艇に衝突し轢き潰してしまいます。
「……ん? なにか踏んだか……?」
 全くブレーキを踏むこともなくそのまま走り去ったロードローラーに乗っていた氷藍が首を傾げます。さらに次の瞬間……。

ゴオオオオオォォォォンッ!

 背後で凄まじい爆音が聞えました。
「え?」
 振り返った氷藍が驚いたのも無理はありません。衝突して大破した裕輝の乗ったマシンの破片とただのスクラップになったオクトパXが、彼女らを追っていたジャクリーン・ヘンドリクソンの乗っていたバイクを巻き込み衝突して爆発したのです。ジャクリーンはバイクともども爆煙の中に消えていきました。次回の登場をご期待ください。
「……助かった!?」
 氷藍は言いますが、違います。
「また、このパターンですか……」
 プールサイドで戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)がこめかみを押さえます。
 氷藍の大暴走に怒り狂った参加者たちが、全員で待ち構えています。

「掃除にどれだけ苦労したと思っとんじゃ、ゴルアアァァァァァッッ!」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ!

 全員に総攻撃を受け、ロードローラーはスクラップになり、氷藍と家康はどこかへ連れて行かれました。その後の行方はようとして知れません……。

「以上で、大掃除は終了です。皆さんお疲れ様でした!」
 小次郎の宣言で、全員の歓声が上がりました。

 後は綺麗な水を張るだけです。
 色々ありましたが、気を取り直して、次に行きましょう。